神無悠月side
とある昼下がり、守矢神社にて
「やーユウキ、元気にしてた?」
限界を開けると、バカが無駄な笑顔を振りまきながら出迎えてきた。
俺はすかさず距離を詰めると、バカの顔目がけて思い切り拳を突きだした。しかし、それはいとも容易く躱されてしまった。
視線を向けると、星哉はニヤニヤしながら俺の方を見ていた。
「危ないな~開幕一発目から暴力は反対だよ」
「うるせえ。いきなり呼びつけたのはお前だろうが」
「だからって殴られる理由がないけどな~」
「こんな雨の中、厳戒態勢の子の山を登らせた。それで理由は十分だ」
俺は殺気全開で星哉を睨みつけた。
時をさかのぼれば数時間前、突然このバカから守矢神社に来てくれという電話が掛かってきた。
俺は面倒臭いと言ったのが、来なかった場合は文に俺の弱みを流すと言われて仕方なくここまで来た。
だが、ここ最近は山の天狗が苛立っていて、一歩山に入れば容赦なく攻撃してくるので蹴散らすのに無駄な体力を使ってしまった。
この憤りをどこに向ければいいのか? そう、目の前にいる元凶に向けるしかないのだ。
「雨と天狗の件は俺の所為じゃないでしょ」
「お前にぶつけないと、俺は自分が保てない」
「何で自分から暴走フラグを建てるのさ」
「まあ、お前と話してた方が無駄に疲れる」
「ユウキも結構無茶苦茶だね」
「お前には言われたくねえ」
俺は星哉の額を指で弾いた。痛がる素振りだけで、本人は笑っている。
そんなやり取りをしていると、奥の方から誰かが歩いてくる気配がした。
「あ、ユウキさん。いらしてたんですね」
「早苗か。邪魔してるぞ」
「邪魔するんだったら帰って~」
「お前が呼びつけたんだろうが」
「あはは。それもそうだな」
星哉は面白そうに笑う。
「あ、よろしければ奥の方へとどうぞ。美味しいお団子がありますよ」
「そうか。なら、遠慮なく貰うとするか」
「相変わらず好きなんですね」
「古臭いか?」
「いいえ。ユウキさんは何も変わってないなと思っただけです」
「こっちの台詞だ」
そんな話をしていると、星哉が玄関から出て行こうとしているのが見えた。
「……どこに行く気だよ」
「お邪魔虫はここで退散しようかなって、ね?」
「な、何で私の方を見て言うんですか」
「まあ、そういう事だから俺はここで退場させてもらうよ」
「後で一発殴らせろ」
「できるものならね♪」
星哉はそう言い残してその場と去った。
「気紛れだな」
「まるで猫みたいですね」
「中らずと雖も遠からず、アイツは『黒猫』だからな」
「ん? その名前どこかで聞いたことがあるような」
「それより、上がらせてもらうぜ」
「あ、はい。どうぞこちらへ」
早苗の案内で居間へと通された。
そこには案の定、この神社の二柱の神様が机を挟んで座っていた。
「お、来たか。神無」
「久しぶり~」
「久しぶりだな。神奈子、諏訪子」
「では、お団子を持ってきますから、ユウキさんは座っててください」
「ああ」
早苗はそう言い残して奥へと歩いて行った。
俺はその後をじっと見つめながらその場に腰を下ろした。
「……どうかしたの?」
「いや、何年も見ないうちに成長したなと思っただけだ」
「まるで父親みたいな言い方だね」
「父親って言うより、心配性な兄って言った方がしっくりくるね」
「そうかもな」
俺は幼い頃の記憶を思い返した。
あの頃は妹たちの友達として俺の後をついて回ったり、時には俺の手を引いて無理やり遊びに連れだしたりと、色々な意味で記憶に残るような子供だった。
だが、今では年相応の少女として大人しくなっている。……いや、霊夢に直談判するあたり、昔とはそんなに変わっていないのかもしれないな。
「それにしても、君とまた会えるなんてね」
「俺の方が驚きだよ。こんな辺鄙なところで再会するなんてな」
「これも、早苗の奇跡の力なのかもね」
「奇跡か。だとしたら、早苗やアンタたちに出会えたこと自体が奇跡だろうよ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
「……こういうのだけ、あのバカ親父には感謝しないとな」
「相変わらず、あの人の事を許してないんだね」
「当たり前だ。あの女たらし」
「「(アンタも人のこと言えない立場でしょう……)」」
二人の視線が何かを言いたいように見えるが、とりあえず無視しておこう。
しばらくして、団子を持った早苗が居間に戻ってきた。
「はい。人里で評判の三色団子です」
「やっぱり紅音さんのところか。人気なんだな」
「ユウキさんもよく食べているんですか?」
