神無悠月side
「……知らない天井だ」
俺は目の前にある天井を見て呟いた。
身体を起こすと目を擦りながら周りを見回す。俺がいたのは見知らぬ和室の部屋だった。
寝惚けて記憶が曖昧になっているからか、今の状況が全く呑み込めていない。
取り敢えず俺はもう一度目を閉じて昨日の出来事を思い返し、そして思い出す。
美羽に出会い、落とされた俺は人と妖が共に暮らす理想郷、幻想郷にいるのだと。
そしてここは博麗神社、この神社の巫女である霊夢に昨日は泊まらせてもらった事、否、住まわせてもらっていることを。
「……面倒事は嫌いだ」
頭を掻きながら手元にあったスマホの画面を開く。時刻は朝の四時を表示していた。
俺は寝惚けたまま立ち上がると傍に置いてあった黒いパーカーへと着替える。襖を開けて縁側へと出るとまだ太陽は昇り始めたところだった。
「……素振り、やらなくちゃな」
俺はそう言うと寝惚け眼のまま境内へと向かった。
世界が変わろうと、俺の生活習慣は変わることが無いようだ。
少年祈祷中
「九百八十五……九百八十六……九百八十七……」
俺は境内の隅で一人静かに素振りをしていた。
いつもなら自前の木刀でするのだが、それは家に置いてきてしまった。
今日はその代りに美羽から受け取った刀を使っているのだが、帯刀されたままなので振りにくい。
「九百九十八……九百九十九……千」
素振りを終えた俺は刀を鞘に戻すと近くに置いてあった箒を手に取った。
素振りの次は境内の掃除、それがいつの間にか日課になってしまった。
空の方を見ると太陽が昇り始めていた。
「始めるか」
少年掃除中
「随分と広いな、この境内は」
俺は箒をはたきながらそう呟いた。
昨日はそこまで見なかったが、ざっと五十人ほどは入れるほどの広さがある。もしかしてこの場所は宴会などに使われたりもするのだろうか?
そういえば、幻想郷を調べ立時に気付いたことなのが、どうやらこの幻想郷では元の世界の常識がほとんど通用しないということが分かった。
その中でも驚いたのが“空を飛ぶ”ことだった。大抵の妖は空を飛ぶのが当たり前だが、まさか人が空を飛ぶことが出来るとは驚きだった。
霊夢も『空を飛ぶ程度の能力』のおかげでその名の通り空を飛ぶことが出来るらしい。
地上戦しかできない俺にとってはいささか不利な環境だ。
「終わりだな」
落ち葉やごみを境内の隅に集めると俺は箒を傍に置いてその場を後にした。
さて、この次は朝食の準備だ。霊夢が起きてくる前に早く済ませておかないとな。
結局、やることはいつもの日常とあまり変わりなかった。
少年調理中
「よし、準備完了」
朝食を卓袱台に並べ終ると満足気に呟いた。
時間を見るともう六時を過ぎていた。もうそろそろ霊夢も起きてくる頃だろうか?
そう思っていると後ろの襖がゆっくりと開いた。そこには眠たそうに目を掻いている霊夢の姿があった。
「ふぁ~あ、よく寝たわ~」
「おはよう霊夢」
「おはよう。あら、美味しそうね」
「出来たばっかりだからな、早く顔洗ってこい」
「そうするわ~」
そう言って寝惚け眼のまま霊夢は廊下を歩いて行った。
何だかこのやり取りも家にいた時とそう変わりない気がする。違うのは人数だけか。
これだから部活メンバーに“主夫”と呼ばれてからかわれているのかと、改めて実感した。
少年少女祈祷中
「ご馳走様」
「お粗末様」
俺は使い終わった食器をお盆に乗せるとそのまま台所へと向かった。
「悪いわね、朝食の準備までさせちゃって」
「別にいいよ、こっちもほぼ無意識にやってることだからな」
「悠月って一人暮らしでもしてたの?」
「寮に入ってからは一人暮らしだったが、それ以前に調理全般が日課だったからな」
「そういえば言ってたわね」
「まあ、これも苦労の賜物だな」
俺は洗い物をしながら溜息を吐く。
今頃あのバカップルは俺のお土産の話でもしてイチャイチャしているだろう。そう思うと嫉妬にも似たどす黒い感情がふつふつと湧き上がってくる。
「色々大変なのね、アンタも」
そう言って霊夢はお茶を飲み干した。
少年少女祈祷中
「……綺麗だな」
俺は博麗神社の鳥居から一望しながらそう呟いた。
そこに広がっていたのは、現代では滅多にお目に掛かれないありのままの自然が存在している美しい風景だった。幻想郷が理想郷と呼ばれる意味がよく分かる。
けれど不思議だった。初めて見たはずの景色なのに、なぜか見覚えがあった。それは遠い昔の記憶というより、映画のワンシーンのように無意識に記憶に残っているようだった。
「――そうだ、あの夢」
その時、鳥居の上で巫女さんと話した夢を見たのを思い出した。
あの夢を見たのは旅行が決まる前日の夜。そして、あの夢で見た景色も鳥居から見た景色だった。俺の夢は面倒事の前兆だ、もしかしたらあの夢の場所は……………………。
「――だとすると、あの巫女と霊夢は」
夢で見た巫女と霊夢を頭の中で比べてみるとあることに気付いた。
そういえば、あの巫女と霊夢が着ていた巫女装束、よくよく考えてみれば腋の部分が無いんだよな…………………………何で腋の部分が無いんだ?
いや、他の神社の巫女装束にケチをつけるわけじゃないが、そもそもウチの神社の巫女装束も紅白に対して紅黒で少し暗いイメージがあるのだが、まあ嫌いじゃないから気にはしない。
でも、あの巫女装束はどう考えてもおかしい気がする。袖の部分は繋がっていないはずなのになぜ落ちないのか、冬とか大丈夫なのか、そもそも巫女装束って清楚な服装じゃなかったっけ?
「――十人十色、人それぞれだな」
話が妙な方向に逸れてしまい、服装はその人の個性という結論に至った。
「天気も良いことだし、昼寝でもするか」
そう言うと俺は鳥居の上で寝転がった。
昨日と同様に、雲一つない青空と燦々と照り続ける太陽の下で俺は眠りに落ちた。
悠月「なあ、夢の話ってここで出たか?」
空亡「ああ、それは僕が一話に書こうと思っていた内容ですね」
悠月「で、それはいったいどこに行ったんだ?」
空亡「ゴミ箱からも削除されました」
悠月「つまり、完全に駄作者のミスということか」
空亡「まあ、詳しい内容はユウキが心の中で説明していますからいいでしょう」
悠月「おい」
空亡「ちなみに、あとがき内ではメタ発言とかそういうのもあるで」
悠月「それは第一話で言っておくべきだろ」
空亡「忘れてました。それと、感想なども随時受け付けて追いますのでどうぞよろしくお願いします」