詳しくは鈴華さんの「東方歪界譚」を拝見してみてください‼
歪な世界譚
神無 悠月side
「……今日は不幸だな」
俺は虚空を見つめながら溜息を吐いた。
事の始まりはほんの数時間前、紫のおふざけでスキマへと落とされてしまった。いつもなら紫をとっつ構えて済む話なのだが、今回はその落ちた先に問題があった。
『ユウキ、ここは』
「ああ、間違いなく『違う世界の幻想郷だな』」
俺は空を眺めながらそう言った。
ここは俺らが居た幻想郷とは違う『幻想郷』、なんとなく勘で分かってしまう。
しかし、ここが違う『幻想郷』なら帰る手段を探さなければならない。なぜなら……。
「早くしねえと、人里の安売りセールが終わっちまう」
『今回のセールのために霊夢さんにはひもじい思いをさせましたからね』
「ああ、とりあえず、この手に詳しい人物に当たってみるとするか」
『となると、『こちら側』の霊夢さんに会ってみましょうか』
「そうだな」
俺はゆっくりと腰を上げると博麗神社に向けて歩き出した。
少年祈祷中
「……あ」
俺は境内にいた人物を見て思わず声を上げた。
くせっ毛のある黒髪で長いポニーテール、ミニスカートの巫女装束、俺はその姿に見覚えがあった。
「あ、あなたは」
『霙さん‼』
彼女、古城 霙は俺を見て目を見開いた。それとは違い、俺のスマホからは月美の嬉しそうな声が漏れた。コイツのお気楽な頭が少しだけ羨ましくなる瞬間だった。
古谷霙、以前俺らが居た幻想郷に迷い込んだ少女。
あの時は膝枕してきたり去り際に頬にキス(と見せかけて全く触れていない)をしてきた、ある意味印象に残った少女だ。あの出来事はいつになっても忘れられない。
いや、彼女よりもその後の後始末の方が大変だった記憶がある。
「……久しぶりだな、霙」
「ゆ、悠月さん? どうしたんですか、そんなに青筋を浮かばせて」
「いやな、この前の礼をどうやって何倍にして返しやろうかなと思って……な?」
俺はできる限り殺気と怒気を押えながら彼女に詰め寄る。
あの時とは違う俺の雰囲気に恐れをなしているのか、彼女は俺が一歩踏み出す度に顔を引き攣らせながら後退りする。ちなみに、俺はやられたらやり返すの精神でいつも生きている。
俺と彼女の距離が零になろうとしたその時、突如境内に腹の音が鳴り響いた。
俺は歩みを止めると音の発生源である方へと視線を向けた。
「…………………………」
「…………………………」
『……もしかして、霙さん?』
月美の無邪気な言葉に彼女の顔がみるみるうちに赤くなっていき、終いには俯いてしまった。
これでは俺が悪者のような構図になってしまうと感じた俺は必死に最善策を考え、そして閃いた。
「ああ、どうせならなんか食いに行くか?」
「……え?」
「腹が減ってる奴に“仕返し”するほど、俺も子供じゃねえんだよ」
『おお、ユウキにしてはまともな最善策を思いつきましたね』
「全言余計だ。……で、どうだ?」
「ふふ、面白い人ですね」
「よく言われるよ」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
「よし、それじゃあおすすめの甘味処を頼むぜ」
「はい、任せてください」
そう言って彼女は俺の手を掴むと文字通り人里まで飛んでいった。
この人でも空を飛べるのにまともに空を飛べな俺って……………………。
少年少女祈祷中
「ん~♪ やっぱり団子は三色にかぎるぜ~」
俺は団子を頬張りながら幸せそうな笑みを浮かべていた。
隣に座った彼女はそれを見て少し呆気にとられている。まあ、さっきまで青筋浮かべて迫ってきていた人間がこんな幸せな笑みを浮かべていたら誰だってそりゃ引くよな。
「なんだか、悠月さんって単純ですね」
『甘い物と子供にはめっぽう弱いですものね』
「子供にもですか?」
『あっちではルーミアちゃんとかチルノちゃんの遊び相手として好かれてますからね』
「意外ですね。そういうのには興味がないのかと思っていました」
『まあ、この人にとっては些細な事でも幸せを感じられるからいいんですよ』
「月美さんは彼の事をよく分かっていらっしゃるのですね」
『当然です。なんてったって私はユウキの“愛刀”ですから』
「“愛刀”か……」
「お前ら、話は終わったか」
俺は団子を食い終わると楽しく談笑している二人に話し掛けた。
一応会話は聞こえていたが、ここは気にしないほうが得策だろうな。後で月見がうるさいし。
「はい、とても有意義な話が聞けました」
「それじゃあとっとと勘定を…………‼」
