神無 悠月side
「……紅いな」
目の前にそびえ立つ紅魔館を見て俺は当たり前な事を呟いた。
今日はここの図書館にある本を借りに来たのだが、相変わらず目の保養に悪い配色をした館だなと改めて思った。
背景の青空とこの上なく合っていないのもあるのか、何故か目が痛くなる。
ふとスマホの方を見ると、珍しく怪訝そうな表情を浮かべている月美の姿があった。
「大丈夫か?」
『悪い意味ではありませんが、直視したくありませんね』
「そうだな。今日は大人しく奥に潜んでおいた方が良いな」
『そうさせてもらいますね……』
そう言い残すと月美は力なく奥へと消えていった。
月美は赤い物、特に血のような色には酷い嫌悪感を抱いてしま事があり、その所為かいつもの元気もなくなってしまう。ある意味、この場所は月美には相性が悪いのかもな。
とりあえず早く用事を済ませようと門を潜ろうとした時、あることに気付いた。
門番であるはずの美鈴が壁に寄り掛かったまま微動だにしない。
異変の時は真っ先に攻撃してきたはずなのに、よく見ると彼女は寝息を立てながら静かに寝ていた。職務怠慢という言葉は彼女の為にあるのだと思った。
でも、それはそれで俺の事を信頼していると思っていいのか。それとも、ただのサボり魔かのどっちかだろうな。
「居眠りはほどほどにな」
「ホントよね」
いつの間にか隣に立っていた咲夜はやれやれと頬杖した。
「いきなり現れるなよ、咲夜」
「あら失礼、職務放棄してる門番を叱りに来ただけよ」
「ほどほどにな」
「善処するわ。それじゃあ……」
咲夜は手品のようにナイフを取り出すと寝ている美鈴に向けてナイフを投擲した。
それはものの見事に美鈴の額に直撃し、「ふにゃっ‼」と声を上げながら倒れた。
さすが完全瀟洒なメイド、狙いが正確だ。
「お見事(パチパチパチ)」
「咲妃さんに教わったもの、このくらい当然よ」
「もしかしてアイツとは前から知り合いか?」
「ええ、ナイフの使い方はあの人さんに教わったものだから」
「どおりで見たことあるような気がしたわけだ」
そういえば昔、咲妃がイギリスにいた頃にナイフの使い方を教えてやった女の子がいるって話を聴いたことがあるが、まさか咲夜だったとは驚きだ。
しばらくすると、美鈴が額から血を流しながら起き上がった。流石妖怪、あの程度では死なないのか。
「な、なにするんですか~咲夜さん」
「貴女、お客様が来ているのに居眠りとはいい度胸ね」
「え、あ、悠月さん」
「よう、ぐっすり眠れたか?」
「はいそれは……」
「ほう」
「って、冗談ですからそのダース単位のナイフを構えないで下さい」
「まったく、貴女はいつもいつも……」
「はぅ……」
この光景を見ていると、子供が親に叱れているようにか見えないが、実際は妖怪である美鈴の方が年上で人間の咲夜は年下の筈だ。これが職場の上下関係というものなのだろう。
「まあまあ、咲夜もそれくらいにしておいてやれよ」
「ユウキ、美鈴が今日で居眠りした回数を知っているのかしら?」
「いや。けど、そこまで多くないはずだろ? な?」
「うっ……は、はい」
俺が目の前に立っている美鈴にそう尋ねると彼女はバツの悪そうな顔をして目を逸らした。それを咲夜はジト目で睨んで追加のナイフを構えている。これは一度や二度で済んでいる話ではないことを察した俺は彼女から目を離す。
「で、結局何回なんだ?」
「十回目以降からそこまで数えてないわね」
「……美鈴」
「そのダメな大人を見る目はやめてください。流石に心に来ます」
「それが分かっているのならもう少し努力してもらえるかしら?」
「あはは……そのつもりなんですが、やることがないと退屈で」
「あーなんとなくわかr「(ギロッ)」が、美鈴も悪いな」
「ええ!?」
美鈴は裏切れたかのような悲しげな表情で地面に手をついた。
彼女の意見に肯定しようとしたが、隣にいた咲夜の睨みに俺の心のうちの本能が囁き、一瞬で意見を変えた。今まで女性の恐ろしさを見てきた故に身に付いたスキルの一つだ。
「と、とりあえず、俺は図書館に向かうから後は頑張って」
「ま、待ってください。ユウキさん‼」
「あら美鈴、お客様を門前で立ち話させるなんて失礼よ」
「そ、それもそうですが……」
「そういうだから。あと、美鈴」
「なんですか?」
「…………骨は拾っといてやるから安心しろよ」
「不吉な事を言い残さないで下さいよ‼」
「さあ、お客様もいなくなったことだし、続きを始めるわよ」
「え、ちょ、咲夜さん? そのナイフの数はあんまりだと……」
「問答無用よ‼ 幻世『ザ・ワールド』」
俺が立ち去った後、後ろの方で美鈴の断末魔が聞こえたが俺は気にせず先へと進んだ。
一瞬だけ「ピチューン」という機械音が聞こえた気がしたが、何だったのだろうか?
