東方絆紡録   作:空亡之尊

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鬼灯夜行

神無 悠月side

 

 

「……妙だな」

 

 

真夜中の森を駆け抜けながら俺はそう呟いた。

ここに来るまでの道中、俺は妖精から攻撃を受けていた。いつもなら遠巻きに見つめてはすぐに逃げるはずなのに、なぜか今日は問答無用で俺に弾幕を放ってきた。

無駄な争いはしたくない俺は必死に弾幕を避けながらここまで進んできた。

 

 

「この霧、妙だな」

 

 

俺は立ち止り、頭上の紅い月を見上げた。

集中して探ってみると、その霧からは妖力を感じた。しかし、この程度の妖力で妖精が狂暴化するのはおかしい。もしかしたら別の何かが妖精を狂暴化させているのかもしれない。

もう一度探ってみると、霧の奥深くから毒にも似た何かの力を感じ取った。

 

 

「これは……っ‼」

 

 

その時、頭上から色鮮やかな弾幕が俺に向かって降り注いできた。

俺は咄嗟に後ろへと跳んでそれを避けた。着地すると俺は弾幕が放たれた場所を見つめた。

 

 

「わは~当たらなかったのか~」

 

 

そこには両腕を広げて無邪気に笑っているルーミアの姿だった。

いつもなら可愛いという感想を抱くのに、今の彼女の瞳を見るとそう言う想いになれない。

 

 

「わは~。美味しそうなのか~」

「この紅い霧の所為で狂ってるのか。面倒だな……‼」

 

 

今のルーミアには、俺はただの食べ物にしか見えていないのだろう。その証拠に、シリアスな雰囲気を打ち壊すように彼女の口元からヨダレが垂れていた。

狂っても中身はルーミアということがなんとなく分かった瞬間であった。

 

そんな俺の考えとはよそに、ルーミアは問答無用で弾幕を展開する。

俺は腹を決めると腰に掛けてある刀を抜いて片手で向かってくる弾幕へと構える。

 

 

「いくよ~」

「やれやれ、だな……‼」

 

 

弾幕が放たれると同時に俺は素早く左へと走った。

俺を見失うまいとルーミアは弾幕を放ちながら俺を追いかけてくる。

俺は刀で弾幕を相殺し、そこら辺の木を利用しながら弾幕の合間を駆け抜けていく。

 

 

「も~。何で当たらないのだ~」

 

 

軽々と弾幕を避けている俺を見てルーミアは頬を膨らませる。

いつもなら軽く笑いながら意地悪な一言でも言ってやるのに、今はその余裕が無い。

怒ったルーミアはポケットから一枚のカードを取り出した。間違いない、スペカだ。

 

 

「月符『ムーンライトレイ』」

 

 

ルーミアの掛け声と共に小さな弾幕が規則的にばら撒かれる。

最初は簡単に避けていたが、次の瞬間、ルーミアの両手から左右にレーザーが放たれる。

それは徐々に狭まっていき、近くに生えていた木々を軽々となぎ倒していく。

地上で戦っている俺にとっては避ける場所が少なくなって不利だ。

 

 

「だったらこっちも……」

 

 

俺は刀を鞘に戻すと居合切りの構えをとった。

次の瞬間、勢い良く抜刀すると刀身から無数の刃の弾幕が放たれる。

ルーミアは避ける間もなく弾幕の餌食となり黒煙が立ち込めた。

 

 

「――夜符『ナイトバード』」

 

 

黒煙の向こうからスペル宣言と共に弾幕が展開された。

ルーミアが腕を交互左右に振り払うとそれに伴うように翼状の弾幕が放たれる。

 

 

「行かせてもらうぜ」

 

 

俺はそう呟くとカードホルダーの中からスペカを取り出す。

そこには懐中時計を持ち、メイド服を着た水色の髪の女性が描かれている。

 

 

「斬り咲け、斬符『霧浄』」

 

 

スペカを発動させると俺が持つ刀に蒼い霊気が纏った。

俺はその場で振り払うと、それと同時に蒼い霊気を纏った大量の斬撃の弾幕がルーミアへと向かう。

ルーミアの弾幕を避けながら蒼い斬撃は彼女に吸い込まれるように水飛沫を上げて直役した。

 

 

「う~。当たっちゃった」

 

 

ルーミアは身体をブルブルと振るわせながら不機嫌そうに言う。

すると、彼女は怒った様子でもう一枚のスペカを取り出した。

 

 

「――闇符『ディマーケイション』」

 

 

その瞬間、ルーミアと俺の周りを夜よりも深い闇が覆っていった。

完全に視界が闇に染まると俺に向かっていくつもの交差する弾幕が向かってきた。

しばらく後に何重にも重なった青い弾幕が俺に向かって飛んできたが、俺はギリギリのところで刀に当てその軌道を逸らした。

カリカリと音を立てながら横切っていく弾幕を見送ると、一瞬だけその隙が出来た。

 

 

「お返しだ」

 

 

弾幕を斬り払い、俺はカードホルダーからスペカを取り出す。

そこには雪の結晶を象ったブレスレットをつけ、紅い着物を着た桃色の髪の女性が描かれている。

 

 

「儚く散れ、斬符『雪華』」

 

 

先程と同じようにスペカを斬ると今度は刀に光と白い霊気を纏った。

そのまま横一文字に刀を振ると白い霊気を纏った斬撃が周りの闇を払いながら飛んでいく。その時、ルーミアの姿が闇の中から現れると同時に直撃して斬撃は光となって飛び散った。

体力が尽きたのか、ルーミアは重力に従って地面へと無抵抗に落ちていく。

 

 

「ったく」

 

 

俺はルーミアに向かって助走をつけて跳び込むと間一髪のところで彼女を受け止めた。

よく見るとルーミアはすやすやと静かに寝息を立てながら寝ている。

 

 

「う~……もう食べられない……」

「人騒がせなお嬢さんだな」

 

 

俺は無意識に微笑むとルーミアを近くの木の傍に寄り掛からせた。

食べ物の夢でも見ているのか、ルーミアの口からまたヨダレが垂れている。

 

 

「この異変が終わったらご馳走してやるから、それまで休んでろよ」

「わかったのか~……むにゃむにゃ」

 

 

寝言でそう答えるルーミアの頭を優しく撫でると嬉しそうに口元を緩めた。

汗をぬぐうと俺はそれを見てくすっと笑い、再び紅魔館へと走り出した。

 

 

 

 

 




美羽「相変わらず子供にはめっぽう弱いわね」
空亡「そこもユウキの良いところではないのですか?」
美羽「そうだけど……甘過ぎるのよ」
空亡「ああ、ユウキを襲ったのに優しくされているルーミアへの嫉妬ですね」
美羽「面白いわね。たかが人喰い妖怪の子供に嫉妬を抱くなんて。笑える」
空亡「その割には面白くないような顔をしていますが?」
美羽「それ以上言うと殺すわよ?」
空亡「あはは、ならばお先に逃げさせてもらいますね。それでは、次回もよろしく」
美羽「逃げ足の速い奴ね。……興も冷めたから帰るとしましょうか」
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