東方絆紡録   作:空亡之尊

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春雪猫又物語

神無 悠月side

 

 

「……マヨヒガ、か」

 

 

俺は目の前に建てられた屋敷を眺めながら庭を横切っていく。

マヨヒガ――迷い家、柳田國男が記した遠野物語に出てきた寂れた屋敷の名。一見廃屋のように見えるが火鉢があったりや鉄瓶の湯がたぎっていたことから誰かが暮らしている形跡があったという。ちなみに、無欲の者がマヨヒガの物品を持ち帰れば金持ちになったという話もある。

 

 

「折角だから何か持ち帰るか?」

『そんな事をしてる場合じゃありませんよ』

「わかってる。……にしても、ここ何処だ?」

 

 

俺はその場で立ち止まると改めて周囲を見渡した。

無我夢中で春度を辿っていたので気付かなかったが、明らかにここら一帯の温度が他のところとは違う。レティと戦った時は冬の寒さだったのに対して、ここは春の陽気のように暖かい。

 

 

「幻想郷の中でも不思議な場所だな」

『そうですね。……あ、屋根の上に春度が』

「考えてもしょうがねえな。追うぜ」

『はい』

 

 

俺は春度が舞っている屋敷の屋根へと高く跳んだ。

するとそこには一人の少女が春度を取ろうとその場でピョンピョン跳んでいた。

茶髪のショートカット、白い長袖シャツに赤いワンピース、頭には紫や藍と同じような緑色の帽子を被り、黒い猫耳と二本の尻尾が生えている。どうやら化け猫のようだ。

化け猫の少女はやっとのことで春度を掴み取ると俺の方へと振り向いた。

 

 

「あ、ユウキだ」

『え? お知り合いですか?』

「いや、俺の知り合いに猫又の少女なんて…………あ」

 

 

腕を組んで頭の中を整理していると、博麗神社でくつろいでいた時にやって来る一匹の猫又を思い出した。

あの時は猫の状態だったから気付かなかったが、どうやらこの少女があの猫又のようだ。

 

 

「思い出しましたか?」

「ああ、にしてもどうしてここに?」

「ここは私たち猫の隠れ里なんです」

『あ~どおりでさっきから見られているような気がしてたんですよ』

「ここの子たちは警戒心が強いので仕方ないですよ」

「……ところで、君はどうして春度を集めてるんだ?」

 

 

俺がそう尋ねると少女は困ったように目を逸らした。

どうやら教えてもらえるような雰囲気じゃなそうなので俺は諦めてこの場を立ち去ろうとした時、橙色の弾幕が目の前を横切った。

 

 

「どういうつもりだ?」

「すみませんが、ここから先は進ませません」

「……ったく、行く先々で弾幕ごっこか、気が滅入るぜ」

『仕方ないですね。迎え撃ちますよ』

「わかってるさ」

 

 

俺はそう言って刀を構える。

ああ、ここに来てから衰えていた剣術が徐々に戻ってきた気がする。

 

 

「猫だからってなめないでくださいよ‼」

「猫は大人しくこたつに丸まっていた方がお似合いだぜ」

 

 

抜刀すると同時に弾幕を撃ちだすと少女はくるくると回転しながらそれを避けた。それと同時にいくつかの弾幕を俺に向かって放ってきた。

 

 

「いくよ‼ 仙符『鳳凰卵』」

 

 

少女が懐から卵を取り出すとそれを投げつける。それを容易に避けると地面にぶつかって破裂したと同時に赤と橙の弾幕が展開された。

俺はそれらを斬り払うと展開される前に高く跳びあがった。

 

 

「折角だ遊ぼうぜ。月闇『ムーンライトステップ』」

 

 

俺は迫り来る弾幕を一つ一つ踏みつけながら跳びまわっていくとその弾幕が弾けて黒と黄色の弾幕が周りに広がった。少女は避ける間もなく弾幕に当たる。

 

 

「まだまだ‼ 式符『飛翔晴明』」

 

 

