神無 悠月side
「「「「はあ‼」」」」
静寂だった冥界に複数の刃の音がこだまする。
俺は刀で斬り払いながら前に進み、時折鞘で防御しながら相手を蹴散らす。
咲妃は幾本のナイフを遠距離の敵に投擲し、至近距離の相手の喉元を掻っ切る。
椿希は脆く砕けそうな刀を器用に使いこなし、そこにはある種の美しさがあった。
美羽は二本の剣を巧みに操り、まるで舞台で踊っているかのように敵を斬り裂く。
「こういうのも久しぶりだな」
「一騎当千の戦いなんて、二年ぶりですからね」
「私はこういうのより真剣勝負の方が好きです~」
「あ~あ、ここまで歯ごたえが無いと正直興醒めね」
『あの、それ以上言うとフラグが……』
その瞬間、西行妖から桜吹雪と木の根が俺たちに襲い掛かってきた。
それぞれ寸前のところで跳んでそれを回避するが全員等しく四方に散らばった。
「おい、大丈夫か」
「こっちはどうでもいいですから、ユウキは先に行ってください」
「私たちなら何とかなりますから~」
「ボスを倒すのは主役の役目でしょ? さっさと行きなさい」
「……その程度の相手に負けんじゃねえぞ」
「「「そっちこそ」」」
「さあ、真っ向勝負と行こうか‼」
俺は走りだすと真っ先に西行妖の前にいる“幽々子”の下へと迷わず向かった。
“彼女”は再び立ち向かってくる獲物を見て口元を吊り上げた。そして小太刀を振りかざして桜吹雪の弾幕を放つと同時に地面から木の根が襲い掛かる。
『もうそんなに屈しません‼』
「行くぜ月美、振り落とされるんじゃねえぞ」
『愚問です‼』
月美を強く握りしめると力任せで思い切り振り払う。その一振りは迫り切る桜吹雪を吹き飛ばした。その隙に走りだすと周囲の木の根を切り刻みながら前へ進む。俺が通った跡には無残に散った桜花と木の根の残骸が散らばっていた。
「――人間というのは本当に愚かね」
「その愚か者にアンタは倒されるんだぜ」
「――フフフ、攻撃が通らない私にどうするつもりかしら?」
「それは視てからのお楽しみだぜ」
「――無駄口が叩けないように殺してあげるわ」
「やれるもんならやってみな」
「――その命、散らせてあげるから感謝しなさい、神無ノ御子」
「その魂、終わらせるついでに清めてやるから覚悟しな、墨染めの桜」
互いに睨み合うと俺は真っ先に“彼女”の下へと走った。
「――行くわよ、亡郷『亡我郷』
“彼女”の周りから霊体が三列に並んで左右に広がるとふよふよと曲がりながら迫ってきた。器用に避けながら弾幕を放つが彼女から放たれたレーザーによってそれは薙ぎ払われてしまった。そのレーザーは弾幕を消し去ってもな俺の方へと向かってきた。
レーザーの合間を潜り抜ける時、俺はホルダーから一枚のカードを取り出した。
そこには雪降る中、優しく微笑んでいるレティの姿が描かれていた。
「反撃だぜ。寒喜『クリスタルフラワー』」
発動させると同時にスペカをレーザーに滑らせるとそれは氷のように凍り付いていき、最後には“彼女”の手元まで凍り付いて花の様にあでやかに散った。
「――っ、亡舞『生者必滅の理』」
“彼女”が両腕を広げるとその背後に大きな扇子が展開された。それは幽々子が持っていた扇子の柄とよく似ていたが、その色はとても禍々しく見える。
扇子からは色鮮やかな蝶の群れが目の前の景色を覆い、それに一瞬だけ見惚れてしまった。しかし、その隙を狙った大玉の弾幕に気付かず、被弾してしまった。
「……っ‼」
『なに見惚れてるのですか‼』
「いあ、あまりにも綺麗だったからつい」
『それにやられたらお笑い種ですね』
俺は苦笑いしながらスペカを取り出す。
そこには青空の中、両腕を広げて笑っているリリーが描かれている。
「ちゃんと借りは返すさ。春花『スプリングホワイト』」
俺が“彼女”の大玉の弾幕を踏みつけながら進んでいくと、それは白と黒の弾幕になって弾けた。弾幕を辿って“彼女”の下まで近づくと俺はその頭上から刀を振り下ろした。
しかし、案の定その攻撃は“彼女”の身体をすり抜け、再び地面に足を着けた。
「――無駄だというのが分からない?」
「無駄だとしても、それをやるのが俺らなんだよ」
「――理解できないわね」
「燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや、それが答えだよ」
「――やっぱり目障りね、華霊『バタフライディル―ジョン』」
“彼女”は俺を蔑むような眼で見ると小太刀を突きだした。それに従うように扇子から弾幕が放たれ、それに共に霊体の群れが俺に向かって飛んで来た。弾幕を避けていくと霊体の群れが互いにぶつかり花火のように展開するとまた分離して俺の後を追ってくる。
俺は立ち止って霊体の動きを見定めながらスペカを取り出す。
そこにはマヨヒガの中、たくさんの猫たちと戯れる橙のが描かれていた。
「面倒だな‼ 奇談『欲無き者の道標』」
霊体が合わさるタイミングに合わせてそのど真ん中を跳び越えると霊体の群れを一掃する。
スペカが橙色に光りだすと一本のレーザーが放たれ、それが弾幕を避けるように幾重にも枝分かれを繰り返しながら扇子に直撃する。その衝撃で扇子は消え去った。
「――やるわね。幽曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ』」
“彼女”の周りに五つの蝶の群れが花を開くように展開され、それぞれ分裂と拡散をして放射状に広がる。それが終わると今度は無数の蝶の群れが俺を追うように飛び交ってきた。
俺は弾幕の隙を見つけるとスペカを取り出す。
そこには舞台の上、それぞれの楽器を手に演奏するプリズムリバー姉妹が描かれている。
「響かせる。詩奏『ロストレクイエム』」
目の前に六本の弦が現れるとそれぞれの弦で奏でるように手で弾く。弾く度にそれらから黄色と青と赤の音符が“彼女”に向かって放たれ、蝶の弾幕に当たる度に賑やかな音色が冥界に響き渡る。
「どうだ? 少しは効いただろ」
「――なんで、私は完全な霊体の筈なのに」
『物理が効かないのなら、それ以外の方法で叩く』
「鬱・躁・幻想・現の音を合わせた鎮魂歌だ。お前にはピッタリだろ」
「――調子に乗らないで‼ 桜符『完全なる黒染めの桜』」
“彼女”は再び扇子を出現させると大玉の弾幕を放ってきた。それを斬り払うと“彼女”の左右には蝶の弾幕が展開され、“彼女”の合図でそれは放射状に分離と拡散をして放たれる。また西行妖からの桜吹雪の弾幕も交わり、避けるのが困難になってきた。
俺は弾幕を振り払って一掃するとスペカを取り出す。
そこには桜吹雪の中、白楼剣と楼観剣を構えている妖夢が描かれている。
「月美、ここは一著やるか」
『はい、あの亡霊に目に物見せてやりましょう』
「もってけ‼ 桜刃『反魂亡霊舞汰斬』」
俺は刀を振り上げるとそこに全霊力を集めるように力を込めた。弾幕が容赦なく俺の身体に向かってくるその瞬間、斬り下げると共に放たれた超高密度の斬撃波が“彼女”の弾幕とその本体でもある西行妖もろとも文字通り『ぶった斬った』。
その攻撃が効いたのか“彼女”の表情が少しだけ辛そうになっていた。
「――どうして、こんな……」
「思い知ったか。これが人間の底力だ」
「――なんで、貴方は私に恐怖していたはず」
「ああ、それりゃ怖かったさ。自分で自分を殺そうとするんだからな」
「――じゃあ」
「でもさ、思えば俺ってお世辞にも自分の命なんて大事にも思ったことなかったしな」
「――え?」
「だから今更、死ぬことへの恐怖なんてねえんだよ。それに……」
「――?」
「“アンタ”を恐がれば、それは幽々子の事を恐がってるのと同じになっちまうからな」
「――貴方、一体何者?」
「ふ、綺麗な景色が好きなだけのただの人間だ、憶えておけ」
俺は口元をニヤッとさせながら刀を向けた。
“彼女”は何かを考えるようにしばらく俯くと再び顔を上げた。その瞳にはさっきまで無かった光が再び戻ってきているように見た。
「――終わりにしましょうか」
「そうだな、その方がアンタの為なんだろうな……」
俺らは互いに最後のスペカを手に取った。
そこには咲き誇る桜の下、楽しそうに優しく笑っている幽々子が描かれている。
「――『反魂蝶 ―満開―』」
その瞬間、西行妖の花が満開に咲き誇り、そこから蝶と桜吹雪が舞い上がりレーザーと共に俺の方へと飛んで来た。その光景はとても美しく、戦闘中の俺の心を奪うほどだった。
「綺麗だな」