俺が金を取り出そうとしたその時、憶えのある殺気が俺の背中を駆け巡った。
『ユウキ…………‼』
「ああ、間違いない、アイツだ」
「どうかしましたか?」
「悪いが霙、金は適当に払っといてくれ」
俺は金を手渡すと同時に彼女からスマホを取るとさっきのした方へと走りだした。
その時、彼女は何かを探るように俺を見つめていた。
少年祈祷中
「やっぱりかよ……」
俺が辿り着いたのは人里の出入り口近く、そこには少なからずの野次馬の群れができていた。それを掻い潜りながら前に進むとようやく目的の奴と目が合った。
「堕ち神……」
黒い影に血のような紅い瞳、その手には黒一色の刀、その姿は間違いなく堕ち神だ。
なんでこいつがこちら側に来ているのかは後で考えれば済む話だ。
俺は首に掛けた指輪を握ると淡く光りだす。
「行くぜ月美」
『任せてください』
「――絆を紡げ、夢刀・月美」
光が周囲を包むと同時に月美は一振りの刀へと変わった。
それを見て周りの野次馬にざわめきが走る。
「最初に忠告してやる。死にたくない奴はさっさと退け、でないと巻き込むぞ」
俺は背後の野次馬にさっきを飛ばしながら言い放つと、人々は急ぎ足で道の向こうへと消えた。
こうでも言っておかないと巻き込んだときに厄介になるからな。
「それじゃあ、始めようか」
「――‼」
堕ち神は言葉にも聞こえない奇声を発しながら俺に向かって突っ込んできた。
俺はそれに合わせるように走り出し、互いにすれ違う瞬間、堕ち神の刀が俺に当たるタイミングに合わせて抜刀し、その攻撃を弾き返した。その反動で堕ち神は数歩後退りして距離を開ける。
戦闘に関しては特に注意する点はないが、こいつらの非常識さは幻想郷並だから油断できない。
俺が追撃しようとしたその時、道の端に一人の女の子が座り込んでいるのが見えた。
それに目が映ったその瞬間、俺の向けて黒い刃が迫ってきていた。
『ユウキ‼』
「まずっ……」
俺は咄嗟に横に避けるが、運悪く右腕を斬られた。
流れ出す血を止めようと手で押さえるが、それを無駄だというように血は容赦なく流れる。
堕ち神は刀を元の長さに納めると今度はあの女の子へと紅い瞳を向けた。
俺は自分の怪我の事よりも、今は取り残された女の子の身の心配をした。
「助け……ないと」
『ダメです、全身に麻痺毒が回っています』
必死に女の子の下へ歩み寄ろうとするが、刃に毒が塗られていたようで、全身が麻痺したように痺れて思うようように身体が動かない。
堕ち神は刃を構え、目の前の女の子に狙いを定めている。
また、俺は目の前で誰を救えないのか……?
無慈悲な刀が女の子へと放たれたその時、目の前に見覚えのある『歪み』が現れた。その『歪み』は堕ち神の刀を吸い込むとその背後から現れた『歪み』からその刀を突きだし、堕ち神の身体を貫いた。
その異様な光景に目を見開いていると俺の目の前の『歪み』から一人の少女が現れた。
「何とか間に合ったみたいですね」
「霙……」
そこから現れたのは、やれやれと言った感じで俺を見る霙の姿だった。
「大丈夫ですか? はい、たまたま持っていた解毒薬です」
『なんというご都合主義でしょうか』
「言うな……うく……はあ」
俺は差し出された解毒薬を飲み干すとゆっくりと立ち上がった。
なんて効き目だ、さっきまでの痺れが嘘のようだ。
「やっぱり永遠亭の薬は世界一ね」
「永遠亭?」
「その話は後で、今は……」
霙が視線を向けると、そこには自信の身体から刀を抜いて再び俺らに狙いを定めている堕ち神がいた。しかし、さっきのカウンターで少しばかりダメージは入っている様子だ。
「霙、頼むが……」
「わかりました。悠月さんはあの黒いのをお願いします」
「まかせろ。あっちの不始末は俺が片付ける」
「頼もしいですね」
そう言うと彼女は女の子の下へと駆け寄り、その子を抱いて遠くへと走っていった。
その時に女の子が『霙先生』と呼んでいたが、どうやらここの寺子屋で先生をやっているようだ。
「アイツもアイツで苦労してるな」
『ユウキに比べれば雲泥の差ですよ』
「それもそうだな…………ん?」
その時、俺のカードホルダーから一枚のカードが飛び出してきた。
そこには博麗神社を背景に、俺を背中合わせで向き合っている霙が描かれていた。
堕ち神は怒り狂ったかのように奇声を上げると俺に向かって飛びかかってきた。俺をそれを見据えるとそっと刀を構えた。
「斬り裂け‼ 歪界『ディメンジョンバッシュ』」
