東方絆紡録   作:空亡之尊

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湖畔の恋娘

神無 悠月side

 

 

「……またここに来るとはな」

 

 

俺は目の前に広がる湖を見渡しながらそう呟いた。

ルーミアとの弾幕ごっこの後、俺は“勘”頼りで森を走っているとこの湖へと辿り着いた。

前回は魚釣りのためだけに訪れてあまり気にしなかったのだが、湖の周りには今回の紅い霧とは別に濃い霧が辺りを包んでいる。湖にはいつも霧がかかっているから“霧の湖”、なんともシンプルな地名なのだろう。

霧が深くて先が見えないが、紅い霧の濃度が高い場所を探ればそう時間は掛からないだろう。

しかし、湖を迂回して移動しても時間が掛かる。空を飛べる霊夢たちならそのまま突っ切っていくだけで相当な時間短縮になる。空が飛べない現実がここで突きつけられる。

 

 

「……それにしても涼しいな」

 

 

現実逃避するように俺はそっと呟いた。

今まで触れなかったが、ここに来てから気温がぐっと下がった気がする。それに、さきのルーミアとの弾幕ごっこでかいた汗も今ではすっかり引いている。

 

 

「夏場では絶好の気温だな」

「そりゃそうよ。なんたってあたいは最強なんだから」

 

 

頭上から気の強そうな少女の声が聞こえた。俺は声のした方へと見上げる。

ウェーブの掛かった水色のセミショートヘア、白いシャツにギザギザ模様が刺繍された青いワンピース、背中には氷の結晶に似た六枚の羽根が生えている。気の強そうな子だ。

そういえば、この辺りには氷の妖精が住み着いているという情報を聞いたことがある。

 

 

「なるほど。どおりで涼しいわけだ」

「おい、そこの人間」

「なんだよ」

「お前もあの紅白や白黒の仲間なのか?」

「……紅白と白黒、霊夢と魔理沙の事か」

「やっぱり仲間なのね」

 

 

俺の様子を見て確信したのか、少女は俺に向けて問答無用で氷の弾幕を放ってきた。

俺は直撃する寸前に刀を抜き、向かってくる弾幕を相殺した。

 

 

「ったく、人の話は最後まで聞けよな」

「大ちゃんをいじめた奴の仲間なら容赦しないよ」

「いじめた奴、ね」

 

 

恐らく少女が言っているのは霊夢や魔理沙の事だろう。

あの二人は異変解決の為に紅魔館へと向かっている。しかし、当然そこに近付くにつれて狂ってしまう妖精も出てくる。あの二人は俺の様に手加減なんてできないから、片っ端から片づけていくに決まっている。実際、ここに来る前に迎撃された妖精の姿を多数みた。

その際に、その大ちゃんとかいう子も一緒にやっつけてしまった。それで目の前の少女はこんなにも怒っているのだろう。まあ、これは誰が悪いという結論には至らないわけだが。

しかし、少女は完全に攻撃態勢に入っている。ならば、俺も迎え撃つのが今の最善策だろう。

 

 

「あたいが成敗してあげるから、覚悟しろ‼」

「やれやれ、今度は氷の妖精か。……いいぜ、相手してやるよ」

 

 

少女を改めて見据えると、俺は一瞬目を見開いた。

それは、少女がいきなりスペカを発動しようとしているところだった。

 

 

「いくよ‼ 氷符『アイシクルフォール』」

「いきなりかよ‼」

 

 

少女の左右に展開された氷の弾幕が交差するように俺へと襲い掛かってくる。

弾幕を相殺しながら避けていくと、少女の目の前に弾幕が行き届いていないことに気付いた。

しかし、空を飛べない俺には無意味な事実。だが、それならそれで他の策を実行する。

再び氷の弾幕が降り注ぐ、刀を帯刀するとそれを足場にして目の前の安置へと駆け上がった。

少女は俺の行動に驚いて動きを止めた。その刹那、素早く抜刀して零距離から弾幕を浴びせた。

その衝撃に飛ばされ俺は地面へと着地した。

 

 

「くっ、人間にしてはやるわね」

「それほどでもないさ」

「だったらこれでどう‼ 凍符『パーフェクトブリザード』」

 

 

そう言って少女はカラフルな弾幕を不規則にばら撒き始めた。

避けながら俺はこの弾幕の特性を考えた。パーフェクトフリーズ、完全な凍結という意味だが、今の状況ではその意味を成していない。そう思った瞬間、その状況が変わった。

ばら撒かれた弾幕が空中で急に動きを止め、カラフルだった色も凍り付いたように白くなった。

 

 