少年移動中
「お邪魔しまーす」
「こあぁぁぁぁぁ‼‼‼‼‼」
そう言いながら図書館の扉を開けると、まず目に見えたのは弾幕を必死に避けている小悪魔だった。うん、初っ端から面倒なことになってるな。
弾幕が放たれる所を見ると、魔方陣が浮かび上がった本から撃ちだされていた。
「おーい小悪魔、大丈夫かー?」
「あ、悠月さん、こんにちは」
「一体どうした」
「実は、っと、さっき魔理沙さんが来て本を盗んでいったんです」
「アイツ、まだやってたのか」
「ええ、それで迎撃用の魔法陣も発動したんですが……」
「そのまま放置されていると」
「ご察しの通りです、うわっ」
容赦なく降り注ぐ弾幕の中を小悪魔は器用に避けていく。
この図書館の司書をやってるだけあってか、ちゃんと弾道も覚えているようだ。
「手伝ってやるか。月美、やるぞ」
『はい‼ ここなら紅いものも少ないですから大丈夫です』
「いくぜ――絆を紡げ、夢刀・月美」
刀を手に取ると弾幕を斬り払いながら突き進む。
次の弾幕を避けると俺は踏み込んで跳んだ。高さが足りなかったので避けていた小悪魔の頭を踏み台にして更に跳んだ。
「こあっ」
「一気に行く。斬符『桜舞』」
一度刀を鞘に納めると、次の瞬間に素早く抜刀すると同時に桜色の斬撃が飛んでいた本を次々と斬り裂いていった。
地面に着地すると、床に倒れ込んでいた小悪魔が恨めしそうに俺を睨んでいる。
「ひどいです、踏み台にするなんて」
「ごめん。高さを見誤ってな、つい」
「ついで人の頭を踏まないで下さいよ~」
「だからごめんって言ってるだろ」
俺はそう言って小悪魔の頭を優しく撫でてた。
小悪魔は恥ずかしそうに顔を俯かせているが、背中から生えた羽根は嬉しそうにパタパタと羽ばたいている。なるほど、羽根も犬の尻尾のように感情が読みやすいようだ。
「こあ~」
「う~ん」
『どうかしたんですか?』
「いつまで小悪魔じゃ、なんか可哀想だなと思ってさ」
「そ、そうでしょうか? 私は今まで名前なんて無かったので気にしませんでしたが」
『なら愛称でも付けてあげては? 大ちゃんみたいな』
「そうだな…………じゃあ、『こぁ』で」
「こぁ、ですか?」
『なんともシンプルですね』
「変に気取った名前よりはマシだろ?」
「こぁ……こぁ……♪」
『どうやら気に入ったそうですね』
「良かった。それじゃ、俺はここで」
「はい、ありがとうごまいました」
こぁは立ち上がると礼儀良く頭を下げた。
俺は軽く手を振ると目的の本を探しに本棚の奥へと歩いて行った。
悠月「今回は紅魔館か」
空亡「紅魔館組は人数が多いのでに分割させてもらいます」
悠月「それにしても、美鈴が不憫すぎる気が」
空亡「他のところでは殺人ドールなんて放ってる話もありましたよ」
悠月「容赦ねえな。まあ、妖怪だから死ぬことは無いと思うが」
空亡「それでもピチュったらただでは済まないですね」
悠月「そういえば、小悪魔の事をこぁって呼ぶのは安直すぎないか?」
空亡「いいじゃないですか。大妖精の事も大ちゃんって呼んでるのと同じですよ」
悠月「お前に質問した俺がバカだった……」