明星 美羽side
「まったく、厄介なことになったわね」
霧が包み込む冥界の階段を登りながら私は愚痴を漏らした。
先に異変の首謀者でも殺そうかと思ってハザマを開こうとしたが、何故かそれができなかった。恐らくは同じ能力を持っているスキマ妖怪が干渉した所為でしょうね。そのお蔭で私たちはこの途方もなく長い階段を登らされていた。
「美羽ちゃ~ん、少し休憩しましょうよ~」
「なに寝言ほざいてるの。今の私には刹那の時間さえ惜しいわ」
「だからってこの階段はおかしいですよ~」
「まあ、美命様の情報でここの階段は長いって言うのは聞いてたけど……」
「違う、そうじゃなくて。本当におかしいのよ」
その時、私はマリィの瞳が蒼くなっていることに気付いた。
こうなった時の彼女は普段とは違う雰囲気になっている。そうなるとさっきまでの彼女の言葉の意味は全く違ってくる。
「……どういう意味かしら?」
「どこまで行っても『道』だけが続いていて『目的地』が見えてこないのよ」
「……無限ループって怖いわね」
「そんな悠長な事を言ってる暇はないと思いますよ」
「そうね、つまりは私たちの存在に気付いた誰かさんの足止め」
「そしてそんな事をする輩といえば……」
「「スキマ妖怪ね/八雲 紫ですね」」
私たちが確信すると同時に全方向から見慣れた弾幕が放たれた。予測していた通りの展開に思わず笑みを浮かべた私は胸元の鍵のペンダントを握り締める。マリィも微笑しながら胸元のブローチに手を添える。
「御心のままに、創剣・メシア」
「真実を霧へ、影剣・ファントム」
眩い光と共に弾幕が消え去ると私たちの手にはそれぞれの“愛剣”が握られている。
私の手には黒く禍々しい光を纏った剣と白く神々しい光を纏った剣の二本の双剣、マリィの手にはサファイヤが埋め込まれた大きめの装飾ナイフが握られている。
剣を下ろして弾幕が放たれた方を向くと皮肉交じりに言葉を放つ。
「女性相手に不意打ちなんて礼儀が悪いわね」
「そう言う貴女は相変わらず態度が悪いわね」
そう言って空間を裂いてできたのは例のスキマ妖怪だった。相変わらず胡散臭い雰囲気を纏っているその様子が私の苦手意識を掻きたてる。
「無限ループで足止めなんて、賢者のくせに姑息な手を使うわね」
「ふふ、『過程と結果』の境界をちょっと弄っただけよ」
「キン〇リね。ちなみにジョジョで好きなキャラは無難に〇条承〇郎よ」
「私は王道でD〇O様です。時止めって憧れですよね~」
「貴女達、ふざけてるの?」
私たちのやり取りにスキマ妖怪の表情に怒りが表われる。普段から人の事を弄ぶ人間……というより妖怪は、いざ逆の立場になると憤りを感じるものだと美命様に教わった。私も演技染みた台詞や行動をされると一思いに殺したくなる。
私は面白そうにふっと笑うと余裕を持った眼差しをスキマ妖怪に向ける。
「それはこっちの台詞よ。こんな子供騙しの罠で足止めしようなんて」
「見苦しいわね。現に貴女はこの階段を登り切っていないじゃない」
「それはそうよ。だってこんな所で“アレ”を使うわけにはいかないわ」
「……どういう意味かしら?」
「罠を解除するのではなく、解除させる。そのために貴女が出てくるのを待ってたのよ」
「さっきから何を……」
「気付いていないのかしら? 私の連れがさっきから会話に参加していない事を」
「……‼」
スキマ妖怪が慌てるように目を見開いて後ろを振り向こうとするが、時すでに遅しという言葉の通り、背後に待機していたマリィのナイフが彼女の首に突き付けられる。
マリィの隠密能力はどんな相手だろうと“認識することができない”絶対の能力。私も話し掛けられるまではそれを認識できない。
スキマ妖怪は苦悶の表情で私とマリィを交互に見る。
「やるわね。流石『カミゴロシ』の剣ね」
「世事はいいわ。それより早くこの無限ループを解いてくれるかしら?」
「断った場合、死ぬまでこの首を斬り裂いてあげますよ」
「物騒ね、でも私の式神がそう簡単に許すかしら」
