秋霜烈日の正義   作:一切衆生悉有仏性

1 / 6
序章 武装検事の使命
第壱話 勃発


 

 『武装検事』、それは日本国内における凶悪犯罪の捜査を所管とする、国家公務員のことを指す言葉だ。

 近年、凶悪犯罪が横行する中、その対抗的存在として誕生した国家資格、武装探偵(通称:武偵)が世間に認知されている現代において、そのほかにも、同様の目的で誕生している職業として、武装弁護士、そして武装検事が存在する。

 特に、武装検事の最たる特徴は、職務上の殺人が容認される「”マーダーライセンス”」、所謂殺しの免許を持つ公務員であることだ。この資格を持つ人間は、武装検事を除き、警視庁公安部公安0課と呼ばれる組織の人間しかおらず、両者ともに”国内最強の公務員集団”と呼ばれている。

 その実力は、先述した武偵の中でもごく限られたものしかいない、トップクラスの実力を誇るSランク武偵を大きく上回るほどだ。

 そのため、武装検事になるのは極めて過酷であり、その内容は当然ながら並大抵の人間には不可能であると断言する。まず初めに、司法試験に合格し、最終的に法曹としての資格を得ることが最低条件であり、次に、武装検事としての適性を判断する武装検事採用試験※1に合格し、半年間の研修を修了しなければならないのだ。

 以上の(ふるい)にかけられ、最終的に武装検事を志す者に求められるのは、つまるところ人間がもつ能力の限界に等しい。まさに、努力だけでは決して到達しえない領域、そこに至れるのは、それにふさわしい才覚を持つ者だけなのだ。

 よって、武装検事になれるものはごく少数である。しかし、武装検事になれたとしても、その先にはさらなる困難が立ち塞がっている。

 ここ数年、社会問題として取り上げられることも多くなったブラック企業を超越する激務の日々、現場では死線を潜り抜けることも珍しくなく、その対価としてはあまりにも割に合わない給料。このような待遇にも関わらず、彼らは、これを是としながらも、我が国の国益のため、日夜任務に従事しているのだ。

(日暮彩人著「秋霜烈日の正義」冒頭より)

 

 

 

 

 

これは、そんな武装検事である一人の男が、己が正義のために戦う、物語だ。

 

 

 

 

◆■◆■◆■◆

 

 

 バー―ン!!!

 

 深夜の東京、人々の喧騒が幾分か落ち着いたオフィス街で、突然それは起きた。都心のど真ん中に位置する高層ビルで起きた爆発は、瞬く間に伝播し、夜の街にざわめきを生み出した。

 

「…(こう来たか。)」

 

 ビルの付近に停まっている車の中で、男がつぶやいた。齢は20代後半、スーツを身に纏い、そのラペルホールには検察官記章が爆発のもと爛々と照らされている。

 また、その腰にH&K USP*1を携えているこの男、決してカタギとはいえない証を持つその名は、神谷修也。法務省武装検事局(通称:武検局)所属の武装検事だ。

 

「(さて、どうしてくるか。)」

 

 お察しの通り、武装検事である彼がこの場所にいる理由は、この爆発が起きるという情報を事前に入手し、張り込んでいたに他ならない。

 

「…武装検事の神谷修也だ、IDは●●▲■●……●◆●■ビルで爆発が起きた。至急応援を要請する。」

 

 その甲斐もあり、こうして爆発現場にいち早くついたわけだが、修也は車の中から電話で警察に応援要請をしてから、ずっとビルの様子を観察している。どうやら、この爆発を起こした仕立て人の動向を追っているようだ。

 

「(ん?この音は…。)」

 

 そんななか、修也は爆発のあったビルの地下駐車場入り口から何かの音を聞いたその時、その入り口から猛スピードで車が飛び出してきた。この爆発の犯人と思わしき人物が運転する車両は、そのままのスピードで急速にビルから離れていく。修也はそれを確認するとエンジンを始動させ、急速発進して当該車両の追跡を開始した。

 彼の過ぎ去った現場には、ビルから出火した炎と黒煙が上る様子がただ残り、後方からサイレンの音が聞こえてきていた。

 

 

◆■◆■◆■◆

 

 

 犯人とおぼわしき者が運転する車両を追いかけた先には、港湾地区が広がっていた。

 東京湾に面した場所に位置するここでは、倉庫が犇めき合っており、逃走先としては悪くない。また、海に面していることもあり、海上ルート経由で逃走するならベターな選択だ。

 しかしそれは…

  

