霧晴 咲妃side
「……ここね」
私は目の前にそびえ立つ屋敷を見てそう呟いた。
見た限りではよく日本にある和風の屋敷にしか見えない。紅魔館の様に異色な特徴があるわけでもなければ、白玉楼のように静かな不気味さも感じない、ただの屋敷だ。
本当にここなのかと疑ったがけど、道中に仕掛けれていた罠やこんな所に建っている不審な点を見てこの建物に間違いないでしょう。
「でも、やっぱりおかしいわね」
私は目の前の建物を視て疑問に思った。
通常、建物というのは時間が経つにつれて視えないところで老朽化していく、それがたとえ新築だとしてもちょっとした変化はある。けれど、目の前の建物にはそれが見受けられない。まるでそこの時間だけが止まっているように視える。
「私の瞳に狂いは無い…………その思うのだけど、貴女はどう思う?」
私は問いかけるように後ろへと振り返ると一人の少女がそこにいた。
足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪、白いブラウスに赤いネクタイを締め、紺のブレザーに丈の短いスカート、ウサギを思わせるようなよれよれの耳と紅い瞳をしている。
少女は私を敵意を込めた眼差しでじっと見つめている。
「あなた、誰ですか」
「霧晴 咲妃、紅魔館に居候しているしがない外来人よ」
「しがない外来人が、こんな所に何の用よ」
「折角のお月見を邪魔されたからその苦情を言いに」
「それだけでこんな所に来るなんて、余程月が好きなのね」
「そうね、たしかに“月”は好きね」
私は微笑みながらそう答えるが、彼女は警戒するようにこちらを見ている。
どうやら目的地はここで合ってるようだけど、この先には進ませたくないといった感じね。
「さて、こちらは質問に答えたから、次は貴女の番よ」
「……鈴仙よ。永遠亭の従者をやっているわ」
「永遠亭……ここに月を偽った首謀者が居るのかしら?」
「ええ、居るわよ。あの方は滅多に外に出ませんし、こんな状況なら尚更よ」
「ふ~ん」
私は興味ありげに目の前の屋敷、永遠亭を眺める。
「でも、そこまで教えてただで通すわけないわよね?」
「当然よ。ここでみすみす侵入者を入れてしまったら師匠に殺されるわ」
「怖い上司に仕えて貴女も大変ね」
「そう思うのならこのまま帰ってくれないかしら?」
「それは出来ないわ。ここまで来て手土産無しで帰れるわけないわ」
「そう……なら仕方ないわね」
鈴仙は私の方へと指鉄砲の構えを取ると殺気を込めた眼差しを向けてくる。
私はそれを鼻で笑うように懐中時計を取り出すと空へと投げた。
「さあ、行くわよ」
「悪く思わないで、波符『赤眼催眠(マインドシェイカー)』」
彼女は指先から銃弾のような弾幕が全方向へと放たれた。それだけ見ていれば妖精同様の薄い弾幕だったのだけど、彼女の目が紅く光り輝くと弾幕が揺らぎ、いつの間にか周りの弾幕の密度は倍になっていた。
「波……精神……かき乱し……そうことね」
「なにが?」
「貴女のスペカ、主に幻覚や精神に作用する種類のものなのね」
「そうだけど、それが分かってどうしたっていうの」
「だってそれ、私のはほとんど効かないから」
「え?」
私はそっと笑うと再び弾幕が揺れだした瞬間、彼女の目の前へと一目散に走り抜けた。
揺れが収まり弾幕が分裂したその時には、私はすでに彼女の目の前に移動して手にはさっき投げた懐中時計が握られていた。
「一体何を……」
「はじめの弾幕が揺れた時、この懐中時計に当たらなかった。つまり、揺れた時にはあたり判定が無いって事の証明ができた。だから次の揺れだした隙をついて貴女の下へと来たというわけ」
「でも、さっきの弾幕の時、あなたは私の方を見ていた。時計を見る暇なんてなかったはずじゃ」
