神無 悠月side
「寒ぃ……」
雪の降り積もる森を駆けながら俺は震えるように呟いた。
月美の話によれば今の気温は5℃前後、真冬の都市気温と変わらないくらい寒い。そんな極寒の中を俺はTシャツとパーカー+マフラーだけで進んでいる。その上、走ってるせいか無駄に寒い風が身体中に当たるのでさらに寒い。
ああ、なぜかさっきよりもこの異変を起こした奴に対する怒りが込み上げてきた。
「終わったら思い切り日向ぼっこしてやる」
『小さい決意ですね』
「うるさい。これが俺だ」
『そうでしたね。……あ、またありましたよ』
そう言った月美の見る先には淡い光を放つ桜の花弁――春度が雪と共に舞い降りてきた。
手に取ってみると僅かにだが暖かく感じる。
俺はポケットから小さな小瓶を取り出すとその中に春度を入れた。小瓶の底には少ないが春度が積もってきている。
『随分と集まってきましたね』
「異変の犯人はこれを集めて何をするつもりだろうな」
『レミリアさんみたいに案外つまらない理由かもしれませんよ』
「ありえるな。まあ、そこに辿り着ければの話だけどな」
俺がそう言った瞬間、俺の目の前に大きな氷柱が降り注いだ。急停止して立ち止まると飛んで来た方向へと顔を上げた。
「不意打ちとは卑怯だぞ、チルノ」
「あれ、ユウキ?」
「俺以外に誰がいるんだよ」
「霊夢とか魔理沙だったらこの前のお返ししてやろうと思ってたのよ」
『あの二人に不意打ちしかけても返り討ちに遭うだけだと思いますよ』
「う~ん。じゃあどうしよう……」
チルノは難しそうに頭を抱えて考えている。
「まあ、アイツ等は当分動くことないから心配すんな」
「そうか。それより、ユウキたちはどっか行くの?」
『この長い冬の異変を解決するために犯人捜しを』
「早く冬を終わらせないと、せっかくの花見も出来ないからな」
「……嫌だよ」
その時、チルノの雰囲気が変わった。
「チルノ?」
「嫌だよ。それじゃあレティと遊べなくなっちゃう」
『なんだか様子が変です』
「おい、チルノ……」
俺が手を伸ばしたその時、頭上から無数の氷柱が降り注いだ。俺は咄嗟に刀に持ち変えると迫り来る氷柱を一掃しながら後ろへと後退する。粉々に散る氷柱の向こうには明らかに敵意をむき出しにスしたチルノが俺を睨んでいる。
『ユウキ、これは?』
「さあな、だがあの様子だと大人しく退いてくれる気はないだろうな」
『そのようですね』
俺はチルノに向けて刀を構える。
さっきの言葉でチルノが俺に敵意を剥ける意味は分かった。だが、それだけの理由で異変解決を躊躇うわけにはいかない。みんなの為に、それにチルノの為にも。
「行くぜ、じゃじゃ馬さん」
「馬鹿にしないで‼ 霜符『フロストコラムス』」
チルノが氷柱を俺に向けて真っ直ぐ放つとそれから小さな氷柱が左右に展開される。それは数を増すのと比例して咲ける場所を減らしていく。弾幕の合間を潜り抜けながら前に突き進むとホルダーからスペカを取り出す。
「少し痛いぜ‼ 気功『昇龍降華』」
氷柱を避けると同時にスペカを地面に叩き付けると半径二十m範囲に色鮮やかな弾幕が展開される。刀を振り上げるのと連動して弾幕は上空へと撃ちあがるが、チルノには簡単に避けられてしまう。しかし、打ち上げられた弾幕はその数を増して地上に降り注ぐ。
「うっ……」
弾幕に飲み込まれたチルノは力尽きたのか重力に引かれるように地面へと落ちていく。落下地点を予測して受け止めとするが、俺の目の前を見覚えのある人物が遮り落ちてきたチルノを抱きかかえた。その人物は気を失っているチルノを見て優しく微笑む。
「まったく、遊び過ぎは体に毒よ」
「生憎、こっちは寒さの所為で身体がかじかんでんだよ」
