神無 悠月side
「……どうしてこうなる」
俺は目の前に広がる本棚の森を見て唸った。
ありのまま今に至るまでの行動を説明すると、玄関に入ってなんとなく廊下を歩いていたらいつの間にか図書館に辿り着いていた。自分でも何を言っているのかさっぱりだが、どうやらこの屋敷の特性か誰かさんの能力なのだろうか、この紅魔館の徒歩的に恐ろしい片鱗を味わったぜ。
と、ふざけて説明はしてみたものの、どうやらこの図書館を抜けなければ美鈴が言っていた“お嬢様”の下へは辿り着けないのだろう。
「しかし、色々な本があるな」
俺は本棚に仕舞われている本を見ながら奥へと進んでいく。
こういう場所にはお堅い本ぐらいしか置いていないのだろうか、そう考えていた時に視線の向こうに一冊の本がぽつんと落ちていた。
「『そして誰もいなくなった』か、確か親父のお気に入りの一冊だったな」
そう言って手を伸ばしたその時、本棚の向こうから出てきた手に触れてしまった。
「「っ‼」」
咄嗟に後ろに退きさがるが、向こうの方がテンパっているようで、本棚の向こうから本を盛大に落としたかのようなド派手な音が聞こえる。
本棚の影から覗いてみると、そこに尻餅をついて本の山に埋もれている女性が居た。
紅色のロングヘア、白いシャツに黒いベストとロングスカート、頭と背中からは悪魔然とした羽が生えている。見た目からしてこの図書館の係員だろうか。
取り敢えず、俺は痛がる女性の下へと駆け寄った。
「いたた……」
「大丈夫か? 手、貸すぞ」
「え? あ、はい。ありがとうございます」
俺は女性の手を引いて本の山から引きずり出した。
彼女の横の本棚を見るといくつかの棚に不自然なスペースができている。どうやらそこから落ちた本に埋もれてしまっていたらしい。
「悪いな、驚かせてしまって」
「いえ。さっきのは本を落としていた私の不注意なので、あまりお気になさらずに」
「そうか。あ、俺は神無 悠月、ちょっと紅魔館に用があって来た“ただの人間”だ」
「私はこの紅魔館の大図書館で司書をやっております小悪魔です。お見知りおきを」
そう言って小悪魔はスカートの端をつまんで礼儀良くお辞儀した。
「これはご丁寧にどうも。やっぱり図書館なのか」
「はい。といっても、ここの本は全てパチュリー様の所有物なんですけど」
「パチュリー様ってことは、この館の主……じゃないよな」
「そうですね。パチュリー様はお嬢様のご友人なので、それで住まわせてもらってると」
「なるほどね」
「しかし、さっきは大変でしたよ。巫女と魔法使いが殴り込んできて」
「え?」
「その所為で本は散らかってしまうし、魔法使いなんて無断で本は持って行っちゃうし」
そう語る小悪魔の目には苦労の色のが垣間見える。
霊夢、異変の主犯の館だからって少しは穏便に解決しようと思おうよ。あと魔理沙、本を勝手に持って行っちゃダメだろ、せめて一言言ってから借りろよ。
「アンタも大変だな」
「いえ。それよりも、この本を片付けないと」
「なら俺も手伝うぜ。元はと言えば俺の所為でもあるしな」
「そんな、お客様に手伝わせるなんて……」
「だったら安心だ。俺は侵入者だからな」
俺は床に散らかった本を拾い上げるとアルファベット順に本棚に並べる。小悪魔は申し訳なさそうに俺を見つめていたが、諦めたように溜息を吐くと一緒に本を並べ始めた。落とした本が少なかったからか、その作業はすぐに終わった。
手元に残ったのはさっきの『そして誰もいなくなる』だけとなった。
「あれ? もうスペースが無い」
「ああ、これは別の本棚なんですよ」
「そうなのか」
「そういえば、パチュリー様がこの本を探していたんでした」
「そうだったのか。なら、届けてやったらどうだ」
「そうですね。あ、どうせなら悠月さんも一緒に行きますか?」
「いいのか? さっきも言ったが、俺は侵入者だぞ?」
「大丈夫ですよ。パチュリー様はお身体が弱いので、今は戦えないと思いますから」
そう言って小悪魔はにこっと笑うと羽根をパタパタとはためかせて飛んでいく。
親切な人だな…………………………いやいや、俺の心配よりそのパチュリーの心配をしろよ!?
小悪魔の道案内で図書館の開けた場所へ着くと、そこには机に座って本を読んでいる女性が居た。
長い紫髪に側頭部の髪を青と赤のリボンでまとめ、寝間着の様なゆったりと服の上に薄紫の服を着て、頭には三日月の飾りが付いたナイトキャップを被っている。何だか病弱そうな人だ。
彼女は俺の存在に気が付くと、本をパタンと閉じて机の上に置いた。
「今日は侵入者が多くて大変ね。静かに本も読めないわ」
「心中お察しするが、文句ならこの館の主に言ってやれよ」
「そうね、あとで“レミィ”には何か嫌がらせでもしてみるわ」
パチュリーは何食わぬ顔で天井を見上げる。
なるほど。館の主を愛称で呼べるほど仲が良いとは、これはこれで面白いな。
「アンタも案外腹黒い性格なんだな」
「失礼ね。自分の時間を邪魔された分を、本人にも味あわせるだけよ」
「人はそれを八つ当たりという。が、俺もその気持ちは痛いほどわかるぜ」
「アナタとは話が合いそうね。私はパチュリー・ノーレッジ、魔法使いよ」
「神無 悠月、ただの人間だ。以後よろしく」
互いに握手を交わすと、俺は机の上にある本に目がいった。
「『そして誰もいなくなった』、小悪魔がもう渡したのか」
「ええ、今さっき本を渡して他の本棚の整理に向かったわ」
「そうか。小悪魔に伝えてくれないか、ありがとうって」
「ふふ、妙な人間ね。人外にそこまで親しくするなんて」
「人外だからって差別するつもりはない。それに、“俺と同じ”にはなってほしくないからな」
「…………そう」
そう言うとパチュリーは再び本を読み始めた。
俺は心の影を振り払うようにその場を後にした。
「“レミィ”なら上で巫女と魔法使いと戦っているわ」
「そうか、ありがとう」
「そればっかりね」
「感謝できるうちにしておかないとな」
俺はそう言い残すと、急ぐように本棚の間を走っていった。
だが俺はその時に気付くべきだった、図書館の先からにじみ出る狂気の気配に。
美羽「図書館ね。メタい話、ここの設定ではどんな本があるの?」
空亡「魔導書があること以外は基本的に街で見かけるような図書館と同じですね」
美羽「ってことはラノベやマンガなんかもあったりするのかしら?」
空亡「失くしたことで忘れ去られたってことにすればいけますよ」
美羽「だったら今度探してみようかしら。そ〇おと」
空亡「あ、やっぱりそっち関連のマンガが好みなんですね」