神無 悠月side
「……またかよ」
俺は呆れるようにそう呟いた。
この夢の中にいるようなおぼろげな感覚、間違いなく明晰夢だ。
ここ最近は面倒事もなくてゆっくりできると思っていたのだが、どうやらそんな暇さえ与えてくれないようだ。まったく、こんな体質にしてくれた神を俺は殺したいよ。
「しかし、今回はえらくまともだな」
俺は周りを見渡すように視線を巡らせた。
目に見えるのは空高く伸びた竹林のみ。今までの紅魔館や冥界に比べればなんとも常識の範囲内の光景なのだが、一つだけ気になっているところがあった。
「――竹の花、か」
俺の視界に映る竹の一本一本にまるで道標のように綺麗な花が咲いている。
竹の花は滅多に咲くことがなく、中には六十年に一度しか咲かないモノあるといわれているが、花が咲けばその竹は一斉に枯れ果てることから、竹の花は不吉なイメージが古くから残っている。
「まあ、こんな夢見てる時点で十分不吉だけどな」
俺は竹の花を愛でるように撫でると道標を辿るように歩き出した。
歩いて初めて気付いたが、ここら一帯の地面が僅かに傾いている。それに沿って成長した竹のせいで平衡感覚が鈍ってしまい、非常に迷いやすい地形だという事が分かった。道標が無かったら同じところをぐるぐると回るギャグアニメ的な展開になっていただろうな。
不吉と評される竹の花に助けられるとは、これもまた奇妙な話だ。
「……ん?」
道標を辿っていくと月の光が届く開けた場所へと出た。
月でも仰ぎ見ようとその場所へと足を踏み入れた時、そこに一人の少女が居ることに気付いた。
長く伸びた黒髪、質の良さそうな着物に羽織、見るからに昔の貴族の娘だ。
少女は俺の存在に気付くことなく、ただ月を眺めている。しかし、その瞳はまるで親の仇を見ているような憎悪の感情が込められている。
「月……『永遠の罪と罰』か」
俺がそう呟いたその時、少女の傍に一羽の炎を纏った鳥が現れた。
鳳凰とでも呼ぼうか、それは俺の方へと視線を向けると殺気を込めて睨んできた。まるで傍らの少女を護っているようにも見えた。
異常に気付いた少女は鳳凰が見ている先にいる俺へと視線を向けた。
「お前は……」
「お前も、私を裏切るのか?」
それは、人を信じることができなくなった瞳をしていた。
そして、その少女の瞳はかつての俺ととてもよく似ていた。
少年祈祷中
「っていう夢を見た」
話し終わった俺は食い終わった団子の串を皿に戻した。
傍らに置いたスマホの中で団子を頬張っている月美は疑問符を浮かべながら首を傾げている。
『迷いやすい竹林に鳳凰を連れた少女ですか……』
「今までが今までだったからな。どうせロクな事は起きないと思うぜ」
『ユウキの明晰夢は厄介の前兆というのは過去二回の異変で実証済みですからね』
「何度も言っていると思うが、本当に嫌な体質だな」
『まあ、ユウキはそう言う星の下に生まれた人ですから~』
「その言葉だけで済まされる俺の不幸体質って一体……」
俺は溜息を吐くと残っていた団子へと手を伸ばした。
しかし、それを掴むことなく隣から伸びた二人の手によって奪われてしまった。
一人は神社の巫女であり金には目が無い貪欲な巫女、もう一人は魔法の森に住みついている泥棒癖がある白魔法使い、霊夢と魔理沙である。
二人は俺から奪い取った団子を美味しそうに頬張った。
「♪~やっぱり紅音さんとこの団子は美味しいわね」
「まったくだぜ。いくつ食べても飽きないな」
「お前ら、少しは遠慮というものを知ったらどうだ?」
「あ? 何で私が遠慮しなきゃいけないのよ」
「いつも神社でグータラしている腋巫女が何言ってんだよ」
「そうだぜ霊夢。働かざるもの食うべからずっていうだろ」
「そうだな。他人の物盗って暮らしている魔法使いに言われて悔しくないのか?」
「おい‼ 何だよその言い方」
「そうね。これからはすこしでも働くようにするわ。なるべくね」
「霊夢、お願いだから私を見て言わないでくれだぜ」
「元々アンタが勝手に人のモノを盗っていくからでしょ」
「盗ってない、死ぬまで借りてるだけだぜ‼」
「それを世間一般では盗ってるっていうだよ。ったく」
俺は再び溜息を吐くと夜空に浮かぶ満月を眺めた。
今日は久しぶりに満月を拝むことができるという事で月見用の団子まで用意していたのだが、思わぬ乱入者によってせっかくの安らぎの時間が疲労を溜める時間へと変わってしまった。
こんな気分でも、月でも見れば気が晴れるは……ず……?
