???side
あるところに一人の娘が居ました。
娘は有名な歌聖の子供で、彼女は父が愛した桜が好きでした。
父は己の望み通り満開に咲き誇るその桜の下で死に、娘はとても悲しみました。
それから、父を慕った者達がその後を追うように次々と満開に咲く桜の下で死にました。
桜は死んでいった者達の生気を吸い続け、やがて妖力を持った妖桜へと変わってしまう。
それは彼女自身にも影響を及ぼし、そして彼女は人を死へと誘う力を得てしまった。
死へと誘われた者には魂ない抜け殻になった者や自ら命を絶った者がいた。
彼女は次々と人を殺していくその力を呪い、疎い、嘆きました。
しかし、そんな彼女には一人の大切な友人が居ました。
彼女はその友人といるその時間だけ、あの忌まわしい力を忘れられていました。
だが、何度目になるか、その桜が満開に咲き誇るある日、彼女は自ら命を絶ちました。
その手に似握られた小太刀は血で染まり、地面には血で染まる桜花が広がっていた。
彼女は最期に目の前で咲き誇る桜を見て涙を流しました。
それは苦しみから解放された喜びの涙か、それともこの世の未練に対した後悔の涙か。
それは死んでしまった彼女の以外、誰にも分かりません。
友人は満開に咲き誇る桜の下で命を絶った彼女を見て涙を流しました。
笑顔を向けてくれた彼女を救ってやれない自分の非力さに、友人は嘆きました。
友人は彼女を抱きかかえ、その涙が言って木残らずかれるまで泣き続けました。
それからその桜の木に花が咲くことはなく、死ぬ者もいなくなりました。
何度輪廻を巡ろうと、幾度春が訪れようと、この桜、西行妖が咲くことは二度とない。
友人は見る影もなくなった西行妖を見てひとつの詩を詠いました。
富士見の娘、西行妖満開の時、幽明境を分かつ、
その魂、白玉楼中で安らむ様、西行妖の花を封印しこれを持って結界とする。
願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ………
神無 悠月side
「……そういうことか」
俺は紫の話を聴いてあの話の詳細を改めて理解した。
人の生を吸い過ぎて妖怪となってしまった西行妖の経緯、それに影響されて自らもそれと同じ力を得てしまった富士見の娘こと幽々子の心情、彼女の傍にいた一人の友人の存在、そして最後に書かれていた詩の意味、それらが紫の説明で納得のいく回答を導き出した。
「紫、アンタがその友人だったのか」
「あの頃の幽々子は世界に絶望していたわ。それこそ、死んでしまいたいほど」
『でも、あの話では幽々子さんは紫さんといてとても楽しそうでした』
「そうね。彼女はいつでも私を笑顔で出迎えてくれた。でも、それが逆に辛かった」
「そうれが彼女を救ってやれない自分の非力さを嘆いた、か」
「私でも西行妖を完全に封じることはできなかった。あれは人間の生気を吸い過ぎたのよ」
『二度と苦しみを味わうことの無い様、それは幽々子さんの能力についてですね』
「あの能力がある限り、幽々子は何度転生しようと苦しみ続けることになる。彼女もそれは理解していた。それでも、彼女は自らその命を絶ってしまったわ」
『でも、最後には封印できていたじゃありませんか‼』
「……紫、アンタが西行妖の封印に使ったのはまさか」
「そうよ。死んだ幽々子の遺体、それを鍵とすることで封印を施すことができた」
『でも、その代償に幽々子さんは二度と転生することなく、亡霊として存在している』
俺は薄れゆく幽々子の身体を見て事の重大さを実感する。
西行妖に施した封印は幽々子の身体を用いて完成させたもの。もしもその封印が解けてしまうと幽々子は生き返ってしまう。しかし生き返った彼女は千年の時の流れにより死に、今ここに居る幽々子ともども消滅してしまう。
つまり、西行妖の復活=幽々子の消滅という最悪の方程式が確立してしまう。
紫はいまだ目覚めることのない彼女を見て俯いている。
「情けないわね、賢者何て呼ばれてるくせにが大切な友人一人救えやしないなんて」
