神無 悠月side
「……見慣れた天井だな」
目を覚ました俺は怠さの残る声で呟いた。
俺が居たのは博麗神社のとある一室、だったが今では俺の寝床として使われている部屋だった。
身体を起こそうと動いてみるが、面白いくらい全身に力が入らない。今更になって気付いたが俺の身体中には包帯が巻かれ、特に右胸らへんが物凄く痛む。
あの時、“フラン”によって貫かれた傷が今更になって痛み始めたようだ。
「……どうしてこうなった」
「どうしたもこうしたもないわ」
そう言って襖を開けて入ってきたのは、いつも通りやる気のない霊夢だった。
よく見ると、その手には水の入った桶を持っている。どうやら身体を拭きに来てくれてたようだ。
「……とりあえず。おはよう、霊夢」
「こっちの苦労も知らずに、いつも通りなのね」
「……悪いが、状況説明を頼む」
霊夢は溜息を一つ吐くとこれまでの経緯を語った。
まず、あの後――“アイツ”との対決後――俺は糸が切れた人形のように倒れてしまい、何度呼びかけても起きる気配が無かったので急いでパチュリーの回復魔法で手当した。とりあえずそのまま博麗神社に戻ったものの、意識が戻ることが無かったようだ。つい昨日まで、俺の葬式をいつ挙げるかを本気で考えていたらしい。
「……つまり、このまま寝ていたら俺は今頃墓の中だったのか」
「まあ、その様子を見る限り心配する必要はなさそうね」
「ところで、俺は何日寝ていたんだ?」
「三日よ。その間、私の食卓には質素な物しか並ばなかったわ」
「あはは、すまなかったな」
俺は痛みを押えながら起き上ると霊夢の頭をそっと撫でた。
毎度のことで耐性が付いたのか、霊夢は溜息を吐いて俺の身体を見る。
「無理しないの。その傷、まだ治ってないのでしょ」
「いいんだよ、この程度の痛み」
「普通なら死んでるわよ」
「そうだな、俺の悪運は底知れずだからな」
俺は包帯の巻かれた身体に手を当てながらそう言った。
幸い、心臓からはずれていたため致命傷にはならなかった。まあ、普通はそれでも致命傷の筈だ。
「アンタって、本当に人間?」
「そこを尋ねられると困るが、簡潔に述べると“化物”だな」
「化物?」
「……悪いな、そのことについては後々話すから、今は聞かないでくれ」
「わかったわ…………とりあえず、撫でるのはやめなさい」
そう言って霊夢はジト目で俺の事を睨む。
しかし、そこにはいつもの鬼巫女(俺が名付けた)の威厳などなく、ただ子供が照れ隠しに怒っているようにしか見えない。傍から見れば仲良しな兄妹にも見えるのだろうか?
「……兄妹、か」
「どうしたの?」
「いや。それよりも、三日間も面倒見てくれてありがとな」
「アンタには日頃からお世話になってるから、これはそのお礼よ」
「そうか……………ありがとう」
「気にしないで。そんなことより、宴会やるわよ」
「急だなって、俺の所為で延期になってたのか」
「そうだけど、その様子なら大丈夫でしょ?」
「まあ、紅魔館組の方も気になるところだしな。もちろん出るさ」
「じゃあ、その時まで大人しくしてなさいよ」
「ああ」
そう言って霊夢は部屋を出て行った。
それを見送ると俺は再び布団に寝転がり、そのまま夢へと落ちていった。
少年祈祷中
「えーそれじゃあ、ユウキの復帰と遅れたけど異変解決を祝して、乾杯」
「「「「「「「「「「乾杯‼」」」」」」」」」」
霊夢の音頭により、ちょっと賑やかな宴会が始まりを告げた。
始まって早々、霊夢と魔理沙は異変解決に出掛ける前に話していた秘蔵の酒の事で無用な争いをしている。ちなみに、幻想郷には常識が無いので未成年でも普通に酒を呑んでいるらしい。今後からはあの二人の体調管理も気を付けないといけない。
境内を見渡すと、酔っ払って暴走しているチルノを大ちゃんが必死になって止めていた。その傍では俺が作った料理をおいしそうに頬張っているルーミアが居た。そういえば、ルーミアに友達がいるって聞いていたが、どうやらその友達とはあの二人のようだ。
視線を変えると、境内の地面にナイフに滅多刺しされた美鈴と頭に怒りマークが出ている咲夜が居た。咲紀の話だと、どうも美鈴は門番という役割に似合わず居眠りの常習犯らしく、いつも咲夜に見つかってはナイフをぶっ刺されてお仕置きされるという。妖怪でも、上下関係には弱いようだ。