「それはお客様には教えられないトリック、知りたいのなら見破ってみることね」
「何なんですか、あなた……」
「私の“瞳”に狂いは無いわ」
私は彼女の目の前でニッコリと笑うとすでに変えていたナイフで彼女に斬りかかった。彼女は咄嗟に身体をひるがえしてそれを避けると手にはスペカが握られている。
「狂符『幻視調律(ビジョナリチューニング)』
スペカが発動されると左右から弾幕が迫ってきていた。様子を見ようと一度後ろへ跳んで距離をとったその時、また弾幕が揺らめき、今度は弾幕の壁となり私の方へと迫ってきた。
さっきのと同じで揺れた時のあたり判定は無いみたいだけど、今度のはタイミングを誤ると弾幕の壁に直撃してしまうわね。よく視てみると壁の所々に通り抜けられそうな穴が開いている。
「なら……」
私は弾幕が揺らめく瞬間を見計らって走り出した。再び弾幕が揺らめき、ずれた所に穴ができた。それを跳び越えながら揺らめくのを持ち、また次の穴を探して越える。
しばらくしていると弾幕の向こうに彼女の姿を見つけ、その瞬間にナイフを投擲した。ナイフは彼女の腕を掠め、彼女はその場所を押えながら私を睨んでいる。
「くっ……あの状態から狙うなんて」
「ナイフは銃弾よりも強し、名台詞になるかしら?」
「どうでしょうね‼ 懶符『生神停止(アイドリングウェーブ)』」
そう言うと周りに光の弾が飛び散り、それぞれの場所に配置されると波紋のように広がる弾幕を放った。弾幕は彼女の中心で交差すると思い回避行動を取ろうとした瞬間、弾幕が揺らめきその動きを止めすぐに動き出した。間一髪で背後に迫っていた避けたけど、一瞬のタイムラグで被弾してしまう所だった。
「危ない危ない」
「さっきから、あなたの背中には目が付いているの?」
「そうかもしれないわね。……『飛燕』」
私はナイフを数本手に取るとそれぞれバラバラな方向に飛ばした。それとは別にもう一度ナイフを飛ばすとそれは他のナイフを反射するように飛びまわり、周りの竹藪や弾幕を避けながら発生源である光の弾へと突き刺さり消え去った。
「久々だったから自信なかったけど、これならまだいけるわね」
「何なのよ、その無茶苦茶な攻撃」
「あら、貴女達の弾幕に比べればまだ可愛いと思うわよ」
「信じられないわ」
「自分の見たものを信じないと、この先苦労するわよ」
「余計なお世話よ‼ 散符『真実の月(インビジブルフルムーン)』」
彼女は指鉄砲の構えで銃弾の弾幕を撃ちだすとその弾幕は何の前触れもなく消えた。しばらくすると目の前に弾幕が現れ、あと少しで被弾してしまう所だった。
インビジブルムーン、視えない月、おそらく幻覚で弾幕の姿を一定時間見えなくするスペカ。あらかじめ弾幕のスピードと位置を覚えておかなければ破るのは難しい。
「まあ、私には効かないわよ」
私が彼女の下へと走りだすと再び弾幕は姿を消した。
「無駄無駄ぁ」
私は“まるで弾幕の姿が視えているかのように”ジグザグに走る。しばらくして弾幕は姿を現したが、生憎、私はもうすでに彼女の目の前へと辿り着いていた。
それに対して彼女の表情は驚きに満ちている。
「な、なんで……」
「言ったでしょ。私の“瞳”に狂いは無い」
「あなた、一体どんな能力を」
「それも同じ。知りたいのなら見破ってみることね」
「上等よ‼ 月眼『月兎遠隔催眠術(テレメスメリズム)』
彼女は私から距離を置くと左右から銃弾の弾幕が迫ってきていた。開いているスペースへと避けようとした時、また弾幕が揺らめき、上下左右にずれるとスペースを埋めるように軌道が変わった。咄嗟にナイフで斬り払うが、弾幕は絶え間なく迫ってきて密度を埋めていく。
「こんな所で使う羽目になるとはね……」
私は避けながらポケットに手を突っ込むと一枚のカードを取り出した。
