神無 悠月side
「やっぱり、春はいいものだな~」
俺は鳥居の上でお茶をすすりながら桜の咲き誇り景色を堪能していた。
紫の話だと西行妖を封印した後、幻想郷を覆うように桜花が広がっていき、それに伴うように雪が解けて桜が花開いたらしい。それを見た彼女は神降ろしを見たようだったと少し嬉しそうに語っていた。
その後、幽々子はしばらく目を覚まさなかったが、どうやら西行妖の影響はもうないらしい。もし起きたとしてもあの日の出来事は憶えていないだろうとも言っていた。
そういえば、あの時に現れた堕ち神のことだが、結局どうしてあの時アイツ等が現れたのかは未だに謎である。美羽によれば、今回は西行妖の力によって殺された怨霊が実体化した姿だったらしく、それがたまたま堕ち神の形状に似ていただけの話らしい。
あの後、美羽に俺を幻想入りさせた理由を問いただそうしたがいつの間にか逃げられ、その代わりメールに一通だけ着信があり、その内容は『序盤でネタバレするのは三流作者のすることよ』とだけ書かれていた。要約すると教える気は更々ないようだ。
「ほとけには桜の花をたてまつれ、我が後の世を人とぶらはば」
『その和歌、西行法師のですね』
「そう。今回の異変の事を思ったら自然と出てきたんだよ」
『西行寺と西行法師ですか、中々洒落が聞いてますね』
「それに、西行法師も桜を愛していたっていう話もあるからな。案外他人じゃねえかもな」
『たしかに、そうですね』
俺は雲一つない陽気な青空を見上げながらその意味を思い出す。
そは「もし私が死んで、弔ってくれる人がいるならば、どうか桜の花を添えて欲しい」という意味。それと共に「願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」と自ら桜の下で死を迎えることを望んだ歌も残っている。
西行法師関連の書物には娘が居たという記述もあるが、これではどうも核心をつけない。
『でも、元はといえばその和歌がすべての始まりだった気がします』
「そうだな。幽々子の父親が桜の下で死ななければそこで後を追う者もいなかった」
『もしそうだったら、幽々子さんはあんなにも苦しまずに済んだはずなのに』
「過ぎたことを悔やんで仕方ない。所詮、俺は人間だからな」
『ユウキが言っても説得力がない気がします』
「それもそうだな」
余計なことなど考えず、俺は傍に置いてある団子へと手を伸ばした。
「やっぱり花見をしながら食べる団子は格別だな」
『私は食べることができないのでこの風景を楽しむことしかできせんね』
「はは、そうだな。……アンタもそう思うだろ? 紫」
「気付いていたのね」
俺は団子を頬張りながら視線を動かさずにそう言うと俺の隣の空間にスキマが現れ、その中から紫が出てきた。相変わらずその表情は胡散臭い賢者の面持ちだ。
彼女は俺の隣に腰を下ろすと傍に置いてある団子を手に取って食べた。
「いつも通り、美味しいわね」
「何自然に俺の団子を食べてやがる。もう少し遠慮しろ」
「あら、その御代はどこの誰から貰ったお金で払ったモノなのかしらね?」
「は? これは賽銭箱に入ってた金で…………まさか」
「うふふ。どうかしたのかしら?」
「アンタだったのか、毎月一万円もいれてくる気前のいい参拝客は」
「貴方達に野垂れ死んでもらったら困るのよ」
「それどうも、痛み入るね」
『素直にお礼を言えばいいのに…………やっぱりユウキですね』
「何か言ったか?」
『いえ、何も』
月美のことをジト目で睨むが彼女はそっぽを向いてスマホの奥へと逃げていった。
「ったく」
「仲が良いのね」
「うるさい。……今日は何の用だよ」
「霊夢に宴会のお誘いをしに来たのよ」
「お誘いというより、お願いの間違いのじゃないのか?」
「そうかもしれないわね。準備してもらうのはそっちですもの」
「少しは手伝う気位みせてもいいんじゃないのか?」