その近く、場に似合わず物静かに本を読むパチェリーとワイングラス片手にレミリアが話し掛けていた。傍から見ると子供の自慢話を右から左へ聞き流している大人の図にしか見えない。精神面ならパチュリーが大人で、レミリアが子供だな。その傍にいた小悪魔もそれを見て微笑んでいる。
「賑やかだな」
『そうですね。でも、何だか楽しそうです』
「お気楽でいいな、お前は」
「あら、ホントはそう言ってみんなと混ざりたいんじゃないの?」
俺と月美が話していると、目の前にワイグラスを持った咲妃が現れた。
彼女はいつもの様にニコニコと笑うと俺の隣に座った。
「悪いが、俺は面倒事が嫌いなんだ」
「釣れないわね、それだから性格が枯れてるっていわれるのよ」
「知るか。これでもお前よりはマシな性格だと思っているんだけどな」
「ヒドイわね。それだから人に苦労させられるのよ」
「大きなお世話だよ。ったく」
彼女は悪戯に笑うとグラスを置いて話し始める。
「怪我の調子はどうなのかなって思っただけよ」
「お蔭様で、持ち前の悪運に助けられたよ」
「うふふ、悪運も使いどころでは奇跡も起こるのね」
『でも、あんまり無茶をしないでほしいです』
「それは無理だと思うわ。月美ちゃんもそれは分かるでしょ?」
『そうですね。ああ、これでまた私の胃に痛みが』
「おい、俺のを真似るんじゃねえ」
「仕方ないわよ。それだけ月美ちゃんに心配かけてるのも事実でしょ」
「それはそうだが……」
『これではユウキも部長と変わらないですよ』
「うるさい……」
俺は立ち上がると神社の奥へと歩いて行った。
去り際に咲妃が不敵に笑ったのが見えた。何やら嫌な予感がする。
少年移動中
「やっぱり、一人の方が落ち着くな」
神社の屋根の上、俺は夜空に浮かぶ月を眺めながら団子を頬張った。
怪しくも禍々しい紅色もいいが、やっぱり清らかで美しい金色の方が俺は好きだ。
境内の方からは賑やかで明るい声が聞こえる。一人寂しく月見をしている俺とは正反対だ。
昔からそうだ。俺は過去の忌まわしい記憶から逃げるように人の集まる場所を避けて生きてきた。それが祝いの場だろうと、俺はみんなの一歩後ろから眺めていた。
部長たちと出会ってから改善されたと思ってたのだが、どうやら世界が変わって再発したようだ。
「……結局、いつまでたっても俺は前に進めない臆病者か」
自嘲するように笑うと俯いて力なく呟いた。
いつの間にかスマホも無くなっている。もしかしたら咲妃が持っているのかもしれない。
しばらくしていると音が聞こえ、コップの中の水面に映った月が揺らめいた。
それはあのスペルカードを思い出させるような、綺麗な波紋だった。
音が響くにつれて、コップの中の波紋が絶え間なく広がり続ける。
そして、俺の耳にはあの羽根の音が聞こえた。
「これh「ユーウーキー‼‼‼‼」え………ッ‼」
声の主を確認する前に俺の背中に物凄い衝撃が走った。
俺の経験上、誰かが手加減なんでてきず勢いよく抱きついてきた、という類の衝撃だ。
それと、さっきの声を聴く限り、その犯人は容易に予想できる。
「よくここだって分かったな、フラン」
「さっき咲妃が教えてくれたの。ユウキはお月様が見えるところが好きだって」
そう言ってフランは抱きついたままニコッと笑う。
咲妃め、俺がフランを気に掛けている事をしてて教えやがったな。
「わー♪ 綺麗‼」
「今日は雲一つないからな、月見には絶好の夜だ」
「私、こんなにも綺麗なお月様見るの初めて」
「そうだったな、フランはずっと地下室に幽閉されてたんだっけか」
「うん。あの地下室には月の明かりだけだから、お月様自体を見た記憶はないと思う」
そう語るフランの瞳は、弾幕ごっこをしていた時よりも輝いていた。
495年、そんな果てしない時間を過ごしてきたとしても、心は幼い少女のまま。そんな少女にとって、こんな当たり前な景色でも純粋に心を躍らされるのだろう。
それを見ていると、幼い頃に家族と一緒に見たあの月夜を思い出す。
「ところで、レミリアたちと一緒に居なくてもいいのか?」
「お姉様に、ちゃんとユウキにお礼しなさいって言われたから、だから探してたの」
「なるほど。レミリアとの仲も良くなって安心したよ」
「あの異変の後ねお姉様と一緒に話したの、これまで私の心に抱えていたもの全部」
「…………………………」
「はじめはすごく不安だったけど、お姉様は一度も口を挟まずに聞いてくれた」
「…………………………」
