神無 悠月side
「やっと着いたぜ」
俺は目の前にある石造りの階段を眺めながら呟いた。
紫から教えてもらった通りに歩き続けて数時間、森を抜けると目の前にこの階段が現れた。
階段の先を見上げると大きな鳥居が見える。どうやらここで間違いないようだ。
「仕方ない、登るか」
俺は階段へと足を踏み出すと、ゆっくりと登り始めた。
少年祈祷中
「登り切ったぜ……」
階段を登り切った先にはさっき見えていた鳥居と古びた神社の本殿が佇んでいた。
周りを見てみると、境内の隅に落ち葉の集まりと長け箒がある。どうやら人はいるようだ。
俺は境内をまっすぐ進んでいくと賽銭箱の前で立ち止まった。
「しまった……」
俺はポケットから財布を取り出すと顔をしかめた。
現在の財布の中には五千円札と五円玉しか入ってない。今後の事を考えると五千円札は残すべきだろうが、同じ神職の身としてお賽銭が五円玉だけでは申し訳ないような気がする。
こういう状況でも俺の不幸体質が発動しているのはある意味凄いと思わされる。
「……………さらば、俺の生活費よ」
悩み悩んだ結果、俺は五千円札を名残惜しくも賽銭箱へと放り投げた。
泣いてなどいない。俺の頬を涙が伝った気がしたけど泣いてない。
「あら、参拝客なんて珍しいわね」
涙ながらに二拝二拍一拝をしていると後ろの方から声をかけられた。
振り向くとそこには俺と同い年ぐらいの綺麗な少女がいた。
長い黒髪に大きな赤いリボン、紅白を基調とした巫女装束を身に纏い、手には古びたお祓い棒を持っている。格好から見るにどうやらこの神社の巫女の様だ。腋の部分が無いのは仕様なのか、深く考えないようにしよう。
「アンタ、失礼なこと考えなかった?」
「別に、ただ綺麗な巫女だなって思ってただけだ」
「え///」
俺がそう言うと巫女さんは呆気にとられた表情のまま顔を真っ赤に染めた。
思った事をそのまま口にしただけだが、何か悪い事でも言ったのだろうか?
彼女は俺から視線を外し賽銭箱へと目を向けると、目を輝かせながら賽銭箱へと駆け寄った。
「おお‼」
「え……?」
「久しぶりのお賽銭、しかも五千円‼」
「あの~?」
「もしかして、アンタがこれ入れてくれたの?」
「ああ、同じ神職の身としては当然かな……」
「ありがとう。これで半年は生きていけるわ」
大袈裟だなと言いたかったが、涙目で手を握りながら感謝する彼女を見ていると言葉が詰まる。
かくいう俺も、神社の数少ないお賽銭を家計の生活費として使っていたので人の事は言えない。
「自己紹介が遅れたわね。私は博麗 霊夢、この博麗神社の素敵な巫女よ」
「こっちも名乗らないとな。俺は神無 悠月、通りすがりの参拝客だ」
「なるほど、確かに似たような雰囲気を持ってるわね」
「どういう意味だ?」
「紫が教えに来たのよ。私に似た雰囲気の外来人がここに来るって」
「紫が?」
「ええ、何でも男前の外来人が来るから丁重におもてなしをしてってね」
紫の奴、霊夢にどういう風に伝えてんだ?
どうせ彼女の事だから、何処かでこの光景を見て楽しんでいるのだろう。まさか幻想郷に来てまで年上の弄りに付き合わされる羽目になろうとは、このままでは胃に穴が開くのも時間の問題だな。
「良い薬屋は何処にあるのだろうか」
「突然どうしたのよ」
「いや、今後の事を考えたら胃が痛くなったもんでな」
「まあ、どうせ紫絡みでしょ」
「……それだけで済めばいいんだけどな」
まだまだ苦労は続く、俺の勘がそう告げている。
「ところで、これからどうするの?」
「紫の話じゃ、ここでしばらくは寝泊まりしろってさ」
「ったく、面倒事ばかり押し付けるわね、あのスキマは」
「お互い、苦労が絶えないな」
「その言葉、アンタも紫に色々とされてるの?」
「いや、俺の場合はそれに似た人の無茶振りに付き合わされているだけさ」
「さっきの言葉、そっくりそのまま返させてもらうわ」
「ありがとな」
「どういたしまして」
俺と霊夢は向かい合って深い溜息を吐く。
どこの世界にも苦労を掛ける人間とその貧乏くじを引く人間がいるのだと実感した。いや、この場合は苦労を掛ける妖怪の方が正しいのだろうか?
ふと空を見上げると澄みきった青空から鮮やかな茜色へと変わっていた。
「そうだ、少し台所を借りてもいいか?」
「いいけど、何で?」
「いや、泊めてもらうお礼に夕食でも作ろうかと思って」
「そう、なら遠慮なく期待させてもらうわ」
そう言って霊夢は神社の奥へと歩いて行った。
本人はあんまり興味はなさそうだったが、とりあえず食べてもらうか。
「さて、久しぶりに腕を振るうとするか」
少年調理中
あれから数十分後、台所にあった材料で何とか夕食は準備できた。
久しぶりに釜戸で米を炊いたからか、ご飯が美味しそうに見える。その他に、残ってあった川魚と山菜を使って少ないがおかずも用意できた。これなら霊夢も満足してくれるだろう。
俺は料理をお盆に乗せると霊夢がいる居間へと運んだ。
「簡単なモノしかできなかったが、まあ食べてみてくれ」
「美味しそうね……いただきます」
「いただきます」
うん、やっぱり釜で炊いたご飯はいつもより美味く感じる。
しばらく食べていると、ふと霊夢をの方を見た。そこには嫉妬と落胆のオーラを纏いながら膝から崩れ落ちて俯いている霊夢の姿があった。
「れ、霊夢?」
「何よこれ、私が作るものよりはるかに美味しいじゃない」
「ま、まあ、家ではいつも俺が食事当番だったからな、嫌でも上手になるもんだよ」
俺は霊夢の肩に手を乗せて励ます。
そういえば、俺の弁当を初めて食べた部活の女性陣も同じ反応だった。
星哉曰く「悠月の料理は女性のプライドとハートを打ち砕く」と言われて一発殴ったのを思い出す。
「だからって……だからってこれは反則よ……‼」
「大丈夫か?」
「……決めたわ」
霊夢はゆっくりと立ち上がると俺を指さした。
「悠月、アンタここに暮らしなさい。ちなみに拒否権はないわ」
「…………………………え?」
こうして俺の幻想郷での生活が幕を開けた。
空亡「言い忘れていましたが、登場人物の名前を少し変えました」
悠月「気付くようで気付かない変更点だな。って、俺の名前表記カタカナだろ」
空亡「これもは前からルールで、親しい人物からの愛称みたいなもんです」
悠月「……それって、もしy」
空亡「決して某プロジェクトのパクリじゃありませんからね」
悠月「誰もそんなこと言って無いだろ」
空亡「取り乱してしまいましたけど、とりあえず今日はここまでで」
悠月「さて、アニメがいつ始まるかチェックでもしてるか」