東方絆紡録   作:空亡之尊

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フランドール・Sは狂っているのか? 後編

神無 悠月side

 

 

「……やっぱり、楽しいな」

 

 

廊下に出た俺は迫り来る弾幕を避けながら楽しげに呟く。

さっきまでは切羽詰まりながら弾幕ごっこをしていたが、美月と会ってから心と体が軽くなった。

“フラン”の弾幕を恐れることなく避けられる。次にどんなのが来るのかと楽しみにしている。

そうだ。弾幕ごっこは“殺し合い”じゃない。みんなと楽しむための“遊び”だ。

今の俺ならできるはずだ。ここに来る途中に出会った奴等との“絆の力”を。

 

 

「さて、久々の真剣遊戯、楽しもうぜ」

「調子に乗らないデ――禁忌『恋の迷路』」

 

 

“フラン”がスペカを発動させると全方向に物凄い数の弾幕が放たれる。

そして迷路と名の付く通り、所々に抜け道の様なモノが時計回りに存在しているが、俺は目の前の弾幕を斬り払いながら前へと進む。しばらく経つと逆回転へと変わった。

その一瞬の隙をついて俺は思い切り踏み込む。

 

俺はホルダーから一枚の黒いスペカを取り出す。

そこには月を背に、両腕を広げて笑っているルーミアが描かれている。

 

 

「行くぜ‼ 月闇『ムーンライトステップ』」

 

 

スペカを発動し、廊下の床や壁、天井を蹴りなが飛び跳ねると、足が触れる度に真っ黒な弾幕と黄色い弾幕が撃ちだされ、“フラン”へと向かっていく。

壁や天井を飛び跳ねるスピードが上がるにつれて弾幕の量も増えていき、弾幕が視界を埋め尽くし避けきれなくなった“フラン”はあえなく被弾して奥の部屋と逃げ込んだ。

あとを追って入るとそこには、上空で不敵に笑う“フラン”の姿があった。

 

 

「――禁忌『カゴメカゴメ』」

 

 

“フラン”がそう言うと部屋の天井や床、壁から緑色の弾幕が放たれ、まるで檻を作るように俺の周りを囲んだ。“フラン”が大きな弾幕を放つと、囲んでいた弾幕を次々と崩して飛んでくる。

崩れた弾幕は崩壊するビルの瓦礫のように容赦なく落ちてくる。俺は次々とそれを避けいくと、再び緑の弾幕が籠目状に俺の周りを囲んでいく。

 

俺はホルダーから水色のスペカを取り出す。

そこには霧の湖を背に、偉そうに腕組をしているチルノが描かれている。

 

 

「だったら‼ 氷羽『アイスエンジェル』」

 

 

刀を振り払うと冷気を纏った風が部屋全体に広がり俺を囲んでいた弾幕を一瞬にして氷漬けにした。凍った弾幕の檻に小さなヒビが入るとそれは粉々に砕け散って消えた。

 

 

「これで三枚目」

「――まだまダ、禁忌『フォーオブアカインド』」

 

 

“フラン”は三人に分身するとそれぞれ別のスペカを構える。

本体であるフランがまだ健在である以上、いま出せる分身は“フラン”を入れて三人まで、これで四人も出されたら絶望的だったが、これなら希望の一筋ぐらいは視える。

 

 

「――禁弾『スターボウブレイク』」

「――禁弾『カタディオプトリック』」

「――禁弾『過去を刻む時計』」

 

 

三人の“フラン”は一斉にスペカを発動させる。

 

一人目の“フラン”は天井中に色鮮やかな弾幕を展開させると、“フラン”の号令で一斉に落ちてくる。それはまるで夜空の星が落ちてくる様にどこか似ていた。

 

二人目の“フラン”は大小様々な青い弾幕を俺に向かって放ったかと思うと、すぐ近くの壁に放ってその屈折反射でまるでボールのように弾幕が跳ね返ってくる。

 

