東方絆紡録   作:空亡之尊

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フランドール・Sは狂っているのか? 中編

第三者side

 

 

「禁忌『クランベリートラップ』」

 

 

“フラン”が魔方陣を展開して咲妃の周りを囲むと赤と青の弾幕が放たれた。

咲妃はステップを踏むように軽々と弾幕を避けると数本のナイフを“フラン”の周りに放った。

“フラン”はそれを避けて咲妃に接近しようとするが後方から来たナイフによって阻止された。

 

 

「――っ‼」

「私のナイフ捌きは咲夜ちゃんよりも上よ?」

「――ウフフ、そうこなくちャ、楽しくなイ」

「黙りなさい。今の私は“あの頃の私”を押えるので必死なんだから」

「――我慢は良くないヨ、斬リ裂キ少女(ジル・ザ・リッパー)」

「今すぐその減らず口を串刺しにしてあげるわ、狂った吸血鬼」

 

 

互いに殺気を解き放つと目にも止まらぬ速さで距離を詰め、災厄の剣と銀のナイフがぶつかった。

 

その光景を、霊夢と魔理沙は傍観することしか出来なかった。

もちろん、二人は戦闘に参加しようとしたが、今の彼女たちでは足手まといになるだけだと、咲紀の忠告(というナイフによる脅し)によって今は彼女と“フラン”の戦闘を傍観していた。

 

 

「よくよく考えると、あの中に入ったら数秒も持たないわね」

「そうだな。今やってるのは“遊び”じゃない、本気の“殺し合い”だ」

「あれが本来の姿よ。人間と妖怪というより、化け物同士の戦いに近いわね」

「でも、それを楽しくしようとして考えたのがスペルカードルールじゃなかったのか」

「そうね。こんなんじゃスペルカールール考案者の名折れね」

「霊夢……」

 

 

霊夢にはいつもの覇気が無かった。魔理沙はその原因である者に目を向ける。

そこに横たわる少年、ユウキは眠るように目を閉じていた。彼の身体は大きく袈裟に斬り裂かれており、そこからおびただしいほどの量の血が流れ出ていた。

その傍ではレミリアとパチュリーが彼に向けて回復魔法を施しているが、目が覚める兆しはない。

 

 

「パチェ、容態は?」

「はっきり言って、最悪よ。見ての通り出血は酷い有様、普通なら死んでるわ」

「……ということは、まだ死んでいないのね」

「そうね、肉体的には彼はまだ死んでいない。けど、この身体には魂が宿っていないわ」

「魂だけどこかに飛ばされているとでもいうの? ありえないわ」

「レミィ、この幻想郷では常識囚われたらきりがないわよ。でも、危機的状況には変わりないわ」

 

 

そう言うパチェリーの顔はどこか悲しげだった。

数十年の付き合いであるレミリアでも、そんな親友を見るのは珍しかった。

たった数分間しか話さなかったこの少年に、彼女はどういう感情を抱いたのだろうか。

 

かくいうレミリアも、彼の事を少しばかり気に掛かっていた。

あの美鈴や咲夜を打ち破り、私の殺気にも動じずに突き進んだただの人間。その目的が夢で見た自分の妹が悲しんでいる理由が知りたい、ただそれだけの理由でここまでやってきた。

たかが人間風情が、なぜそこまでして他人を助けようとするのか彼女は知りたかった。

 

 

 

 

 

神無 悠月side

 

 

「また、ここに来ちまったな」

 

 

目が覚めた俺は周りを見渡して懐かしげに呟いた。

全てが白で統べられた奇妙な部屋。机も椅子も壁も天井も本棚も花瓶も、まるで子供用の色塗りの絵本の様な無機質な白に染められている。

白は清潔や純粋なイメージを思い浮かべるが、ここまで白で統一されると、逆に気が狂ってしまいそうになる。ある意味、牢獄より嫌な場所かもしれない。

 

そんな、常人なら気が狂いそうな部屋の真ん中で優雅に玉露を飲む女性の姿があった。

床まで伸び切った美しい黒髪のストレートに紅色の瞳、紅い着物に黒い羽織を着て、頭には月の模様が入った簪をさしている。なんだか穏やか雰囲気を持った女性だ。

女性は玉露を机に置くと、にっこりと笑いながら俺に手招きをする。

俺は彼女のところへ歩み寄ると対の位置にある椅子へと腰掛けた。

 

