霧晴 咲妃side
「♪~♪~♪~」
私は『月時計~ルナダイヤル』を口ずさみながら廊下を歩いていた。
今日は特に何事も無く、いつも通り紅魔館の掃除などをして過ごせました。
『あっち』に居た頃は新人の育成やお嬢様の我が儘に付き合っていたせいで心身ともに疲労していましたが、『こっち』に来てからだいぶ余裕が出てきましたのでもう大丈夫でしょう。
でもまあ、ここの主もウチのお嬢様とあまり変わりがないので苦労しますけどね。主に子供っぽくて可愛い所が♪ ………………私は一体何を言ってるのかしら。
そんな事を思いながら廊下を歩いて行くと窓から月明かりがさしているが見えた。そういえば今日は満月だとユウキが嬉しそうに話していましたね。
「あの頃はバカ騒ぎして楽しかったですね」
私は月を眺めながらかつての記憶を懐かしむように小さく呟いた。
けれど、私の“目”に見える満月は致命的に何かが欠けている。それが何かとははっきりと言い現わせないが、まるで幻覚を見ているようにぼやけた感覚を覚える。
少し集中しようと“左目”を押えて目を凝らしてみてみようとした時、誰かに声を掛けられた。
「咲妃さん? どうかしましたか」
「……咲夜ちゃんか」
「頭を押さえて、気分でも悪くなされたのですか?」
「違うわ。私なりの集中法よ」
「そうですか。ならいいですが」
「悪かったわね、いらぬ心配させちゃって」
「いいえ。咲妃さんは私にとって大切な人ですから」
「その言葉、彼にも言えたらいいのにね」
「い、今ユウキは関係ないじゃないですか」
「あら、私はユウキの名前は出してないわよ?」
「~/// からかわないで下さい」
咲夜ちゃんはそう言ってふてくされながらその場を去ろうとする。
「聞きたいんだけど、今日は満月よね?」
「ええ、今日はとても綺麗だと思いますよ」
「……そう。呼び止めちゃってごめんね」
「構いませんよ。それでは、私はお嬢様の所にいますので」
「ええ、頑張ってね」
彼女は軽く一礼すると時間を止めてその場から消えた。
それを確認した私は再び欠けた満月を眺めた。どうやら普通の人間にはあれがただの満月にしか見えていないようね。
これだと、霊夢ちゃんや魔理沙ちゃんといった異変解決の専門家はあてにならないわね。だとすると、動くのはお月見を邪魔されたユウキと月美ちゃんの二人となる。
「少し気になるわね……」
そう呟いた私が月から目を逸らすと近くのバルコニーの扉が開いているのが見えた。
気になって中を覗いてみるとフランちゃんがあの月をじっと見つめたまま動かなくなっている。
「フランちゃん」
「あ、咲妃だ。どうしたの?」
「こっちこそ、月なんか眺めててどうかしたの?」
「うん……ねえ、咲妃」
「なに?」
「咲妃にはあの月、どう見える?」
フランちゃんは月を指さしながら私に問いかけた。
なるほど。月の満ち欠けに敏感な妖怪はこの異変に誰よりも気付いたというわけね。それに吸血鬼となれば人一倍この異変に疑問を抱くのも当然ね。
「私には欠けているように見えるわね。それも作為的に」
「それって誰かが月を削ったって事?」
「いえ、多分結界とかの類で欠けているように見えるだけよ」
「……なんでそんなことするのかな?」
「さあ? 異変の起きる理由なんて、案外つまらないものが多いから」
ただ日光が邪魔だという理由だけで幻想郷を紅い霧で覆いつくそうとしたお子様な吸血鬼だっているのだし、今回もしょうもない理由だったら流石に笑い種として語られそうね。
「う~」
「何やら不機嫌ね」
「今日はせっかくユウキと一緒にお月見するって約束したのに」
「ん? なんで行かなかったの?」
「だって、約束したのは満月の夜って言ったから……」
「でも今日は満月じゃないから行けなかったと?」
「うん。ユウキが約束破る子は悪い子だって教えてくれたから」
そう言ったフランちゃんは残念そうに顔を俯かせた。
この子がそこまで約束というのにこだわるのは、恐らく今まで友達という存在が居なくて寂しい思いをしてきたから、その思いをもう二度と味わいたくないという感情から来ているのね。
どうにかしてやれないかとしばらく考えた結果、私はある考えを思いついた。
「ねえ、フランちゃん」
「なあに?」
「だったらこの異変、私たちで解決しましょうか」
