ましろ、僕はね──   作:黒マメファナ

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紅白はとっくに終わったよ!
ランキング乗ったのかな? 全然見れてないんだけどやっぱり事後報告でもいいから一報くれるシステムない?


⑦淡い光/血色の椿

 基本的に今井さんと二人で室内にいる時は、事後、つまりセックスをしたすぐ後くらいでないとまともに会話を交わさない。言葉よりも身体を交えることの方が多い。ああ、あとはお互いの服を脱いでる時だ。彼女は身に着けている服や下着、アクセサリーの類に関する感想を求めたがる傾向にあるから。

 

「……今井さん」

「ん、なに?」

 

 けれどそれは部屋での話。彼女とはアルバイトも一緒だけれど、バイト中はまるでヒトが変わったかのように明るくて頼りになる先輩になる。いや、それでも時々、何があるのかは理解してないけれど彼女の中で寂しかったのか、それとも単純にムラムラしたのか迫られることはある。

 

「やっぱり、好きなヒトとはセックスがしたいって思うものなんでしょうか」

「んー、少なくともアタシは好きって思ったらセックスしたいって思うのも含めて好きだよ。セックスが気持ちいか、ってのが好きに繋がることはないケド」

「僕は、セックスと好きがうまく結びつかなくて」

「あはは、そもそも海斗ってアタシとしかシてないでしょ?」

 

 そうですよと嫌々ながら肯定する。セックスをするから好きということなら僕は今井さんが好きということになる。でも事実として今井さんに恋人のような感情を持ち合わせていない。でも、僕は今井さんと身体を重ねている。なぜだろうか? 

 

「アタシと海斗の理由は同じだよ。同じだけど、だからこそアタシが言葉にしちゃいけないと思う」

「どういうことですか?」

「気づく、と気づかされる、の違いがある。それがわからないほどじゃないでしょ?」

「まぁ、そうですね」

 

 今井さんが答えを知っていたからと言ってなにも考えずにその理由を問うのは間違っていることくらいは理解できた。でも、ならば僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という疑念が沸き上がっている。好きって気持ちにはセックスをしたいという欲がつきものだと言うのなら……僕はましろに。

 

「そういえば、どんな子なのか見せてくれないよね」

「見せびらかすものじゃないでしょう」

「……確かにね」

 

 ましろは僕のアクセサリーではない。宝石のように大切で、美しいのは認めるけれど、それをわざわざ見せびらかすなんてするはずがない。男だろうが女だろうが、僕を通すことでましろの価値を測ろうとするだなんてされたくもないし、その逆もまた不快だ。

 

「なんでそこまでして、カノジョさんを守ろうとするの?」

「なんでって、カノジョだからですよ」

「……そっか」

 

 僕にとってましろは光のような存在だ。どこに行けばいいのかすらわからない現実の中で、彼女はいつだって自分の輝きを持っていた。自信がなくて、誰かが悪意を持って吹けばあっという間に消えてしまいそうなくらいの、小さな、淡い光だから。その悪意の風から守るための壁でありたいと思うことは自然だと思っている。

 

「アタシは?」

「なにがですか」

「アタシは、海斗にとってなに?」

 

 じっと見つめられる。いつもの興味や欲とは違った、含みのある視線を向けられた僕は、少しだけ考えてからゆっくりと答えを出すことにした。少なくとも、ましろのように光ではない。今井さんは、僕にとって光とはまるで逆、未知と恐怖を連れてくる暗闇のような存在だから。

 

「でも、知りたかった」

「……言ってたね、知りたいって」

「僕は、今井さんのようなヒトを理解できなかったから」

 

 でも、その理解できないと同じくらいに、僕は今井さんのことを他人だと済ませることができなくなってしまった。明るいのに、芯は冷たくて、でも確かに熱を持っている。そんな雪の白の中で紅く鮮やかな血の色で咲く椿のようなちぐはぐさ、そして目を離すとポトリと散華すらせずに雪と泥に美しかった花弁を汚してしまうような危うさ。それを感じてしまった。

 

「そっか」

「はい」

「前から思ってたケド」

「はい?」

「海斗って詩人だよね」

「バカにしてます?」

「ううん。自分の気持ちに自分の言葉をあてはめられるのってすごいと思うんだ」

 

 でも僕はあてはめることしかできない。僕がいることで今井さんの苦しみがなんとかなるだなんて傲慢な考えを持ってはいないけれど、僕は彼女の感情の蓋をずらしてあげられるだけだ。しかも些細で、本心なんて漏れでもしないくらいのなんてことない小さな隙間だけ。