『そうですね。これが命懸けの戦いだと忘れる程です』
前に魔理沙が弾幕ごっこは個性の美しさが出る戦いだといっていたが、これを見ているとその言葉の意味がよく分かったような気がした。
幽々子の弾幕はあくまで勝負のためではなく、魅せるためのモノだと理解した。
「だったら、それに応えないといけないよな‼」
俺は懐から春度の入った小瓶をありったけ持ち出すとそれらを空中へと放り投げて斬り裂いた。その時、西行妖の弾幕が俺に直撃する瞬間に舞い散った春度は俺の目の前にあつまると小さな結界となり弾幕を防いだ。同時に結界が散るとそれは波紋のように冥界全土へと広がり、飛び交う弾幕を一瞬にして桜花に変えた。
「――‼ いつの間に森羅結界を」
「さあ仕上げだ‼ 淡蝶『誕生と最期を飾る美しき桜』」
スペカを高く放り投げて斬り裂くと森羅結界によって桜花に変わった弾幕が放り投げられたスペカへと徐々に集まっていき、全ての桜花が集まっるとそれらは上空へと上がり、そして冥界の空に花開きその花弁で冥界中を埋め尽くした。
その光景にその場で戦っていた者達の視線が釘付けとなる。それは“彼女”も例外ではなく、ただ純粋に心奪われその光景に見惚れていた。
「――綺麗ね」
「ふ、これくらいの手向けはできるだろ」
「――何故、最後に攻撃しなかったの?」
「このスペカは攻撃用じゃなく、ただの演出用だ。当たったところで痛くもねえよ」
「――今代の御子も変わってるわね」
「よく言われるよ」
俺がそう言うと“彼女”は苦笑いをした。
そこには死へと誘う残酷な笑みなどなく、生きているような心からの笑顔だけがあった。
「……ユウキ」
「紫か、もう準備はできたのか」
「ええ、貴方のお蔭でなんとか最後の術式は完成したわ」
「これでもう、西行妖が目覚めることは無いか」
「そういうことね。あとは詠唱を唱えるだけよ」
「悪いが紫、その役は俺にやらせてくれないか?」
「……いいわよ。最後は貴方が締めなさい」
紫はやり切った表情でそう言うと幽々子の下へと戻って行った。
俺は改めて“彼女”と向き合う。
「聞いてた通り、これで最後だ」
「――そうね。妖怪は妖怪らしく、最後は退治されるのね」
「アンタ、妖怪じゃなくて堕ち神だろ?」
「――気付いてたのね」
「戦う前にしっかりと神無ノ御子っと呼んでただろうが」
「――ウフフ、とんだ失態ね」
“彼女”は着物の袖で口元を隠しながら微笑んだ。
「――“あの子”から聞いてた通り、貴方は優しいのね」
「“あの子”? って誰だよ」
「――今の貴方は知らなくてもいいわ。後で知ることになるから」
「そうかよ。やっぱりアンタも堕ち神だな」
「――どういう意味かしら?」
「言葉のままだよ。バーカ」
俺は茶化すようにそう言い放つと“彼女”に背中を向けた。
「……達者でな。“西行妖”」
「――ええ、今度会う時は……そうね、桜が満開になった時がいいわね」
「その時は真っ先に遭いに来てやるよ。必ずな」
「――約束よ」
「ああ」
俺は桜花舞う冥界の空を眺めながら封印の詠唱を始めた。
「富士見の娘、西行妖満開の時、幽明境を分かつ、
その魂、白玉楼中で安らむ様、西行妖の花を封印しこれを持って結界とする。
願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ………
そして叶うなら、哀しき業を背負った桜に、もう一度花咲く時が訪れんことを………」
そして、長い冬の異変は遅すぎた春の訪れと共に終わりを告げた。
空亡「春雪異変、無事解決ですね」
美羽「今回は一段と自分勝手な異変だったわね」
空亡「好奇心は亡霊を殺す、なんともいい言葉を思いつきましたよ」
美羽「まあ、私の出番が少しあっただけで満足だから、特にいう事はないわね」
空亡「それよりも、どうでしたか幽々子さんとの絆スペルは」
美羽「……綺麗だったわね。不覚にも魅入ってしまったわ」
空亡「アナタに見惚れられるほどのスペカなら、僕も安心ですね」
美羽「どういう意味よ?」
空亡「なあに、ただの人間の戯言です。特に意味なんてありません」
美羽「よく言うわね。最後にあんな和歌まで用意してたくせに」
空亡「恐縮です。では、次回は恒例の宴会です、最後まで楽しみにしていてください」