長野県は諏訪地域に古くから鎮座し、日本最古の神社の一つにも数えられる由緒正しき神社である。かつては軍神を祀る神社として多くの人間から信仰され、戦国大名や有名武将たちも戦勝祈願に訪れるほど日本有数の神社であった。
しかし、時の流れとは残酷なもので、時代が進むにつれ守矢神社を信仰する人々は減っていくことになる。科学と情報通信技術の発展によって、今まで神々の仕業だと思われていた自然現象や災害などが科学的かつ物理的に解明され、それらを人々が知ってしまうようになったからだ。
無論、それは守矢神社に限ったことではなく、ほとんどの神社仏閣にも当てはまる。時代の流れ故に仕方無い…と思う者も多いかもしれないが、それで困ってしまったのが他ならぬ神々であった。神の力の源は人々の信仰。信仰が途絶えることは、神格にとっての死を意味していたのである。
そんな現代で、
守矢神社の跡取り娘として生を受け、産まれながらにして凄まじい霊力と妖力を持っていた早苗は、物心ついた頃から守矢神社の神々の姿が見えていた。両親はそういうものが見えない人たちだったが、伝統ある神社の家であったことから理解は有ったという。
しかし、そんな両親も早苗が幼い頃に事故で亡くなってしまった。ナニカに呪われた訳ではないし、祟られた訳でもない。ただ不運な事故で死んでしまったのだ。もちろん、神々も彼らを助けてやりたがったが、運命というのは非常に不確かなもので、どんな高位の神々でも操ることは不可能なのである。*1
1人残されてしまった幼い早苗を不憫に思った守矢神社の神々は、親の代わりとなって彼女を育てることにした。母のように優しく、時には父のように厳しく*2早苗を育て上げ、深く愛したのである。
故に、早苗にとっても守矢の神々である
『――早苗』
ある日の夜。早苗が就寝の準備を進めていると、守矢の主神である八坂神奈子の威厳に満ちた声が、静かに早苗の脳内に響いた。一般的には天啓や神託、天のお告げとも呼ばれる神聖なメッセージなのだが、守矢家の面々にとってはただの便利な連絡ツールでしかない。電話と同等の扱いだった。
「神奈子様。どうなさいましたか?」
『また山に邪鬼が入ってきた。祓ってきなさい』
姿勢を正して話を聞く早苗に、神奈子はそう命じた。
“また”というのは、この山は邪鬼やら悪霊やらがよく入ってくるからだ。守矢神社がこの山に引っ越して来てから、もう何体目だろうか。この地は彼女たちが思っていた以上に騒がしかった。
「分かりました。すぐに行きます!」
早苗はお祓い棒を手に取り、すぐに準備を整えた。神社に居る際、彼女は基本的に巫女服を着ている。青と白が主体の色調と、肩と脇が露出した巫女装束は正しく守矢の象徴。古くからの伝統なので恥ずかしくないのである。
また、早苗はカエルと蛇の髪飾りを身に着けていた。バッジのようなカエルのヘアブローチと、横髪の一房を纏める蛇の髪留めは、いずれも守矢の神々を象徴している。流石に寝ている時や学校に行っている間は外しているが、それ以外では常に身に着けているほどの愛用品だ。
「あ、早苗。待って待って」
出発しようとしていた早苗の横から、ひょっこりと顔を覗かせたのは幼い少女だった。姿形は10歳くらいで、髪はショートボブの金髪。目玉のついた変わった帽子*3を被っている。そんな見た目も口調も年相応といった感じの女の子だった。
しかし、その正体は守矢神社の片割れの神格、洩矢諏訪子である。幼い格好をしているが、日本神話の時代から齢を重ねている神格だ。神々の中でも、諏訪子よりも年上の存在はそう多くはないだろう、というレベルの大神格であった。
「暇だから私も一緒に行くよ。妖どもに見られないように姿は消して行くけどね~」
「はい、諏訪子様」
この山に引っ越してきて以降、諏訪子は早苗が出かける際に同行することがよくあった。ただし問題は、諏訪子が強大過ぎる神格であることだろう。恐らく、下級の妖たちが彼女の正体を知れば、恐怖に怯えるどころか大パニックを起こすに違いない。かつての彼女はそれほど恐れられた存在だったのだ。
それ故に、諏訪子は姿を隠して早苗を見守ることにしている。見た目は年下の幼い少女なのに、やっていることは心配性な母親そのものだった。
