東方絆紡録   作:空亡之尊

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竹取終夜 ~Lunatic Criminal

神無 悠月side

 

 

「……これはまた」

 

 

無駄に長い廊下を抜けた俺は違う意味で驚いていた。

俺の目の前に広がっていたのはいつか見た和風の屋敷と何ら変わらない、何気ない縁側と少し広い庭の光景だけだった。ここまでの道のりがあまりにも非日常だったためか、いきなり日常の光景を目にすると違和感を覚えてしまう。

しかし、夜空に浮かぶ偽りの月を見てあっという間に非日常に戻された。

 

 

『なんだか、普通ですね』

「ああ、見るからに普通の屋敷だな」

『長い廊下はあくまで足止めが目的だったようですね』

「それほど、この先には守りたい人が居るってことだろ」

『まるでうちの部と同じですね』

「あの人は守られるより攻める方が得意だったけどな」

 

 

俺は昔の事を思い出しながら縁側を歩いて行くと襖の開いている部屋を見つけた。そこから微かに人の気配を感じた俺はその隙間から部屋の中を覗き見た。

 

そこには一人の少女が狂おしく照らす月を眺めていた。

腰よりも長いストレートの黒髪、上には手を隠すほど袖の長いピンク色の服、下には日本情緒を連想させる模様が金色で描かれている赤いスカートと白いスカート、見るからに和風という言葉が似合いそうな格好だ。

少女は俺の方を見ると袖で口を隠しながら話し掛けてきた。

 

 

「あら、こんな月夜の晩に何の御用かしら。侵入者さん」

「そういう割には、心なしか嬉しそうな瞳をしているな」

「へえ~貴方は人の瞳を見るのね。みんな私の顔しか見ないのに」

「顔なんていつでも見られる。その代り、瞳は心が見えるからな」

「そう。なら、私が嬉しそうにしている理由も分かるのかしら?」

 

 

彼女は見定めるような眼を俺に向けると、口元が笑っているように視えた。

それは俺が最も知る人物と同じような雰囲気がした。故に、俺が最も苦手な理由だった。

 

 

「退屈しのぎには面白そう、そう見えるな」

「ご名答よ。でもその様子だと、アナタはあんまり嬉しそうじゃないわね」

「俺の苦手な人と同じだからな。今夜もストレスで胃がマッハだぜ」

『いつものことですね。あ、どうもお邪魔してます』

「礼儀のいいAIね。もしかして外来人かしら?」

『はい。ユウキと一緒に幻想入りしちゃったんです』

「それは大変だったわね」

『本当ですよ。ネットにも自由に行き来できないし、ゲームランキングの防衛もできません』

「まあそれは慣れるしかないわよ。たまには画面から離れてみるものよ」

『自分の世界がその画面の中なんですが?』

「あら、そうだったわね。うふふ」

 

 

二人はそう言いながらお互いに笑い合った。

それを傍から視ていた俺はどこか置いてけぼりにされている気分になった。

 

 

「そう言えば自己紹介していなかったわね」

『そうでした。では、私は夢燈 月美です。こちらは持ち主である神無 悠月』

「どうも。私は蓬莱山 輝夜、ここ永遠亭の主みたいなものよ」

『輝夜、もしかしてお伽話のかぐや姫ですか?』

「そうね。外の世界ではそういう話が伝えられているようね」

『なるほど。あの話は信じていませんでしたが、絶世の美女というのは間違いないようですね』

「うふふ。お世辞を言っても何も出ないわよ」

『いえいえ。かの有名ななよ竹のかぐや姫に出会えるなんて、刀冥利に尽きます』

「口達者ね。でもまあ何故か嫌に感じないわね」

『ふふふ、アナタとは気が合いそうです』

「私も、そう思うわ」

 

 

二人の他愛のない会話を聞いていた俺はいつの間にか縁側に腰掛けていた。

スマホはいつの間にか輝夜が握っていた。どうやら能力を使って俺から奪ったらしいな。

今回は月美に任せてみるか、そう思いながら俺は月を眺めた。

 

 

『しかし、そうなると輝夜さんは人間じゃないという事ですよね?』

「ええ。昔は月にのお姫様として住んでいたのだけどね、罪を犯して地上に来たのよ」

『罪?』

「蓬莱の薬、それを飲んで不老不死になったのよ。その罰がこれよ」

『不老不死ですか、それは可哀想ですね』

「人間なら死に物狂いで願うモノだと思うのだけど、貴女は違うのね」

『不老になれば周りに置いていかれた気分になり、不死なら周りの死を見てしまう』

「そういう捉え方をするなんて、見た目より数奇な人生を歩んでいるのね」

『いえ。私ではなく、ユウキならそう言うかもと思っただけです。そうですよね?』

「知るかよ。まあ、不老不死なんてなりたくもねえけどな」

 

 

俺はぶっきらぼうにそう答える。

その時、輝夜の瞳の奥が無意識に揺らいだような気がした。

 

 

