神無 悠月side
「……寒ぃ」
俺はポケットに手を入れて歩きながら今日何度目かの「……寒ぃ」を呟いていた。
暖かったマヨイガを抜けた俺は今の幻想郷の気候をこの身を持って思い出させられた。
あれからも舞っている春度を辿っていき、今は白く染まった魔法の森を駆け抜けている。道端には白い雪にも負けないほど鮮やかなキノコが顔を出している。
「あれ、食べられるか」
『間違えても食べようとしないで下さいよ』
「わかってる。あれは毒性ありそうだからな………あ、あれは喰えそう」
『どれだけ食い意地が張ってるんですか…………ん』
そんな他愛のない会話をしていると月美が何かに気付いたように言葉を絶った。それを察した俺はその場で脚を止めた。俺と月美は互いに聞こえる程度に静かに話す。
『――ユウキ、この気配は』
「――ああ、間違いなく魔力だな」
『――けれど、魔理沙さんは博麗神社にいるはず』
「別に魔法使いが魔理沙だけじゃない。そうだろ?」
俺は気配のする方へと向くとわざとらしく問いかけた。
「心外ね。あの子と一緒にしないでもらいたいわ」
そう言って呆れたような顔で出てきたのは一人の少女だった。
金髪に色の薄い肌、青いノースリーブのワンピースとロングスカート、ケープを羽織り頭にはヘアバンドの様な赤いリボンが巻かれ、指にはそれぞれ黒いバンドが巻かれている。どこか人形のように綺麗な少女だ。
「しばらく観察でもしてようと思ってたのに、残念ね」
「俺なんかを観察しても分かる事なんて無いだろ」
「いや、噂以上の食い意地を見せてもらったわ」
『ほら、やっぱり普通の人から見たらユウキの食い意地は守銭奴な霊夢さん以上ですよ』
「言いすぎだろ。あと、何気に霊夢のこと罵倒してないか?」
『違います。本音です』
「アナタ、そっちの方が尚更たちが悪いわね」
『え?』
少女の指摘に月見は不思議そうに首を傾げる。
悪意が無いのは分かっているが、これで今まで誰にも嫌われなかったのか不思議に思う。
「まあ、このバカは放っておくとして」
『バカって何ですか‼ ただちに前言撤回を追求します』
「うっさい。……ところで、アンタの名前は?」
「アリス・マーガトロイドよ。アナタの名前は知ってるわ、神無 悠月」
「ん? どういうことだ?」
「それは後で教えてあげるわ。それよりも」
アリスはそう言って俺の目をじっと見つめる。
ああ、これは考えなくても分かってしまう。それを察したのか、月美は無言で刀へと変わる。それをみて彼女は興味ありげに月美を見る。
「魔理沙から聞いていたけど、不思議な使い魔ね」
「使い魔というよりは疫病神だよ。その所為で俺の運気は最悪だ」
「あら、例えばどんなに風にかしら?」
「そうだな……森の中で魔法使いに弾幕ごっこを挑まれることかな」
俺は皮肉交じりにそう言うと、彼女は笑った。
その時、彼女の魔力があがった。確実に戦闘開始秒読み前だな。
「その魔法使いと出会った不幸を呪う事ね」
「ったく、可愛い猫又の次は綺麗なお人形さんかよ。気が滅入るぜ」
溜息交じりに刀を振るって弾幕を張って走り出すが、アリスの周りに人形が展開されそれぞれが弾幕を放ちながら追いかけてくる。
攻撃重視に属性多用、その次は人形使いか。どれだけバリエーションが多いんだよ。
「まずは様子見。蒼符『博愛の仏蘭西人形』」
アリスの周りに六体のフランス人形が踊りながらそれぞれ一発弾を放ち、それが方向を変え倍以上に分裂、そしてさらに分裂するとその弾幕の量は数え切れないほど増えている。
避けながら弾幕を放つが周りの人形に阻まれて彼女に攻撃が届かない。
「なら。氷羽『アイスエンジェル』」
刀に水色の霊気を纏わせながら薙ぎ払うと周りの弾幕が一瞬で氷漬けになって粉々に砕け散る。アリスはそれを見て後ずさりすると周りのフランス人形を退かせた。