 

「元気そうで何よりだな、美月」

「ええ、お蔭様で。今じゃ前より幸せな時間を過ごせているわ」

「それは良かった。でないと、俺らが苦労した甲斐が無いからな」

「そうね。あの時の事は今でも感謝しきれないわ」

 

 

美月は懐かしむように瞳を閉じると席を立った。

 

 

「でも貴方は変わらないままね」

「どういう意味だ」

「貴方は本当にお人好しですね。赤の他人でもある吸血鬼の少女を助けてる為に命を懸ける」

「それの何が悪いっていうんだ」

「その行動には文句なんてないわ。でも、貴方が命を落とす事でたくさんの人が悲しみむのよ」

 

 

美月の言葉に、俺は何も言えなかった。

俺は何度も部活メンバーや他の人達の為に命を懸けた。死ぬと思ったことも何度かあった。

その度にみんなは俺を心配して、悲しんで、自己犠牲する俺の行動に怒ってくれた。

そう思うと、俺も部長に負けず劣らずの我が儘な性格をしているんだな。

 

 

「かつて貴方に聞きましたね。“死ぬのは怖くないのか?”と」

「そう言えば、そういうこともあったな」

「その答えは、今でも変わっていないのですか?」

 

 

美月は紅色の瞳を俺に向ける。

でも、俺の答えなんて、当の昔から決まっている。

俺は席を立つと答えを待つ彼女に向けて、言い放った。

 

 

「俺が死ぬよりも怖いのは、目の前で泣いている子を助けてやれなかった時だ。

 助けを求める声が聞こえるのに、助けようとした手が届くのに、それができなかった時の後悔は死ぬほど辛い。だからもう、あんな出来事は繰り返さないって心に決めんだよ」

 

 

俺はそう言いながら拳を握る。

 

 

「あの子もそうだ。長い間、一人であの部屋に閉じ込まられ、時が経っても心は幼い子供のまま。

 本当は誰かと遊びたい。そう思って遊んでも、幼いあの子は力を制御できずに殺してしまう。

 そこであの子の中に禍々しい狂気が生まれてしまい、挙句の果てに暴走してしまった。

 それを危険視したレミリアも、無暗に殺生をさせまいとあの地下室に幽閉したんだろうな。

 でも、弾幕ごっこをしている時のあの子の表情は、誰よりも純粋に楽しんでいた。

 その時に決心したよ。あの子を取り巻く狂気から救い出して、今度みんなと遊ぼうってな」

「けど、戻れば今度こそ、本当に死にますよ」

「だったら何度でも生き返ってやる。地獄の閻魔だろうが天界の神だろうが、俺には関係ない。

 あの子の笑顔を取り戻す為なら、俺は“もう一度”神に喧嘩を売ってやるぜ」

 

 

俺は口元をニヤッとさせると、美月はやれやれと言って溜息を吐いた。

美月は何処からか一本の刀を取り出すと、それを俺へと投げ渡した。

それが何なのかは聞かなくても分かる。“コイツ”は間違いなく、俺の“愛刀”だ。

 

 

「だったら、もう一度立ち上がりなさい。ユウキ」

「言われるまでもない。このまま嘘吐きで終わってたまるかよ」

「うふふ、それでこそ悠月ですね。出口はそこの扉ですよ」

「ありがとな、美月」

 

 

俺は後ろにあった扉に手を掛けて開く。

部屋を出て行くとき、美月の優しげな声が聞こえる。

 

 

「貴方になら使えるはずよ。今まで紡いできた“絆の力”を」

 

 

その時の美月の表情は、いつもの様に美しく、そして優しかった。

眩い光が俺を包むと、俺は意識を手放した。

 

 

 

少年祈祷中

 

 

 

「……真っ赤な天井だな」

 

 