「え!?」
「今この異変に気付いているのは私たちだけ。ならいっそ私たちで解決した方が早いでしょ?」
「でも、お姉様がなんて言うか……」
「大丈夫、今夜が終わる前に解決して戻ってくれば気付かれないわよ」
フランちゃんはどうするか悩むように腕を組んで考えている。しかし、後ろの七色の羽根が心なしか嬉しそうに揺れているところを見ると、内心では行きたい方が勝っているようね。
「わかった。私たちがこの異変を終わらせよう‼」
「その意気、人生思い立ったら吉日ってね」
「うん。それに、頑張ったらユウキも褒めてくれるかな?」
「きっと褒めてくれるわよ。だってユウキの為に行くんでしょ」
「うん‼」
そう言ってフランちゃんは元気よくバルコニーから飛び出すとあらぬ方向へと飛んでいった。
私は一枚の書置きを残すと急いで彼女の後を追った。恋は盲目とはよく言ったモノね。
「今宵は騒がしい夜になりそうね」
私は口元をニヤッとさせながらそう言うと懐中時計を握り締めた。
ライバルが増えるのは構いませんが、私だってユウキに褒めてもらいたいですね♪
双花 椿希side
「お腹減ったぁ~」
白玉楼の居間のテーブルに突っ伏した私は力なく唸った。
数時間前に夕食を食べたばかりだというのに私のお腹はもう空腹に陥っていた。ゆゆちゃんほど暴飲暴食なわけでもないけど、“体質”のせいでお腹が空きやすくて本当に嫌になる。
それを傍らで聞いていたよーむちゃんが苦笑いをしながら私に話し掛ける。
「大丈夫ですか?」
「うん。伊達に十九年も生きてないよぉ~」
「いや、質問と答えがうまく噛み合ってないのですが」
「ああ~そうだねぇ~」
「本当に大丈夫ですか!?」
さすがの私も空腹の所為で声に生気を宿すことすらできなくなった。
そういえば今日は満月だとユウキ先輩が嬉しそうに話していたのを思い出し、気休めにと首だけを傾けて外の景色を眺めた。その時、私の目は自分の目を疑うように一度瞬きをした。
「……おかしい」
「どうかしましたか?」
「ねえ、今夜は満月の筈よね」
「ええ、ユウキさんがお月見するのが楽しみだと話していました」
「え、お月見!? 先輩がそう言ってたの」
「はい。そのために人里でいつものお団子を一式買っていきましたね」
その時、私の思考が珍しく活動した。
お月見⇒先輩と一緒⇒美味しいお団子を食べれる⇒結果的に私の得しかない‼
私はその考えがまとまると目の前の歪な月の事よりもそっちの方に気が向いた。
「よーむちゃん、少し出掛けるね」
「聞かなくても分かっていますが、ユウキさんのところですよね?」
「勿論。愛しい先輩と美味しい団子が私を呼んでるわぁ~」
「その欲望に忠実な性格、少し羨ましいですね」
「よーむちゃんは堅すぎるのよ。だからいつもゆゆちゃんにからかわれるのよ」
「それはもう慣れましたから」
よーむちゃんはそう言うとぎこちない笑顔を浮かべた。
苦労人同士話が合うと先輩が言っていた意味がよく分かった。
「まぁ、そういうことで行ってくるねぇ~」
「幽々子様には私から伝えておきますので、ごゆっくりと」
「できたらお団子持って帰ってくるわねぇ~」
「道中お気をつけて」
「はいはぁ~い」
私は軽く手を振ると縁側から飛び降りて歩いて行く。
月より団子、異変より先輩、私の頭の中ではその事だけしか考えられてなかった。
空亡「やっと始まりますね。永夜抄編」
美羽「今回は少し多すぎない?」
空亡「まあ、今回はちょっとしたイベントも起こりますし、いいでしょう」
美羽「ったく、こんなに登場人物増やしたら書くの面倒ね」
空亡「なんてったって、異変介入の理由が思いつくのにが特に面倒でしたから」
美羽「私やユウキはいいとして、椿希のはあんまり関係ないわよね?」
空亡「大丈夫です。無理矢理にでも異変に連れ込みます」
美羽「今回はユウキの出番が少なくりそうね」
空亡「最後の方では活躍できますから、安心してくださいよ」
美羽「それじゃあ、こんな感じで永夜抄は始まります」
空亡「次回からしばらくは戦闘はありませんが、ご了承ください」
美羽「次回まで楽しみにしていてね」
次回予告
異変解決へと動いたユウキ、月照らす森で見たものは蛍の光だった。
東方永夜抄、蠢々蛍光、どうぞお楽しみに‼