神無 悠月side
「……広いな」
俺は両脇に並ぶ本棚を眺めながら歩いていた。
あれから小一時間、図書館中を探し回っているのだが目的の本が未だに見つからない。
見つかるのは俺とは縁もゆかりもない魔導書やら忘れ去られて幻想入りした書籍など、俺には関係のないものばかりだ。
ここはパチュリーに聞いた方が得策だろうが、探してる本の内容を知られるとからかわれる可能性があるので無理。こぁはさっき別れたばかりだから聞きにくい。つまり消去法で自分で探すことになるわけだ。
「ここは……推理小説の類か」
『金田一京助、シャーロックホームズ、ポワロ、有名なのばかりですね』
「ああ、それに保存状態が良い。売ったら一冊数万円はしそうだな」
『ユウキ、持っていったらダメですよ?』
「分かってる。まあ持って行ったとしても、売れる場所が無いから無意味だけどな」
『それもそうですね。では、探索の続きでもしましょうか』
「はあ、次はあそこか」
本棚の角を曲がると、イスに座って読書をしているパチュリーの姿があった。
「よう、パチュリー」
「さっきは小悪魔が世話になったみたいね」
「知ってたのなら助けてやれよ」
「咎めるのは私じゃなくて、窃盗を働いた白黒じゃなくて?」
『理に適ってますね』
「まあ、魔理沙の方は後で叱るとして、俺は用事があるから」
「ちょっと待ちなさい」
俺はそう言い残してその場を去ろうとしたその時、パチュリーに呼び止められた。
彼女は本を机の上に置くと、俺にジト目を向けた。
「何を急いでいるのかしら?」
「別に急いでないぜ。ただ本を探しに行こうとしてるだけだ」
「あら、じゃあその本がどんなのか教えてもらえないかしら?」
「なんでわざわざ教えなきゃいけないんだよ」
「この図書館は紅魔館の一角である前に私の所有物よ。よって、ここの本も私の物」
「何が言いたいんだ?」
彼女は面白がるように悪戯な笑みを浮かべるとこう言った。
「どこの棚にどの本があるかぐらいは把握していて当然。ここまで言えば分かるかしら」
「とどのつまり、探すのを手伝ってやるってか? だったらここで断っ」
「ああ、それと、借りる時は持ち主に許可をもらうのが常識よ」
「ったく、こういう時だけまともな常識を通らせるなよ」
『ユウキ、これは逃げられそうにありませんよ』
「仕方ないな。教えてやるからには笑うなよ」
「わかったわよ。で、何の本なのよ」
内容次第ではすぐ笑いそうな雰囲気で尋ねてくる彼女に、俺は本の題名を言った。
「『独りぼっちの神様』っていう古い小説だ」
「へえ、懐かしいわね。でもそれって確か……」
「ああ、ちょっとした恋愛小説みたいなもんだよ。悪いか?」
「いえ、ただあの本を好きになるなんて貴方も相当の物好きね」
「……ある意味では、俺の起源だからな」
「そう。あの本ならあっちの本棚にあったと思うわ」
「そうか、ありがとな」
俺はお礼を述べると、彼女が指差した方向へと向かった。
少年祈祷中
「確かここだったよな……」
『ええ、それにしても本が多いですね』
「そうだな。しかも、幻想入りした漫画本まであったし」
『あれは所謂レアものってやつですね』
「要らないモノなら欲しいくらいだ。生活費の為に」
『さすが守銭奴ですね』
俺と月美がそんな会話をしていると、ある本棚に目的の本を見つけた。
手に取ってみると、表紙にはあの題名の下に八本の刀と一人の男が描かれている。
「あったな……」
『さすがパチュリーさんですね』
「ホントだな。伊達に図書館に引きこもってないな」
『それは褒め言葉なのか、それとも悪口なのかわかりませんよ』
「俺なりの褒め言葉だよ。それにしても……」
『どうしたんですか?』
「いや、あれ」
俺は本棚の先の人影を指さした。
そこには本棚の陰に隠れているレミリアが居た。しかし、その場で頭を抱えるようにしゃがんでいるその姿には、初めて会ったような紅魔館の主の威厳は全くなかった。
取り敢えず俺はスマホのカメラ機能を起動させると、迷いなくシャッターを押した。
その音に驚いたのか、レミリアの身体がビクッと揺れると恐る恐る顔を上げた。
「ゆ、ユウキ‼ 何でこんな所に」
「レミリアこそ、こんな所で何してるんだ?」
「か、隠れんぼよ。フランと遊んでいて、今はフランが鬼なのよ」
レミリアは恥ずかしそうに頬を紅く染めて目を逸らした。
ついこの間まで疎遠だったのに、今では仲良く隠れんぼか。