俺が次に目を覚ますと、目の前には真っ赤に染まった目に悪い光景が広がっている。

視線を動かすとすぐ傍に目を見開いているパチュリーとレミリアが顔を覗かせている。

俺の声に気付いたのか、近くにいた霊夢と魔理沙が涙目になって駆け寄ってくる。

 

 

「レミリア、やっぱりお前のセンスは少し破滅的だな」

「目覚めてからの第一声がそれ!?」

「パチェリー、傷の手当て、ありがとな」

「例には及ばないわ。これで生きている貴方の方には、興味があるけどね」

「霊夢、無事で何よりだ」

「ばか、他人の心配より自分の心配しなさいよ」

「魔理沙、俺が倒れてからどうなった?」

「今は咲妃とフランが戦ってる。そんなことより、大丈夫なのかよ」

 

 

四人に伝える事だけ話し終わると、俺はフラフラと立ち上がった。

斬り裂かれた傷が痛むが、このくらいは我慢すれば何とか戦えるだろう。

 

 

「さて、続き続き」

「何言ってんのよ‼ その身体で戦えるわけないじゃない」

「そうだぜ。それに、ユウキが倒れてからアイツはおかしくなっちまうし」

「そうか、やっぱりそういうことだったか」

「何か気付いたのね、ユウキ」

「ああ、そうだな。レミリア、お前に一つだけ約束してやる」

「何?」

「あの子を、フランを救ってやる。そしたら、今度は姉としてあの子と遊んでやってくれ」

「それは……‼」

「それじゃあ、行くぜ」

 

 

俺は弾幕ごっこを繰り広げている二人とは逆の方、壁の傍で蹲って泣いているもう一人のフランの下へと歩いて行った。こうしてみると、この子もただの子供なのだと心の中で思う。

彼女の下にただり着くと、俺は膝をついて彼女に語り掛けた。

 

 

「なんで泣いているんだ」

「だって、一緒に遊んでくれるって約束してくれたのに、なのに……っ‼」

「ごめんな。俺が思ったよりも役者不足で、その所為でフランを悲しませてしまったな」

「ううん。お姉様が言ってた、私は狂気に憑りつかれてる。だから危険だって」

「もしも、君が狂気に呑まれるのが運命と云うのなら、俺がその運命をぶち殺してやる」

「でも“アイツ”が言うの、狂気に心を委ねろ、そうすれば楽になるって」

「ならば、君が抑えきれない狂気に心を委ねてしまったなら、俺が必ず受け止めてやる」

「それに、みんな私から離れていく。お母様も、お父様も、お姉様も、みんな…っ‼」

「それなら、君が孤独と絶望に押し潰されそうになった時は、俺がいつでも傍に居てやる」

 

 

俺はフランの帽子を外して頭を優しく撫でると、彼女は大粒の涙を流した。

495年、それは人間である俺には想像もできないくらいの遥か長い時間、それを目の前の少女はずっと独りで過ごしていた。押さえつけていた悲しみが、涙となって彼女から流れ出す。

 

 

「ごめん……なさい……お兄さん……ひぐっ」

「いいよ。こういう事には嫌と言うほど遭ってきたから」

「でも……私の所為で……お兄さんを壊しちゃった」

「なら、これが終わったら俺の所に来い。色々と教えてやる」

「え?」

「何が良くて何が悪いのか、それさえ分かれば案外世界も楽しく笑い飛ばせるぜ」

「お兄さん……」

「だからさ、今度は思い切り俺らと遊ぼうぜ。なあ、フラン?」

 

 

俺が微笑みかけると、フランは涙を拭いて笑ってくれた。

うん。女の子に涙は似合わない、それにやっぱり子供は笑顔が一番だからな。

 

俺は腰を上げると、とある方向に目を向けた。

そこには服がボロボロに破れ、片腕から血が流れている咲妃と、相も変わらず狂気的な笑顔を浮かべて彼女を見下ろす“フラン”の姿がそこにあった。

 

 

「フラン、約束だ。君をあの狂気から救ってやる。そしたら、みんなと一緒に遊ぼう」

「お兄さん、一体誰なの?」

「面倒事が嫌いなただの人間だ。憶えておけ」

 

 