『さて、ここで話をするのもいいですが』

「言いたいことは分かるわよ。それ以外でここに来る理由もないでしょうし」

『では単刀直入に聞かせてもらいます。何故、月を隠したのですか?』

「そうね。かぐや姫の物語を知っていればなんとなく察しが付くはずよ」

『十五夜の晩、月の使者が迎えに来る。そういうことですか?』

「ええ。だから永琳は「地上の密室」という結界を使ってここを隔離した」

『でも、ここは元から外からによる干渉はされませんし、ここにはと長い間暮らしていたはず』

「でもどうしてこんなことを今更やったのか、そう言いたいのね?」

『ええ』

「理由は簡単よ。そうさせるように仕向けた人物が居る」

『どういうことですか?』

 

 

彼女はすこし溜息をすると月美と、俺の方をまっすぐ見つめた。

 

 

「貴女達は気付いているでしょう。さっきからこの夜が終わらないことに」

『ええ、あれから時間は過ぎているというのに、星の位置が全く変わっていません』

「もしかしたらその異変も、ソイツの仕業なのかもしれないわ」

『偽りの月と終らない夜、それを引き起こした人物ですか?』

「実際にソイツを見たわけじゃない。けど、なんとなく分かるのよ」

『なにがですか?』

「あの永琳が、みんなが、まるで舞台の上で演じさせられている。そう思うのよ」

 

 

そう語る彼女の瞳は静かな怒りに満ちていた。

幻想郷に来て分かった事だが、ここの住人は仲間意識が高い。レミリアや紫もだが、自分の家族が傷付けられれば相手にそれ相応の報いを与える。目の前の彼女も、それと同じだろう。

やっぱり同じだ。自由なところも、仲間の事を想うところも、主はみんな同じだ。

 

 

「貴女達がこの異変を終わらせに来たというのならお願いがあるわ」

『皆まで言わなくても分かります。そいつをぶちのめしてあげますよ』

「お前が粋がっても何も出来ねえだろうが」

『ユウキ?』

 

 

俺はスマホを手に取ると画面を軽く弾いた。

月美は弾かれた場所を痛そうに押えながら涙目で俺を睨んでいる。

 

 

『な、何するんですかぁ~‼』

「さっきから聞いていれば、勝手に約束なんてしやがって」

『だ、だって輝夜さんが困っていますから……』

「それがどうした。俺らはこの異変を終わらせに来た。それだけだろ」

『ですけど……‼』

「なあ、輝夜」

「なにかしら?」

「お前は仲間をどう想っているのか、それだけ聞きたい」

「いつも私の我が儘に付き合ってくれて、過保護なくらい守ってくれる、大切な家族よ。」

「それだけ聞ければ十分だ」

「手伝ってくれるのかしら?」

「舞台の上で踊らされるのは、俺も嫌だからな」

 

 

輝夜にそう言うと俺は口元をニヤッとさせた。

仲間想いの奴に悪い人はいない。それと比例して面倒が多いけどな。

 

 

「さて、それじゃあ少し様子でも見てくるか」

『そうですね。早くこの異変を終わらせないと……』

「悪いが月美、お前はここに残れ」

『え? 何でですか!?』

「たまには一人になりたい時もあるってことだ。それくらい察しろ」

『時と場所を考えてものを言いましょうよ』

「まあ、そういうことだからお前はお留守番な」

 

 

俺は輝夜にスマホを投げ渡すとそのまま廊下を渡っていった。

後ろからは月美の五月蝿い声だけが聞こえてきたが、その中に微かな声で、

 

 

「……気を付けなさいよ」

 

 

本当なら聞こえないはずの言葉、ただの独り言として消えてしまいそうな声。

それでも彼女はその言葉を綴った。まるで俺の行き先に何が待っているのか知っているように。

 

 

 

 

 

???side

 

 

激戦が行われた後の迷いの竹林。

その奥にひっそりと佇む一人の影と複数の闇がそこにいた。

 

影はその手に持った本に向かってすらすらと筆を加え、時折考え込み、そしてそれに一喜一憂しながら再び筆を走らせる。その姿はさながら“脚本家”のようだった。

 

闇はそれを護るように陣取り、その血の様に紅い瞳は近付くものを捉えるように巡り、その夜の様に深く黒い刃は敵を無慈悲に斬り裂くためにある。それは影を守る番犬だった。

 

影は笑う。自分の描いたシナリオが進んでいくのを見届けて。

 

闇は蠢く。好物とする負の感情を今からでも貪りたいがために。

 

そして、物語のページがまた捲られる。

 

 

 

 

 




月美「出番キターーーーーーーーーー!!!!!」
空亡「テンション高いですね」
悠月「無理もないだろ。今まで冒頭だけだったんだから」
空亡「そうですね。その代り、今回はユウキが空気でしたね」
悠月「たまにはこういうのも悪くないとも思ったけどな」
空亡「いつも通りですね。……で、月美さんはどうします?」
悠月「アイツまだ叫んでるぞ。どんだけ嬉しかったんだよ」
空亡「でも、次回は出番ないですけどね」
月美「-------……て、え?」
空亡「いや~ユウキと別行動になってしまいましたし、当然かと」
悠月「だとさ。残念だったな」
月美「ウゾダドンドコドーン!」


次回予告
人の夢とは儚いモノ、永遠の命や復讐を遂げようとも、残るのは悠久の時間のみ……
東方永夜抄、エキストラステージ、どうぞお楽しみに‼
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