「大丈夫よ。藍を向かわせるから」
「てめえだけはいつかブッ倒す」
「やれるものならやってみなさい」
紫は余裕の笑みを俺に向けながらまた一本団子を頬ばる。行き場のない怒りをぶつけるように俺は団子を素早く頬張った。
「アンタがその調子だってことは、幽々子が目覚めたのか」
「察しの通り、幽々子がさっき目を覚ましたわ」
「それはよかった、正直に冷や冷やしてたからな」
「幸いなことに、西行妖が復活していた時の記憶はないわ」
「まあ、その方が本人にとって一番の幸せかもしれないな。それ以外は大丈夫なのか?」
「目を覚ましてからの一言が『お腹減った~』だから、大丈夫ね」
「……何故だろう、この後に面倒な事が起こるフラグが立つ予感が」
「残念ながら、その予感は当たると思うわよ」
「マジかよ……」
俺はこれからの苦労を考えると溜息を吐いた。
「ねえ、一つ聞いてもいいかしら?」
「なんだよ、もう何言われても驚かねえぞ」
俺が観念するように顔を上げると、紫の雰囲気が真剣になっていた。
それを感じただけで、俺は彼女の質問をなんとなく察することができた。
「西行妖についてか?」
「そうね。正確にいうなら、貴方がとった最後の行動の意味が知りたいわ」
「封印の時に付け加えたあの歌か?」
「……どうしてあんなのを?」
「“アイツ”はただ咲きたかっただけなんじゃないのかなって思ってさ」
「え?」
「人を殺すとか封印を解く以前に、“アイツ”は他の桜と同じ様に咲きたかったのじゃないのか? それがいつの間にか死へと誘う桜として恐れられ、そして二度と芽吹くことは無くなった。そう思うとさ、あまりにも可哀想に思えてな」
「だから、あの歌を」
「叶うなら、俺はもう一度“アイツ”が咲き誇る姿を見たいと思ってな」
「……変わってるわね。たかが妖怪にそこまで思い入れるなんて」
「それを言ったらアンタも同じだよ。紫」
「それもそうね」
余計なことなど考えず、俺は傍に置いてある団子へと手を伸b……すと見せかけて団子を盗ろうとした彼女の腕を思い切り掴んだ。掴まれた腕は驚いてビクッと振るえると俺の手を振りほどこうともがく。しかし、強く握られた俺の手はびくともしない。
「ユ、ユウキ? 離してくれないかしら?」
「俺から最後の一本を奪う事は許さん。それがたとえアンタでもな」
俺は最後の一本を頬ばると残念がる彼女を尻目に鳥居から飛び降りた。
今のウチに宴会の準備でも始めるか、そうもう思いながら神社の奥へと歩いて行った。
少年祈祷中
「お堅い話は抜きにして、宴会始めるわよ‼」
「「「「「「「「「「「「おお‼」」」」」」」」」」」」
前回同様、霊夢の無駄にやる気な音頭により宴会が始まった。
今回はいつもの境内ではなく博麗神社の敷地の中でも桜を望めるお花見には最適の場所を使っている。今度から春が待ち遠しくなってしまう。
宴会も始まったばっかりだというのに各場所ではもうすでに賑やかだった。
視線を巡らせれば、霊夢と紫が一緒に酒を呑み交わしていた。二人が話していると霊夢は俺の方を一瞬だけ見て顔を赤くして目を逸らした。紫はそれを見て楽しそうに笑っている。またなにか言ったのだろう、霊夢も苦労してるな。
所変わって、今度は魔理沙とアリスが見つけた。何やら話し合っているようにも見えるが、その話の内容は弾幕は頭脳か力かという、聞く必要もないような話だ。ああ言ってても結構仲が良いんだな、その傍の人形たちも温かく見守っている。
視線を移すと、次は咲夜と妖夢と藍がなんだか疲れ切った表情で料理を食べていた。なんとなく理由は自分の主について話し合ったんだろうな。俺も咲妃とその事について話し合ったらああいう風になるし。とりあえず後で何か渡しておこう。
遠くでは、チルノと橙とリリーが弾幕ごっこをして遊んでいる。たまにああいう光景を見ると心が洗われる。そういえばさっきチルノがあの時の事を謝ってきていたが別にそんな事なんて気にしてなかったからな、あとで遊んでやるか。