「それでね、話し終わったらお姉様が私の頭撫でながら『ごめんなさい』って言ってた。
お姉様も、ずっと心の中に色々と抱え込んでたんだって、今頃になって気付いたの」
「……それから、レミリアとはどうなんだ?」
「うん‼ あれからお姉様と一緒に遊んだよ。トランプで遊んだり、絵本読んでもらったり、散歩に出掛けたり、でも弾幕ごっこはもうしばらく止めておきなさいって言われたの」
フランの羽根が元気をなくした様に垂れ下がった。
喜怒哀楽、それを素直に表に出せる彼女が少しだけ羨ましく思った。
「ねえ、ユウキ」
「なんだ」
「ありがとう。私を助けてくれて」
「気にするな。それに、俺も“アイツ”と同じだったからな」
「え?」
「目の前で泣いてる子を、見捨てることのできないお人好しだってことだよ」
そう言って俺は団子に手を伸ばしたが、そこには一本も残っていなかった。
おかしい、しばらくここで月見できるように二十本近くは確保していたはずだったのだが。
その時、俺は気付いた。境内の方からあの賑やかな声が聞こえていないことに。
「もしや……ッ‼」
「やっぱりこの団子は美味しいわね」
「だろ? あそこの甘味処の団子は天下一品だからな」
「美味しいー♪」
「ルーミア、どっちが多く食べれるか勝負よ‼」
「チルノちゃん、そんなに食べたら危ないよ~」
「説教の後の団子は痛み入りますね」
「それはアナタが怠慢なだけでしょ、中国」
「パチュリー様~、残りの本の運びが終わりました」
「こうやって大勢で月見をするのも案外悪ないかもしれませんね、お嬢様」
「その通りね咲夜。月を見ながらワインを飲むのも良いものね」
「無理矢理カリスマ引き出そうとしても無駄ですよ?」
『うふふ、まるで子供が背伸びしてるみたいで微笑ましいですね』
後ろを振り向くと、さっきまで境内で騒いでいたみんなが揃っていた。
その中で一人、心の中で計画通りなどと言ってそうなメイドと目が合った。
「咲妃、お前なにした」
「別に何もしてないわ。ただユウキが美味しい団子を独り占めしてるって教えただけよ」
「ったく、余計なことしやがって」
「うふふ、そう思うのはこれからよ」
「なに?」
次の瞬間、横から伸びてきた腕に首を掴まれて引き寄せられた。
そこには団子の串を咥えたまま不機嫌そうな顔をしている霊夢が居た。
「れ、霊夢?」
「なに宴会抜け出して一人で月見なんかしてるのよ」
「いや、その方が落ち着くから」
「まったく、この宴会はアンタの復帰を祝ってやってるのよ。その本人が居なくてどうするのよ」
「そうだぜ。あそこの三バカもお前の事ずっと探してたんだぜ」
「咲夜さんもアナタの料理が気に入ったらしく、説教中も視線を泳がせてましたからね」
「パチュリー様も同じです。本を読みながらも周りをちらちら見てましたから」
「そういえばお姉様も妙にそわそわしてたけど、どうなの?」
フランの問いかけに、残りのメンバーはこう答えた。
「私は異変の時にユウキを食べようとした事を謝ろうと思って///」
「あたいはもう一度弾幕ごっこで勝負しようと思っただけだよ」
「私はその、異変の事でお礼を言おうと思って」
「私は今後の料理の参考にしようと思っただけよ。他意は……ないわ///」
「私は、ただの気紛れ」
「わ、私はフランのことについて礼を言おうと思っただけよ。ホントよ///」
と、約二名を除いた四人の顔が若干赤くなったように見えたが、そんなことよりも俺を探している奴等がこんなにもいたとは少し意外だ。
「まあ、そんな感じでアンタを探してたらここに辿り着いたのよ」
「そうかよ。いいのか、下の方が広くていいだろうに」
「言ったでしょ、この宴会の主役はアンタよ。観念しなさい」
「霊夢は一度言ったことはなかなか曲げないからな、ここは大人しくしておく方が得策だぜ」
「そういう事だから、このまま月を続けさせてもらうわね」
「お嬢様はこう言ってますけど、どうします咲夜さん」
「愚問よ。今すぐ残りのワインを持ってくるわ」
「あ、私も手伝います~」
「お団子たくさん食べるわよ‼」
「わかった~」
「はうぅ、二人共危ないから気を付けてね」
「わーい‼ みんなと一緒にお月見だー」
「あらあら、それじゃあお団子の追加でも持ってきましょうかね」
『そうですね。宴会はここからですよー‼』
狭い屋根の上で、みんなそれぞれ団子を片手に騒ぎ出す。
