東方絆紡録   作:空亡之尊

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紅時計 ~スカーレット・クロック

霧晴 咲妃side

 

 

「行きます‼ 幻世『ザ・ワールド』」

 

 

咲夜ちゃんはそう告げると自分の周りに手に持っていたナイフをばら撒いた。そして一瞬にして私の目の前には大量のナイフが迫ってきていた。私は持っていたナイフを投擲してそれを防ぎ、撃ち漏らしたナイフも残りのナイフで捌いた。

 

 

「いきなり時間操作なんて、もしかして本気?」

「そうでもしないと、貴女には勝てませんから」

「解ってるわね。でも、その程度では私の首は取れないわよ?」

「それも承知しています。ですが、これもお嬢様のご命令なので」

「律儀ね。そんなにご主事様が好きなの?」

「ええ。それはもう」

「羨ましいわね。良いご主人様を持って」

「だからこそ、負けられません。『咲夜(私)の世界』」

 

 

彼女はそう言ってナイフを一本投擲した。それを易々と弾いて飛ばすとその場所にはもう彼女の姿はなく、そしていつの間にか私の視界をナイフの弾幕が覆っていた。目の前に213本、左右からは112本、頭上からは159本、設置するのにどのくらいの時間が掛かってんでしょうね。

でも、確かこのスペカって『咲夜の世界』のはずだったけど、もしかして自分の名前を言うのが恥ずかしかったのかしら? だったらそれはそれで可愛らしいわね。

そんな事を考えながら片手でナイフを相殺し終えると再び彼女は私の前に現れた。

 

 

「あら、もう出てきたの」

「流石ですね。あの量のナイフをすべて相殺するなんて」

「これくらい、ウチのお嬢様の我が儘に応えるより簡単よ」

「ちなみにその我が儘とは?」

「主にユウキに関わることが多かったわね。寝顔撮ってきてとか」

「……一体どんなお方なんですか?」

「天衣無縫、心の移り変わりが激しい、無類の女の子好き、挙げてもきりがないわね」

「それなのに、なんで貴女はその方にお仕えしているのですか?」

「私を絶望から救ってくれたのと、これまでの出会いに導いてくれたから。それだけで充分よ」

「心からお慕えしているのですね。一度お会いしたいものです」

「やめておきなさい。銀髪メイドなんてあの人の数多い好物の一つよ」

「それは……残念ですね」

「さて、こんな与太話より、今はこの戦いを楽しみましょう」

「そうですね。では、幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』」

 

 

月が雲に隠れた時、彼女が紅くなると周りを大量のナイフが回りだし、私の方向へと刃を向けると一斉に飛んで来た。その速度は今までの比ではなく、いくらの私でも相殺するのは難しい。

私はその場で立ち止まると片手にナイフを持ち、迫り来るナイフの雨をじっとみつめた。

 

 

「――殺神技……『見斬り』」

 

 

全神経を自分の目とナイフに集中させるとその瞬間だけ目の前の景色がスローモーションのようにゆっくりになっているような感覚になり、迫り来るナイフの雨を一本ずつ斬り落としていく。

しかし、それは傍からは高速でナイフを振り続けているように視えるのだろう。

すべてのナイフを斬り終えると彼女は少し驚いた様子で見ている。

 

 

「久しぶりに使ったけど、やっぱり体は憶えているのね」

「今のは……」

「昔の苦い思い出の一部よ。それも血塗られて汚れたね」

「本当に人間かと思うほどの力ですね」

「これでも人間よ。でも、心はどうなのかしら?」

「…………………………」

「さあ、早く終わらせましょう」

「ええ。傷魂『ソウルスカルプチュア』」

 

 

感情に揺らいだ彼女はナイフを構えると今まで動きは違い、自分の時を加速して接近してきた。距離を詰めた彼女は私へと向かって高速で切りつけてきた。その副作用なのか、彼女の瞳がより一層紅く染まっていっているように視える。

 

 

「……『終死符』」

 

 

私は再び神経を集中させると彼女の持つナイフの刃を狙って鋭い一閃を放ち、攻撃を終わらせた。

弾かれたナイフは宙で放物線を描きながら地面に突き刺さ……ると思ったその時、ナイフは一瞬で消え、いつの間に彼女は後退していた。

 