「…ここか。」

 

 ここに武装検事がいることを勘案しなければの話だが。

 

 追跡した車両が倉庫前で停まる様子を後方から視認した修也は、車を停めて外に出た。そして、ホルスターから拳銃を取り出し、スライドを少し引いて薬室に弾丸を装填したか確認する。確認し終えると銃を戻し、倉庫へと静かに接近し始めた。

 ここで少しおさらいするが、そもそも、国内における凶悪犯罪の捜査活動を主とする武装検事の彼が、何故今回の爆発現場に居たのか…、それは現在彼が追っているある組織に関係している。その組織の名は「イ・ウー」。いかなる軍事国家も手出し出来ない集団と言われるその組織が日本において活動していることを知った修也は、今日まで捜査を続けていた。そして、とうとうイ・ウーに関する情報を入手して今に至ったのだ。

 目標が入った倉庫に近づきながら、修也は考えていた。ここ一体は、確かに海も側にあり、逃走経路としては妥当といえる。しかし、なぜ此処に来たのか修也は考察していた。今回の出来事に関する情報源は、信頼度の高いものなので、イ・ウー関連の人間である事はほぼ間違いない。その上で、噂通りの組織であるなら何かしら仕掛けている可能性も十分考えられ、これ自体が罠の可能性も考慮する必要がある。

 警戒心を保ちつつ、修也は目標に接近していった。

 

「(『超感覚』※3…人の気配を感じない…そしてこの“匂い”は…まぁいい、入ろう。)」

 

 倉庫の前まで近づいた修也は、彼の持つ能力『超感覚』を使用した。

 能力を使用した修也は、倉庫内部の状況を確認し、銃を構え遂に倉庫内に入った。倉庫内は暗く、目視で内部を確認することは不可能な状態だったが、修也は能力を使うことで対応していた。その時、突然倉庫の奥から気配を感じ、修也は咄嗟に銃口を向けた。

 

「!ッ」

 

 銃口を向けた先からは、明らかに人の気配を放つ存在が現れた。こんな時間に一般人がいることはほぼない。しかも、超感覚を使用していたのにもかかわらず気配を探知できていなかった中、突如現れた気配。彼の能力を持ってしても探知できない存在ならば、こいつがビル爆破の犯人に違いない。修也は、銃口を向けつつ、その者に向かって、声をかける。

 

 「武装検事だ。お前がビル爆破の犯人だな。両手を上げて頭の後ろで組み、うつ伏せになれ。」

 

 そう修也が言う中、月明かりが倉庫内に差し込み相手の姿が見えるようになった。その者は身長170cmほどで、全身黒い外套に身を包み、顔はフードを被っておりわからない。武器を隠し持っている可能性もあり、警戒度を最大限にしていると、その者は、修也に従って手を上げようと動かし始めた。そして、手を上げながらフードを取り、自身の顔を曝け出した。その顔は、日本人の男の顔立ちで若く、10代半ばの顔つきだ。思っていた様相と異なり、若干驚きを感じた修也であったが、

 

 「お前は何者だ。なぜビルを爆破した。」

 

 質問を投げかけると、男はそれに、

 

 「俺の目的のためだ。」

 

 と答えた。

 

 「目的とは何だ。一体何を企んでいる。」

 

 さらに問いを投げかける修也であったが、男はそれに答えず、

 

 「それは自分で調べることだ武装検事、いや元Sランク武偵【オールラウンダー】神谷修也。」

 「!ッ」

 「さらばだ。また会う時まで、死ぬんじゃないぞ。」

 

 そう言うと、男は指をパチンと鳴らして姿を眩まし、同時にタイマーの音が一斉に鳴り出したのを聞き取った修也は、咄嗟に倉庫の外へ走り出した。

 

 「ドカーーン!!!」

 

 倉庫を出た直後、突然の爆発により、倉庫は高層ビル同様燃え盛った。その際、火傷と飛んできた破片による傷を負ったが、至って軽傷で、こちらに近づいてくるサイレンの音を聞きながら、修也は銃をホルスターに戻し、スーツの汚れを払っていた。

 

 「全く。“やはり”爆弾だったか。」

 

 スーツをある程度払いながら、修也はそう述べた。なぜ、爆弾だとわかっていたのかは、彼が倉庫に近づいたときに使った超感覚により強化した嗅覚で爆薬の匂いを嗅ぎ分けたからである。そのおかげで、爆弾に警戒しながら咄嗟の行動にも対応できるよう注意を注ぐことで、爆発による負傷を最小限に抑えたのだ。スーツを払うと、彼は電話を取り出し、ある人物へメールを転送した。