「っと、まさか弾幕を凍らせるとはな」

「これだけじゃないよ。雪符『ダイヤモンドブリザード』」

 

 

少女の掛け声と共に凍っていた弾幕がはじけ飛び、無数の氷の弾幕が降り注ぐ。

少女は移動しながら氷を生み出しては、その氷を弾けさせ、そして俺へと襲い掛かる。その作業が永遠と繰り返される。これではまるで吹き荒れる吹雪の中に放り出されたみたいな状況だ。

 

 

「このままじゃジリ貧だ。だったら……」

 

 

俺は立ち止まってスペカを取り出した。

そこには桜の花弁を象ったブレスレットをつけ、紅い着物を着た桃色の髪の女性が描かれている。

 

 

「咲き誇れ、斬符『桜舞』」

 

 

目にも止まらぬ速さで抜刀と帯刀をすると、桜色の霊気を纏った斬撃の一閃が降り注ぐすべての氷の弾幕と少女を軌跡を描きながら一瞬にして斬り伏せた。

力尽きた少女が湖へと落ちていくが、ここからでは間に合わない。そう思ったその時、霧の向こうから一人の少女が物凄い勢いで飛び出してきた。

黄色いリボンで束ねられた緑髪の左サイドテール、白いシャツに青いワンピース、背中からはどの生物にも似つかない一対の透明な羽根が生えている。

その少女は空中で抱きかかえるとすぐ近くの原っぱへと優しく寝かした。

 

 

「良かった、けがしなくて」

「もしかして、君が大ちゃん?」

「え? あ、はい。そうですけど……‼」

 

 

そう言うと大ちゃんはあの少女を庇うように怯えながら俺の前に立つ。

それもそうだ。暴走していたとはいえ霊夢たちに倒されたのだ、それなりの恐怖はあるだろうが。そんなことよりも、その子を倒した本人が目の前にいるのだ。警戒するのが当然だろう。

俺は溜息を一つ吐くと、怯える大ちゃんの頭をそっと撫でた。

 

 

「ひっ……え?」

「ごめんな。大人げなく君の友達を傷付けて」

「い、いえ、チルノちゃんもあの霧の所為で少し暴れていたから」

「そうだったのか」

 

 

どうやらあの少女、チルノも紅い霧の影響で冷静さを失っていたらしい。しかし、ルーミアほど自我を失っていた様子も無かったが、一体なぜだろう。

 

 

「チルノちゃんはこの辺りの妖精よりは強いから、たぶん大丈夫だったと思う」

「なるほど。最強と名乗るほどの実力はあるってことか」

「ところで、貴方もあの巫女や魔法使いのお仲間ですか?」

「ああ、といっても俺の場合は少し目的は違うけどな」

「そうなんですか」

「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺は神無 悠月だ、よろしく」

「どうも。私は大妖精といいます。名前は無いので、みんな大ちゃんって呼んでいます」

「知ってるよ。そこの子がさっきから言ってたからね」

「あ、この子はチルノちゃんっていいます。普段はあんなに我が儘じゃ……ないと思います」

 

 

一瞬だけ大ちゃんが苦い表情になったが、すぐに笑い返した。

この様子を見るにこの子はチルノの保護者っぽい立場らしいな。

やれやれ、どの世界にも苦労人だけは絶えることが無いな。

 

 

「それじゃあ、俺はそろそろ向かおうかな」

「あ、あの、さっきはすみませんでした」

「気にするな。友達を守ろうとするのは悪いことじゃないからな」

「あ、ありがとうございます」

「そうだ、チルノが起きたら伝えておいてくれないか」

「伝言ですか?」

 

 

大ちゃんはきょとんとして首を傾げている。

 

 

「“俺に勝ちたかったらいつでも相手してやるよ”ってな」

「わかりました。伝えておきますね」

「今度こそ、じゃあな」

 

 

俺は大ちゃんに手を振ると霧の奥へと走り出した。

この先に紅い霧の異変の主犯と“あの子”がいる…………‼

 

 

 

 

 




美羽「なんだかかき氷が食べたくなったわ」
空亡「唐突ですね。まだ四月の半ばですよ?」
美羽「仕方ないじゃない。あんなの見たら嫌でも食べたくなるわよ」
空亡「仕方ありませんね。…………シロップはどれがいいですか?」
美羽「王道でイチゴに練乳。って、どこから取り出したのよそのかき氷」
空亡「ご都合主義です。では召し上がれ」
美羽「アンタは食べないの?」
空亡「頭がキーンとなるのが嫌なのでパスです」
美羽「誰だって嫌よ。…………~♪」
空亡「おいしそうで何よりです。では、今回はここまでです」
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