これでは上に居ても下に居ても同じ、これなら境内で大人しくしておいた方がまだマシだった。
さっきまで一人で色々悩んでいたのに、いつの間にか周りに人が集まってきていつものバカ騒ぎ、
これでは避けていた俺の方が馬鹿馬鹿しくなってくる。
今までの悩みを吐き出すように溜息を吐くと右腕にフランが抱きついてきた。
「ん?」
「みんなユウキの事が大好きなんだね」
「そうみたいだな。まったく、とんでもない奴等に好かれたものだよ」
「そうだね。でも……」
その時、フランの唇が俺の頬に当たった。
周りの皆の動きが一時停止するが、フランはニコニコと笑いながら言う。
「私も、みんなに負けないくらいユウキの事が大好きだよ」
月明かりに照らされながら無邪気に笑う彼女は、誰よりも美しかった。
明星 美羽side
「またフラグを成立させたのね……」
私はハザマの中からユウキたちの宴会の様子をうかがっていた。
最初はユウキが一人なったところを見計らって襲おうと思ったのに、あの吸血鬼の妹ちゃんの所為で私の計画が崩れてしまった。ああ、彼の悪運が移ったのかもしれない。
それにつられるように他の奴等も集まってきて、もう私の入るスキマなんて無かった。
でも、ユウキが楽しそうにしてくれるならそれでもいいかもしれない。
「でも、まさか吸血鬼の妹ちゃんがユウキに頬キスとは」
なんとなくそういう気はしていたが、まさかこんなにも速くフラグが成立するとは思わなかった。
紅白巫女、スキマ妖怪、人喰い、メイド長、吸血鬼のお嬢さん、その妹ちゃん、この短期間でこんなにも乙女の心を落とすとは、いつもながら恐ろしいものである。
「ここは他の奴等が出てくる前に先手を……」
「美羽ちゃ~ん、待って~」
ハザマから出ようとする私を静止しようとする声の方を見る。
そこには蒼い髪にサファイアの瞳のロングスカートのメイド服を着た少女だった。
少女は目を><にしながら走って来るが、何もない所に躓いて顔から倒れた。
「うぅ……痛いですぅ」
「なにしてるのよ、マリィ」
「だって、美羽ちゃんが勝手にユウキ君のところに行こうとするからぁ」
「それこそ私の勝手よ。これ以上ユウキの恋人を増やさないためにも、私がアイツらを」
「ちなみに、美命様から『勝手に幻想郷の住人に手を出さないで下さいね』と手紙が」
「そんなこと知ったことではないわ‼」
「あ、最後に何か書いてあります。『命令違反の“剣”は即刻惨殺処刑でおk?』と」
「……ちっ」
私はハザマの裂け目を閉じると近くに置いてある椅子へと腰掛けた。
小さな丸テーブルの上にはマリィが淹れてくれた紅茶が置いてあったので私はそれを飲んだ。
「で、他の連中が何してるか分かった?」
「はい。楓恋ちゃんが動いたみたいです。後の方まだ報告されていません」
「楓恋か……また面倒な奴が先に動いたのね」
「あの~、またってことは私も面倒な奴に入るのでしょうか?」
「当り前でしょ、逆にアンタ以上に面倒な奴はいないわよ」
「そ、そんなぁ……」
マリィはガクッと膝を落として床に座り込んだ。
曲者揃いの生徒会に入っている時点で面倒な奴は決定なのだから、現実を受け止めなさい。
「さて、ユウキの方も刀と絆を手に入れたし、咲妃とも合流完了。ここまでは順調ね」
「くすん……でも、なんでメア……咲妃ちゃんまで幻想郷に?」
「役者をそろえる為だそうよ、まあ私はあまり理解したくないけどね」
「また、“戦争”でも始めるのでしょうか」
「分からないわ。私はそうならない事を願うだけよ」
私は紅茶をテーブルに置くと上を見上げた。
美命様は役者を揃えると言った。なら、その役者が出演する舞台はいったい何なのだろうか?
空亡「やった。第一章完‼」
美羽「アンタ、それやりたかっただけでしょ」
空亡「それはさておき。やっとここまで戻ってきた気分ですね」
美羽「あ~そう言えば前回はここまでで話が終わっていたのよね」
空亡「ネタ不足で終ったのが少し悲しかったですね」
美羽「メタい話、今はどこまで進んでいるのよ」
空亡「…………妖々夢のstage3です」
美羽「駄作者、四月が終わるまでに完結させなさい。いいわね?」
空亡「はい。……皆様、一ヶ月もの時間をいただいくせに話が進んでなくてすみませんでした」
美羽「ったく。でもまあ、やっとこれで休めるわ」
空亡「妖々夢の時もよろしくお願いしますね。……さて、続き続き」