その瞬間、気配を察したマリィはスキマ妖怪から瞬時に離れた。彼女の背後には怒りで九本の尻尾をユラユラと揺らしている九尾の狐、八雲藍が居た。
私の元に戻ったマリィの腕には攻撃されたのか傷を負っていた。
「紫様に手出しした罪、万死に値します」
「伝説の妖獣が従者ですか、何か親近感を感じます」
「えーと、どこが?」
「どこって、真面目で従順そうな感じですよ♪」
「うざい。それよりも目の前の事態をどうにかしないと」
私は呆れながら目の前にいる二人の妖怪に目を向ける。幻想郷でも随一の強さを誇るスキマ妖怪、片は日本神話に名を馳せる九尾の狐、まともに戦えば無駄な力を使ってのちの戦闘に支障をきたしてしまう。式神を忘れていたのは私の計算ミス、なんとかしてこの場だけでも乗り切らないと………………。
そんな時、マリィは何かに気付いたように目を後ろへと向けた。私は気になって気配を探ると誰かがこの階段を登ってきていた。それは迷い無くこちらへと向かってくる。
「マリィ、これは」
「ふふ、そうでした、“あの子”ならこれを破れますね」
「まったく、ホントに好かれてるわねユウキは」
「貴女達、何を企んでいるの」
「それはこちらの台詞。幻想郷を守る身である貴女が異変の手伝いだなんて皮肉な話ね」
「貴女にはわからないわ。大切な友人を失った私の哀しみなんて」
「解りたくないわ。夢と友人を天秤に掛ける愚かな妖怪の哀しみなんて」
「貴様……‼」
鼻で笑う私に九尾の狐が掴みかかろうと身を乗り出そうしたその時、階段を包んでいた霧が一斉に晴れた。その事態に張本人であるスキマ妖怪は目を見開き私たちを見る。しかし、この事態は私たちがやったことではない。そう、これは………………。
私が“あの頃”のように口元をニヤッとさせると私たちを一つの影が飛び越えた。それはかつて私に目に物見せた不従順な従者の姿だった。
「遅刻なんて貴女らしくないわね、咲妃」
「あら失礼、身支度していたら遅くなったわ。見逃してくださる?」
私たちの前で着地した彼女はわざとらしく微笑む。
「咲妃ちゃーん‼ 会いたかったよー」
「……ちっ、まさか貴女まで居るとは思いませんでした」
「冷たいな~姉妹の再会だからもっと感動してよ~」
「そのうえ異空間に閉じ込められるなんて、私も運が尽きましたね」
「やっぱり、ここって元の空間とは違うのね」
「気付いていなかったのですか?」
「別に気にする必要なんてなかったわ。私の目的は目の前の賢者よ」
「……貴女達も厄介な人を狙ってるわね」
咲妃は目の前にいる二人の妖怪を見ると苦虫を噛み潰したような顔をする。やはり彼女から見てもこのメンツは厄介以外の何物でもないみたいだ。
「咲妃、ここはお互いの目的の為に手を組まない?」
「貴女が言うと嘘くさい気がするけど、今の状況ではそれが得策ですね」
「うふふ、またこうして共戦するのも悪くないですね」
「相手が増えようと、紫様には指一本触れさせません」
「ユウキの友人に手を出すのは気が引けるけど、こうするしかないのよね」
互いの思いが交錯する冥界で人間と妖怪との弾幕ごっこが始まりを告げた。
こんなにたくさんの女性に惚れられるなんて、ホントに罪な人ね。
空亡「美羽さん、今回の話はどうでしたか……あれ? 美羽さーん」
真珠「美羽さんならそこにいますよ」
空亡「え?」
美羽「私ってあんなに嫌なキャラかしら、それに良い所はマリィと咲妃が持っていくし……」
真珠「ああやってずっとベットの中で落ち込んでいるんですよ」
空亡「ああ、これは完全に僕の責任ですね」
真珠「何で戦う場面が無かったのですか?」
空亡「いや、書こうと思ったのですがスペルの数が尋常じゃないので……」
真珠「それであんな打ち切りみたいな終わり方になったんですね」
空亡「これは非日常編・弐でユウキとイチャイチャできる話でも作りますか」
美羽「ホント‼」
空亡「これまでの詫びですよ。それに、そうでもしないと話が少なくなりますので」
美羽「感謝するわ作者、アンタも良いとこあるのね」
空亡「一言余計ですよ。では、次回もよろしくお願いします」