東方絆紡録   作:空亡之尊

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幼き彼女のリグレット

神無 悠月side

 

 

「これは派手にやったな」

 

 

他よりも一回り大きい扉を開けた時に俺はそう呟いた。

そこには所々服が破れていても腰に手を当てて立っている霊夢、砂埃で身体が汚れていても楽しそうに笑っている魔理沙、それと一人の少女が清々しい顔つきで片膝をついていた。

青みかかった銀髪のセミロング、レースの服と薄紅色のドレスに腰には先端が広がった大きな紅い紐が結ばれ、頭にはリボンの付いたナイトキャップ、背中からは蝙蝠を模ったような大きな一対の羽根が生えている。どうやらこの館の主で間違いないようだ。

俺の存在に気付いた三人が一斉にこちらへと視線を向ける。

 

 

「あら悠月。アンタも来たのね」

「悪いが、お先に主犯は退治させてもらったぜ」

「嘘を言うな。私を倒したのはそこの巫女だろう」

「そうよ。勝手に自分の手柄にしないの」

「冗談だよ。二人してそういう言い方しなくてもいいだろ」

 

 

魔理沙は疲れたように溜息を吐いた。

話を聴く限り、異変の主犯は見事霊夢が退治たらしい。って、その主犯とやけに仲良くないか?

そう思っていると館の主は俺の下へと歩み寄ってきた。

 

 

「貴方、何者?」

「紹介が遅れたな。俺は神無 悠月、ただの人間だ」

「ご丁寧に。私はレミリア・スカーレット、この紅魔館の主よ。よろしく」

「こちらこそ、無断でアンタの館に入ってしまって申し訳ないな」

「いいわよ。元はと言えば私の気まぐれが招いた結果だから」

「コイツ、ただ日光を遮るためだけにあの紅い霧を出したんだってよ」

「ホント、迷惑以外の何物でもないわね」

 

 

レミリアの後ろで霊夢と魔理沙が腕を組んでうんうんと頷いている。

ああ、吸血鬼の弱点は日光だからな。それが邪魔なのは重々承知しているが、そんな理由で霊夢の睡眠を妨害した報いと八つ当たりを受けたと思うと、何故か可哀想に思える。

 

 

「にしても、よくここまで辿り着いたわね」

「そうだな。ここに来る途中に門番やメイドが居たはずだが?」

「ああ、一応その人たちには会ったぜ」

「あら、じゃあ見逃してくれたのかしら?」

「いや、当然の如く弾幕ごっこを申し込まれたからな。一応倒してきた」

「へえ、意外と悠月も強いんだな」

「……なるほど。さっきの嫌な予感は貴方だったのね」

 

 

レミリアは俺の顔をじっと睨みつける。

あれほどの実力者をただの人間が倒したことによる驚き、この館の住人を傷付けた者ヘの怒り、今の彼女の感情をその深紅の瞳が物語っている。

瞳は口ほどに物を語る、部長もたまにはいい格言を残すモノだ。

俺はその場に膝をつき、レミリアの頭をそっと撫でた。

 

 

「きゃ///」

「ここに来るまでとはいえ、君の大事な家族を傷付けてしまった。それについては謝る。

 しかし、勝負を挑まれた以上、断ることなどできなかった。そこら辺は配慮してほしい。

 君の館へ対する数々の無礼は、俺が身をもって償いと思う。それで許してくれないか?」

 

 

雰囲気が変わった俺を見て、霊夢と魔理沙は驚きに満ちていた。

弾幕ごっこを挑まれたとはいえ、この子の大事な家族を傷付けてしまったことは事実。

それは決して良いことではない。ならば、俺の中で最大限の謝罪の仕方で無礼を詫びよう。

レミリアは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに咳払いをして俺を改めて睨みつける。しかし、今度の瞳にはさっきの感情は全く感じられない。

 

 

「ま、まあ、貴方のその礼儀に免じて許してあげるわ。私も人間相手にむきになってたわ」

「それは良かった。まあ、後であの二人には改めて謝りにいかないとな」

「でも、美鈴や咲夜まで倒すなんて、ただの人間ではないわね」

「いやいや、君ほどの高貴な吸血鬼に比べれば、俺なんてちっぽけなただの人間だよ」

 

 

立ち上がって自嘲するように笑うと、突如、後ろから一本のナイフが飛んで来た。

俺はそれを受け止めると流れるような動作で前へと投擲した。

ナイフは素早く空を裂きながら飛んでいくと、見覚えのある少女の手元へと戻った。

肩まで伸ばした蒼髪のセミロング、蒼を基調とした上着にレースの黒いスカート、、手元にはサファイヤが埋め込まれた銀の懐中時計がカチカチと音を鳴らしている女性が居た。

俺は少女を見てふっと笑うと、少女はそれに対してニコッと笑う。

 

 

「相変わらず、勘はいいわね」

「そっちこそ、狙いが正確だ」

「でも、当たらなければ意味はないわ」

「まあ、正確が故に読みやすいからな」

「手厳しいわね」

「お前には劣るよ」

 

