東方絆紡録   作:空亡之尊

35 / 106
冥界絶怪冬事 前編

神無 悠月side

 

 

「……ここが冥界か」

 

 

俺は周りを見渡して歩きながらそう呟いた。

あれから門を降りて初めに見たのは桜吹雪の舞う景色と途方もなく長い階段だった。俺はこれからこれを登っていくという絶望感を抱きながら走りだした。しかし、どれだけ走り続けも終点は視えず、ただ長い階段が永遠と続いているのみの光景。周りに死霊のようなモノが浮遊しているのを見るとここが冥界だと実感させられるが、今はどうでもよかった。

 

 

「『無限ループって怖いな/無限ループって怖いですね』」

「これならウチの神社の階段百往復してた方がまだマシだぜ」

『ゴールが見えないというのは精神的にも来るものがありますからね』

「このままだと過労で力尽きてここで暮らす羽目になりそうだな」

『いつもならツッコミたいところですが、この状況だと冗談で済みそうにありませんね』

 

 

その時、階段の先を見つめながらそう呟く月美の瞳が一瞬見開いた。その視線の先には斬撃型の弾幕が迫ってきていた。俺は咄嗟に刀に持ち変えるや否やそれを斬り裂く。

 

 

「いきなり攻撃とは、ズルくないか?」

「侵入者に礼儀を払う必要はないと思います」

 

 

斬り裂いた弾幕の先には二本の刀を構えた一人の少女が居た。

銀髪のボブカットに黒いリボン、白いシャツと青緑色のベストとスカート、傍らには魂魄のような半透明の物体がふよふよと浮いている。なんとも堅物そうな少女だ。

 

 

「生きている人間がここに何の用でしょうか?」

「アンタらが奪った春を奪い返しに来た。それだけで充分だろ?」

「お嬢様が面白い人間が来ると申しておりましたが、貴方なのでしょうか」

「少なくともアンタの言うお嬢様とは面識が無いはずだが」

『ユウキ、あの刀は……』

 

 

刀状態の月美が少し怯えながら彼女の刀を警戒していた。

彼女が持っている二振りの刀。一本は少し小ぶりな日本刀、もう一本は彼女の身長程あるあまりに大振りな大太刀。月美はその二つの刀に心当たりがあるようだった。

 

 

『楼観剣に白楼剣、まさかこんな所で出遭うなんて』

「どうやらその式神は私の刀について知っているようですね」

「そうなのか?」

『長いほうの刀は楼観剣、一振りで幽霊十人分を斬るという常人にはとても扱えない刀。

 短いほうの刀は白楼剣、斬られた者の迷いを断ち、彷徨う亡霊を成仏させる刀です』

「要約すれば、幽霊退治にもってこいの刀か。お前が怖がる理由も納得いくぜ」

 

 

月美は堕ち神と同じ刀の怨霊、その怨霊が天敵と認識する刀が目の前に現れれば怖がるのも無理はない。しかし、コイツがこんなにも怯えているのは学園祭のお化け屋敷以来だ。

 

 

「さて、聞くまでもありませんが…………この先に進むつもりですか?」

「当然だ。このまま春が来なかったら呑気に花見も出来やしねえ」

「春はお返ししますよ。西行妖が満開になれば、すぐにでも」

『西行妖、それが春を集める理由ですか?』

「その先を知りたいのであれば、私を倒してからに知ることですね」

 

 

少女は刀を構えると俺をジッと見据える。

俺は怯える月美を励ましながら久しぶりに構える。それは構えというよりはほぼ無防備に近い状態だ。だがこれは一応俺の剣術の構えであるから文句は言えない。彼女は俺の構えを見て眉をひそめるがそれを気にすることなく構え続ける。

 

静寂な冥界の空間、睨み合う俺と彼女の間に一枚の花弁がひらひらと…………次の瞬間‼

ダッという踏み込みの音と共に俺と彼女は互いに向かって走り出した。

 

 

「魂魄 妖夢、お嬢様の盾としてここは死守させていただきます‼」

「神無 悠月、俺と幻想郷の為にここは死ぬ気で通らせてもらうぜ‼」

 

 

互いの名乗りと共に静寂な冥界に清らかな金属音が鳴り響いた。

妖夢の楼観剣を受け止めたがその横から白楼剣が襲い掛かってくる。俺は鍔迫り合いから彼女の刀を払いのけるとその場から彼女の後ろへと跳んだ。

 

 

「逃がしません‼ 幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』」

 

 

彼女は一度刀を鞘に納め振り返ると同時に抜刀して俺の真横を切り抜ける。その剣閃の後からは無数の弾幕が放射状に放たれた。ギリギリのところで避けながら階段をかけ登ると彼女は再び同じモーションを取り始めた。俺は立ち止って彼女を迎え撃つ体制を取る。

 

 

