東方絆紡録   作:空亡之尊

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騒霊演奏会 ~Lost Spring

神無 悠月side

 

 

「……絶望的だな」

 

 

俺は舞い落ちる春度を眺めながら頬を引き攣った。

あれから春度を辿ってここまでやってきたが、俺が恐れていた事態が起こってしまった。春度が舞い落ちてきている場所、それは紛れもなく空からだ。

霊夢たちなら空を飛んで済む話だが、生憎俺にはそんな便利な能力は持っていない。とすれば、どうやってこの状況を打破するのか、今俺はそれを考えている。

 

 

「さて、いい案はないか?」

『大人しく霊夢さんを待つというのは?』

「寒さが苦手な霊夢がそう簡単に動くとも思えないな」

『じゃあ紫さんに助けてもらうとか』

「橙を使って足止めまでしたんだ。期待はしない方がいい」

『いっそ空を飛ぶ練習をしてみては?』

「できるもんならとっくにやってる」

「『…………………………はあ』」

 

 

可能性がことごとく潰された俺らは深い溜息を吐く。万策尽きるとはこのことだ。

しかし、こんな所で立ち止まっていても何の解決にもならない。そんな事を思っていると空の方から俺らとは正反対に楽しそうな声が聞こえてくる。

 

 

「……すよ~」

「ん?」

「…ですよ~」

『なにか聞こえますね』

「春ですよ~」

 

 

声の聞こえる方を見てみると少女が弾幕をばら撒きながら飛んでいた。

明るく長い金髪、赤いラインが入った白いワンピース、頭には服と揃いのとんがり、背中からはこれまで見た妖精の羽根に似たものが生えている。なんだか頭の中まで春真っ盛りのような少女だ。

少女は俺に気付くとこっちに向かって飛んで来た。

 

 

「春ですよ~」

「『春なのか~?/春なんですか? 』」

「春ですよ~‼」

「『あ、春なのか~/あ、春なんですね』」

「そうです、春ですよ~‼」

 

 

そう言って俺と少女は握手した。なんか意思疎通できたみたいだ。

 

 

「ところで、君の名前は?」

「リリーホワイトです~。春告精なんですよ~」

「そうなのか。俺は神無 悠月、ただの人間だ」

『私は夢燈月美です。ちなみ春告精ってどんな妖精なんですか?』

「文字通り春が来たことをみんなに伝える妖精ですよ~」

 

 

そう言ってリリーは楽しそうに俺の周りを飛びまわる。

さっきの彼女を見て思ったが、妖精という種族は幻想郷内では比較的弱い部類に入る。しかし、最初に出会ったチルノのように自身に適した環境であればその強さは倍増する。春告精の名の通り春が彼女の力を最も出せる環境であればさっきの弾幕の強さに納得する。

つまり、この近くに『春』があるという結論に至るわけだ。

 

 

「なあ、君的にはどこが春なんだ?」

「え~と…………この空の上らへんが春ですね~」

『空の上、やっぱり異変の犯人はこの上なんですね』

「場所は特定できた。あとはどうやって向かうかだな」

 

 

俺は再び直面した難題について考えているとリリーが俺の事を見ていることに気付いた。いや、正確には俺が持っている春度の入った小瓶をじっと見つめている。

 

 

「ん? どうしたんだ?」

「ん~なんだかそれだけ他のとは違う感じがします」

『他のと違う? どういう意味ですか?』

「え~と、何だかわかりませんがフワフワしてる感じがします」

『??? よくわかりませんね』

「いや、なんとなく分かった気がする」

『ホントですか‼』

「ああ、とりあえずありがとなリリー」

「なんだか分かりませんがどういたしまして~」

 

 

そう言ってリリーはふよふよとどこかへ飛んでいった。

それを見送った俺はさっき考えたことを実行してみようと試みる。

まずは月美を刀に変えてポケットの中にある春度の入った小瓶を取り出す。そして一握り程度の春度をばら撒いてそれを霊力を込めた刀で斬り払う。すると春度は淡い光の塵となって俺の身体に吸い込まれていった。

試しに軽くステップを踏んで跳んでみると僅かに地面から足が浮いていた。

 

 