 

「だね、海斗がいることでアタシはヤなこと忘れられることなんて、一度だってない」

「でしょうね。そもそも、そこから溢れ出てくるものを、僕が受け止めることなんて不可能ですから」

「うんうん、流石に一年も知り合うとそういうことはわかってくるね」

「ええ、はい」

 

 代替品だろうと最初は思った。けれどすぐに僕は代替品ですらないことに気づいた。今井さんはいつだって、僕の後ろに誰かを見るようなことはしない。きちんと大崎海斗(ぼく)をまっすぐに見つめてくる。今だってそうだ。

 

「ホントにさ、カノジョさんとセックスはしないの? 結構がっついてくるくせに」

「……一言余計です」

「言わないと、海斗は逃げるからね?」

「そうですね。どちらの質問にも肯定します」

 

 ましろとセックスをするつもりはないし余計な一言がなかったらはぐらかしてる自信はある。でも、今井さんとの関係を続けていく中で気づいたことは幾つかある。その中でも一番気づきを得ることができたのは、決してましろに触れたくないとか女として見ることができないとか、そういうわけではないってところだ。

 

「あはは、もし本当にカノジョは好きだけどセックスはしたくない。触れたくないって心の底から考えてたら、きっとアタシはもっと海斗に冷たいかな?」

「そうだったんですね、と言っても気づいたのはそんなに前じゃないんですけどね」

()()()()()()()()()()

「……コンビニをですか」

「そ!」

 

 そんな内心があったのかと僕は深く頷いた。それまでだったらきっと、高校に上がってもバイトができないであろうましろのために、無事に受験が終わったら色んなところに連れて行ってあげるお金がほしいと相談しても、今井さんはコンビニのバイト先を紹介なんてしてくれなかったのかもしれない。

 

「どう? またアタシのことを知れた感想は?」

「飛び上がりたいほど嬉しいですね」

「あはは、それは思っててその顔?」

 

 思ってますよ。飛び上がりたいほどじゃないですけどね。今井さんは僕のこの胸の内で燻っている疑問への答えを持っているから。そして、僕を見る瞳の中にある何かを知りたいから。諦めのようでありながら、慰めのようでありながら、また別の何かの正体を。

 

「じゃあ今日も、バイト終わったら……うち来る?」

「それじゃあ伺いますね、それにしても」

「ん~?」

「今日はえらくストレートに誘ってきますね」

「ホラ、前に買ったベビードール着てないな~ってのをさ、海斗の顔見てたら思い出したんだ」

 

 顔見てたら思い出したって。別に僕は選んではないですからねと釘を刺すように言うと別にそんなこと言ってないケドね~? と意識していたことを遠回しに指摘されてしまう。

 男はヒラヒラしたものに弱いらしい。なんのソースか知らないけれど、スカートのヒラヒラだったりそれこそレースのヒラヒラだったり、僕らはそれを前にすると猫じゃらしで遊んでいるのか、猫じゃらしに遊ばれているのかわからない猫のようにうずうずとしてしまうのだとか。僕はきっと後者だ。今井さん相手に優位に立てたことなんて、ただの一度だってないのだから。

 

「さー休憩終わり! 真面目に、誠実に、そして健全に労働をしようか青年!」

「……今井さんが言うとめちゃくちゃ胡散臭くなりますね」

「だーかーらー、リサって呼びなさいってば」

「あ、それよりも健全な相談があるんですけど」

「海斗がそれ言うとえっちな相談カナ、ってなるね」

「仕返しですか」

「当たり前!」

 

 ましろ、僕はね──僕は段々と今井さんとこうして、お互いの本当の感情を隠すマスカレードのような会話が必要だと思い始めているよ。笑顔を貼り付けた彼女となんの感情も表に出さない僕は、案外テンポが合うらしくまた、僕の歪であろうましろへの想いを相談できる唯一のヒトになってしまっているから。今日だって、ましろから送られたバンドの子と話してほしいというものにも、今井さんのゴーサインがないとダメなくらいだから。

 

「ガールズバンドはいい子ばっかりだよ、少なくともアタシの知り合いは」

「そうなんですね」

「翔は……ごめん、擁護はできないカモ」

 

 そういえば、久國さんがどうしてここまで今井さんを放置するのか、家に全然帰ってこないのかっていうの、あんまり聞いたことない。黒いケースを背負うあの後ろ姿に何故いつも今井さんが冷ややかな、けれどマグマのような紅蓮の熱を視線に籠めているのか僕は知らないままでいた。

 

 




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