東方絆紡録   作:空亡之尊

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不思議な可愛い人形

神無 悠月side

 

 

「……はあ」

 

 

人気のない魔法の森の中、俺は肩を下ろして溜息を吐いた。

その原因はここ最近出没している堕ち神の討伐での体力の限界、もう一つは同じくここ最近幾度となく開かれる宴会のお蔭で博麗神社の財政状態がピンチだという精神の限界だ。

そして、今日も堕ち神の討伐と空腹の疲労がたまっていた。

 

 

「……ああ、疲れた、腹減った」

『大丈夫ですか?』

「……大丈夫だと、思いたい」

『あまり無理はしないで下さいよ』

「……仕方ねえだろ。堕ち神討伐は俺の仕事だ」

『だからって、これで何戦目ですか?』

「……十回、だったか?」

 

 

俺は近くの木に寄り掛かりながらスマホの中の月美を覗き見る。彼女は深く溜息を吐いて俺の事を呆れた表情で見つめた。

 

 

『そう、それも今日だけでですよ。今回は少しやりすぎです』

「……そうだな」

『それに、今日だって何も食べてないじゃないですか』

「……ふふ、これくらい、一ヶ月水と塩だけの生活に比べれば」

『あの時と今とでは状況が違いますよ』

「……そうだよ……な」

 

 

話をしている途中で急な目眩が俺を襲った。心身ともに疲れ切ってたからな、過労か栄養失調かの可能性が大いにあり得る。何事も無理はし過ぎるなという警告だな。

そんな事を考えていたら余計に目眩がひどくなり、挙句の果てにはその場に倒れ込んでしまった。

すぐ傍で月美の呼び掛ける声が聞こえたが意識が朦朧として何を言っているのか聞き取れなかった。

視界の端に見覚えのある人形を見かけたが、それを確認する間もなく俺の意識は闇へと落ちた。

 

 

 

少年祈祷中

 

 

 

「見覚えのない天井だな」

 

 

目が覚めた俺は薄目でその天井を見つめながらそう呟いた。

寝かされていたベットから体を起こして周りを見渡すとそこはごく普通の部屋だった。ごく一般的な西洋風の家具、それ以外に目が付くものといえば綺麗に棚に並べられた多種多様な人形ぐらいだ。

ベットから降りると部屋のドアがゆっくりと開き、そこから現れたのは見覚えのある人形だった。

 

 

「久しぶりだな、小さなお人形さん」

「……‼」

「どうして覚えてたのかってか? まあ、記憶力はいいほうだからな」

「……?」

「もう大丈夫か? ああ、お蔭様で、しばらく休んだらだいぶ良くなったよ」

「……♪」

 

 

俺がそう答えると人形は俺の下へと飛んできて嬉しそうに頬ずりしてきた。

やっぱり、この子は以前に魔法の森で道に迷っていた時に見かけた人形で間違いないようだ。そしてこの家の主である人物の見当もついたその時、ドアの方から誰かの視線を感じた。

 

 

「覗き見とは趣味が悪いぞ、アリス」

「……‼」

「あら、もう少し眺めていたかったのに残念ね」

『私も残念です~』

 

 

ドアの向こうから現れたアリスとその手に握られた月美は残念そうに笑った。

 

 

「おい、なんでお前までそっち側なんだよ」

『先ほどまでアリスさんとちょっとした世間話をしていたので』

「ああ、どうせまた俺についての愚痴でもこぼしてたんだろ」

『お察しの通りです』

「おまえな…………はあ」

 

 

俺は何か言おうとしたが言葉が見つからず溜息を吐いた。

 

 

「この子もそうだけど、貴方も相当苦労してるわね」

「そうだな。人里で買った胃薬ももう切れかかってるしな」

「……大変ね」

「もう慣れたよ」

 

 

俺は自嘲するようにふっと笑った。それを見てアリスと傍の人形は苦笑いをした。

アリスからスマホを受け取り月美を適当な場所へと飛ばすとポケットの中へと仕舞った。

 

 

「さて、邪魔者の排除完了」

「落ち着いたようだし、紅茶でも飲む?」

「恩に着る」

 

 

アリスは部屋から出て行くと用意されていたテーブルへと案内した。

席に腰掛けると視線を感じた。ゆっくりと目を向けるとこの子と同じ姿をした人形たちがじっと俺の方を見ていた。確か名前は上海人形だったっけ? 警戒されているのかと思いきや、どうやらそう言うわけではないような感じがする。ちなみにあの子は今俺の頭の上に乗っている。

そんな事を考えているとアリスが二つのティーカップを持って部屋へと入ってきた。

 

 

「おまたせ」

「……この香り、アールグレイか」

「そうよ。この前人里でたまたま買ってきたから淹れてたわ」

「よく流れ着くって紫から聞いてたが、まさか紅茶までとは」

「でも、よくアールグレイだって分かったわね」

「前に何度も淹れさせられてたからな、我が儘なお嬢様の為に」

「まだそんな年齢なのに苦労の多い人生を送っているのね」

「言っただろ、もう慣れたって」

 