勢いよく刀を振り払うと強烈な斬撃が空を裂き、堕ち神を裂き、そして空間すらも裂いた。二つに裂かれた空間はゆっくりと左右にずれていき、そして刀を鞘に納めると同時に裂かれた空間は元に戻った。その衝撃で堕ち神は爆発四散すると、その場には何も残らなかった。
「これにて解決っと」
「お疲れ様です」
月美を元の姿を戻すと道の向こうから霙が歩いてきた。
『霙さん、あの子は大丈夫でしたか?』
「ええ、ちょっと殺気にやられて尻込みしてただけみたいです」
「失敗したな、後で謝っておかないと」
「律儀ですね」
『ユウキは優しいですから。そういう所が私は好きですね』
「何言ってんだよ」
「ふふ、本当に仲が良いんですね」
「まあな……」
彼女と話していると空の向こうからこちら側の霊夢の魔理沙が飛んできているのが見えた。
俺は身体に違和感を覚え視線を下ろすと自分の足が朧げに揺らめいていた。
確か霙が元の世界に戻った時にこう言う現象があったなと思い出した。
「もう時間みたいだな」
「そうみたいですね」
「案外楽しかったぜ、こっちの幻想郷も」
「いつかまた、ゆっくりとお話ししたいですね」
『その時には元の身体で霙さんとお話ししたいです』
「ええ、私も楽しみにしてるわ」
名残惜しそうに別れを告げる彼女を見て、俺はあの時の“仕返し”を思いついた。
俺はまだ実体が残っている腕で彼女の腕を引いて俺の下へと引き寄せると彼女の頬にそっと口付けをした。あの時とは違い、今度はちゃんと頬に触れている。
『な……』
「え……」
「言っただろ、あの時の礼は何十倍にして返すって」
俺は口元をニヤッとさせるとその言葉と共にその世界から消えた。
最後に見た彼女の顔が真っ赤に染まっていたのを見れただけで、俺は満足だった。
少年祈祷中
「帰ってこれたな」
俺は神社の鳥居の上で空を眺めながらそう呟いた。
スマホの時計を見ると俺が買い出しに出かけて間もない時間だった。
「よし、さっさと買出しに行くか」
『それよりもユウキ‼ さっきのは何だったのですか‼』
「やられたら何十倍にして返してやれ、部長の格言だよ」
『だからって……‼』
「さあて、速く行かねえと売切れるぜ」
『あ、ユウキ‼』
俺はさっきの話を誤魔化すように鳥居から飛び降りた。
今の気分は、悪戯が成功した子供と同じ。あの行動には他意はなく、ただ純粋に彼女への仕返しが目的。今はそれが達成できたことへの喜びで満ち満ちている。
しかし、まさかあんなことをするとは…………俺もそろそろ焼が回ったかな?
今頃、あれを目撃した霊夢たちに質問攻めに追われているだろうなと思いながら、俺は歩きだす。
「ふふ、また会おうぜ、霙」
俺は誰もいない虚空へ向かって言い放つ。
きっと今の俺はあの頃のように純粋に笑っているのだろうな。
空亡「さてさて、今回はこの方にゲストとしてお越しいただきました‼」
霙 「……なんで私がここに呼ばれたのでしょうか?」
空亡「一応説明しておきますと、この方、古城 霙さんは鈴華さんの「東方歪界譚」の主人公です」
霙 「改めて説明されると少し恥ずかしいですね」
空亡「キャラ説明を簡単に伝えるならば、S気があり胸もあり着痩せする三十路手前の女性です」
霙 「ちょ‼ それはいくら何でも端折りすぎです‼」
空亡「現在は博麗神社在宅で寺子屋の教師をしているみたいですね」
霙 「私にできることといったらこれくらいですし、それに大学を出ていますから」
空亡「そういえば、ユウキもあそこの大学でしたね……」
霙 「よりも聞きたいことがあるのですけど、いいですか?」
空亡「なんとなく予想はつきますが…………もしかして先ほどの頬キスの件でしょうか?」
霙 「そうです‼ あの後霊夢さんや慧音さんにひっきりなしに問われて大変だったんですよ‼」
空亡「言ったはずですよ、この前の礼は何十倍にもして返すと」
霙 「それもそうですけど……‼」
空亡「さて、そろそろお時間となってしまいましたので、今回はこの辺で……」
霙 「はあ……何だか今回は妙に疲れました」
空亡「ここは僕の世界ですからね、登場したからには茶番に付き合ってもらわないと」
霙 「悠月さんの苦労がなんとなく分かったような気がします」
空亡「褒め言葉として受け取っておきます」
霙 「それでは、悠月さんによろしくと伝えておいてくださいね。では」
空亡「また会いましょう。…………行ってしまいましたか」
空亡「それでは、次回予告共に次も楽しみにしていてください」
次回予告
魔法の森で行き倒れたユウキ‼ それを助けたのは”あの時の人形”だった。
非日常編・弐、不思議な可愛い人形、どうぞお楽しみに‼