その人物は以前霧の湖で出会った冬の妖怪、レティ・ホワイトロックだった。確か彼女とチルノは友達で、冬の間しか会えないという冬の妖怪ならではの性を背負っている。
「この子が迷惑かけたみたいね」
「いいよ。チルノとはいつも弾幕ごっこして遊んでるからな」
「でも、今回は単なる遊びで済ませるわけにはいかないわね」
『なんでチルノちゃんがユウキの事を?』
「単純だ。レティは冬の間しかいることができない。それが嫌だっただけだろ」
「そうね。今年の冬は特に長いから嬉しいって言ってたものね」
そう言ってレティは腕の中で眠っているチルノに目を向ける。
四季の中で一つの季節でしか会うことができない、それはとても辛いことだ。それが大切な友人なら尚更だ。
だからチルノは異変解決に向かう俺を止めようとした。大切な人と出会える唯一の季節を終わらせないために。
「とりあえず、この子と遊んでくれてありがとう」
「……いいのか、俺の目的は」
「いいのよ。私は所詮冬の妖怪、そこまでして存在しても嬉しくないわ」
「そうかよ」
「それに、一年で成長したこの子を見るのが唯一の楽しみでもあるのよ」
「……なるほどね」
「そうそう、この先にマヨヒガがという屋敷があるわ。気を付けてね」
「ご親切にどうも」
俺は軽く手を振ると先を急ぐように走り出す。
マヨヒガ、そこに今回の異変の手掛かりが見つかるのだろうか。
霧晴 咲妃side
「やっぱり、そういう事だったのね」
私は手に取った本の内容を見て納得するように呟いた。
ユウキが異変解決に出た直後、私は一度紅魔館に戻って図書館でとある本を探していた。題名と表紙を覚えていた為か見つけるのにはそう時間は掛からなかった。
その本の題名は『幻想御伽話』、黒一色で何も描かれていない少し不気味な表紙をしている。内容は“とある理想郷”で起きる物語を収めた少し難しい御伽話。例えるならグリム童話のオリジナル版と言えばほとんどの人は分かるだろう。
何故私がこの本を探していたというと、それはこの本の内容を確認するためだった。
「『背中を向け合う姉妹』、この話ね」
その話の内容は、簡潔に述べるとここのスカーレット姉妹の境遇と似ていた。
たった一人の家族を救えず嘆く姉、狂気に呑まれる自分を嫌い涙を流す妹、パチュリーから二人についての話は聞いていたからよりこの御伽話の内容に疑問が残る。誰が何の為にこの本を書いたのか、それを探ろうとしたその時、とある題名が目に止まった。
「『富士見の娘と死の桜』……‼」
その内容を見た直後、私はすぐさま図書館を出た。
もしも、あの本の内容が本当の出来事だとすれば……‼
雪舞う幻想郷の中、私は無我夢中でユウキのあとを追った。
空亡「今回も無事に終わりましたね~」
美羽「そうね、それは何よりだわ……」
空亡「おや、どうかしましたか?」
美羽「作者、つかぬ事を聞くけど『霙』っていう女に聞き覚えはない?」
空亡「……さあ、僕には見当もつきませんが、それがどうしましたか?」
美羽「その女がユウキに膝枕してもらい、その挙句に頬に口付けをしたという目撃証言をね」
空亡「そうですか。ユウキの女たらしにも苦労させられますね」
美羽「ところで作者、もう一度聞くけど『霙』って言いう女に覚えはないのね?」
空亡「ええ、僕は『古城霙』という人物に心当たりはありませんね」
美羽「へえ、じゃあなんで苗字まで知ってるのかしら? 私は名前しか言ってないはずなのに」
空亡「しまった‼」
美羽「駄作者、ゆっくり話は聞かせてもらうわよ」
空亡「こうなれば、鈴華さんの『東方歪界譚』をよろしくお願いします‼」
美羽「他者じゃなくて自分のところの宣伝をしなさい‼」