東方絆紡録   作:空亡之尊

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四季折々

神無悠月side

 

 

とある昼下がり、人里外の道にて

 

 

「気が重くなるな……」

 

 

俺はとある場所へと続く道を歩きながら溜息を吐いた。

俺の手に握られた一通の手紙、これが原因でもあった。

 

事の始まりは、人里で慧音の寺子屋の手伝いをしていた時だった。

いつも外の世界についての話を聴いてくる子供の一人にある事を頼まれた。それが向日葵を母親に見せてやりたいという依頼だった。

この季節に向日葵なんて咲いてない上に、この辺りにおれといったら“あの場所”しかない。

俺も断ろうとしたが、その子に貰った手紙を見て、俺は今現在ここに居る。

 

 

「ったく、損な役回りだぜ」

『そう言いながら、ちゃんとやるんですね』

「……迷子の犬探しから殺人事件まで、何から何まで承ります」

『それが我等、高天原学園・探偵部、通称『ヤオヨロズ』の信条でございます。ですか?』

「そうだな」

『ふふっ……それではこの依頼、早く終わらせましょうか』

「言われなくてもそのつもりだ」

 

 

俺は小さく笑うと歩みを進めた。

しかし、俺の本能はその場所に近付くにつれて危険を察していた。

 

 

 

少年少女祈祷中

 

 

 

「着いたか」

 

 

俺は目の前に広がる草原を見てそう呟いた。

厳密には草原というより、花畑と言った方がいいんだろうが、この光景を見るとどっちかに悩む。

 

 

『やっぱり、咲いてませんね』

「そうだろうな」

『やっぱり、この依頼……』

「いや、頼みの綱は一人いるんだよな」

『誰ですか?』

「ここの主、だよな?」

『え?』

「月美、構えろ」

『は、はい‼』

 

 

俺は瞬時に月美を刀に変えると、背後に回して“それ”を受け止めた。

しかし、その衝撃で俺は月美ごと突き飛ばされた。地面に手をついて踏み止まると、その人物は俺の目の前に立っていた。

傘を構えた緑髪の女性、ここ太陽の畑の主である風見幽香はそこにいた。

 

 

「今のを受けるのね」

「大妖怪の力がどれくらいか知っておきたかったんでね」

「口が利けるだけ凄いわ。普通なら今頃は肉塊よ」

「分かってやってるあたり、やはりドSだな」

「あら、褒めても何も出ないわよ」

「アンタの場合は手が出るだろ」

「上手い返答ね。ご褒美に一つ聞いてあげるわ」

「向日葵を一つ譲ってくれ」

「断るわ♪」

 

 

とびきりの笑顔で即答された。

まあそうだろうな。人の命より花の命、こういう奴に平和的な交渉が通じるはずもない。

それに、彼女は元から戦う気満々のようだ。さっきから指を鳴らしている音が耳に響く。

 

 

「やれやれ、結局こうなるのか。美羽の言った通りだな」

「あの子と知り合い?」

「腐れ縁だ。アンタの事はアイツから聞いてる」

「そう。なら、わかるわよね」

「精々、死なない程度にやりますか」

「簡単に殺されないことね」

「そっちこそな」

「ふふっ、口だけで終わらないでね」

 

 

幽香はくすっと笑うと、次の瞬間、俺の目の前へと詰め寄り、傘を振り下ろした。

俺はそれを受け止めると、競り合う刃と傘の向こうに狂気に歪んだ瞳が見えた。

その瞳に身が引くと、その隙を突いて傘に押し飛ばされた。流石は大妖怪と恐れられている人だ。あの程度の力で後ろの草原まで吹き飛ばされてしまった。

 

 

「っと、やっぱり凄いな」

『大丈夫ですか?』

「ああ、ちょっと腕が痺れる程度だ」

『その程度で済むユウキも凄いですよ』

「まあ、“化物”だからな」

『まったく……』

 

 

月美が呆れ気味の溜息を吐くと、目の前には拳を握り締めた彼女が迫ってきていた。

俺はそれを拳で受け止めると、受け流して彼女の背後を取る。だが、それを予想していたかのように、彼女は体勢を崩した状態から俺の身体に向かって蹴りを放った。

身体を後ろに退いてそれを避けると、彼女は草花を撒き散らしながら傘を振り上げた。

俺はそれを足で踏んで止める。彼女は再び拳を振りかざすが、それを真正面から受け止める。

 

 

