東方絆紡録   作:空亡之尊

47 / 106
百鬼夜行と一人舞台 前編

明星 美羽side

 

 

「……面倒ね」

 

 

私は遠くから博麗神社の様子を眺めながらそう呟いた。

神社という場所は清らかな場所という事で有名なはずなのだが、今はまるで百鬼夜行の宴ね。なぜだか全神職者に今すぐにでも謝りたい気分になってくる。

しかしまあ、アイツ等はそんなことお構いなしで楽しそうに宴会を満喫している。

 

 

「おめでたい奴等ね……」

 

 

私は溜め息を吐くとスマホを取り出した。

慣れた手つきで操作してメール画面を開くとそこには一件、美命様からの着信があった。

そこにはたった一文『今回の異変、好きに動いても構いません』とだけ記されている。

前回は私の身勝手な行動を咎められたが、どうやら今回は我が主から直々の許しが出たようだ。ならば、この機に私も思い切り遊ばせてもらうとしよう。

そういうわけで、私は異変の中心である宴会を見張っているわけなのだが、やっぱりどうみても魑魅魍魎の割合が多すぎて目に毒な光景が広がっている。

本当なら早く異変の首謀者と楽しく殺し合いたいのに………………。

 

 

「まあ、あの人を見れるだけで私は満足だからいいけど」

 

 

私は純粋に微笑みながら彼を見つめた。

相変わらず誰かと一緒に居ることもなく、スマホにいる月美と何やら話し込んでいる。知り合いが居ないわけでもなく、むしろ彼と一緒に居たい奴らが多いはずなのに、彼は誰も近寄らせることなく自分の世界に入っている。

昔からそうだ。自分から歩み寄ることなく、誰かから歩み寄るまで動こうともしない。その心はいつまで経っても変わらない。彼もまた狂っている人間の一人なのだから。

そういう私も、彼とは変わらないから言えた義理でもないのだけれどね。

 

 

「またあの日常に戻りたいわね、狂った者同士仲良く」

 

 

私は懐かしむように瞳を閉じるといつの間にか涙が頬を伝っていった。

あれからよく涙を流すようになったが、これもまた彼の所為なのでしょうね。

涙を拭い捨て、騒がしい宴会に背を向けると手を叩きながら歌を唄う。

 

 

「――さあ、鬼さんコチラ♪ 手のなる方へ♪」

 

 

私は口元をニヤッとさせるとその場から離れるように走り出した。

 

 

 

少女祈祷中

 

 

 

「ここまでくればいいのかしら?」

 

 

人気のない森の中へと辿り着いた私は周りに向けてそう呟いた。

視覚的には周りには薄い霧しかないが、確かに私の周りに何者かの気配を感じる。

 

 

「そろそろ出て来てはいかが? 可哀想な鬼さん」

「人間のくせにおちょくってくれるね」

 

 

周囲に漂っていた霧が徐々に集まっていくと一人の少女が現れた。

薄い茶髪のロングヘアーで後ろの毛先で一纏め、動きやすそうな白のノースリーブに紫のロングスカート、腰から繋げられた鎖の先には三角錐・球・立方体の飾り、何よりもその子の頭からは小さな身体には不釣り合いな二本の角が左右に生えている。

私の挑発に乗って出てきたのかと思ったが、雰囲気から察してどうやら違うようだ。

 

 

「ふ~ん、美命様から今回の異変の首謀者は“山の四天王の一人”だと聞いていたけど」

「まさかこんなちんちくりんな奴が出てくるとは思っていなかったって顔だね」

「鬼やら四天王と聞けばもっとゴツイ奴かと思うのは自然よ」

「まあこんななりだけど力は四天王の名に恥じないから安心しな」

「どこに安心すればいいのかしら? もしかして手加減してくれるのかしら?」

 

 

いつもみたいに私は小馬鹿にするような態度で彼女に問いかけるが、彼女は一切動じず、いやむしろ私の問いを聞いて楽しそうに笑いをこらえている。

 

 

「くくく、いや~紫に聴いてた通り中々腹に来る奴だね、あんた」

「それはそれは光栄ね。で、今の台詞と行動が噛み合ってないのは何故かしら?」

「下手な三文芝居を見せられれば誰だっておかしいと思うだろ?」

 

 

彼女は笑いを堪えるのをやめると小馬鹿にするような瞳を私に向けた。

ああ、コイツもスキマ妖怪と同じ部類の奴か。長生きする奴ほど性格が悪いのはもはやテンプレ。

しかし、いつも挑発して相手の行動を乱すのは私の専売特許の筈なのに、こうも簡単に立場を逆転さるのは少々癪にさわる鬼だわ。

 

 

「……まったく面倒ね」

「おや、もう三文芝居はお終いかい」

「貴女相手にこの手は通じないっていう事が分かったからね」

「へぇ、てっきり逆上して殴りにでもかかってくるとか思ったよ」

「挑発していいのは、挑発される覚悟がある奴だけ。そう教わったのよ」

「聴いてたほど馬鹿じゃないってことだね。これなら楽しめそうだね」

 

 

彼女はそう言うと妖力を引き上げた。それは並の妖怪なら身動きできなくなるような強さだ。しかし、彼女の余裕そうな表情を見る限りまだまだ全力の半分、二割も出してないだろう。

私は彼女を見て呆れるように溜息を吐いた。

 

 

「やれやれ、やっぱり子供ね」

「……なんだって?」

「それもそうよね。こんなくだらない異変なんて起こす奴なんて、たかが知れてたわね」

「あんた、何を言って」

「仲間は遠くへ離れ自分だけ残った哀れな鬼、寂しさを紛らわそうとも独りの杯は虚しいだけ。

 だから仮初の宴会で鬼を呼び戻そうとした。自分の孤独を癒す為に、心を萃めてまで」

「そ、それは……」

「違うとでもいうの? だったら貴女から語ってくれないかしら、嘘が嫌いなその口から」

 