俺はフードを深々と被ると、咲妃の下へと走った。

彼女は俺の存在に気が付くと口元をニヤッとさせ、安堵の息を吐いた。

 

 

「遅いですよ。まったく、いつまで待たせるんですか」

「悪いな。“知り合い”と世間話してたら遅れちまった」

「そうですか。なら、後は頼みますよ」

「おう、お前はゆっくり休んでな」

 

 

すれ違い様に互いにハイタッチする。

その時、彼女は清々しい表情を浮かべ、霊夢たちの下へと向かった。

 

 

「ところで、もう起きてんだろ月美」

『気付いていましたか』

「当たり前だろ。で、今まで何してた?」

『美月様のところで禊をさせてもらってました』

「なるほど。つまり“戦える”んだな」

『ええ、と言っても力は半分程度しか使えませんが』

「十分だ。俺とお前は“最強”だからな」

『そうですね。では見せてあげましょうか、神に喧嘩を売った無法者の力を』

「ああ」

 

 

俺はフードを被りなおすと、俺を見下ろしている“フラン”を睨みつける。

そこには初めて会った時の純粋な笑顔はなく、ただ狂気に染まった不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

「――しぶといネ、心臓を狙った筈なのニ」

「ああ、俺も改めて“この身体”に感謝するよ」

「――だったラ、もう一度壊してあげル」

「調子に乗るなよ、“堕ち神”」

 

 

俺が怒気を込めた声で言い放つと、“フラン”はニタッと笑った。

堕ち神は元々持ち主を失った刀が怨霊となった姿。それは何百年以上も前から存在している。もしかしたらフランが生まれた時から、“コイツ”は彼女の中にいたのかもしれない。

おそらく心の奥深くで待っていたのだろう、フランが分身するのを見計らい、その分身の身体をのっとって、今の“フラン”となっている。

その証拠に、“フラン”の瞳は血が濁ったような赤黒い色をしている。

 

 

「――流石は神無ノ御子だネ、あの一瞬で気付くなんテ」

「これでも観察眼だけは人一倍長けているんでな」

「――でも、どうするノ? もう“刀”も“スペルカ―ド”もないヨ?」

「そうだな。でも、こんな俺にも残ってるものはあるぜ」

 

 

俺はポケットから黒い指輪が結び付けられたネックレスを取り出した。

“フラン”が目を丸くして首を傾げると、俺は天高く指輪を放り投げた。

 

 

「行くぜ、月美」

『任せてください。久しぶりの真剣勝負、頑張りますよ』

「なら行くぜ――絆を紡げ、夢刀・月美‼」

 

 

落ちてきた指輪を手に取ると、眩い光を放ちながら一振りの刀へと変化した。

黒い鍔に月下美人の花が供えられた鞘、刀を抜くと逆に造られた刀身が現れた。

俺はそれを見ると、懐かしむように口元をニヤッとさせた。

 

 

「やっぱり、“お前”じゃないとだめだな」

『私も、主が“貴方”でないと落ち着きませんでした』

「――ウフフ、そうこなくちャ」

「俺には今まで紡いできた絆がある。それを最大限に活かすのが、俺の力」

 

 

俺は目を見開いて歓喜している“フラン”へと刀を向ける。

“フラン”も三日月のように口元をゆがめるとレーヴァテインを構えた。

 

 

「『こんなにも月が紅いんだ(です)』」

「――こんなにも月が美しいかラ」

「『目に物見せてやるぜ(やります)‼』」

「――殺してあげル‼」

 

 

そして、俺と“フラン”の延長戦が始まった。

 

 

 

 

 




空亡「ご都合主義、ベタですが好きなシチュエーションですね」
美羽「最初からそのつもりなら殺さないでくれるかしら?」
空亡「主人公が一度死んでパワーアップして生き返るのは王道ですよ」
美羽「それならもうちょっとひねりなさいよ。まったく」
空亡「そんなこと言って、本当はユウキが生きていて嬉しいのではありませんか?」
美羽「好みの殺され方は何かしら? 特別に聞いてあげるわよ」
空亡「あはは、美羽さんが怖いので今日はここで失礼させてもらいます。それでは」
美羽「待ちなさい、駄作者‼」
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