横暴な姫と被害者   作:灯利

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ボツネタになりそうだったやつをお試しで載せてみます。
ノンプロットなので続くかどうかは未定です。

感想、ご指摘、改善案等々お待ちしてます。


誰がここまでこいつを放っておいた?

「乱暴する気でしょ!エロ同人みたいに!」

 

 

 凛とした女がそう叫んだ。

 

 

「え……しないけど」

 

 

 それに若干引き気味に言うのは明らかに人相の悪いガタイのいい男。

 押し気味に言ってくる女の乗り出した身体からぶら下がるふたつの大きな乳が番と目に入り思わず目を逸らしてしまう。

 

 

「……全く、見た目だけ乱暴な格好してる癖、なんでそんな初なのよ。おかしいでしょ。あんたみたいな見た目してるやつならもっとガン見しなさいよ。もっと野獣感ガッツリ出して襲う勢いで迫ってくるべきでしょ、どうかしてるわ」

 

 

 いやむしろお前のその態度がどうかしてるだろとは流石に言い出せなかった

 

 男は生まれつきの小心者で、残念ながら女が望むような酒池肉林生活とは真逆の立場に居るのだ。

 何故か性格とは裏腹にガタイは良くなる一方。目つきは生まれつき悪く、冒険者という職柄生傷も多いから見た目からすれば本当にヤグザそっくりなのだが、中身は善良なる市民その人である。

 

 だがこの女にとってはそれが一番気に食わなかったようで、もっと乱暴になりなさいよだとか、グイグイ押さなきゃ女はついてこないわよなどと色々好き勝手言ってかかる。

 

 

「いいこと?わたしが、貴方みたいな見た目最悪性格貧弱な一般市民にさも自然を装って襲われてあげてるのに、それを無駄にするってすっごい間抜けなことなのよ?なんかこう、もっとムラムラするもの沸き立ってきたりするでしょ?ほら、こういうの好きでしょ?ほら!」

 

「だから、そんなことしたら犯罪になるでしょーが!」

 

 

 キラキラとネックレスが光る胸元を見せびらかしながら言ってくる女に赤面しながらも言って返す男。

 男はこの女に関わらなきゃよかったとこの時点でかなり後悔していた。

 

 

「ああもう……男ってもっと本能的で馬鹿で猪突猛進で盲目でどうしようもなくダメ人間って聞いてたのに、全然違うじゃないのよ……」

 

「いやいやそんなエロ漫画とかそういう風な話されても困るというか……現実でそんなことするのはほんと極小数の人だと思いますよ。ここ、治安いいから特にそういう話聞かないですし」

 

「えっ……」

 

「えぇ……?」

 

 

何故そこで『まさか……』みたいな絶望しきった顔をするのだろうか

 

 

「とりあえず、もう行っていいスかね?良いスよね!じゃ!」

 

 

 男の本心としてはもうはやくココから離れて平穏な日常を取り戻したい一心であった。

 しかし残念ながらコイツはそれを許してくれないらしい。

 路地から逃げるように立ち去ろうとする男に女がまた叫ぶ。

 

「ここまで私に恥かかせてなにもしないで逃げるっていうの!?」

 

「見てるこっちが恥ずかしいだけだったんですけど!」

 

 

 随分な言い草に思わず振り返ってしまう。突如懐から何か宝石のようなものを取り出すと男に投げつけて渡す女。

 わけも分からずそれを受け取ると、そこに描かれていた文様に男は思わずギョッとのけぞってしまう。

 そこに描かれていたのは青の龍に剣と盾の文様。それを持つことが出来る人間はこの国の中でも限られた超少数の人間のみ。まさか、このイカれ女が……?

 そんな疑問を抱いていると女が礼を正して名乗りを上げた。

 

 

「……私はミレイア・ブルー・アンリエッタ。貴方、名前は?」

 

 

 その名を聞いた瞬間、男は詰んだな、と思った。

 恐らく、ここで偽名を名乗ったところでコイツは確実に自分を探しにやってくるだろう。

 理由は全く良くわからないが、変に嘘をついたりすると物理で首が飛ぶ。そう思った男は観念して名を名乗った。

 

 

「……リエラ・ロール」

 

「……随分見た目と裏腹に可愛い名前してるのね」

 

「それもよく言われるんですよね……」

 

 

 それを聞いて何度か小さく頷くと、男を指差し女――ミレイアはこういった。

 男――リエラの名を笑うこと無く、ただ静かにリエラを見据えて。

 

 

「決めました。貴方を私の専属の騎士にして差し上げます。」

 

「絶対無理。やだ。」

 

 

 思わず反射的に言ってしまう。

 

 

「貴方、ぶち犯すわよ」

 

 

 口が悪すぎるぞこの王女。

 

 

「王族の方が使うような言葉遣いでは無いように思うんですが」

 

「いいのよ。私は王族の中でも端っこの方に居るだけのお飾りだし。」

 

「そういう問題なのか……?いや、絶対違うだろ……」

 

 

 ミレイア・ブルー・アンリエッタ。

 アンリエッタ家とはこの王国の王族の一族の末裔であり、ミレイアとは現国王の三女娘が末女である。

 王国の長女は知略に優れ、次女は武力に長ける。それに比べて末女は粗末なもので、何に励むこともなく年がら年中遊び歩き男漁りをしているというのがこの王国に住むものならば誰でも知っている噂話。

 

 まさかそれでも王家の一族がそんなアホなやつを放置しとくのかと疑問でもあったけれど、残念ながらその噂はほんとうだったらしい。

 

 

「ミレイア殿下」

 

「ミレイアで良いわ」

 

「いや、流石にそれはきついっす」

 

「襲うわよ。性的に」

 

「ほんとどうしようもねぇなこの人……」

 

「そんなに嫌ならミーシャで良いわ。呼び捨てじゃないし、大事な騎士に私を愛称で呼ばせるのは私の特権だもの」

 

「横暴かよ」

 

 

 いつからこの国はこんなにも荒んでしまったのかと嘆く。

 現国王の政治力は極めて高く、治安も安定して良い。なのに跡継ぎはこれなのか。

 現国王の苦労が忍ばれるようで、男は心のなかで現国王へ小さく同情した。

 

 

「えっと、それで、殿……ミーシャ嬢……。あーはい。分かった。ミーシャはこんな裏路地でなにやってたんでしょうか」

 

 

 なんかもうどうにでもなれと半ば色々諦めがついてきたリエラはミーシャにそう尋ねると、ミーシャは腰に手を当て、どうだと言わんばかりにリエラに言ってみせた。

 

 

「男漁り」

 

「え?」

 

「男漁り」

 

「……」

 

 

 リエラよりもよっぽど男らしく堂々と宣言するミーシャに男は思わず天を仰いだ。

 

 

「駄目だこいつ、早くなんとかしないと……」

 

 

 

 


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