神無 悠月side
「……ここか」
俺は目の前にそびえ立つ古い洋館と手元の手紙を交互に見てそう呟いた。
俺が今いる場所は霧の湖の近くに建てられた洋館の前、と言っても紅魔館の事ではない。
手元にある手紙には春雪異変の時に出会ったプリズムリバー三姉妹の三女リリカから自分らの館へ招待するような内容が書かれている。ご丁寧に明確な場所まで記してくれている。親切だな。
『立派な館ですね』
「案外気づかないモノなんだな」
『そうですね。紅霧異変の時はそんな余裕なんてなかったですからね』
「だな…………ん?」
あの時のことを思い出に浸りながら館を眺めていると、ふと館の方からヴァイオリンの音色が聞こえてきた。その音色はどこか悲しげで聴いている者の気分を鎮める様な感じだ。
間違いない、これはルナサの演奏だ。二度も聴いたから間違えるはずもない。
『どうやら中に人はいるようですね』
「みたいだな。とりあえず入るか」
静かなヴァイオリンの音色に誘われるように俺は館へと入っていった。
少年祈祷中
「…………………………」
「…………………………」
『…………………………』
プリズムリバー邸(呼び方が分からなかったので以後こう呼ぶことにする)の客間、テーブルをまたぐように対峙している俺とルナサの間には深い沈黙が流れていた。
あれからのことを説明すると、どうやらリリカたちはどこかに外出しているらしく、ルナサは留守番をしていた。招待主が居るものと思い呼び鈴も鳴らさずに家に入った俺は彼女と遭遇、その時に気まずい静寂が場に流れ、月美の計らいで客間へと移ったのだが………………この有様である。
「……大したもてなしも出来なくて済まない」
「……いや、俺もちゃんと確認しておけばよかったな。すまん」
「……今朝から妹たちの様子がおかしいと思ったら、何かあると思えば」
「……お前も苦労してるな」
「……もう慣れたよ」
「……そうか」
互いに枯れた笑いを浮かべるとしばらくして再び沈黙が流れ出す。
しかし、そんな空気に耐えきれなくなった人物がついに爆発した。
『ああもう‼ なんなんですかこの空気は‼』
「あ、ついにキレちまった」
『ちょっとお二人さん、お見合いする男女並の空気に重いです‼』
「お見合いって、これまた妙な比喩の仕方だな」
『いや、この場の雰囲気を表すには的確だと思いますよ?』
「そんなわけねえだろ。なあ?」
俺は同意を求めるように向かい側に座るルナサへと目を向けると、彼女は顔を俯かせたまま何やらぶつぶつと呟いている。そして心なしか頬が赤い気がする。
「……お見合い……結婚……///」
「お~いルナサ、聞いてるか?」
「……///‼ な、なに?」
「いや、月美の比喩についてだがどう思う」
「……ユウキと私とじゃ不釣り合いだと思う」
彼女は一度顔を上げたかと思うとまたすぐに、今度は暗い表情で俯いた。
『そんな事ありませんって。ルナサさんは可愛いですし』
「……お世辞はいい」
『お世辞じゃありません。というより、私って嘘とお世辞が一番苦手ですから』
「それは堂々と言っていいものなのか?」
『分かりませんが、この前椿希ちゃんに『バカ正直ですね~』って言われました』
「それは多分、一割の尊敬と九割の皮肉が込められてるぞ」
『そ、そんな~』
「……ふふ」
俺らがバカみたいな会話を繰り広げていると彼女は小さく笑った。それを見て俺と月美は互いに見合ってニヤッと笑った。
「ルナサは笑っていた方が可愛いな。別に悪い意味じゃねえぞ」
「……ユウキも月美と同じくらいバカ正直だね」
「心のままに言ってるだけだ」
「……変わってるな」
『その言葉、随分前から言われてますよね。主に女性関係から』
「月美、またホラー映画のページに飛ばされたいのか?」
『すいません。謝りますからもうあんな所には行きたくないです‼』
「わかればよろしい」
「……二人共、仲が良いな」
「腐れ縁なだけだよ」
『素直じゃないですね~……あ、すみません。スマホを操作しないで下さい』
無表情でスマホを操作しようとする俺とスマホの中で涙ながらに土下座する月美を見て、目の前の彼女はただその光景を楽しむように笑っていた。
この場の雰囲気が和んできた頃、ふと部屋の扉の方から気配を感じた。
「結構いい雰囲気になってきたわね」
「ルナ姉が楽しそうに笑ってるの見たの久しぶりかも」
「やっぱりユウキと二人きりにして正解だったわね」
「いきなりこんな事するなんて、メル姉も大胆なこと考えるよね」
「うふふ、あとはこの雰囲気のまま交際を‼」
「……おい」
「「……え?」」
俺は扉を勢いよく開けるとその後ろに隠れていたメルランとリリカをじっと睨みつける。二人はぎこちない動きで俺の顔を見るとみるみるうちに青ざめていく。しかし、その視線は俺ではなくその後ろにいつの間にか立っていたルナサに向けられていることに気付いた。
「……メルラン、リリカ」
「な、なに? ルナ姉」
「い、言っておくけど、私たちは別に悪意があったわけじゃ」
「……問答無用、神弦『ストラディヴァリウス』‼」
「「ピチューン」」
容赦なく放たれた弾幕が二人に直撃するとどこかで聞いたことのあるような機械音と共に廊下の向こう側へと飛んでいった。
普段から怒らない人が怒ると何十倍も怖いのは知っていたが、流石、身内にも容赦なしか。
ルナサは振り返ると深い溜息を吐いて俺の方を見つめた。
「……妹たちの悪ふざけに付き合わせてしまい申し訳ない」
「いいよ。俺にも妹が二人いるけど、うち一人はメルランと同じ性格だからな」
「……お互い、身内には苦労させられるな」
「同感だ」
俺と彼女は互いに笑い合うと別れを告げてプリズムリバー邸を後にした。
帰りの道中、ふとあっちの世界に残してきた家族の事を思い出し、少し微笑んだ。
明星 美羽side
「♪~」
「あら、演劇派の貴女が歌を唄うなんて珍しいわね」
「なんだか今日は歌いたい気分なのよ」
「でもその歌、何だか気分が沈んで鬱になりそうね」
「いつも余裕綽々な貴女には丁度良いと思うわよ」
「失礼ね。こう見えても私って繊細なのよ?」
「『鮮血も滴る悪女』と言われてた貴女が何言ってんのよ?」
「貴女にだけは言われたくないわね、『演技過剰のヤンデレ姫』?」
「フフフ、殺すわよ?/フフフ、殺されたいの?」
「二人共、仲が良いですね」
「いや、見るからに二人とも殺気全開で殺し合いますよね」
「殺し合いは日常茶飯事、今更気にする必要もないでしょう」
「狂ってますね」
「それが私たちですから」
空亡「今回はプリズムリバー三姉妹、というよりはルナサさんの話でしたね」
悠月「今回は字数も少ない死、話の終わり方も急だったし、お前て抜いただろ?」
空亡「いや、本当ならレイラさんの話でも出そうかと思ったのですが……」
月美「どうしたんですか?」
空亡「途中まで書いてたら重たい話になってしまいましてね……」
悠月「ああ、そんな理由かよ(ってかレイラって誰?)」
空亡「だらか今回の話に関しては咎めないで下さい」
月美「仕方ないですね。では、今回はここまでですね」
次回予告
再び開かれる宴会、買い出しに来た店で出会ったのは妖夢と藍だった。
非日常編・弐、終わらぬ宴会の誘い、どうぞお楽しみに‼