「それでは行きましょうか!」
玄関から外に出た早苗は、全身の霊力を高めていく。すると、彼女の身体が宙に浮き始めた。まるで、緩やかな風が彼女を持ち上げているようにも見える。これぞ『守矢の奇跡』。神々に愛された早苗はこの力を自在に使うことが出来るのである。
早苗は奇跡を操り、夜の空を飛んだ。山を上空から眺めると邪鬼の悪意はすぐに察知出来る。早苗は一直線にその場所へと向かった。
「あそこです!ああ、なんてことでしょう!うちの妖さんたちが虐められてます!」
守矢神社はこの地に引っ越して来たその日に、神奈子の圧倒的な神力で山を掌握している。故に、守矢神社に降参した山の妖たちは、守矢所属の妖とも言っていい。つまり、早苗にとっても彼らは庇護対象だった。
「皆さん!ここは私に任せて、お下がりください!」
彼らを助けるべく、早苗は邪鬼の目の前に降り立つ。着地した際に木の葉が多く舞ったが、彼女がお祓い棒を邪鬼に向けた瞬間、パシッという音と共に周囲の木の葉は弾け、視界が開いた。早苗の発した霊気が空間を叩いたのである。
そんな彼女の登場に、襲われていた妖たちは沸き立った。
「おお、早苗様じゃ!」
「皆の者!早苗様が来てくださったぞ!」
「早苗様!
妖の1人が彼女の役職名を呼んだ。『風祝』とは、風を鎮めるために神格を祭る行事を司る神職のことである。故に、風祝の役職に就いている早苗は、正確に言うと巫女ではない。
だが、守矢神社に仕える人間は彼女1人しか居ないので、全ての神社仕事は早苗がやるしかなかった。結局のところ、彼女は守矢神社の宮司であり、巫女であり、そして風祝なのである。
そして、もちろん。その実力は本物だった。
「えい!」
早苗は邪鬼に向かって、お祓い棒を振り下ろす。すると邪鬼は地面に叩きつけられて、その動きを止めた。これは早苗が操る風の力だ。風を用いて相手を吹き飛ばしたり拘束したりするこの技を、早苗は『風起こし』と名付けていた。
「これでお話できますか?」
『早苗、これで何度目だと思ってるのさ。この類いの邪鬼には話なんて通じないよ。多少の言葉を発しようとも、頭に有るのは食欲と悪意だけ。人間も妖も等しく己の獲物にしか見えていないんだから』
早苗の言葉に、姿を隠して付き添っていた諏訪子が呆れたように答えた。諏訪子は姿を隠しているが、彼女と繋がりの深い早苗にはハッキリ見えるし聞こえるのだ。
また、上級妖怪レベルの妖力が有る者なら、目を凝らせば諏訪子の存在に気付くだろう。更に、妖力が高ければ高いほど、彼女の姿は見えやすくなる。
つまり、これで早苗が勝てないほどの大妖怪が襲って来ても、すぐに諏訪子の存在に気付いて逃げ出すだろうし、逃げ出さないほどの猛者であれば久方ぶりの戦闘を楽しめるという訳だ。
その為、諏訪子はあえてその程度の隠れ具合に留めていた。
『アンタがやらないのなら、私が消し飛ばしちゃうよ~』
「待ってください!何とかして人間を食べずにいられませんか?妖を食べずにいられませんか?妖であろうと邪鬼であろうと、私は出来る限り穏やかに日々を過ごしてもらいたいのです」
『無理だって。鳥に飛ぶな、魚に泳ぐなって諭すようなものなんだから。追っ払っても封印しても問題を先送りにするだけだし、さっさと祓ってやりなよ。邪鬼になってしまったコイツにとっても、それが救いさ』
早苗は邪鬼や悪霊と戦う度に、彼らを助ける手段は無いか探している。それは恐らく、神々という人ならざる者たちを家族としているが故の情だろう。早苗は強いのだが、性格が優しすぎたのだ。
因みに、そんな彼女を窘める諏訪子としては、妖退治なんて楽しんでやるくらいが丁度良いと思っていた。怯える妖どもを笑いながら祓い飛ばし、己の武勇を誇る。守矢神社の風祝ならば、そのくらいはやって欲しかった。
しかし、未熟な部分があっても、早苗は可愛い可愛い
『そうだねぇ、それならミシャグジたちに喰わせてやればいいんじゃない?最期を神々の供物として迎えたのなら、普通に祓うよりも少しだけ、ほんのちょびっとだけ地獄での扱いもマシになるでしょ』
「そうですか…残念です。ですが、仕方ありませんね…。お願いします、ミシャグジ様」
『出て来な、お前たち』