そこには霧に包まれた夜の都、蒼いドレスを身に纏った蒼い瞳の女性が描かれている。
「私の瞳は総てを視る、神代『雨之狭霧神の瞳』」
スペカを発動させると私の瞳が青く輝きだす。
この状態の時に私本来の能力の解放され、視点を変幻自在に変えることできるようになる。上下左右、四方八方、全てが私の視界に入る。しかし、これの弱点はあらかじめ地形を把握しておくことが必要となる。しかし、今はそんなことはいい、重要なことではない。
「――終わらせましょうか」
私は走りだすと次々と視点を変えながら弾幕の軌道を読み、彼女の下まで辿り着いた。しかし、彼女もあらかじめそれを想定していたように私に向けて指鉄砲の構えを取っていた。周りを見ても逃げられる隙なんてない、これが狙いだったという事ね。
「もらったわ‼」
「そうかしら? ……『影楼』」
私は彼女へとナイフを投擲するとそれは彼女の頬を横切って通り抜けた。それに油断した彼女は今が狙いだと私に銃弾を放つが、すでにそこには私の姿はない。慌てるように周りを見渡す彼女の背後、空を斬るナイフを手に取った私は彼女の首筋にナイフを突き立てた。
「checkmate for you(貴女の負けよ)」
「……うぅ」
彼女は諦めたように地面にへたりと座り込んだ。
その時、焼け藪の向こうからふたつの人影が現れた。それは見慣れてしまった黒いパーカーの彼と手には黒いスマホ、ウサ耳を付けた黒髪の少女だった。
「咲妃か」
『咲妃ちゃんですね』
「ユウキね」
「あ、鈴仙」
「て、てゐ?」
鈴仙は困惑した様子で彼の傍らにいるてゐという子を見ている。
どうやらこの子も仲間みたいね。でも、この状況を見るからに……。
「どうやら兎を捕まえて住処を吐かせたみたいね」
「ああ、途中の罠やらで時間を使っちまったけどな」
『咲妃ちゃんはどうしてここに?』
「うちの妹様がお月見できないからって悲しんでいてね」
「ああ~そういえばフランとそんな約束してたな」
「それと、レミリアちゃんも仲間に加えてほしいそうよ」
『いいですね。みんなでお月見すればきっと楽しいですよ』
「だから早く、こんな異変終わらせなさい」
「言われなくても分かってるさ」
彼はそう言うと私を横切っていった。その時、そっと頭を撫でながら「……ご苦労さん」と言って通り過ぎていった。相変わらず、割合の少ない乙女心をくすぐってくれるわね。
少しだけ能力を使って彼の後を目で追うと、座り込んでいる鈴仙の頭を撫でいた。
「悪かったな、ウチの仲間が手加減できなくて」
「え、え?」
彼はそれだけを言い残して永遠亭へと入っていった。
鈴仙は何をされたのか理解できないみたいにきょとんとしているが、何故か顔が赤くなっていた。
「あ~らら、ライバル一人追加ね」
私は彼女を見つめながら残念そうに、それと同時に嬉しそうに呟いた。
さりげなく恋愛フラグを立てていくところを見る限り、またこの異変でも増えていきそうね。
空亡「今回は新参ホイホイこと鈴仙さんでした」
咲妃「幻覚使いは面倒だったわ。お蔭でちょっと本気を出しちゃったわ」
空亡「あの人は元軍人ですからね。そう易々とやられるようなことは無いかと」
咲妃「よりにもよってそんなに遭遇したのね。運が無いわ」
空亡「その人と一番相性が悪かった貴女が言っても同情しませんよ」
咲妃「あら、こちらはスペカを使わされてもう体力が無いのよ?」
空亡「……しばらくは出番はないのでゆっくりと休んでおいてください」
咲妃「了解。それじゃあ、次回も楽しみにしていてください」
次回予告
永遠亭の廊下は果てしなく長い、それは誰かさんの罪の重さを表しているように。
東方永夜抄、悠久幻想郷~Sacred of Blade、どうぞお楽しみに。