あの日の夜、俺がやってのけたことが無駄じゃなかってのが改めて実感できた。
「そうか。仲睦まじいな」
『シャッターを押すまでの動作に無駄がありませんでしたね』
「当然だ。こんな貴重な一瞬、取り逃すのはあまりにも惜しかったからな」
「ちょっと、まさかさっきの音ってカメラじゃないでしょうね?」
「無論、その通りだが」
「消しなさい‼ 今すぐ消しなさい‼ 刹那に消しなさい‼」
レミリアは血相を変えて俺に詰め寄って来るが、なんか可愛いと思っている俺が居た。
しばらくからかって遊んでいると、元気のいい足音と共に俺の背中に凄まじい衝撃が走った。完全に不意を突かれた俺は前のめりに飛ばされた。
地面を滑るようにして倒れた俺は頭だけを動かして背中に抱き着いている少女を見た。
「こんにちは、ユウキ‼」
「こ……こんにちは……フラン……どうしたんだ……いきなり抱きついて来て」
「お姉様を探してたらパチュリーがね、ユウキが来てるって教えてくれたの。だから嬉しくて。あ、そうだ、お姉様見つけたから、私の勝ちだね」
「ええ、そうね。あとフラン、貴女が抱きついてたらユウキが起き上がれないでしょ?」
「あ、そうだね」
フランが俺から離れると、腕を震わせながら起き上がった。
ルーミアといいフランといい、なぜは俺はこうも子供から無邪気なダイレクトアタックを受けるのだろう。このままでは俺の身体が先に音をあげそうだ。
「ユウキ、大丈夫?」
「フラン、貴女は力が強いんだからもう少し手加減しなさい」
「はい。ごめんなさい、ユウキ」
「気にするな。身体斬られても生きてた男だ、このくらい平気だぜ」
『強がらないで下さいよ。顔が引きつってますよ』
「お前は少し口を閉じていてくれないか?」
『まったく、子供相手には性格が一変しますね。まあ、そこも好きですけどね』
「こらそこ、イチャイチャしない」
「イチャイチャはしてないだろ。なんだ、構って欲しいのか?」
「そ、そんなことないわよ‼ 私はただ……」
「はいはい。それじゃあ、俺はここで失礼するよ」
俺は立ち上がってその場を去ろうとするが、手元にあの本が無いことに気付いた。
周りを見渡すとそれはレミリアの足元に落ちていた。彼女はそれに気付くと不思議そうに本を拾い上げた。
「この本は……」
「それ何の本なの?」
「『独りぼっちの神様』っていう小説だ。内容は恋愛ものに近いけどな」
「読んだことあるの?」
「ああ、それも数え切れないくらいな」
「でもこの内容って確か……」
「知ってるさ。でも、どうしても忘れられないんだよ」
「ねえねえ、私にも読ませて」
「まだフランには早いよ」
俺はフランの頭を撫でるとレミリアから本を取った。
その本をな懐かしむように見つめていると、レミリアは呆れたように溜息を吐いた。
「貴方って、変わってるわね」
「よく言われるからな。もう気にはしないさ」
「もう帰っちゃうの?」
「そうだな。久しぶりに紅魔館にも来たし、少しは遊んでいくか」
「わーい‼ それじゃ、次は三人で鬼ごっこしようよ、私が鬼ね」
「鬼ごっこか、いいぜ」
「私も少しは体を動かしたいと思ってたところだし、丁度いいわね」
「それじゃあ、私が数えるから月輝とお姉様は逃げてね」
フランはそういうと目を瞑って数え始めた。
「さてと、じゃあ早いところ逃げますか」
「ふふふ、この私についてこられるかしら?」
「ほざけ、その前に追い越されんじゃねえぞ?」
「臨むところよ。誇り高き吸血鬼をなめない事ね」
『お二人共、まるで子供みたいですね』
俺とレミリアは対抗心を燃やしながら互いに走り始めた。
たまにはこうして遊ぶのも悪くないかもしれない。
その後、なぜかレミリアとの弾幕ごっこへと発展して大変だった。
悠月「今回も大変だったぜ。はあ~」
空亡「お疲れ様です。どうでした、レミリアとの弾幕ごっこ」
悠月「ネーミングセンスが破滅的だった。以上」
空亡「まあ、案外自分が考えた必殺技ってそんなものですよ」
悠月「んなことより、この本についての説明しなくていいのか?」
空亡「そうですね。『独りぼっちの神様』というのは簡単に言えば昔の恋愛小説です」
悠月「おい‼」
空亡「ですが、その内容はあまりにも悲劇的な表現が多く記載されています」
悠月「フランに行った通り、子供が見るような内容じゃないよな」
空亡「これは本編には関係ありませんが、神無家の過去に由来しています」
悠月「詳しくは自作の小説ができた時にってか?」
空亡「さあ、どうでしょうね?」