日向ぼっこと世間話
神無 悠月side
「平和だな……」
俺は賽銭箱の前でお茶をすすりながらそう呟いた。
紅霧異変から文一週間が過ぎ、徐々に胸の傷も治りかけてきた今日この頃。俺はいつもの様に平和な日常を存分に謳歌していた。
俺の手元のスマホの中にいる月美はアプリのイスに座ってのんびりとしている。
「そういえば、お前今まで美月と何してたんだ?」
『あれ、あの時言いませんでしたっけ。禊をしてもらって』
「それは分かってる。その他に何してたのか気になっただけだ」
『美月様のところでしばらく間花嫁修業をしていました』
「そうか……って花嫁修業?」
『はい。将来ユウキに劣らぬように、私も家事手伝いを頑張りたいですから』
「その前に実体化できるようにならないとな」
俺はそういうと傍に置いていた団子を頬張った。
二年前前までは月美も普通の人間に実体化が出来たのだが、ある日を境にそれができなくなってしまい、現在は俺のスマホの中でしか存在することができない。
今は武器形態である『夢刀・月美』になれるのだが、なぜか人間にはなれないようだ。
その代り、ネットワーク中のアプリを使用できるのであまり不便とは思っていないらしい。
『むぅ……私もユウキと一緒にお団子食べたいです』
「我慢しろ。刀になれたんだ、そのうち人間にもなれるさ」
『本当ですか?』
「根拠はないがな」
『そんなー』
そう言って月美が嘆くとそれに伴うようにアホ毛も垂れ下がった。
余談だが、月美のアホ毛はなぜか感情で動くようで、悲しい時は今の様に垂れ下がり、嬉しい時は左右に揺れ、驚いた時は真っ直ぐに伸びる。見ていて飽きないから面白い。
『しかし、運命とは面白いものですね』
「いきなりどうした?」
『いえ、昔の様にまたこうしてユウキと一緒に戦えるのが少し嬉しくて』
「俺は平和に過ごしたいんだけどな」
『そう言って、悠月は素直じゃありませんね』
「うるさい」
誤魔化すようにもう一本の団子を撮ろうとした時、何処からか現れた手に横取りされてしまった。
なぜだろう、最近誰かに横取りされるのが日課になってきてるような気がする。
そんな事はどうでもいい。俺はその手の先の人物を睨みつける。
「霊夢、俺の団子を盗るな」
「この神社の主に盗るとはヒドイ物言いね」
そう言って霊夢は団子を躊躇なく口に入れた。
「俺の数少ない安らぎを邪魔するなよ」
「いいじゃない。一人で寂しく食べるより二人の方が少しは美味しいと思うわよ」
『失礼ですね、私もいますから三人ですよ』
「ごめんなさい。そうだったわね、三人の方がもっと美味しいわよ」
『そうです。一人は寂しいですよユウキ』
「ったく、二対一じゃ勝ち目無いな」
「ふふふ、タイマンでも負ける気はしないけどね」
霊夢はそう言うと俺の隣に座ってもう一本の団子を食べ始めた。
たしかに、霊夢のマイペースさには俺に勝てる要素が無いのは事実だ。ここは大人しく従っておく方が得策だろう。
「そういえば、アンタの式神って少し変わってるわね」
「ああ、変わってるな」
『なぜでしょう。霊夢さんとユウキの言葉に相違点があるような気がします』
「そうか? 俺から見ても変わってると思うぞ。性格が」
『やっぱりですか‼』
「え? それ以外に何があるんだよ」
『ひ、ヒドイです。霊夢さんからも何か言ってくださいよ』
「確かに、変わってるわよね。性格が」
『霊夢さんまでーーー‼』
そう言い残すと月美はスマホの奥へと消えていった。
少し可哀想だと思ったが、まあ月美なら一時間も経たずに復活するから大丈夫だろう。
しかし、普段から部長に振り回されていた分、こうやって人を弄っていると気が楽になる。
「アンタも溜まってるのね」
「霊夢こそ、魔理沙や紫の相手してて溜まってたんだろ?」