 

俺はそう言って紅茶を一口飲んで虚空を見つめたその時、俺の頭に乗っていた上海と目が合った。上海は俺を見てきょとんとしていたが俺がその頭を優しく撫でると嬉しそうに目を細めた。その光景を見て向かい側に座るアリスが嬉しそうに微笑んでいる。

 

 

「……なんだよ」

「その子に聴いてた通り優しいのね」

「ああ、そういえば初めて会った時にそんなこと言ってたが……」

「そう、その子に聴いたのよ。ご丁寧に名前まで名乗ってくれたからすぐに見つけられたわ」

「……一応聞くが、どんなふうに聴いた?」

「『人形の私にも優しく接してくれた迷子のお兄さん』だったわよね?」

「……‼」

 

 

アリスがニヤリと笑いながら頭の上に乗る上海へと問いかける。それに動揺したのか急いでアリスの下へと飛んで顔を赤くしてブンブンと頭を振って否定しているそぶりを見せている。

 

 

「迷子のお兄さんか、否定できねえな」

「……‼」

「別に怒ってねえよ。事実だしな」

「……?」

「ああ、本当だよ」

「……♪」

「貴方、その言葉が分かるの?」

「わかるというより、なんとなく雰囲気で分かる感じだな」

「やっぱり貴方、ただの人間じゃないわね」

「心外だな。俺はどこからどう見てもただの人間だろ?」

「「…………………………」」

 

 

彼女に問いかけると、彼女は何も言わずに目を逸らした。よく見ると上海も目を逸らしている。

なぜだろう、この胸にぽっかりと穴が開いたような悲しさは………………。

 

 

「にしても、アリスの家は人形が多いな」

「人形作りは私の趣味だし、それに夢でもあるのよ」

「夢?」

「完全自律型の人形を作ること、それが私の夢よ」

「完全自律、つまりは意志の宿った人形ってことか」

「そう」

 

 

アリスは傍らの人形を優しく撫でながらそう言った。

それを見ていると、かつて人形を愛していた少女の事を思い出してしまった。

 

 

「まったく、人形好きの奴の考えることは一緒だな」

「その言い方だと、私と同じ目的を持った人を知っているみたいね」

「ああ、見ての通り波乱万丈の人生を送ってきたからな。そんな奴には腐るほど出会ったさ」

「ふ~ん、興味深いわね」

「聞きたいならやめておけ。アイツは結局、望んだものは手に入らなかったからな」

 

 

俺は昔の記憶に思いふけながら紅茶を口にいれた。

 

 

「なあ、お前は心が欲しいと思うか?」

「……?」

「ふふ、いきなりこんなこと聞かれても答えようがねえよな」

「……♪」

「こうしてアリスや俺と話せるだけで満足か……」

「嬉しい事を言ってくれるわね」

「高望みはしないに限るからな。人間にも見習ってほしいぜ」

「貴方だって人間でしょう?」

「……さあな」

 

 

彼女の問いを誤魔化すように俺は紅茶を飲み干した。

 

 

「あら、もう帰るの」

「早く帰ってやらなきゃいけないことがあるからな」

「そう。もう少し貴方の話を聴きたかったわね」

「なら次の機会にでも期待してな。その時には気が変わってるかもしれないぜ?」

「楽しみにしてるわ」

「そうだ上海」

「……?」

「異変の時はありがとな。また会おうぜ」

「……♪」

 

 

俺はその言葉だけ言い残すとその場を後にした。

さっきの彼女の問い、俺は果たして『人間』だと胸を張って答えられたのだろうか?

 

 

 

 

 

 




空亡「さて、今回はアリスさんとのお話でしたが」
悠月「始まって早々過労で倒れる話なんて聞いたことねえぞ」
空亡「過労よりは、空腹で倒れたの方が正しいですね」
月美「なにしろ、ここ最近は水と塩しか口にしてませんでしたからね」
悠月「俺はどこの観察処分者だよ」
月美「でも、なんでこんなに宴会が開かれるのでしょうか?」
空亡「お祭り好きな皆さんですから、特に理由などないと思いますよ」
悠月「……ホントにそれだけか?」
空亡「いやですね。何でそんなに疑うんですか?」
悠月「それ次第で俺は幻想郷に喧嘩を売るかどうかが決まるからな」
月美「あ、これは冗談抜きで本気ですね」
空亡「大丈夫ですよ。その宴会も次回で終ると思いますから」
月美「どういう意味ですか?」
空亡「さて、今回はここで終らせていただきます。それでは」
悠月「あ、逃げた」


次回予告
突拍子もなくプリズムリバー邸に招待されたユウキ、しかしそこにはルナサしかいなかった?
非日常編・弐、プリズムリバー独奏曲、どうぞお楽しみに‼
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