『紫さんは悪くありませんよ』
「それに、西行妖が復活すればこの幻想郷も危ないってのに、また私は何もできない」
「何も出来ないのは誰だって同じだ。俺だって結局何もできなかった」
『ユウキ……』
俺はさっきまでの自分の戦いを振り返って唇を噛んだ。
霊体さえも斬ることができる月美の攻撃さえも効かず、西行妖からは木の根や桜吹雪のによる攻撃で思ったように動けない。あれでは相手を倒す事以前に攻撃することも出来ない。
「“彼女”はいわば思念体、どんな攻撃だろうと通ることは無いわ」
「本当の亡霊か。でも、だからってアイツをどうにかしないと何もできないな」
『やはり本体である西行妖を叩くしか方法はないのでしょうか……』
「それでもあの桜吹雪と木の根がある。そう簡単にはいかねえよ」
「……もう、やめて」
幽々子は目を開けると弱々しい声でそう言った。そこには、さっきまで楽しそうに微笑んでいた面影は見る影もなくなり、文字通り今にも死にそうな顔をしていた。
その瞳にはあの“彼女”と同じ、救われることない絶望に染まっていた。
「幽々子……」
「元々これは私が招いた結果、貴女に重みを背負わせるわけにはいかないわ」
「待って、もう少し時間があればあれまた封印できる結界が……」
「貴女ならわかってるでしょ。もう時間なんてないわよ」
「でも……でも……‼」
「紫、今までこんな私と友達になってくれてありがとう。でも、もう……」
俺はその光景を見て自分の無力さを痛感した。
夢で出会った幽々子を救うためにここまで来たっていうのに、俺は何もできずに絶望に染まる二人の女性を見つめることしかできない。また俺は………………。
そんなとき、俺のスマホから聞き覚えのある着信音が鳴り響いた。場違いで陽気な音楽に二人の目を点にした視線が俺に突き刺さる。俺はバツの悪そうに電話に出ると、その向こうからここの空気とは場違いの明るい声が聞こえてきた。
『ユウキーまだ生きてるー?』
「やっぱりお前だったか、美羽」
『あら、何だか暗いわね。スキマ妖怪でも死んだのかしら?』
「不吉なこと言うじゃねえ。それよりどうした、こんな状況に」
『いや、何だかユウキがネガティブな思考に堕ちちゃった気がして』
「お前はエスパーかよ……で、何の用だ?」
『あ、当たってたんだ。まあ、アンタに言っておくことがあるからよ』
「何だよ?」
『アンタはどこまで行っても人間よ。それにだって限界はあるわ』
その言葉は俺の胸に突き刺さった。
「んな事は分かってる」
『分かってたらそんなに自分を責めないわよ。馬鹿』
「うるさい。これが俺だから仕方ねえだろ」
『そうね、こんなことこんなこと言ってもアンタは躊躇わずに前に進むのよね』
「誰に何と言われようが、そこに一つでも可能性があるのなら、俺は無理にでも掴むさ」
『うふふ、やっぱりアナタは私が惚れた人間だわ』
「言われても嬉しくねえ褒め言葉だな」
『ならさっさと終わらせなさい。あのお姫様を助けるんでしょ』
「ああ、お前も早く来いよ」
『言われなくても、四十秒で向かうわよ』
最後に美羽は笑って電話を切った。
アイツのお蔭でさっきまでのネガティブ思考がどこかに消え去った。なんだかんだ言いながら、俺もアイツに助けられているんだな。少しは感謝しておくか。
俺は吹っ切るように溜息を吐くと幽々子の傍へと歩み寄った。
「幽々子……」
「悠月……?」
「俺は人間だ、アンタの苦しみも悲しみも理解することも背負うことも出来ない」
「そうね、それが普通よ」
「でもさ、そう簡単に絶望なんてするな。アンタには大切に思ってくれる奴らが居るだろ?」
「え……?」
「必死になって主を守ろうとした少女も、今も泣きそうにしている妖怪も、アンタの事を大切に思っているからここまでしてやってるんじゃないのか?」
「それは……」
「それにさ、アンタは泣いているより、笑っている方が何倍も綺麗だぜ」
「…………そうね。その方がいいのかしらね」
「幽々子……」
「大丈夫。もうあんなことは言わないから」