 

 「『ピッピピッピ』情報が漏れていた、警戒しろ。by修也『ピッ』」

 

 『奴の言う通りなら、奴は俺のことを知っていながら、敢えて犯行に及び此処に誘き寄せたことになる。そして、奴の目的とやらに俺も関わっているのか?。ともかく、ようやく接触できたんだ。捜査を続けないといけないな。すべては、俺の正義を為すために。なぁエリー。』

 

 潮風に吹かれながら、修也は考えに耽る。今は亡き彼女との約束、そして、彼自身の正義に想いを馳せながら。

 

 

◆■◆■◆■◆

 

 

 これは、1人の武装検事が織りなす物語、その序章に過ぎない。彼、そして彼の周りでこれから起こる数々の事件の先に待つ真実は一体何なのか。その真相にたどり着くまで、彼は歩み続ける。その道が途切れるまで。だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。

 

次回、第弐話捜査再開 

 

*1
ドイツの銃器メーカー、H&K(ヘッケラー&コッホ)社が開発した自動拳銃。




・用語解説(独自設定)
※1武装検事採用試験…武装検事になるには、まず、通常の検察官と同様に司法試験に合格し、司法修習生を経て、法曹としての資格を得る必要がある。しかし、本当の関門はこの先にある武装検事採用試験に合格しなければならないことだ。この試験では、武装検事として任務を遂行できるか様々な審査を行い、その成績によって合格か判断される。国内最強の公務員集団の面もあるので、当然その審査もかなりハードで合格者は1人いれば妥当といえるレベルだ。また、採用試験に合格したら、半年間の研修に入り、武装検事としての仕事を覚えなければならず、この研修を修了して晴れて武装検事の一員となれる。職務内容のリスクの高さからいえば当然の内容といえる。

※2武装検事局…法務省の特別の機関である検察庁、その検察庁のさらに特別の機関として設置されている捜査機関。検察庁からも独立しているこの組織は、独自の権限を与えられており、主に、国内におけるテロといった凶悪犯罪をはじめとした広域事件を扱うことから、その立ち位置は、日本版FBIといっても差し支えないだろう(また、FBIの採用試験では、ロースクールで法学博士の学位を取得するなど、かなり高度な能力を求められており、武装検事も司法試験に合格する必要がある観点から、その立ち位置には一致する点もあると考える)。また、基本的に武装検事は対等な存在であり、役職での上下関係はあるものの、それ以外に立場を区別するものはない。本部は、霞が関にある中央合同庁舎6号館A棟のどこかにあり、関係者しか立ち入ることはできない。組織的構造としては、武装検事局長官をトップとして、副長官、部長級と続き、あとは平の武装検事と検察事務官のピラミッド構造になっている。体制は検事2名、武装検事6名、検察事務官25名の総勢33名(※要職に検事が2名以上着く)。

※3超感覚…修也のもつ特異な体質によって引き起こされる能力の呼称。意識して一時的に五感を鋭敏にすることができ、普通の人間では感じ取れない感覚的情報を取得できる(例:聴覚の能力を高めると、可聴域を最大で蝙蝠レベルに引き上げることが可能)。しかし、多用すると各感覚器官に多大な負担をかけてしまうため、長時間の使用にはリスクを伴う。第壱話では嗅覚を鋭敏にすることで爆薬のにおいを嗅ぎ分けた。


・人物紹介
神谷修也…武装検事、年齢は25歳。武装検事としてのキャリアはまだ浅いものの、その実力からすでに将来を嘱望されている優秀な武装検事。ある出来事をきっかけにイ・ウーを捜査することになり、あと一歩のところで関係者と思われる人物を取り逃がしてしまった。元Sランク武偵だったようだが、彼が武装検事になるまでの経緯は今のところ不明。

謎の男…ビルと倉庫を爆破した犯人。イ・ウーの関係者と思われるが、どうやら修也のことを知っているようだ。その正体は一体…。


 続きを書くかは今のところ不明です。私は、今まで二次創作を読む側でしたが、実際に書いてみると本当に大変で、更新してくれている作者の方々には感嘆するとともに感謝の念を抱かずにはいれません。設定は頭の中で思いつくのですが、それを文字に起こして、文章として物語の域に昇華させるのは、圧倒的に難しいと実感した次第です。いつになるかはわかりませんが、また気力が湧いたら続きの執筆をしてみようと思います。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。