ミシャグジと呼ばれる神々が居る。祟り神の類いであり、そうそう他人の命令を聞く神格ではないのだが、諏訪子はそんな彼らのボスだった。即ち、彼女が『早苗を手伝え』と命じれば、ミシャグジたちは率先して動くのである。
早苗は邪鬼が放つ呪いを軽く捌きながら、ミシャグジを願った。苦渋の決断である。同時に、これで邪鬼が少しでも救われるのであれば…、という慈悲の決断でもあった。
「ひぃ!あ、あれがミシャグジ様!?」
「な、なんとおぞまし…いや、なんと頼もしい…!」
濡れた岩のような表皮の黒い大蛇が数十も現われると、早苗に助けられた妖たちはガタガタと震えて怯えた。そもそも高位のミシャグジは、単体でも一地域を治める程度の力を持っているのだ。これほどの数のミシャグジを前に、下級の妖が恐れないはずがなかった。
「ミシャグジ様、どうぞ」
『ほら、食べちゃって良いよ』
ミシャグジたちは早苗の合図を、正確には彼女の隣に居る諏訪子の合図を待つ。そして、彼女の許可が出た瞬間、宙を泳いでいたミシャグジたちは一斉に邪鬼へと襲いかかった。
肉を喰らい、骨を砕く音が早苗にも聞こえる。苦痛の悲鳴は、この世の理不尽を呪う声だ。しかし、早苗は決して目を背けたりしなかった。諏訪子が命令したといっても、それを頼んだのは早苗自身。彼女には見届ける義務があったのだ。
『おお!オオ!おおおオオオぉぉぉォォォ……―――』
「…ありがとうございました、ミシャグジ様」
最後まで見届けて早苗はミシャグジたちに、そして供物となった邪鬼に対して、深々と頭を下げる。そして、小さく息をつくと、気持ちを切り替えた。早苗にとって妖祓いは日常茶飯事だ。思う所はあったが、このくらいで弱音など吐いていられないのである。
それよりも襲われていた妖たちは無事だろうかと早苗が目をやると、大きな怪我を負った者は居ないものの、彼らは一様に腰を抜かして震えていた。『可哀想に。よほど邪鬼が怖かったのですね…』と早苗が彼らに同情していると、近くの茂みの中からも安堵の息が聞こえた。
「あら?」
『へぇ…』
早苗が振り返ってそちらを見ると、確かに茂みの中に妖の気配がある。怪我でもして、そこから動けない妖が居るのではないかと心配した早苗が、茂みへと足を向けようとした瞬間、白く大きな獣が茂みから急に飛び出し、走り去ってしまった。
「今、白くて大きなわんちゃんが居ましたね。モフりたかったです!」
『確かに面白そうなのが居たねぇ。たぶん、すぐにまた会えるよ。そんな気がする』
飛び出して行ったのが獣型の妖だと気付いた早苗が目をキラキラさせながら言うと、諏訪子が薄く笑みを浮かべながら同意した。
早苗は気付かなかったようだが、諏訪子はもう一つの気配にも気付いていたのである。上級の妖と人間の少年という変わったコンビ。騒がしいだけの地かと思っていたが、中々どうして。少しは面白くなりそうじゃないか、と彼女は口角を上げていた。
『そんなことより、ほら。妖どもがアンタを待ってるよ。行ってやりな』
「あ、そうでした。皆さん、大丈夫でしたか?」
諏訪子が顎をしゃくって妖たちを指し示すと、早苗はニッコリと笑いながら彼らに近づいた。すると、彼らはビクリと肩を震わせながら地に伏せる。頭を地面に擦りつけるほど綺麗な土下座だった。
妖が人間に対してするには仰々しいほどの平身低頭なのだが、彼らの視点では早苗がミシャグジを操っているようにも見えただろうから仕方無いだろう。無礼を働けば自分も喰われるかもしれないのだ。
しかし、彼らの腰の低さはそれだけが原因ではなく、早苗自身にもその理由があった。
「あ、ありがとうございます、早苗様!」
「か、感謝いたします。流石は守矢神社の『現人神』様じゃ…!」
「いやぁ、そんなに褒められると照れますね!えへへ」
そもそも、早苗は守矢神社の風祝として良く神事を執り行ってきた。そして、神事の一部には神官が神々の代わりとなって振る舞うモノも多く有る。つまり、早苗は人々の前で雨乞いなどの奇跡を披露することが多々あったのである。
その結果、人々の信仰が神々だけでなく早苗にも向けられ、彼女は人間でありながら神になってしまった。言うなれば彼女は『祀られる風の人間』。それが東風谷早苗という少女だった。