「そうね。最近では紅魔館や妖精共の相手をさせられて大変よ」
「お互い苦労が絶えないな」
「同感ね」
霊夢は最後の一本を食べ終えると、賽銭箱の前で寝転がった。
「食ってすぐ寝たら太るぞー」
「女性に対して太るは禁句よ」
「知るか。グータラしてたら将来ロクな人間にならないぞ」
「この幻想郷でロクじゃない奴なんているのかしら?」
「……それもそうだな」
残った団子を頬張ろうとした時、微かに妖力の気配がした。
視線を向けるとそこには二本の尻尾をユラユラと揺らしている黒猫が居た。
たしか猫又という妖獣で、二本の尻尾が特徴的な化け猫だったと思う。
その黒猫は俺の方へと歩いてくると膝へと飛び乗ってにゃ~と鳴いたくと丸まった。
それを見た霊夢は警戒しているようなやる気のない目をしてその黒猫を見ていた。
「アンタ、少しは警戒ぐらいしなさいよ」
「大丈夫だって。この子、ただ散歩してただけみたいだから」
「なんでそんなことが分かるのよ」
「さあ、ただの勘だ」
「なるほどね。まあ、悪さしないなら何もしないわよ」
「優しいんだな」
「それ以上言うと夢想封印くらわすわよ」
「おお、怖い怖い」
微量に殺気を孕ませた睨みから目を逸らすと団子を頬張った。
寝入った黒猫を俺の隣に降ろすと霊夢と並ぶように寝転がった。
「あら、食ってすぐ寝たら太るんじゃなかったの?」
「俺はいいんだよ。これからその分は運動して打ち消すからな」
「なら私も同じね。多分、もうそろそろ魔理沙が来ると思うから」
「仲が良くて何よりだな」
「ただの腐れ縁よ。ユウキにだっているでしょ?」
「そうだな。確かにいるな、二桁ほど」
自由奔放すぎる部長、マイペースな咲妃、のほほんとしている椿希、軽度の戦闘狂の柊妓、素直クールなハッカーの光輝、そして腐れ縁である星哉とその他のメンバー。それに加えてこの幻想郷でも、今後苦労しそうな奴が増える予感がする。
ああ、改めて思い返すと、俺の周りにまともな奴って指で数えるほどしかいないのか?
そう思うと、なぜか今までの疲労が一気に押しかけてきたように感じた。
「俺の人生って一体……」
「アンタも色々と大変ね」
「いいさ。どうせ俺は誰かに振り回される人生を送るだけだ。ははっ」
「まあ、その……頑張りなさい」
「ありがとう、少し静かにさせてくれ」
そう言って俺は現実逃避するように静かに目を閉じた。
その後、霊夢と魔理沙の弾幕ごっこで安眠妨害されたのは言うまでもないだろう。
???side
「暇ね」
「いきなりどうしたの美羽ちゃん」
「あのスキマ妖怪から誰とも戦ってなから暇なのよ」
「あら、それでは久々に私がお相手いたしましょうか?」
「いいわよ。その口調になると本気で掛かられるからパス」
「あら~残念です。私も準備運動には最適かと思ったのに」
「私相手に準備運動? 随分となめた口を利くようになったわね」
「あら、それではこの場で証明しては視ませんこと?」
「上等よ。その安っぽい挑発受けてあげるから感謝しなさい」
「そちらこそ、下剋上という言葉の重みを思い知らせて差し上げますわよ」
「相変わらず、こちらの方は平和ですね~」
悠月「やっと投稿か、思ったよりも遅かったな」
空亡「いや~空いた時間で書いていたら疲労と眠気に襲われまして」
悠月「まあ、月初めからならキリも良いし、別に咎めるつもりはねえよ」
空亡「今日のユウキは優しいですね。どうしました?」
悠月「いや、この作品で初めてまともな話だったから嬉しくて」
空亡「その嬉しさも近いうちにキュッとしてドカーンとされちゃいますよ」
悠月「え?」
空亡「というわけで、今回からしばらく『非日常編』をお楽しみください」
悠月「おい、非日常ってどう意味だよ‼」