翌日
昨日も抱いた朝起きたら男に戻っていないか、という幻想は叶うはずもなく、TSして速攻で切ったけど未だに慣れないミディアムロングの髪の重さに負けながら起床する。
――朝おんの典型で初めて起きたときは髪がめっちゃ伸びたし、成人男性の夢を裏切らない豊かな凹凸が安っぽくオタクらしい“課金は呼吸”と達筆で書かれたTシャツを持ち上げてたし、短髪だった髪は床に届きそうなほど髪が伸びていた――
起き上がろうとするもTS病の後遺症と言うのか、医者曰く一時的なものではあるそうだが低血圧と貧血を患ったため行動はかなりゆっくりとなる。
昨日の配信に関してサケンダーをしていなかった、と思いながら枕もとのスマホを手に取る。
ロック画面には色々な人からの連絡通知が来ていたことに昨日の出来事で頭を痛める。
「ディスコもすごいことになってそう…」
そんなことを考えながら、サケンダーでシャウトする…前にSNS投稿についてマネージャーとの連絡。協議を簡単に行ってから、投稿。
熊平虎徹 @kumabeartg0041
・昨日の配信では皆様にご心配をお掛けしました。
配信後は速やかに睡眠に入り、現在起床した所です。
病状としては詳細なことは控えさせて頂きますが、軽い貧血のようなものですので、今後の配信に関わるような大きな病気ではないですのでお気になさらないでください。
+追加の叫び
今後、このような事態が無いよう体調管理を含め十全に注意して今後も活動を行っていきたいです。
また、マネージャーストップがあり、事実確認のため週明けに会社へ説明を行い、投稿を再開できればと思っています。
この度は誠に申し訳ございませんでした。
〇
投稿から1分としないうちに多くのコメント、お気に入りヤマビコをされた。
30分もしないうちに同期、後輩からも多くのコメントをもらい、ちまちまとコメント返しをしていると、時刻は10時を回ろうとしていた。
10時からは、両親…は仕事のため妹が突撃してくると言う。
そう思いだしたのと同時に甲高く伸びるインターホンの音がした。
インターホンの推し方ひとつでここまで人が判るものかと思いつつ、内蔵のカメラで来客を見れば妹の姿だった。
『兄ぃ、はよ開けて』
「んー、はい」
男の身ではあるがオートロック…何と言うか、防音とかそこら辺の環境を加味した結果おまけでついてきた機能だが、この状況になってからは両親に安心だと言われた。最もいいのは実家に帰ってこい、とのことだったが。
「いらっしゃい」
「うっわ、ドン引きするくらい美人…あ、眼鏡そのままはポイント高い」
「兄の顔見て一発目がそれか貴様」
玄関を開けるとそこにはあざとい風貌の今どき女子、と言えばいいのだろうか年齢に対して垢の抜けたかわいらしい少女がいた。
いつもの目線で居たのだろうがゆっくりと上がる顔、目が合った瞬間にこの発言である。
「や、パパとママが写真見せてくれなかったからアレだけど、マジアレじゃん。全世界の年頃の女敵に回しやがったよこいつっ!?」
「玄関で罵倒するな、入れ」
「ういうい、おじゃまー」
何と言うか自由気ままな我が妹である。
大きな荷物を渡されたのでそのまま受け取ると、ずかずかと知った我が家のようにリビングに入ってゆく。
「コーヒー?紅茶?」
「来る途中で買ったスポドリ残ってるからまだいい」
「わかった」
現在の収入あっての2LDKの我が家はそれなりの広さがあり、それに合わせた3人掛けのソファーなんかも置いてあるのだが、妹はそこへとダイブした。
それを尻目に冷蔵庫から自分の飲み物を用意して妹の対面を向くようにスツールに腰掛ける。
「ぬー、ほんとに美人、おばあちゃんの若い頃の写真そっくりじゃん」
「あはは、もともと父似だったけどそれがそのまんま変わったみたい」
「夕莉(ゆり)のブラコンがシスコンになるじゃん」
「流れるように弟をディスるな妹」
がばっと起き上がり、眉間にしわを寄せながらこちらをみる妹の牡丹(ぼたん)が牡丹の弟である夕莉に対するディスりをかます。
「…で、声は変わんなかったの?アッチの人っぽくてすごくヤ」
「……これでいい?」
玄関開けてた時から前と同じくらいの声を再現していたのだが、妹はそれが気に入らなかったのか、現在の地声に戻すとキラリと目を輝かせる。
「うひぃ」
「人気声優が出しちゃいけない声出さないで」
「あっ、あっ…」
「限界オタクの俺のマネはやめて?」
「罵倒、罵倒頂戴?」
「うっわ、ドン引き」
「ありがとうございます!」
流れるように声豚化する妹。
一応、これでも現役の人気声優で今期もレギュラー数本持っているとは思えないキャラの崩壊っぷり。
この崩壊っぷりがある声豚のためデビュー4年で未だ尚、事務所NGで彼女の反応するいい声の人種と一対一で仕事をすることができていないという現状。
ラジオやったらイメージ総崩れ案件。
「抱きしめて良い?」
「その涎どうにかしてから言って」
「無理」
「うわ、ちょ、その機動力、引っ張るな!」
キラリとした目はだんだんと血走ってゆき、立ち上がったかと思うとテーブルを挟んだ対面の俺を無駄に段持ちの合気道で引き寄せにかかる。
「はー、ナニコレめっちゃいい匂い…男くさかった時もよかったけど、これはこれで好きぃ…」
「声フェチで面食いで匂いフェチってどんだけカルマ積めば満足するのお前」
「は?手フェチですけど?」
あっさりとソファーに俺を組み敷いた妹は胸に顔を埋めてくる。