三人目の“フラン”は全方向に赤い弾幕を放つと、俺の周りに十字レーザーを放つ球体が二つ出現し、それぞれ時計回りと反時計回りに回って俺へと迫ってくる。

 

 

『わわわ‼ こんなの卑怯ですよ‼』

「常識に囚われてたら勝ち目は無いな。だったら……‼」

 

 

俺はそれぞれの弾幕を見極めながら避けていくと、緑色と紫色の蒼色のスペカを取り出す。

一枚目には紅魔館を背に、仁王立ちで門を守っている美鈴が描かれている。

二枚目には時計盤を背に、銀のトレイとティーセットを持った咲夜が描かれている。

三枚目にはたくさんの本の中、物静かに本を読んでいるパチュリーが描かれている。

 

 

「まずは一枚目‼ 気功『昇龍降華』」

 

 

スペカを床にたたきつけると美鈴の弾幕に負けず劣らずの鮮やかな弾幕が展開された。そして刀を思い切り振り上げると弾幕は空をさかのぼるように飛んでいくが、単純な弾道に“フラン”たちは軽々とそれを避ける。

だが、俺はそれを見て口元をニヤッとさせる。

 

 

「かかったな‼ 時奇『静止するモノクロの弾幕』」

 

 

次にスペカを発動させると同時に指を鳴らすと懐中時計の音と共に“フラン”たちの弾幕が色を失くしたモノクロの状態で止まる。“フラン”たちその光景に目を見開いた次の一瞬、先ほど放たれた色鮮やかな弾幕が雨のように彼女たちへと降り注ぐ。

 

 

「最後の三枚目‼ 七曜『巡り巡る日月火水木金土』」

 

 

彼女たちが怯んだすきにスペカを発動すると部屋の周りに日月火水木金土をイメージした色の魔法陣が展開された。それは部屋中を駆け巡りながらそれぞれの色の弾幕を容赦なく放ち続ける。

“フラン”の分身が次々と消え去る中、本体は弾幕がその腕を掠って傷を負った。

 

“フラン”は部屋の壁を壊すと腕を押えながらエントランスへと飛んでいく。

急いであと追って辿り着くがそこには霊夢たち以外誰もいなかった。

 

 

「どういうことだ……?」

「ユウキ、後ろよ‼」

 

 

霊夢の叫びに反応して後ろを振り向くと三つの青い球が弾幕をまき散らしながら俺に迫ってきていた。咄嗟に刀を抜いてそれを受け止めると天井の方へと弾き返した。

“フラン”の姿を探すように周りを見渡すと、何処からともなく笑い声が聞こえる。

 

 

「――秘弾『そして誰もいなくなるのか?』」

「なるほど、U.N.オーエンの真似事か」

「――ウフフ、見つかるかナ?」

 

 

その声を合図に壁や床、天井一面に弾幕が展開され、徐々に中央へと狭まっていき戻ってくる。

最初は赤い弾幕、次に青い弾幕、交差する緑の弾幕、黄色の弾幕と、次々とパターンを変えて飛んでくる。本体を見つけようと辺りを見渡しても、どこにも“フラン”の姿はない。

いくらこれが耐久スペルでも、体力は俺の方がはるかに消耗している。このままでは…………。

 

 

「ユウキ‼」

「なんだ」

「あのステンドガラス、あそこにいるよ‼」

 

 

フランが指差した方には綺麗なステンドガラスが張らていた。

金髪の白いローブを着た女性、その背にはレミリアの羽根に似た翼とフランの羽根に似た翼が左右それぞれに生えており、その腕には二人の子供を抱えている。

フードを被っていて分かりにくいがその優しげな表情に俺は見覚えがあった。

 

 

「そういうことかよ……」

 

 

俺はふっと笑うと再びステンドガラスを見据える。

目を凝らしてみるとステンドガラスの近くに不自然な血の跡が付いている。それも壁についているわけではなく、その前の“透明な何か”を縁取るように血が流れている。

さっきのナイフで傷付けたところからの出血が未だに治っていなかったようだ。

 