「……よし、行くか」

『待ってください‼ 色々と言いたいことがあります‼』

「手短にな」

『まず春度の使い方を間違ってる気がします‼ あとなんでさっきの言葉だけで実行するんですか‼ 最後になんで宙に浮いているのにそんなにもリアクションが薄いんですか‼』 

「……最初の二つはただの勘。最後のはそこまで楽しいという感じはしないから。以上」

 

 

俺はそう言って再び舞い落ちる春度を辿って空の上へと向かった。

幻想郷では常識に囚われてはいけない、紫もいい格言を残したものだ。

 

 

 

少年祈祷中

 

 

 

「なるほど、確かに春だな」

 

 

雲を抜けた俺は久々に見る太陽を仰ぎ見ながらそう呟いた。

そこは冬の寒さに凍える地上に比べて心地いい場所だ。本来ならこの陽気は地上にも届いているはずなのだが、この異変を解決しない限り訪れることはないだろう。

 

しばらく雲の上を飛んでいると目の前にどデカい門が現れた。それには結界が張られているようで開けようにも開けられないようだ。

 

 

『あからさまな入り口ですが、結界が邪魔ですね』

「さすがにこの大きさの結界破るのは時間が掛かるな」

『ここに来ても困難は続くようですね』

「ああ、俺の不幸を改めて呪うことにするぜ」

 

 

俺が深い溜息を吐くと近くから何かを演奏する音が聞こえてきた。音から察するにヴァイオリンとトランペット、そしてキーボードのようだ。

気になって近くを見渡してみると門の近くで三人の少女達が楽器を演奏している。

 

 

「……? こんな所に人間か。珍しいな」

 

 

ヴァイオリンを弾いていた少女は俺に気付くと興味ありげに見る。

金髪のショートボブ、白いシャツの上に黒いベストと膝まで巻きスカート、頭には赤い月の飾りが付いた円錐状で返しのある黒い帽子、手には年季の入った茶色のヴァイオリンを持っている。

 

 

「どうしたのルナ姉? あ、人間のお客さんだ‼」

 

 

トランペットを吹いていた少女が俺を見て嬉しそうにする。

右半分は手を加えず肩くらいまで下ろし、左後頭部辺りでアップにしてまとめている薄い水色の髪、薄いピンクのシャツに同じ色のベストとフレアスカート、頭には先ほどの少女と同じ形で青い太陽の飾りを付けた薄ピンクの帽子、手には昔ながらのトランペットが握られている。

 

 

「メル姉、普通の人間がこんな所に来るはずはないでしょ」

 

 

キーボードを弾いていた少女は俺を見ながら苦笑した。

内巻きで薄い茶髪のショートヘア、白いシャツに赤いベストとキャロット、頭には他の二人と同じ形をした緑の星の飾りが付いた赤い帽子、宙には両端に天使のような羽が付いたキーボードが浮かんでいる。

三人はそれぞれの作業を中断して俺の下へと近寄ってきた。

 

 

「でもさリリカ、この人見た目は普通の人間っぽいよ?」

「そうだけど、この先に好き好んでくる人間なんて……」

『ん? この先に何かあるのですか?』

「……ああ、この先は冥界、桜が咲き誇っていて綺麗な場所だよ」

『へえ、桜が綺麗な場所だなんて素敵ですね』

「桜、か……」

 

 

その話を聴いた俺は今朝の夢を思い出した。

やはりあれは異変の犯人と深く関わる重要な夢、そしてそれは俺を誘っている。

しかし、あの死へ誘う桜の姿を思い出しただけでも俺の心に不安が募ってしまう。

俺が門を眺めていると黒い少女が心配そうに俺を見つめている。

 

 

「どうかしたか?」

「……いや、君の瞳が元気の無いように見たものだから少し気になっただけだ」

「そうか……まあ、今更だがこの先の奴が怖くなってきただけだな」

「……この先は人間が立ち入るには危険だから、仕方ない」

「でも、この先に進まないといけないからな、立ち止まるわけにはいかないもんさ」

「……変わった人間だな」

 

 

そう言って彼女は優しく笑った。それを見ただけでも俺は励まされた感じがした。

 

 