 

「これで少しは大人しくなってくれたら嬉しいのだけど」

「ま……まだです‼」

「仕事熱心なのは良いことだけど、無理をしたら元も子もないわ」

「でも……」

「楽しくやりなさい。そうじゃないと人生楽しくないわよ?」

「貴女を見ているとそれがよく分かりますよ」

「失礼ね」

「しかし、お陰で少しだけ楽になりました。ありがとうございます」

「なら、さっさと終わりにしましょうか」

「はい。行きますよ‼ 『デフレーションワールド』」

 

 

彼女はいくつかのナイフを投擲した。それだけ見ればただの攻撃にしか視えないがその時、ナイフの軌跡と軌道上に灰色のナイフが現れた。まるで過去と未来を具現化させたような弾幕、ナイフの矛先を見誤れば即被弾してしまう。

私は全てのナイフの動きを見ながら彼女の下へと走る。その時、ナイフが私の事を囲んでいる状態になっていた。再び軌跡と軌道上に灰色のナイフの列ができると私の逃げ場はなくなっていた。

 

 

「これでチェックメイトです‼」

「それはどうかしら……? 『影縫』」

 

 

私は本体であるナイフを注意深く探るとそれら一つ一つ同時に持っていたナイフを投擲し、すべてのナイフを貫いて竹林や地面へと突き刺した。それと同時に灰色のナイフは形もなく消え去った。

 

 

「っ……まだまだ」

「悪いけど貴女の負けよ、咲夜」

「お嬢様?」

「自分の足元をよく見てみなさい」

 

 

彼女が自分の足元へと視線を移すと、そこには両足の靴にナイフが深々と刺さっていた。本来『影縫』という技は相手の足止めに使うモノ、動きが厄介な敵に使うと効果的ね。でも今回の場合は、少し無理をし過ぎている弟子の静止に大いに役立ってくれたわ。

 

 

「くっ……」

「恥じることはないわ。私だって彼女に勝利していないのだから」

「あれ? でもお姉様って紅霧異変の時、咲妃に勝ってなかった?」

「あの時はどちらも引き分けだったわ。ただ咲妃よりも早く動けただけよ」

「そうだったんだ。やっぱり咲妃は凄いね‼」

「お褒めに預かり、至極恐悦」

「やっぱり私は貴女に勝てないのですね」

「咲夜ちゃんはまだまだ発展途上よ。多分、これから強くなれるわよ、きっと」

「相変わらず曖昧な言葉……です……ね」

 

 

咲夜ちゃんはそう言いながらその場に倒れ込んだ。今回は時間操作を多用した所為で体力的にも精神的にも負担が掛かってたみたいね。まだまだ子供なのに、無茶をするわね。

 

 

「レミリアちゃん」

「言われなくても、咲夜の事は私が面倒見るわよ」

「悪いわね。それと、できればフランちゃんもお願いしていい?」

「え? なんで」

「ごめんね。でも、この先は何だか嫌な予感がするのよ」

「もしかして、“堕ち神”?」

「そうかも」

「……わかった。お姉様といる」

「ありがとう。これが終わったら、ユウキと一緒にお月見しましょう」

「うん‼」

「それと、レミリアちゃんも」

「うー……余計な事を言うな‼ 早く行け」

「気を付けてね」

「ええ」

 

 

私は二人に手を振るとその場を後にするように走り出した。

あの頃の血が騒ぎ始めている。もしかしたら、今回もまた厄介事なのかもね。

 

 

 

 

 




空亡「さて、今回の戦いはどうでしたか?」
咲妃「久しぶりにまともな出番があったと思えば、まさかこれですか」
空亡「ユウキ以外にスペカを考えるのが面倒だったので」
咲妃「だからって、これは使いたくなかったわね」
空亡「貴女の暗殺技は使い方次第で最強ですからね」
咲妃「嫌なことばかり思い出させてくれるのね。まあいいけど」
空亡「それでは、次回まで楽しみにしていてくださいね」


次回予告
第四遊戯、竹林の中に煌く三つの剣閃が交り合い、彼女は狂おしく笑みをこぼす。
東方永夜抄、幽冥咲怪桜事、どうぞお楽しみに‼
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