俺のツッコミに対して逆切れしたように自分のフェチズムを語り始める妹。
「まて、流れるように手を絡めるな!」
「いやー世界で一番自分の手が好きな私だけど、同じ卵子から分裂した兄の手も好みなんだよねー」
「その理論だったら夕莉の手も変わんないだろ」
「は?ふたなりと男の娘くらい違うんですけど?」
「あ、はい、すみません別物ですね、はい」
変な切れ方をする妹だが…うん、悔しいがよくわかる。
「はー心の♂がイキリタツ」
「やめ、人気声優が言っていい言葉じゃない」
「舐めて良い?いいよね?」
「ダメに決まってんだろうが!」
「じゃ、型取らせて」
「自分の手と変わんだろ!?」
「は?〇クとゲ〇ググくらい違いますけど?」
「あ、はい…じゃねえよ、お前は某殺人鬼か何かか?モナリザの手大好きか?」
「ごめん、モナリザより細い指が好きなんだわ」
いや、いい加減にしろ、
と強めに言えばしぶしぶと言った感じで手を放し、ゆっくり解放される。
「で、変貌した兄見に来たのはわかるけど、その大荷物どうした」
「あ、それざっくりママにサイズ聞いたから合いそうな服と下着。ほら、殆どサイズ感変わんないはずだし」
「あ、うん、ありがと」
「…でもさっきタッチした感じ明らかに私よりでかいんだよね。声優界でもそこそこデカい方の私よりとか!」
「いや、知らんがな!」
どうやら妹は衣服をもってきてくれたらしく、それをありがたく受け取る。
「いや、だって一昨日聞いたサイズ私と同じだったのに何でもうデカくなってるの?同じ父方の遺伝なのに!一卵性なのに!」
「いや、キレるな、俺だっていらんわ、王道のロリの方がまだ気分が楽だったわ」
「くっ、2次成長期までほとんど同じ顔だったって言うのにどこで差がっ!」
「いや、知らんがな、あと揉むな、これ以上デカくなったらどうしてくれる」
「え、私が娶る」
「法律上絶対無理だから」
オノレ巨乳め!と言われながら世間一般では十分に巨乳サイズの妹にもまれる兄と言う地獄絵図をどうにかするまで少し時間がかかりながらもどうにか話してもらう。
妹と俺は一卵性、で弟も一緒だったので三つ子の兄妹となる。
弟が母の家系似で俺と妹が父の家系似。
妹はそれなりに整ってる顔の父を更に何段階も綺麗にしたような綺麗と言うよりも少し幼さのある美少女、と言った容姿で俺は父の母、要は祖母の顔立ちによく似ている。
一卵性で性別が分かれてること自体が珍しいのが原因かそんな感じで顔は兄妹だとわかるくらいに似通ってるが激似と言うわけではない。
弟は母の血筋によく似ていて俺と妹と違って背が180近くある長身だ。
「夕莉は仕事ほっぽってきそうだったから必死に私が抑えたんだから感謝してよね」
「さっきの押し倒しと乳揉みで帳消しだボケ」
「あー声戻さないでよぉ」
「お前が付け上がるからこのまま」
弟の夕莉も妹と同じくそれなりに人気の声優をやっているのだが、そのラジオとかでも家族大好き発言をしまくるファミコンとしてファンからの愛称がつけられている。
「で、お前収録は?」
「夕方から」
「そう、昼でも食べてく?」
「そだね。兄ぃ仕事は?」
「納期がひと段落ついているので今日明日はお休みです」
そう、兄妹にはシステムエンジニア系の在宅ワーク職と嘘をついている。
妹はアレだが、普通身内にあそこまではしゃいでいる限界オタクを見られるというのはなかなか恥ずかしいのでデビューしてから未だに打ち明けていないのである。
「じゃ、一緒に出掛けよ?その素人カット勿体ないから美容院行こ?」
「陰キャがそんな空間行けるわけないだろ」
「あとコスメ探し」
「いや、在宅だし、必要性を感じない」
「まぁ、元の顔がいいから許されてるけど…最低限化粧水くらいもらうよ」
「あ、はい」
そんな感じで急遽お出かけが決定。
妹が持ってきた大量の荷物から着せ替え人形をさせられ、化粧直し道具できっちりとメイクをされ、ヘアアイロンだのされ、家を出る頃には時間は12時を回っていた。
〇
「ふっふーん、ふっふふーん」
「いや、歩きづらい」
「別に良いじゃん」
「よくないんだけど」
昼を回っているというのに最初に妹の馴染みの美容院と言う場所に事前に“予約はしておいた”と確信犯的発言をされ、髪を整えその後美容院の横の建物にあった喫茶店で昼食。
で、服を色々物色しておそろいの服を購入、そのまま双子コーデに。
そして腕を組みながらぶらぶらと街を回っていた。
「今まで双子ファッションの座は夕莉に持ってかれてたけどついに私のターン来た!ってね」
「いや、双子も何も、三つ子だから、そもそも背丈に差がありすぎて同じ服着てもなんやこれやったから」
「それでもうらやましかったんですぅー」
「お前今までも散々俺を女装させてきただろうが」
そう、男2の女1の兄妹だったからか、俺の背丈と顔立ちが女っぽかったからなのか、よく牡丹には女装をしろとせがまれ、高校卒業するくらいまでよくやらされていた。
「それにお姉ちゃん欲しかったんだよねぇー兄ぃでもオギャれてたけど」
「人の話聞こう?」
※サケンダー:Twitt〇r
ヤマビコ:リツ〇ート
誤字ったらすみません
配信上のキャラセリフ前に略称
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いる
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いらない