(まぁ、早苗が現人神に成ったからといって、それで何かが変わった訳でも無いんだけどねぇ…。普通の人間だった時も、私たちが神力を貸し与えていたから自由に守矢の奇跡を使えたし。それに、たとえ信仰が無くなっても元の人間に戻るだけだし)
そんな早苗の後ろ姿を見ながら、諏訪子は近くの岩に腰掛けて独りごちる。
確かに早苗は信仰を受けているのだが、正直言って人間だった頃と大きな変化は無い。人間嫌いの妖などから嫌われなくなったり、多少尊敬されるようになったりしたが、そのくらいだ。
それに、早苗を神と思い込んで信仰している人々は、ほぼ全てが高齢者だった。このまま十年か二十年もすれば彼らは死に絶え、早苗は神格としての力を失うだろう。
だが、そのあたりは別にどうでも良かった。早苗の場合、元の人間に戻るだけ。神力は消えるが、霊力や妖力は変わらず彼女の身体に残るのである。
(でも、私たちはそうはいかない。私たちのような純粋な神格は信仰が少なくなれば力を失っていき、最後は消える。まったく自分たちのことながら、神格ってのは難儀な存在だよ)
一方で、純粋な神格である諏訪子と神奈子は、信仰を失えば消える。現時点ですら全盛期とは程遠い力しか持っていないのだから、恐らく彼女らはこれから数十年をかけてジワジワと力を失っていき、最終的には姿をも失うだろう。
それが現代に生きる神々の運命だった。
(人も神も盛者必衰は世の常。それは私たちも分かってる。だから、私たちはある程度の弱さになってしまったら残り全ての力を振り絞り、早苗に守護の
諏訪子も神奈子も早苗が生きている間くらいは一緒に居てやりたかったが、矮小な存在になってまで現世に留まるつもりは無かった。それは大神格だった者としてのプライドだ。情けない末期を迎えるより、早苗に守護の力を遺して消え去るつもりだったのだ。
(まさか、早苗にアレだけ泣かれるとはねぇ)
しかし、それに納得できなかったのが他でもない、早苗だった。神々から話を聞いた彼女は泣いた、大号泣だった。早苗はそれだけ彼女たちを深く愛していたのだ。
それからというもの、早苗は新たな信仰者を増やす為に必死で頑張った。しかし、当時の彼女はまだ中学生。孫の様に可愛がってくれる近所の高齢者以外からは信仰を獲得することは出来なかった。早苗も色々な作戦を考えたが、どれもダメだったのだ。
たとえ、どんなに凄い奇跡を人前で見せても、若い人たちは『トリックだ』『目の錯覚だ』『手品で高齢者を騙すな』などという散々な反応しか返してくれなかったのである。
信仰が得られないことに酷く落ち込む早苗を、神々は慰めた。『そういう時代なのだから仕方無い。むしろ、早苗には我々や守矢神社に囚われず自由に生きて欲しい』と。
だが、早苗は諦めずに奔走し続けた。
(そんな時か、突然アイツが現われたのは。あ~、クソ。今思えばアイツ絶対に早苗や私たちが憔悴するの待ってたでしょ。滅茶苦茶タイミング良かったし!)
諏訪子は当時を思い返して、苛立ちを露わにした。
ある日、信仰獲得に明け暮れるもやはり結果は奮わず、いつも以上に落ち込んでいた早苗を諏訪子と神奈子が慰めていた時のことだった。彼女らの目の前の空間に突如として裂け目が現われ、そこから
幻想郷とは、結界で隔離された山奥の里だ。住人は妖や神が多く、人間は人外たちと比べると数は少ないものの、人里が作れる程度の人数は居る。しかし、こちらの世界とは逆に人間的な科学は存在せず、妖術や魔法、神通力などの人外の力が占めているという驚きの秘境だった。
無論、諏訪子も神奈子も最初は怪しんだ。そもそも、自分たちと同格以上の力を持った大妖怪による突然のお宅訪問だ。警戒しない訳がない。彼女の突拍子もない話を聞いて興奮しているのは早苗くらいだった。酷く憔悴した心を溶かすような甘い話…。早苗が惹かれたのも無理はないだろう。
一方で、八雲紫は強く警戒する神々に対して証拠を見せた。つまり、彼女たちを実際に幻想郷へ連れて行き、里の様子を見せたのである。
(胡散臭い女だったけど、アイツの話は全部事実だった。人間と人外が共存して暮らす理想の世界、幻想郷。そこでなら信仰が途絶えることは無いし、早苗も頑張っていける。私たちも早苗と一緒に暮らすことが出来る…!)
