東方絆紡録   作:空亡之尊

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まだ歌しか唄えない

霧晴 咲妃side

 

 

「楽しそうね」

 

 

私は月明かりが照らす森の中を走りながらそう呟いた。

目の前ではフランちゃんが楽しそうに木々を避けながら飛んでいる。それを私が走って追いかけている。傍から見れば二人で追いかけっこしている実に和んだ光景だけど、その速度はさすが吸血鬼というだけのことはあり、久々に私も全力でその後を追いかけている。

 

 

「咲妃ー早くー♪」

「そんなに急いで、どこに向かうかわかってるの?」

「えーと……勘‼」

「それ、もしかしてユウキの真似かしら?」

「うん‼ 迷った時は自分が思ったように行動しろってユウキが言ってたから」

「彼らしい言葉ですね。でも、大丈夫かしら?」

「任せて‼」

 

 

彼女はそう言うと更に速度を上げた。

以前よりは外に出る機会が増えて明るくなったと思うけど、その代わりに元気が余りすぎて手加減がきかなそうで少し不安ね。

彼女についていこうとしたその時、私の視界が先ほどよりも薄暗くなっていることに気付いた。私は立ち止って左目を押えながら周囲へと視線を巡らせる。

 

 

「これは……」

「どうしたの?」

「ちょっと鳥目になってしまったようね」

「とりめ?」

「夜になると視力が悪くなる病気みたいなものよ」

「大丈夫なの?」

「ふふ、心配ないわよ。私の“目”はそう簡単に――」

 

 

私は懐から懐中時計を取り出すと気付かれないようにナイフへと変え、振り返ると同時に目にも止まらぬ速さで数本のナイフを投擲した。それはフランちゃんに向かっているように見える。

 

咄嗟にフランちゃんがしゃがむと、後ろにいた少女の服を張りつけるように木に突き刺さった。

桃紫色をしたショートカットヘア、袖が広い白のブラウスに茶色のジャンパースカート、羽根の飾りが付いた帽子、羽毛のような耳にはピアスが付けられ、背中からは鳥の翼が生えている。

少女は一体何が起こったのか分からないように目を白黒させている。

 

 

「私を後ろから襲おうとしてたみたいだけど、残念だったわね」

「え? どうして!?」

「簡単、私には貴女の能力が効かなかった、ただそれだけよ」

「でもさっき……ううん、これ以上言っても無駄よね」

「あら、諦めが良いわね」

「どうせこの状態じゃ私も手出しできないし、いっそ苦しまずに殺してー」

「嫌よ。“また”この刀を血で染めたくないわ」

 

 

私は気に突き刺さったナイフを引き抜くと時計へと戻し、懐へと入れた。

少女は緊張の糸が解けたのか、その場に座り込んで安堵の息を吐いた。

 

 

「はあ~殺されるかと思って冷や冷やしたわ」

「無駄な殺生はしない主義よ。それが例え妖怪でもね」

「仮にも襲おうとした相手なのに、お姉さんは変わってるわね」

「一緒に居たお人好しに感化されただけよ。お礼を言うなら彼に感謝しなさい」

「もしかしてそれ、ユウキさんの事?」

「あら、知ってるの?」

「この前、川でウナギを捕まえるのを手伝ってもらった縁があるの」

「相変わらず誰にでも優しいわね。ま、そこが彼の良いところだけど」

 

 

私は頬に手を当てると口元がにやけているのが分かった。

 

 

「あーそれはいいとして、そこのお嬢さんはいいの?」

「え?」

「うー……」

 

 

フランちゃんの方を見ると頭を押えながら体操座りをするようにしゃがみこんでいた。前にユウキが送ってきたレミリアちゃんの写真のポーズのままだけど、やっぱり姉妹なのね。

 

 

「フランちゃん、大丈夫?」

「……怖かった」

「まあ、いきなりあんなものが飛んで来ればいくら吸血鬼でも怖いでしょうね」

「ごめんなさい。私も一言言って投げればよかったわね」

「それでもナイフを投げないという選択肢はないのね」

「……違う」

「え?」

「咲妃の目、とても怖かった」

 

 

そう告げるフランちゃんの身体は恐怖で震えていた。

どうやら無意識に“昔の私”に戻っていたみたい。とんだ失態を犯したわね。

私はいまだに怯えている彼女に近寄ると不慣れな手で頭を優しく撫でた。

 

 

「……ごめんなさい」

「ううん。咲妃は悪くないよ」

「でも、フランちゃんを怖がらせたのは私の責任だから」

「う~ん、そもそも原因は私だし、私にも責任はあると思うな」

「じゃあ、二人共悪いという事でいいかしら?」

「うん……それじゃあ二人共許してあげる。それでいいでしょ?」

「ふふ、ありがとう」

「優しいのね。吸血鬼って怖いからどうなるかと思ったわ」

「相手が謝ったら素直に許してあげなさいってユウキが言ってたから」

「またユウキ、相当好きなのね」

「うん、大好き‼」

 

 

フランちゃんは咲き誇るような笑顔でそう答えた。

私や他の皆にもこのくらい素直に思いを伝えられればいいのに、そう思ってしまった。

 

 

「それじゃあ、先を急ぎましょうか」

「うん‼ あ、ねえ咲妃」

「なに?」

「今度は一緒に歩いて行こう」

「あら、急にどうしたの?」

「なんだかそうしたいなって、ダメ?」

「いいわよ。私も少し疲れてきたところだし」

「やった‼」

「仲直りできてよかったわね」

「ええ。迷惑かけたわね」

「元々はこっちが悪いから気にしないでよ」

「そう言えば紹介が遅れたわね。私は霧晴 咲妃」

「フランドール・スカーレットよ。フランて呼んで」

「ミスティア・ローレライ。見ての通り夜雀の妖怪よ」

「ミスティアね。憶えたわ」

「そうそう、この先の竹林に向かった人間が居たけど。もしかして知り合い?」

「竹林? ……わかった、ありがとう」

「咲妃?」

「行先は竹林ね。さあ、行きましょうか」

「うん‼」

 

 

私たちはその場を後にすると竹林のある方へと歩き出した。

ユウキと私以外にこの異変で動いている人間が居る。一体誰なのだろうか?

 

 

 

 

 




空亡「ということで、咲妃さんたちの道中のお話でした」
咲妃「最後の方、手を抜いたわね」
空亡「あれ以上、僕の文章力が持ちませんでした」
咲妃「それは今更ですね」
空亡「そして今回はミスティアさんが出てきましたが」
咲妃「彼女とユウキが出会ったっていう話、見たことないのだけど?」
空亡「……実はその話、作ろうとも思いましたが活力が出ませんでした」
咲妃「今回は手抜きが多いわね」
空亡「すみません。今後はこう言うことが無いように気を付けます」
咲妃「無理はなさらぬように。では、今回はここまでで終わらせていただきます」


次回予告
団子を求めてユウキの下へと向かう椿希、道中で見つけたのは姿を消した人里の跡だった。
東方永夜抄、ショーニングオブライフ、どうぞお楽しみに‼
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