 

少女と軽く会話を交わすと、俺は改めて少女を見つめる。

少女もそれが分かると、持っていたナイフを手品のように消して腕組をする。

 

 

「不幸体質は今でも健在の様ね、ユウキ」

「咲妃、お前まで幻想郷に来てたのか……」

 

 

そう言って彼女、霧晴 咲妃は腕組をしたまま溜息を吐く。

彼女とは元の世界での仲間であり、俺の苦労話に付き合ってくれる一人でもある。

普段は部長のメイドをしているのだが、お察しの通り、俺よりもその苦労を味わっている可哀想な人だ。たまに相談に乗っている時も、ほぼ部長の悪口しか出てこない。

まあ、そんな彼女が幻想郷にいる理由を今は聞くとしよう。

 

 

「事件の調査、姉と遭遇、目が覚めたら幻想郷、居候兼仕事、以上よ」

「なるほど。非常に簡単で、簡潔で、一切の余分の無い説明だな」

「納得してくれて助かるわ」

「「「え? 今の説明で分かったの?」」」

 

 

俺の後ろで聞いていた三人が同時に言葉を発する。

俺と咲妃は互いに顔を見合わせて首を傾げる。

 

 

「え? 何でそんな「なんで分かんないの?」って顔されても」

「というより、いきなり現れて悠月にナイフ投げるなんて、何考えてるんだ」

「咲妃、貴方が探していた少年って悠月のことだったのね」

「ええ。彼はこういうのに巻き込まれる性を背負っていますからね」

「言い返せない自分がなぜか腹立たしい」

「そんなことよりも、今度はどんな夢を見たのかしら?」

 

 

咲妃の言葉に、立ち去ろうとした俺は歩みを止めた。

彼女も俺を理解する人間の一人、俺が自らここに訪れたことが気になっていたのだろう。

 

 

「……紅い館と七色の羽を持つ金髪の少女だ」

「で、貴方は何をしにここに来たの?」

「無邪気に狂い笑いながらも、あの子がどこか悲しんでいた理由を知りたい。ただそれだけだ」

「そう。相変わらずお人好しね」

「それが唯一の取り柄だよ」

 

 

俺がそう言って扉を明けようとしたその時、紅い球弾が扉に当たって弾け跳んだ。

俺はゆっくりと後ろを振り向くと、案の定、手を前にかざしているレミリアの姿があった。

 

 

「どういうつもりだ…………いや、聞かなくても分かるか」

「そう。理解力が高くて助かるわね。でも、行かない気は無い様ね」

「当たり前だ。そのために、俺はここまで来たんだからな」

 

 

俺は殺気の籠った眼で睨み返すと、レミリアの顔が少し固まった。だがそれだけだった。

なるほど。伊達に吸血鬼を名乗っている事だけはあるようだ。

 

 

「“あの子”に会えば、貴方、“死ぬ”わよ?」

「それでも俺は会いたい、いや、会わなきゃいけないんだ。“あの子”が悲しむ理由を知りに」

「それほどの覚悟があるのね。いいわ、その前に私が……」

 

 

レミリアが言いかけた瞬間、彼女の首筋を一本のナイフが掠めた。

ナイフはそのまま部屋の壁に深々と突き刺さると、レミリアの首筋から紅い血が流れた。

彼女はそれを指でふき取ると、俺の前に立っている咲妃にへと殺気の籠った瞳を向ける。

 

 

「……どういうつもりかしら? 咲妃」

「悪いわね。彼は私たちにとって大事な人、傷付かせるわけにはいかないわ」

「せっかく住まわせてやったのに、恩を仇で返すとはこの事ね」

「勘違いしないで頂戴。貴女には恩を感じている。ただ、今は彼の恩を返すのが先なだけ」

 

 

咲紀は両手にナイフを構えると口元をニヤッとさせる。

 

 

「大図書館の奥にある地下室。そこに“彼女”はいるわよ」

「そうか。ありがとな」

「お礼なら、一日だけ貴方の時間をいただきますが?」

「いいぜ。おまけに俺の手料理フルコースデザート付も加えてやるぜ」

「うふふ、それでは楽しみにしていますね」

 

 

そう言うと咲妃はナイフを投擲しながらレミリアへと走っていく。

俺はそれを見送ると部屋を出て、地下室へと続く大図書館へと走り出した。

 

 

 

 

 




美羽「またもやユウキの犠牲者が……」
空亡「美羽さん、その人を殺しそうな殺気を押えてくれませんか?」
美羽「駄作者、今から少し暇をいただくわ」
空亡「殺りに行く気なら美命に報告しますよ」
美羽「ぐ……これ以上増えたら私の立場がなくなるわ」
空亡「元からアナタの立ち位置はヤンデレ止まりですけど」
美羽「ふざけた事を言うわね。ねえ、そんなに殺されたいの?」
空亡「死ぬのは嫌なので逃げさせてもらいます。それでは」
美羽「このやり取り、前にやったことある気がするわね」
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