「ん? どうかしたの?」
「今日の月、何かおかしい……」
『あ、そういえば……』
「え? 私にはわからないな」
俺の言葉で気付いた月美は改めて夜空に浮かぶ月を眺めた。
よく見てみると満月である月の一部が欠けている。普通の人であれば気付かないところだが、十数年近く月を眺め続けてきた俺や月の神の加護を宿している月美はその異変に気付くことができた。
「なるほど、これが異変か」
『今回の異変は人間には気付きにくいですね』
「私にはわからないけど、要するにただ月が欠けているだけでしょ?」
「別にいいんじゃないか、特に何かの被害が出てるわけでもないみたいだし」
「いや、被害なら出てる」
『そうですね。これは確かに重大な被害です』
「「え?」」
「『これでは月見ができねえ‼/これではお月見ができません‼』」
俺と月美はそう言うと勢いよく鳥居から飛び降りて走った。
後ろの方で二人の声が聞こえたが、俺はそんなことなど気にせずただひたすら走った。
『ところでユウキ、どこに向かう気ですか?』
「さあな。いつも通り、自分の勘を信じるだけだ」
『それでこそユウキです‼』
「褒め言葉として受け取っておくぜ」
『では急ぎましょうか。この夜が明けぬうちに』
「ああ。しっかり掴まってろよ‼」
俺は欠けた満月の異変を解決するべく走り出した。
それに、今まで通りなら夢で出会った黒髪の少女の事も出会える気がした。
明星 美羽side
「……動き出したわね」
ハザマの裂け目から眺めていた私はこの時を待っていたかのように呟いた。
今回は夢の話はどうでもいいとして、三度の飯よりも大好きな月見のためなら神様にだって喧嘩を売るような彼だから、恐らくこの異変で誰よりも早く動くことが予測できた。
以前死ぬ気で描いた地図を手に出掛けようとした時、後ろから楓恋に呼び止められた。
「待ちなさい」
「なに? もしかして貴女も行きたいとか言い出さないわよね」
「違うわよ。誰がそんな面倒なことをしたいと思うのよ」
「だったら何よ。私は刹那より早くユウキと一緒に居たいんだけど?」
「美命様からユウキへの贈り物よ」
そう言って彼女は“ソレ”を私に投げ渡した。
“ソレ”はかつて彼が持っていた物ととてもよく似ている。
「これ……復元できたの?」
「完璧とまではいかないらしいけど、少なくとも直せたそうよ」
「よくやれたわね。美命様だって半ば諦めてたのに」
「その点は詩織ちゃんに感謝しなさい。この二年間で一番頑張ったのは彼女なのだから」
「そうね。今度何か送っておこうかしら」
私は“ソレ”を握り締めるとポケットの中へと入れた。
「それじゃあ、留守番よろしくね」
「任せなさい。そっちこそ、野垂れ死にしないようにね」
「愚問ね。こんな異変、夜が明けるまでに終わらせてあげるわ」
私は口元をニヤッとさせてそう言うとハザマの裂け目から飛び出した。
今日はこんなにもおかしな夜だから、いつも以上に騒がしくなりそうね‼
空亡「え~今回はもう一つあるという事であとがきはないです」
悠月「次のも待っていてくれ」