幽々子は精一杯の笑顔を紫に向けるとそれを見た紫は泣きながら抱きついた。
それを見守った俺は結界の外へと出た。そのとき、幽々子から呼び止められた。
「悠月」
「大丈夫、俺がこの巫山戯た騒動を終わらせてやるよ」
『でもユウキ、あれほどの相手を倒すのは……』
「紫、アンタがさっき言ったよな、時間があれば封印を施すことができるって」
「ええ……まさか貴方‼」
紫が声を上げたその時、道の端から堕ち神の集団がぞろぞろと這い出てきた。だが、こいつらには堕ち神特有の雰囲気が微塵も感じられない。
しかし、こんな時に現れるなんて、今日はとことんツイてないらしい。
俺がその場を離れるか躊躇していた時、見慣れた閃光とナイフ、そして御札と針が目の前に堕ち神の集団を一瞬にして葬り去った。
「随分遅いご到着だな。お前ら」
俺が振り返った先には吹き飛ばされた三人とその他大勢が居た。
「その他大勢とは失礼ですね」
「サラッと心を読むんじゃねえ、咲妃」
「それくらい単純だってことよ、バカ」
「美羽、お前は後で拳骨決定な」
「あらあら、みんな相変わらず仲が良いですね~」
「お前は暢気すぎるんだよ、椿希」
「ったく、こんな状況でも緊張感がない奴等ね」
「いいじゃないですか。友人との再会は喜ぶべきことですよ」
「そう言いながら、霊夢はユウキにかまってもらえなくて不満なだけだろ?」
「魔理沙、一発喰らっとく?」
「遠慮しておくぜ」
「幽々子様、ご無事で?」
「大丈夫よ。それより、私の所為で無理させちゃって悪いかったわね」
「何を仰いますか。私は幽々子様の盾、いかなる敵であろうと貴女様をお守りします」
「うふふ。やっぱり妖夢は頼りになるわね」
「紫、封印を施すまでにかかる時間はどれくらいだ?」
「最短でも十分は掛かるわ。それまでにどうにか弱らせれば……」
『十分ですか……』
「十分ぐらいなら耐えられるさ。このメンバーならな」
俺はこの場にいる全員を見てそう確信する。
これならあの西行妖と堕ち神の集団に太刀打ちできる。
「よし、霊夢と紫は西行妖を封印するための結界を組み立ててくれ。魔理沙と咲夜、あと妖夢は紫たちの邪魔になる周囲の堕ち神を撃退、残りのメンバーは好き勝手やってくれ‼」
「任せなさい。これなら役に立てるしね」
「一秒でも早く仕上げるわ」
「よっしゃあ‼ 腕が鳴るぜ」
「時間を止めてでも食い止めてみせるわ」
「この命に代えてもお守りいたします」
みんながそれぞれの意気込みを告げると俺と残りは西行妖の方へと見直す。
「ふふ、こうしていると二年前の事を思い出しますね~」
「あの時もこうして手を組んでたんだっけ? 黒歴史だわ」
「私も、あの姉とまた共戦するんは勘弁してほしいですね」
「嘆くのは後だ。お前ら、露払いは任せるぜ」
「「「任せなさい/任せてください/任せてくなのです」」」
「魂を殺す桜と神を殺す刀、どっちが強いのか勝負と行こうぜ」
俺は黒い指輪のネックレスを、美羽は二つの鍵のペンダントを、先は青い宝石の銀の懐中時計を、椿希は桜花を象ったブレスレットを、俺らはそれぞれの『鍵』を手に取った。
「絆を紡げ――夢刀・月美」
「御心のままに――創剣・メシア」
「真実を見据え――漸刀・霧恵」
「生命を咲かせ――儚刀・桜良」
掛け声と共にそれぞれが自分の刀と剣を手に取ると堕ち神の群れ中へと突っ込んだ。
ここからは疾風怒濤の延長戦だ。楽しませてもらうぜ‼
空亡「今回は張り切りましたよ」
美羽「冒頭の話、あれ本当にアンタが考えたの?」
空亡「自分で言うのもなんですけど、ちょっと長すぎましたね」
美羽「本気でやったら一話分使い切りそうね」
空亡「そんなことより、いよいよ妖々夢も佳境を迎えますよ」
美羽「あんなに大口叩いたからには、それなりの仕事はするつもりよ」
空亡「期待していますけど、美羽さんの出番はあまりないですよ」
美羽「うん、分かってたわ、なんとなく」
空亡「そういうことで、次回は西行妖との最終決戦です、お楽しみに‼」