「中々ね、ならこれはどうかしら? 白符『白亜の露西亜人形』」
アリスの言葉と共に俺の周りにロシア人形が配置され、彼女が指示すると同時に俺に向かって一斉に弾幕を放ってきた。俺は走りながら避けるが俺の行く先を予測しているかのように人形が先回りをして俺を狙ってくる。
攻撃重視の魔理沙に対してアリスは頭脳派の人形使い、これは一筋縄で戦える相手ではなさそうだ。
「だから面白いんだよな‼ 使魔『ブックオブデビル』」
刀に赤黒い霊気を纏わせ地面に突き刺すと俺の周りに魔方陣が施された複数の本が現れた。本は多方にそれぞれ散開すると人形に向けて弾幕を放ち、それらを撃退した。
「っ、それは」
「七曜の魔女に教えてもらったのさ。もしもの時に備えてな」
「成程ね。剣術だけかと思ったけど、どうやら魔法を使う素質もあるみたいね」
「言っておくが魔法は苦手だ。術式が洋と和では違うからな」
「それは残念ね。廻符『輪廻の西蔵人形』」
残念な顔をした彼女は次にチベット人形を出した。人形はアリスの周りを踊りながら全方位へと色鮮やかな弾幕を放つ。こっちも負けじと弾幕を撃つが彼女は余裕でそれを避ける。
人形を操作しながら相手への注意を怠らないとは、器用な奴もいたもんだな。
「やっぱりこういうのは苦手だな。七曜『巡り巡る日月火水木金土』」
刀に紫の霊気を纏わせて走りながら彼女の周りを斬っていくと七つの魔法陣が現れ、それぞれから日月火水木金土にちなんだ色の弾幕が放たれる。いくら器用な彼女でも、無作為に放たれる弾幕を避けきれることができずに直撃する。
「くっ、これで最後‼ 咒詛『魔光彩の上海人形』」
彼女が最後に出してきたのは見覚えのある青い服の人形だった。人形は先ほどと同じ様に踊りながら彼女の周りを飛んで弾幕を放つが、今度のは先ほどよりも鮮やかであり弾幕の密度が濃い。その時、人形うちの一体の動きが急に止まった。その隙に応じて俺は刀を構えた。
「な、なんで……‼」
「人形劇はお終いだぜ‼ 星斬『スラッシュストライク』」
刀に黄色い霊気が纏うとその場に立ち止って構え、一呼吸おいて刀を斬り下ろすと超高密度の斬撃が目の前の木々や弾幕を切り裂いて進んだ。彼女は気休めにと目の前で腕をクロスさせて斬撃のダメージを和らげようとしている。それを見た俺は刀を月美に戻して斬撃を消し去った。
「……どうして攻撃をやめたの?」
「スペカを破った時点で俺の勝ち。それ以上は望まない」
「人間のくせに、変わってるわね」
「よく言われる。……それじゃあ、俺は先を急ぐから」
「待って。これを持っていきなさい」
自嘲するように笑ってその場を立ち去ろうとするがアリスに呼び止められる。
彼女はポケットの中を探ると小瓶一杯に入った春度を俺に手渡した。
「私が持ってるより、アナタが持っていた方が良い気がするわ」
「ありがとな」
「どういたしまして。次に会った時はゆっくりとおしゃべりしましょう」
「ああ、約束するよ」
俺はそう言い残してその場を後にする。
しかし、この後最大の困難が待ち構えている事を俺は知らなかった。
空亡「いや~アリスさんは強敵でしたね」
美羽「霧が濃くなったわね。人形を使う魔法使いなんて珍しかったわね」
空亡「それ以外の魔法使いなら知ってるという口ぶりですね」
美羽「別に、ただ頭の中に一万二千冊の魔導書を記憶している娘と認識があるだけよ」
空亡「美羽さん、まさかと思いますがハザマを使って異世界を行き来してないですよね?」
美羽「さあ? それより、今回は魔法系のスペカが多かったわね」
空亡「絆シリーズも続々でてきますからね。キャラの分だけスペカが増えます」
美羽「しばらくして、スペル同士を合わせたやつなんて出さないわよね?」
空亡「…………それでは、次回もよろしくお願いします‼」
美羽「え? まさか図星だった……‼」