「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は神無 悠月、ただの人間だ」

『私は夢燈月美です。ユウキの式神みたいな立ち位置です』

「……ルナサ・プリズムリバーだ。こっちは」

「メルラン・プリズムリバーよ‼ ちなみに種族は騒霊よ‼」

「リリカ・プリズムリバーだよ。姉さんたちとは楽団をやってるのよ」

 

 

ルナサの背中に飛びついてきた二人は元気よく紹介した。

騒霊、ポルターガイストと呼ばれる幽霊の一種だが、そこら辺の事情は仲良くなった時にでも聞くことにしよう。それに楽団ならさっきまで演奏していたことに納得がいく。

 

 

『姉妹で楽団ですか、一度視聴したいところですね』

「バカ、俺らにそんな暇なんて……」

「え~そんなこと言わずに是非聞いていってよ」

「メル姉、この人たちに迷惑かけちゃダメだよ」

「だって……」

「……まあ、一曲くらいなら聞いていくか」

「え、いいの?」

「急いては事を仕損じる、少しくらいは休憩していっても損はないだろ」

「やったわね‼ 初めての人間のお客さんだよ‼」

「ん~どうする? ルナ姉」

「……彼が聞いていくって言うんだ。それに応えてあげないとな」

「そうだね。リハーサルついでに私たちの凄さも分かってもらおうか」

「ルナ姉、リリカ、早く準備するよ」

 

 

三人は持ち場に付くと各々の楽器を構える。

 

 

「……演奏会前で忙しいけど」

「久々のお客さん相手のリハーサルとして」

「プリズムリバー楽団の奏でる音楽を存分に楽しんでいってね」

「ああ、期待させてもらうぜ」

 

 

俺がそう言って目を閉じると演奏始まった。

ヴァイオリンの悲しくも透き通った音色、トランペットの陽気で元気な音色、キーボートからは幻想的で型にはまっていない音色、それぞれがうまく調和し合ってなんとも言えない感動が込み上げてくる。

そして、僅かに短い演奏会は幕を閉じた。

 

 

「……どうだったかな?」

『素敵でした。私たちの友達に負けず劣らずの素晴らしい演奏でした』

「ああ、こんな短い演奏で終ってしまうのがもったいないくらいだったな」

「ふふ~♪ これなら本番でも大成功間違いなしね」

「その前に異変が終わってくれるといいんだけどね」

「大丈夫。そのうちこんな長い冬も終わるさ」

「……もう大丈夫みたいだね」

「お前らのお蔭だ。感謝するぜ」

「……なら、この異変が終わったらぜひ演奏会に来てほしいな」

「そうだね。まともに聞いてくれた人なんてユウキが初めてだからね」

「それに、その方がルナ姉も喜びそうだし。ね?」

「……わ、私はそんな事///」

「ふふっ、ありがとな」

「そうだ。この門、上に登れば簡単に入れるよ」

「それって門の意味はあるのか?」

 

 

俺はプリズムリバー三姉妹と別れると門の上へと登った。

大丈夫、この先に何があろうと俺は歩き続けられるはずだ。

 

 

 

 

 

 




空亡「というわkで、あとがきは後のに……」
美羽「ちょっと待ちなさい」
空亡「なんでしょうか? そんなにげんなりして」
美羽「色々とツッコミたいところがあるんだけど」
空亡「一つずつどうぞ」
美羽「まず、春告精と少ししか会話?してないのにどうやって意思疎通できたのよ」
空亡「ユウキだからです」
美羽「あと、春度でどうやったら空が飛べるようになるのよ‼」
空亡「ユウキだからです。あと、効果はこの話だけですので次回からは普通に歩きです」
美羽「最後に、またフラグなんて立ててどういうつもりかしら‼」
空亡「ユウキだからです。ちなみにまだまだ増えます‼」
美羽「……疲れたわ。まさか今回の話がご都合主義だけで構成されているなんて」
空亡「ご都合主義はどこの世界でも通用しますからね~」

美羽「いいわ。次はどんな話になるのかしら?」
空亡「お待ちかねだった、美羽さんの場面ですよ」
美羽「そうなこと言って、どうせ出番は少ないくせに」
空亡「まあそう言わずに、かっこいい場面くらいは用意しますから」
美羽「……任せたわよ」
空亡「畏まりました。それでは、この次の二話目もお楽しみください」
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