俺はホルダーから紅いスペカを取り出す。

そこには紅い月を背に、大きく羽根を広げているレミリアが描かれている。

 

 

「捉えた‼ 紅夜『明けない夜の小夜曲』」

 

 

スペカを斬り裂くと俺の周りに紅い蝙蝠の形をした弾幕が浮かび上がり“フラン”がいるステンドグラスへと尾を引くように飛んでいく。蝙蝠の弾幕は彼女の傍まで行くとその場で無数の蝙蝠へと弾けた。

弾幕の攻撃に耐えきれなくなって姿を現した“フラン”は外へと出た。

 

外に出ると、頭上には紅い月が未だに闇夜を照らしていた。“フラン”は時計台の屋根に立って紅く染まる月を眺めていたが、俺に背を向けたまま話し始めた。

 

 

「――この霧はあの娘の狂気、私を倒さない限リ晴れなイ」

「なるほど、レミリアの霧に混じったフランの狂気はお前自身というわけか」

「――これで幻想郷についてテ、知ることが出来タ」

「なに?」

「――後ハ、待ツノミ」

 

 

“フラン”はそう言って振り返ると、その姿は真っ黒に染まりきっていた。

黒という色以外で確認できるのは、金髪のサイドポニーと血の様に濁った赤黒い瞳だけだ。

“フラン”の手には最後の一枚となったスペカが握られている。

 

 

「それで、この戦いも終わりか」

「――コレハ、アノ娘ガ姉ト遊ブ為ニ作ッタモノダ」

「そうか」

「――デキルナラ、ソノ願イ、叶エテアゲタカッタ」

「お前……」

「――サア、始メマショウ。最後ノ弾幕ゴッコ」

 

 

“フラン”はそう言って最後のスペカを構える。

さっきまで憎たらしく思っていた相手なのに、なんでこんなにも心が痛いのだろう。

 

 

「……いいぜ。せめて後悔が無いように葬ってやるよ」

「――アリガトウ。QED『495年の波紋』」

 

 

“フラン”がスペカを発動させると、全方向に弾幕が放たれた。しかし、その弾幕がある位置まで届くと綺麗に反射してこちらへと飛んでくる。それはまるで水面に広がる波紋のように広がっていき、沖に当たってそのまま跳ね返るように綺麗で美しい弾幕だった。

QED『495年の波紋』、QEDとはラテン語の略語で、意味は『証明終了』。これはフランの人生をそのまま詰め込んだような弾幕だ。それなら、俺も全力で迎え撃つのみ。

 

俺はホルダーからもう一枚の紅いスペカを取り出す。

そこには紅い月を背に、純粋に楽しげに笑っているフランが描かれている。

 

 

「最善策は視えた‼ 解放『七色の羽根の少女』」

 

 

スペカを発動させると、俺の周りに赤・青・黄・緑・紫・橙・藍、七つの宝石が現れた。

それぞれの宝石は“フラン”の周りへと飛ぶと、それぞれの色をしたレーザーを“フラン”に向けて放つ。“フラン”は避けて距離を置くが、七つの宝石は追尾するようにフランに張り付き、絶え間なくレーザーを放つ。

その間にも“フラン”は波紋の弾幕を放つペースを上げ、俺も避けるのが必死だった。

次の弾幕を避けた時、不意に足を滑らせた。咄嗟に前を向くと弾幕は俺の目の前へと迫っていた。

 

 

「――私ノ勝チ‼」

「それはどうかな?」

 

 

弾幕に飲み込まれる一瞬、俺は“フラン”に向けてニヤッと笑った。

その瞬間、七つの宝石が粉々に弾け、それぞれから全方向に無数のレーザーが放射される。

“フラン”が居るのは宝石の丁度ど真ん中、逃げ場などどこにもない。つまり……………。

 

 

「さっきの言葉、そのまま返してやる。―――俺の勝ちだ‼」

 

 

俺は弾幕を受けた後、何とか気力だけでその場に立ち尽くした。

“フラン”は無数のレーザーをその身に受けたためか、その身体は見るからにボロボロだった。

 