少女は五芒星を描くようにくるくると飛びまわるとそれぞれの頂点から弾幕が撃ちだされた。慎重に避けようとすると弾幕が僅かに揺れ、その軌道を変えた。

間一髪のところでそれを避けるとスペカを一枚取り出す。

 

 

「乱れ抜く。斬符『愛糸』」

 

 

刀を振り払って黒い糸状のレーザーを撃す。幾つも放たれた黒い糸は器用に弾幕を突き抜けながら進んでいくと全ての弾幕を消し去った。

少女は反転しながらそれを避けると器用に着地して俺を見据える

 

 

「聞き忘れてたが、君名前は?」

「橙です。ちなみに姓はありません」

「そうか。今後ともよろしくな」

「不思議な人間ですね。でも、負けません。翔符『飛翔韋駄天』」

 

 

そう言って橙は飛び上がると回転しながら俺の方へと弾幕をばら撒きながら向かってきた。それを横に避けるも次の瞬間にはまた別のところから跳んできては無数の弾幕をばら撒いている。これでは並の弾幕で狙うことも出来ない。

 

 

「ならこれだ。斬符『霧浄』」

 

 

俺は弾幕を避けながら何度も斬り払い、その軌跡から蒼い刃の弾幕が無数に放たれ跳びまわる橙へと向かって一直線に追いかける。彼女のスピードと弾幕でいくつかの攻撃が防がれるが先回りしていた弾幕にぶち当たり攻撃が止んだ。

 

 

「っこうなったら‼ 鬼符『鬼門金神』」

 

 

彼女が高く跳びあがるとその場から赤と青の弾幕が∞状に放たれる。さっきの八方跳びに比べてスピードは遅いがその密度は濃く、さっきよりも避けにくくなっている。

あの子の様子から見てこのスペカで最後、ならば‼

 

 

「一気に行く‼ 時奇『静止するモノクロの弾幕』」

 

 

指を鳴らすとスペカが発動して橙から放たれた弾幕が色を失って空中で静止する。突如静止した弾幕を見て目を丸くしている隙に俺は弾幕を放った。避けようとするも自分の弾幕が邪魔で移動できず、あえなく撃破された。

やられた橙は疲れたようにその場に座り込んでいる。

 

 

「藍様から聞いた通り強いです~」

「……なるほど。この異変、紫が一枚噛んでるようだな」

『どういう意味ですか?』

 

 

スマホの中に戻った月美が尋ねる。

本来異変解決に動くはずの霊夢は自宅で冬眠中、それを注意するはずの紫の姿を今日まで見ていない。この異変が始まったのは少なくとも一ヶ月前、あの紫がこんな事態を放っておくなど不自然だ。

 

 

「それに、さっきの話で藍と繋がってるとすれば足止めした理由も思いつく」

『さすが、恋愛事情と女心以外の思考は鋭いですね』

「前半が余計だ。それよりも先を急ぐぞ」

「あ、待ってください」

 

 

俺がその場を立ち去ろうとした時、橙は俺の下へと駆け寄り小瓶にいれた春度を手渡した。

 

 

「どうしてこれを?」

「紫様から、勝負に負けた時はユウキにこれを渡しなさいって言ってました」

「紫からか……わかった、ありがたく貰っておくぜ」

「じゃあ、気を付けてね」

 

 

橙は笑顔で手を振って俺らを見送った。

この異変、どうやら咲妃の言う通り一筋縄ではいかなくなってきた模様だ。

 

 

 

 




空亡「これで第二ステージクリア、まずまずですね」
美羽「聞きたいけど、本作の方ではノーコンでどこまで行けるのかしら?」
空亡「プリズムリバー三姉妹までが限界です。特にメルランが強敵です」
美羽「メルラン、という事は作者の使う娘って咲夜?」
空亡「そうですね。低速での追尾性が使いやすいので」
美羽「アンタって霊夢が好みだから少し意外ね」
空亡「まあ、妖々夢以外ならもちろん霊夢ですけどね」
美羽「ふ~ん」
空亡「どうかしましたか?」
美羽「なんでもないわ。それじゃあ、次回もよろしくね」
空亡「あ、僕の台詞……」
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