桜の木の近くには、さっきまで演奏してくれていたプリズムリバー三姉妹が楽しく談笑していた。あの時に聴いた演奏をまたこうして聞けたことが嬉しかった。時折ルナサと目が合うと顔を赤くして逸らされたのだが、一体なんだのだろうか。
「なんだか、異変が起こる度に賑やかになっていくな。ここは」
『ふふ、皮肉ですがその通りですね』
「できることならもう少し他人に迷惑の掛からない異変を起こしてもらいたいものだぜ」
「それはさすがに無茶ですよ~」
「いくら何でも我が儘な願いね」
そう言いながら咲妃と椿希は俺の隣に腰を下ろした。
二人の皿には各場所で取ってきた料理が盛り付けられている。
「相変わらずユウキの料理は美味しいわね」
「そうですね~私なんて敵わないですよ~」
『ユウキの料理のスキルは部活メンバーの中でも随一ですからね』
「お前ら、俺にお世辞を言っても何も出ねえぞ」
「あら、お世辞じゃなくて事実よ」
「先輩はもう少し自分に自信を持ちましょうよ~」
『そうそう、ユウキだっていつか立派なおy……お婿さんになれますから‼』
「おい、今お嫁さんって言おうとしただろ?」
『さ、さあ、どうしょうね?』
「ったく、馬鹿正直はつらいな……」
「どこに行くのかしら?」
「桜が綺麗な場所だよ。悪いが、今度こそ一人にしてくれよ」
「釣れないですね~」
「お生憎様、俺は団子より花なんだよ」
俺はそう言い残すとその場を後にした。
こういう時は一人静かに花見をするのが俺の楽しみだからな。
少年祈祷中
「どこか花見に最適な桜の木はないかな……」
桜が咲く森の中を歩きながらそう呟いた。
博麗神社の桜も綺麗だったが、俺には何か物足りない気がしたのでこうして宴会から出てまで花見に似合う桜の木を探している。これでまた迷子になったら今度こそ月美に馬鹿にされる、そんな考えが俺の頭を過った。
しばらく歩いていると森の中の開けた場所に出た。ここはたしか神社の裏手にある森の中だっと記憶している。なによりも一度、霊夢が案内してくれたのを覚えている。
安心して手を撫で下ろしたその時、その目の前を一枚の桜花が舞い落ちた。咄嗟に桜花の後を辿って視線を向けた。その先には一本の桜の木があった。
「……………………わぁ」
俺は目の前で咲き誇る桜を見て思わず声を上げた。
多種多様の花畑の中に一本、春の訪れを待っていたかのように満開に咲き誇る桜の木があった。それは他の桜の木と何も変わり無いはずなのに、何故かそれを見ていると懐かしさにも似た感情が蘇る。それはまるで“前に一度見たことのあるような”感覚だった。
しかし、俺はそんな事を考えるよりも目の前の桜に見惚れていた。故に気付かなかった、俺と同じように桜を眺めている桃色の髪をした女性の存在に。
「あら、貴方もこれを見に来たの?」
「幽々子……」
そこにいた幽々子は俺の方へと振り返り、優しく微笑みかけた。
「アンタこそ、なんでここに?」
「なんだか懐かしい春を感じたから、それを辿ってたらここについちゃったのよ」
「懐かしい春?」
「そう、まるで死んでしまった人を想っていたような、そんな感じよ」
「……どういう意味だ?」
「さあ、私にも分からないわ~」
幽々子は扇子で口元を隠すとさっきの話なんて無かったようにあっけらかんとして笑う。
椿希が幽々子のところに居候している理由がなんとなく分かった気がする。
「それじゃあ、難しい話は後にして花見でもするか」
「あら、いいわね~」
「アンタはどこを見て言ってんだよ?」
「勿論、貴方の手に持っているお団子よ~」
「紫に聞いてた通り、花より団子の性格だな」
「うふふ、そんなこと言わずにお花見を楽しみましょう」
「やれやれ、どいつもこいつも……」
俺は呆れつつも少し嬉しそうに頬を緩ませながら先に行く幽々子のあとを追う。