「やっぱり強いな。アンタは」

「っ、最近の人間はこんなに強いのかしら?」

「少し特殊なだけだ。人生がな」

「それだけでこうも変わるものなのかしら」

「そういうものなんだよ。人間ってのはそれだけでどこにまでも堕ちられる」

「まるで自分が堕ちきったみたいな言い方ね」

「さあ、どうだろうな」

「…………………………」

 

 

優香は俺の瞳を覗き込むように見つめると、拳を下ろした。

俺は月美を納めると、彼女の傘から足をどかした。

 

 

「どうしたんだ?」

「なんだか、アンタを見てると何処かの誰かさんを思い出すのよ」

「ちなみにどんな奴?」

「たかが花一輪の為に命を張るバカよ」

「そうかよ」

『血は争えませんね』

「うるさい。アイツと同じにするな」

「似てるわね」

「うるさい」

 

 

俺は幽香の額をデコピンで弾いた。

 

 

「ところで、何で向日葵なんて必要なのかしら?」

「とある子供から、プレゼントしたいから見つけてきてくれないかって」

「お人好しにもほどがあるわよ」

「そうだな。そのために誰かさんに一瞬殺されかけた」

「当たり前よ。この子たちを譲るなんて天が許しても、私は許さないわ」

「まあ、そこを何とか頼む」

 

 

俺は頭を下げて幽香に頼み込んだ。

 

 

「……何でそこまでアンタが頑張るのかが分からないわ」

「事情なら、この手紙を読んでからにしてくれないか」

 

 

そう言って俺はその子に貰った手紙を幽香に渡した。

幽香はそれを受け取ると、手紙を隅々まで黙読した。

しばらくして、手紙を読み終わった幽香はそれを返して俺の横を通り過ぎる。

ダメだったか、そんな風に思っていると、背後から俺の肩を誰かが叩いた。振り向くと、そこには小さな袋を持った幽香が立っていた。

 

 

「持っていきなさい」

「これは?」

「向日葵の種よ。中には育て方を書いたメモもあるわ」

「いいのか?」

「さすがにここに咲いてる子たちは無理だけど、この子たちなら大丈夫よ」

「ありがとな」

「礼はいいわ。それより、そこの子ちゃんと伝えなさい」

「ん?」

「大事に育てなかったら食べちゃうわよって」

「ああ、ちゃんと伝えるさ」

「なら、早く行きなさい」

「ありがとう。優しい妖怪さん」

「そういうところまで似なくていいわよ」

「お礼だけでも言わなきゃ、失礼だからな」

「…………………………」

 

 

俺はそれを告げると、その場を後にした。

 

 

 

少年少女祈祷中

 

 

 

「ありがとう、お兄さん‼」

 

 

その子は俺に嬉しそうな笑顔を向けてくれた。

その手には幽香から貰った向日葵の種が入った袋が大事そうに握られている。

 

 

「でも良かったのか? 一から育てるのは大変だぞ」

「これだけでいいよ」

「え?」

「お母さんのためだもの、全然大変じゃないよ」

「そうか……」

 

 

そこの笑顔を見ていると、俺の杞憂だったことがよく分かる。

 

 

「それじゃあ、また来るね。お母さん」

 

 

その子は後ろに振り返ってそう言うと、俺の横を通り過ぎて帰っていった。

俺はそれを見送ると、目の前に視線を移した。

 

 

「良い子だな」

『ええ』

「母親の大好きだった向日葵を手向けたい、か」

『久しぶりの依頼、人助けができて良かったですね』

「幽香のお陰だよ」

『今度会いにでも行きますか?』

「体調万全にしないと今度こそ殺されそうだけどな」

『あははは』

「さて、それじゃあ俺らも帰るか」

『はい。それでは、私たちはこれで』

「向日葵が咲くの、楽しみにしてるぜ」

 

 

俺はその場で手を合わせると、その場を後にした。

向日葵が咲くのは夏、まだまだ先だな……………………。

 

 

 

 

 





空亡「ようやく投稿できました」
悠月「なんで今回はこんななんだ」
空亡「シリアス成分が無いですからね。非日常編なんて」
悠月「だからって、前回との落差が」
空亡「それは言わないで下さい」
悠月「それと、戦闘描写が少ないよな。せっかくの戦いだったのに」
空亡「本気でやると終着点が見つからなくなります」
悠月「お前はどうする気なんだよ」
空亡「一刻も早く地霊殿編に入りたいですね」
悠月「もうやだ、この駄作者」


次回予告
妖怪の山へと呼び出されたユウキ、そこで見せられたのは彼のもう一つの武器だった。
非日常編・五、流れ着いた物、どうぞお楽しみに‼
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