 

私の言葉に彼女の表情からさきまでの余裕が消え、代わりに動揺が見えてきた。

鬼という種族は嘘を嫌うという話を聴いていた。だから私の言葉を否定することができずにいる。図星を突かれれば人間だろうが妖怪だろうが………………。

その時、彼女から先ほどまでとは比べ物にならない妖気が解き放たれる。視線を向けた先には、怒りと殺意に満ちた一人の鬼の少女の姿がそこにあった。

 

 

「ようやく本気を出してくれるのかしら?」

「――巫山戯るなよ」

「怖い怖い、文字通り鬼の形相ね。せっかくの可愛かった顔が台無し」

「あんた、そんなに死にたいのか」

「気が早いわね。孤独から逃げようとしている雑魚が、私を殺せるとでも思ってるのかしら?」

「――ぶっ殺す」

 

 

彼女は地を蹴って私の懐まで距離を詰めると手加減なく拳を放ってきた。私はそれを後方へと飛んで避けると同時に胸元に掛けた鍵のペンダントを握り締めた。

 

 

「御心のままに、創剣『メシア』」

 

 

白と黒の光と共に現れた二振りの剣を手に取り着地した私は夜空に剣先を向ける。

 

 

「さあ、今宵のお相手は今回の異変の首謀者であり、お伽話の存在に成り下がった伊吹萃香。

 かつては酒呑童子と名を馳せた鬼の四天王の一人、果たしてどこまで楽しませてもらえるのか。

 今宵は“皆様”の期待を裏切らない最高の舞台をお魅せして差し上げましょう‼」

 

 

私は大袈裟にお辞儀をし、俯いた状態のまま口元をニヤッとさせた。

 

 

「調子に乗るな‼」

 

 

彼女は私を殺気を込めた瞳で睨みつけると地面を蹴って私の元へと詰め寄り、私に向けて鋭い聖剣月が放たれる。そこには手加減など一切ない、正に殺す気の一撃。

私は剣を目の前で交差させて彼女の攻撃を防ぐと、あまりの衝撃で数m程後退りした。

鬼の最大の武器は己の身体、古典的だがそれを否定する材料はない。刀や剣を持ち寄らないとまともに戦えない“私たち”とは違う。それがよく実感できる。

 

 

「やっぱり真正面から受けると物凄いわね。腕が痺れそう」

「今の攻撃を受けてまだ立ってるなんて……」

「今ので私を殺す気だったのかしら? だったら呆れを通り越して興醒めね」

「どこまで侮辱すれば気が済むんだい。大根役者のお嬢さん」

「無論、この生命が尽きるまで私は演じ続けるわよ」

「そうかいっ‼」

 

 

再び彼女が私との距離を詰めると両腕からの殴打の連撃を放ってきた。攻撃に合わせるように剣で防ぐが今度は祖上手くいかない。速さは先ほどの攻撃に比べれば遅いほうだが、一撃一撃の衝撃が重く、流石の私でも腕が痺れてきそうだ。

構えた腕を気にした一瞬、その隙を逃すまいと彼女は連撃をやめると無防備になった私の脇腹に回し蹴りを喰らわせた。その衝撃で近くの大木まで吹き飛ばされた。

 

 

「……ふ、これでもう無駄口は叩けないね。いくらあんたでも今の攻撃は――」

「それがそうでもないのよね」

「――っ‼ そんな」

 

 

大木に寄りそりながら余裕綽々としている私を見て彼女の瞳が揺れる。

攻撃を喰らう一瞬、咄嗟に剣で防いだお蔭であまりダメージは負わずに済んだけど、流石妖怪の代表格、今まで戦ってきた奴等の中でも純粋なパワータイプだから厄介ね。

 

 

「あら、まるで鬼が豆鉄砲を喰らったような顔ね」

「その上無駄口も叩ける余裕があるなんて。あんた何者だい?」

「何者って……そうね、邪魔する者を片っ端から斬り伏せる“剣”とでも言っておこうかしら」

「“剣”……まるで自分がモノみたいな言い方だね」

「私は“剣”であり剣ではない、故に人を演じる狂ったモノ。それが私よ」

「まったく、眠くなりそうな長台詞だよ‼」

 

 

彼女は半ば叫びながら私の元へと走ってくる。

私の素晴らしい台詞に飽き飽きしたのか、それとも自分の力をこうも易々と否定されたのが気に食わなかったのか、ただ明らかなのは…………………………。

 

 

「独奏曲『緋のアリア』」

 

 

私は剣を構えると向かってくる彼女へと走りだす。

互いの距離がゼロになった時、彼女の拳を避けると私は片足を軸にして二振りの剣による回転斬りを繰り出す。その攻撃は彼女の身体を切り刻み、最後の一撃で向こうへと突き飛ばした。

 

 

「ここからは私の一人舞台(オンステージ)よ」

 

 

 

 




空亡「今回は長いので二部構成にさせていただきますね」
美羽「ふふ~ん♪ 今回は久しぶりに暴れられるわ」
空亡「うわ、キャラが崩壊寸前ですよ」
美羽「これを逃すと今後私のモチベーションを保てない気がして」
空亡「大丈夫ですよ。今度の異変ではたっぷりと活躍させてあげますから」
美羽「それが嘘だった場合、私の剣の錆びにしてあげるわ」
空亡「さて、それでは次回まで楽しみにしていてください」


次回予告
狂い踊る美羽の一人舞台、孤独な萃香の百鬼夜行、果たして最後に立っているのは?
東方萃夢想、百鬼夜行と一人舞台・後編、どうぞお楽しみに‼
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。