お試し観光した結果、諏訪子も神奈子も納得せざるを得なかった。幻想郷は確かに存在する。そして、幻想郷でなら守矢神社は存続出来るのだ。
二柱は悩んだ結果…幻想郷への移住を決意した。そこからはトントン拍子で話は進んでいく。移住先の土地を決め、大まかな移住日を決め、その日に向けて準備を進めてきた。彼女らは守矢神社を丸ごと持っていくつもりだったので、転移の準備も年単位でかかったのだ。
そして、その準備も最終段階へ入っていた。守矢神社がこの田舎町に引っ越して来たのは、幻想郷へ行く前のテスト転移だったのである。
(練習で適当な田舎に転移してみて正解だったなー。大規模な転移術って凄く難しいから、術式を何度チェックしても絶対何処かに見落とし有るし。とりあえずミスってた術式を直すのに1ヶ月以上はかかりそうだから、早苗には最後の思い出作りの為にも近くの高校に行かせてるけど)
転移術に致命的な失敗は無かったものの細かなミスは多々有ったので、それらの修正に少々時間がかかるだろう。そして全ての準備が整えば、今度こそ幻想郷へと移住することになる。
(でも、幻想郷に行く前にミシャグジたちが別れの挨拶に来るとは思わなかったなぁ。わざわざ諏訪の地から離れて、こんな田舎にまで会いに来るなんて律儀というか何というか…)
諏訪子は地面の中に控えているミシャグジたちの気配を感じ取りながら思う。
かつて諏訪子は彼らの王だった。しかしその後、彼女は引退して表舞台から退くと、部下だったミシャグジたちとは疎遠になったのだ。
その為、とっくの昔に愛想を尽かされたかと思っていた諏訪子だったが、思っている以上に自分が慕われていたことに彼女は驚いた。
そして、ミシャグジたちは諏訪子たちが幻想郷へと旅立つその日まで、傍で控えるとのことだった。見送りが済めば、ミシャグジたちはそれぞれ諏訪の地に帰ったり、幻想郷ではない他の秘境に向かったりするだろう*4。
故に、ミシャグジたちにとってこれが諏訪子へ捧げる最後の奉公だった。
(私なんかさっさと見切りをつけてしまえば良かったのに、まったくコイツらは…。私には勿体ないくらいの部下だね、本当)
「――こ様?諏訪子様?どうかなさいましたか?」
『ん?』
声をかけられた諏訪子が思考を戻すと、いつの間にか早苗が目の前に立っていた。彼女が助けた妖たちも立ち去っているようだ。
諏訪子は随分と考え込んでいたらしい。そんな彼女は何事も無かったかのように腰掛けていた岩から立ち上がり、グッと背伸びをしながら早苗に応じた。
『ああ、何でもないよ。ちょっと考え事してただけ』
「そうですか。私は少し山をパトロールしてから神社に戻りますけど、諏訪子様はどうしますか?」
『夜の散歩ってワケね。良いじゃん、私も付き合うよ』
「えへへ。じゃあ、行きましょう!」
そう言って諏訪子と早苗は手を繋ぐ。そして彼女たちは、母と子のような親しさで歩んで行くのであった。
守矢神社は幻想郷に行く前のテスト転移で、ここに引っ越して来た。という感じです。
元居た場所では『急に神社が消えた!?』とか騒がれそうですが、夏目世界特有の神様洗脳で誤魔化しているのでセーフです。逆に、騒がせてたままにしてた方が恐怖で信仰増えるかもしれませんが。
そしてミシャグジ様たちは諏訪子様へ別れの挨拶に来ています。お見送りするまで居る予定ですが、一緒に幻想郷までついて来る者もいるかもしれません。
諏訪子様もたまにミシャグジ様たちの頭をヨシヨシと撫でていることでしょう。