「ここに来てから毎日のように食ってるな。安いし」
「へえ~よく飽きないね」
「まあ、美味しからな。紅音さんも常連客としてサービスしてくれるから一石二鳥だ」
「その、紅音さんとは仲が良いんですか?」
「それなりにな。人里ではあの人のお蔭でよくしてもらってるから」
「ふ~ん」
「でもまあ、幻想郷にいる大体の奴等とは仲が良いかもな」
「そうなんですか」
早苗は少し不満そうに団子を頬張った。
「どうしたんだ? そんなに怒って」
「怒ってません」
「あらら、ご機嫌斜めだね」
「まったく、お前は藍から和図だな」
「どういうことだよ」
「女心を分かってないと言っているんだ」
「何で俺はいつもその手の説教をされるんだ」
何十話か前にも同じことを言われたような気がする。
神奈子は頬杖をつくと溜息を吐いた。
「はあ……お前になら早苗を嫁がせてもをいいと思っているんだけどね」
「おい、何言ってやがるこの軍神」
「いや、ね。“アイツ”の息子なら大丈夫かなって、諏訪子が」
「どこぞの馬の骨に行くぐらいならユウキの方がいいかなって」
「お前らな。少しは早苗の事も考えてやれ。な?」
「え、あ、はい。そうですね/// で、でも、ユウキさんさえ良ければ……」
早苗は顔を赤くしながら俯くと、ちらちらと俺の様子を窺っている。
なんだろうな。前にも、母さんにからかわれた時の妹たちと同じ反応をされた気がする。
「気になったんだけど、そもそもユウキって恋人とかいたりするの?」
「…………いない、かな」
「お前さんぐらいなら、もういたりするものだと思ったんだけどね」
「こんな奴を好きになるもの好きなんていねえだろ」
俺は団子を手に取るとそっぽを向いて頬張った。
「それより、久しぶりにこうして揃ったんだ。互いの近状報告でもしようぜ」
「いいね。こっちも聞きたかったんだよね、君のここでの活躍」
「私の偽物に勝ったんだ。それなりに強くなっているのだろ」
「期待されるほどの話は持ってねえよ」
「私も聴きたいですね。ユウキさんの話」
「仕方ない。じゃあ、ここに来た原因から話すとするか」
俺はこれまでの出来事を三人に話した。
それは小説の一節を読み聞かせるように、俺のその時の心情を織り交ぜながら。
天宮星哉side
深夜、雨が降りしきりる森に俺は来ていた。
幻想郷各地で起こっている異常気象、それは異変と呼ぶにはまだまだだった。
こんな状況を黙ってみていない人物はたくさんいるが、そのうちの一人が丁度俺の目の前にいた。
「久しぶりだな。天宮」
「こっちこそ、元気だった? 和美さん」
それは俺の好敵である勧善 和美の姿だった。
彼女は俺の事を睨みつけると、俺に向けて銃口を突き付けた。
「いきなり銃を向けるなんて、怖い刑事さんだな」
「黙れ盗人。本当ならここで捕まえてもいいんだぞ?」
「冗談はよしてよ。俺を捕まえるのには現行犯じゃないと意味ないでしょ?」
「それもそうだな」
彼女はクスッと笑うと、銃を下ろした。
「さて、刑事さんが俺になんの御用かな?」
「貴様ならこの異常気象の正体、知っているだろうと思ってな」
「貴女は俺の事をどんな風に思ってるんですか」
「私たちをコケにする薄汚い黒猫」
「その通りだね」
俺は肯定するように笑った。
「……で、どうなんだ?」
「犯人は分かってるけど、教えなくても行くつもりでしょ」
「そうだな。アイツならすぐに突き止めるだろうな」
「だから、俺からは何も無しで」
俺はその場でくるりと回ると彼女に背を向けて歩き出した。
「一つ聞きたい。……何で分かった?」
「……和美は、この日常が永遠に続けばいいなとか思ったりする?」
「なんだ、その質問は」
「いいから、どう思う?」
「物語にも日常にも終わりは必要だ。でなければその先が生まれないからな」
「そうだな。やっぱり、貴方達ならそう言うだろうと思った」
「お前は何を知っている?」
「知ってしまったんですよ。永遠に読み返す物語にね」
俺はそう言い残すと、降りしきる雨の中へと消えていった。
空亡「ぶん殴りたくなるほど微笑ましいですね」
悠月「だからって、あっちに婿入りとかは御免だからな」
空亡「意外ですね」
悠月「……俺にはそう言うのは似合わねえよ」
空亡「まあ、ユウキって独りで各地を旅してそうなイメージがありますからね」
悠月「放浪者かよ。あと、今回の非日常編って短いよな」
空亡「ネタが思い付かなかった。反省はしている」
次回予告
次の舞台への閑話休憩、役者たちのカオスな一日をどうぞ見ていらしてください。
非日常編・五、一幕の休憩、どうぞお楽しみに‼