「構え『卯月』からの派生剣技……」

 

 

俺は刀を逆手に持ち変えて迫り来る彼女に向かって走り出す。彼女が鞘から抜刀した瞬間を狙って刀を突きだし攻撃を食い止める。

 

 

「――『四散』」

 

 

受け止めた刀を弾くと同時に彼女の懐へ踏み込み、片足を軸にした回転切りを繰り出す。しかし彼女は咄嗟に構えた白楼剣で全て防ぐと数センチ後退りした。

 

 

「中々やりますね」

「そっちこそ。だが、こんな場所だと本領は発揮できないんじゃないのか?」

「お互い様ですよ。続きはこの先でやることにしましょうか」

「賛成だ。逃げんじゃねえぞ」

「そちらこそ」

 

 

彼女はそう言い残すと階段を駆け上がっていった。

俺も彼女のあとを追うとしたその時、親しい気配を感じた。

 

 

「霊夢に魔理沙、それに咲夜か」

「はあ~やっと追いついたわ」

「神社に居なかったからもしかしたらと思ったが」

「まさか冥界まで異変解決に行ってるとは……貴方も無茶するわね」

『無茶してこそのユウキですからね~』

「それは褒め言葉なのか?」

「魔理沙、多分これは悪意ない悪口だ。気にしたら負けだぜ」

「そ、そうか」

「しかし、お前らもよく犯人がここに居るって分かったな」

「ほとんど霊夢の勘頼りで来たんだけど、ここまで的中してると逆に恐いわね」

「博麗の巫女の勘をなめない事ね。……そんな事よりもユウキ」

「ん?」

 

 

霊夢は俺の事を不機嫌そうな表情で睨みつけている。その視線は俺の腕の方に向いている。

よく見ると俺の腕にはさっきの戦闘で付いた斬り傷から血が滲み出ていた。傷付くことが多かったから、致命傷以外の傷には鈍感になってしまう。

 

 

「アンタ、また無茶して」

「無茶じゃねえよ。こんな傷、あの頃に比べれば掠り傷程度だ」

「そう言って、前の異変の時のことを忘れたの?」

「……俺の身体は俺が一番知ってる。気にすんな」

「アンタね……‼」

「そうだぜ、霊夢はお前のこと心配してこたつの中から這い出てきたのに」

「そうよ……って、何言ってんのよ魔理沙‼」

「そうですね。ユウキが居ない事を伝えたら慌てながら飛んでいきましたからね」

「咲夜‼ アンタも何言ってんのよ‼」

 

 

霊夢は顔を真っ赤にさせながら怒り出した。

確かに、この前の異変で俺は霊夢たちを庇って大けがをした。多分霊夢はその事で負い目を感じていたのだろう、今回も俺があんな無茶を仕出かすと思って心配していたのか。

こんなにも心配してくれる人が居るっていうのに、俺はまた前と同じことをしていた。

俺は詫びついでに霊夢の頭にそっと手を置くといつもの様に撫でる。

 

 

「……なによ」

「さっきはすまん。ちょっと頭に血が上りすぎてた」

「わかればいいのよ。あと、それはやめなさい」

「そう言いながらホントは嬉しい癖に~」

「魔理沙、余程私の夢想封印(物理)を喰らいたい様ね」

「あ、お先に行っているぜー‼」

「待てー‼」

「やれやれ、心配だから先に行かせてもらうわ」

 

 

そう言って三人は階段を登って……というより飛んでいった。飛行能力が羨ましいです。

 

 

「さて、俺らも行くか」

『うふふ』

「どうした、そんな嬉しそうに笑って」

『ユウキの雰囲気が「みんな」と一緒に居た頃に戻ったようで嬉しいんです』

「『みんな』と一緒に居た頃か、確かにそうかもしれないな」

『白楼剣で斬られた時に迷いも斬れたのでは?』

「そうだったらいいかもな」

 

 

俺はクスリと笑いながら階段を登っていく。

迷いが刀を鈍らせるというのなら、今の俺はさきよりもマシになっただろうな。

 

 

 

 

 




空亡「今回は結構いい描写ができましたよ」
美羽「一刀流と二刀流、これは見物ね」
空亡「美羽さんも同時に双剣ですからね。気になりますか?」
美羽「ユウキの事もそうだけど、何よりアンタの腕を見てみたい気持ちの方が強いわね」
空亡「プレッシャーをかけないでくれますか?」
美羽「あら、アンタの実力ってその程度なのね。期待外れだわ」
空亡「(プツン)……いいでしょう、魅せてあげますよ」
美羽「え?」
空亡「ラスボスよりも燃える描写を書いてアナタの事を見返して差し上げますよ‼」
美羽「期待してるわよ」
空亡「ということで、次回は現時点で過去最高の戦闘を魅せますので、どうかお楽しみに‼」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。