その時の彼女の笑顔は、どの桜の花よりも美しく咲き誇っていた。
明星 美羽side
「あ~疲れた~」
ハザマに帰ってきた私は持ち込んでいたベットの上に倒れ込んだ。
春雪異変のその後、ユウキから逃げるように戻ってきた私は美命様の命令でこれまでの異変に関する報告とユウキとその周囲の状況の変化をレポートにまとめていた。
その理由は今回の独断行動、いくらユウキを助けるためとはいえあの人の命令なしに動いた私は当然罰せられる。ま、その罰がまだレポート提出だけで済んで幸運だった。
「にしてもマリィめ、裏切りないわよーー‼」
私はベットの上で仰向けになると怒りをぶつけるように吠えた。
お気付きだろうが、マリィはスキマ妖怪との対決後に美命様の命令でいなくっていた。それが功を奏したのか、彼女は御咎めなしという結果となった。
いつか仕返してやると心に決意しながら枕元に置いてあった一枚の写真を手に取る。それは顔を背けながらも私と一緒に映ってくれたユウキとのツーショットだ。
「あ~やっぱりユウキは素敵ね♪」
「おやおや、ヤンデレ姫は随分と純情な事をしてるわね」
「……誰‼」
ベットから起き上がると私は声のした方に咄嗟に視線を向けた。
そこには真っ赤な上着と黒いスカートをはいた紅い長髪の女性が優雅に紅茶を飲んでいた。
私はその人物を見て怒りよりも先に苦手意識の方が出てしまった。
「紅城 楓恋、今度は貴女が私のお目付け役かしら?」
「さあ? 美命からは『ちょっと遊び相手になってやってください』としか聞いてないわ」
「とんだ嫌がらせね。私ってそこまで何かやったかしら?」
「やったでしょ、命令違反に八雲 紫との戦闘」
「アイツとは前に一度やったけど、その時は御咎めなしだったわよ」
「前回はあちら側の一方的な攻撃、けれど今回は真っ向勝負でしょ?」
「ったく、そこまでお見通しってわけね」
「うちの美命を甘く見過ぎよ」
楓恋は飲み干したティーカップをテーブルの上に置いた。
「ところで、貴女なら知ってるんじゃないの」
「何を?」
「とぼけないで、美命様に近い貴女が知らないなんておかしいわよね」
「それはどうかしら、私だって美命の全てを知ってるわけじゃないのよ」
「……やっぱり、ネタバレはまだ先のようね」
「諦めが早いわね。すぐにでも遊んでくれるのかと思ったわ」
「貴女を相手にする私の体力が限界なのよ。察しなさい」
「うふふ、なら早く休みなさい。疲れてるんでしょ?」
「そうさせてもらうわ。くれぐれも変な事はしないでよね」
「どうかしら? 無防備な女の子ってすごく可愛いから、食べちゃうかもね」
「死ね」
私はその一言だけ言い放つと彼女に背を向けて就寝した。
普段から傍迷惑な奴等に苦労しているユウキの辛さがよく分かった気がした。
空亡「さて、ようやく終わりましたね」
美羽「アンタは嬉しそうでいいわね。こっちは面倒な奴が出て来ていい迷惑よ」
空亡「次の異変が終わるまで我慢しててくださいとしか言いようがありませんね」
美羽「鬱だわ……」
空亡「まあまあ」
美羽「そんなことより、またフラグなんて立ててどういうつもりかしら?」
空亡「さあ? 後々回収つもりですよ」
美羽「またそう言って、ここまでのフラグの数は計り知れないのよ」
空亡「次回から回収していきます」
美羽「おい」
空亡「そういうことですので、次回からは少し特殊な話を書いていきます」
美羽「あーまだ書いてないのね、続き」
空亡「……仕方ないですが、コラボ回をここで出しておきましょう」
美羽「あら太っ腹」
空亡「そして今回からはちょっとした予告を出しますのでお楽しみに‼」
美羽「それは楽しそうね」
空亡「それでは、次回もお楽しみに‼」
次回予告
”違う世界の幻想郷”に迷い込んだ先でユウキたちが出会った少女とは?
初のコラボ回、歪な世界譚、どうぞお楽しみに‼