 

「――流石、神無ノ御子ネ」

「いや。俺だけの力じゃない、みんなの力だ」

「――ソウダッタ、神無ノ御子ハ、絆ヲ力トスル血族」

「ああ。だから、お前にも少なからず感謝している」

「――何デ、私ハアノ娘ヲ、傷付ケタノ二」

「そうだな。でも、お前がフランの狂気を押えてたんだろ?」

 

 

俺の問いかけに“フラン”は黙り込む。

“フラン”はもっと前からフランの中にいたはずなのに、なぜ今まで意識を乗っ取ろうとしなかったのか。狂気に蝕まれていたフランなら簡単にできたはずなのに、それが俺の疑問だった。

 

 

「教えてくれ、どうしてだ」

「――狂気二苦シメラレルアノ娘ヲ、放ッテオケナカッタ」

「なぜだ」

「――幼イアノ娘ニハ、荷ガ重スギルト思ッタカラヨ」

「お前は……」

「――アハハ、人ヲ恨ム怨霊ガ、聞イテ呆レルナ」

 

 

“フラン”は夜空の月を見上げながら自嘲気味に笑う。

人の性格がそれぞれ違うように“堕ち神”にも人を好きになる奴だっている。

元の世界ではそういう変わり者に何度も出会ってきた。“フラン”もその一人だ。

ふと空を見上げると、紅い霧が徐々に晴れていき夜空に煌く星々と金色に輝く満月が現れた。

それと同時に“フラン”の身体が徐々に薄れていく。それは“堕ち神”の死に様だ。

 

 

「――ヨウヤク、私モ仲間ノ下ヘ向カウノネ」

「“フラン”」

「――ソノ名デ呼バナイデ、私ハ“堕ち神”、哀レナ怨霊ヨ」

「そうかよ。達者でな」

「――ウフフ、噂通リ、今代ノ神無ノ御子ハ変ワリ者ネ」

「うるさい」

 

 

その時、消えゆく“フラン”の手を誰かが握った。

それは、誰よりも“フラン”と一緒に過ごしていた幼い少女の手だった。

 

 

「――フラン?」

「ありがとう」

「――何デ、謝ルノ?」

「孤独だった時にアナタが傍にいてくれたから、私は狂気に呑まれずに済んだ。

 寂しかった時に話し相手になってくれて、スペカの作り方も教えてくれた。

 それに、こうやって私を外に連れ出してくれた。だから、お礼が言いたくて」

「――ソレハ、フランノ勝手ナ解釈、私ハ自分ノ為二ヤッタ事」

「でも、そのお蔭で私はまたお姉様や皆のところに戻れた。本当にありがとう」

 

 

フランの涙が“フラン”の頬に落ちると、黒く染まっていた部分が徐々に剥がれていき、そこには嬉しそうに涙を流して微笑んでいる“フラン”の表情が見えた。

“フラン”はフランの手を取ると、ぎこちなく指切りをする。

 

 

「――ナラ、ソノ幸セヲ絶対二手放サナイデネ、約束」

「うん。約束するよ」

 

 

“フラン”は最期にニッコリと笑うと、光の粒子となって消え去った。

その場には子供の様に泣きじゃくる吸血鬼の少女と、月を見上げ涙を流す人間の姿しかなかった。

 

 

こうして、紅い霧の異変は静かに幕を閉じた。

 

 

 

 

 




空亡「これにて紅霧異変は無事解決……という雰囲気ではなさそうですね」
美羽「後味が悪過ぎよ。駄作者、どうにかしなさい」
空亡「まあ、この後の話はすでに決まっているんですよ。まだ先の話ですが」
美羽「ならいいわ。後味が悪い結末は読者的にも好ましくないでしょうしね」
空亡「この後は東方二次創作恒例の宴会ですし、張り切らせてもらいますよ」
美羽「私もこれで終れるわ。後は好きにやって頂戴ね。それじゃあ」
空亡「ア疲れ様です。それでは、僕の方もこれで」
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