神無 悠月side
「ここまで来れば十分か」
永遠亭から立ち去った俺はそこから離れた場所へと足を運んでいた。
周りには先ほどまで殺伐としていた気配などなく、本来の夜の静けさが戻ってきていた。
俺は夜空に浮かぶ偽りの月を気怠そうな瞳で見つめた。
こんなくだらないシナリオを描いた脚本家も、この月を眺めているのだろうか?
「……そろそろ姿を見せたらどうだ?」
俺は偽りの月を眺めながらわざとらしく大きく呟いた。
俺は気配を感じていた方へと向くとそこには一人の少女が竹に寄り掛かっていた。
白髪のロングヘアーの毛先には幾つかの小さなリボンが結ばれ、頭には大きな白いリボンをつけ、白のカッターシャツとサスペンダーの付いたもんぺのような赤いズボン、雰囲気からして只者ではない何かを感じた。
少女は深紅の瞳を俺に向けると気怠そうに呟く。
「……気付いてたのね」
「そりゃあな、殺気を向けられれば嫌でも気付くさ」
「それはすまないね。別にアンタに向けていたわけではないわ」
「そのくらい分かってるよ。殺気の矛先ぐらい、俺でも察することはできる」
「何だよそれ、妖怪でもできないわよ。アンタ本当に人間?」
「一応人間だよ。というか、お前こそ人間じゃねえだろうが」
俺は彼女に向かってそう言うと、彼女の瞳が揺らいだ。
それは怒りというよりは、知られたくない事を知られて悲しんでいるように視えた。
「そんなことまでわかるのかよ、今時の人間ってのは」
「育った環境が特殊だったからな。そういうことに関しては敏感なんだよ」
「そうかい。それで、アンタは何しにここまで来たの?」
「もちろん、お前を止めるためだ」
「私の何を止めようってんだい」
「はぐらかすなよ。言わなくても分かってるだろ」
俺は彼女の瞳を見つめると、その先は俺を見ていなかった。
さっきから彼女が見ているのは自分の標的である輝夜のみだろう。
「輝夜以外眼中にないってご様子だな」
「アンタには関係ないだろ。放っておいてくれ」
彼女はそう言うと俺の真横を通り過ぎようとする。
俺は彼女が通りすぎる瞬間、小さな声でこう呟いた。
「……そうやって、人から逃げてきたのか」
「何だって?」
彼女は俺の言葉を聞いて立ち止った。
不本意だが、美羽の真似事で少し煽いでみるとするか。
「その霊力、輝夜と同じ蓬莱人ってやつだろ」
「ああ。随分昔に蓬莱の薬に手を出してね、今では死のうにも死ねない身体よ」
「そいつは哀れだな。だから人と関わるのを避けたのか?」
「そうだな。周りだけ老いていき、自分だけ時間が止まっている。それを見て皆は気味悪がる」
「皮肉だな。不老不死は人類の夢、しかしいざ目にすれば、ただの化け物にしか見えなくなるか」
「その年の人間がそんな考えをするなんて、本当に何者よ」
「そんな事はどうでもいい。重要なことじゃないはずだろ?」
「……そうだよな‼」
彼女はそう言うと勢い良く足を振り上げ、俺に向かって蹴りを放ってきた。予想していた俺は同じく足を振り上げると彼女の蹴りを空中で受け止めた。その衝撃で周囲の竹が揺れる。
俺と彼女は互いに睨み合うと後ろへと飛んで距離を置いた。彼女の瞳は先ほどとは打って変わって殺気に満ち、その手にはいつの間にか炎を纏わせていた。
「邪魔をするな。じゃないとお前も殺すぞ」
「やれるものならやってみろ。その代りしぶといぜ?」
「命は大切にするものだ。特に人間はな」
「ならお前はどうなんだ? 死ぬことを恐れない人間は、人間とでも呼べるのか?」
「黙れ。何も知らないお前が、知ったような口を利くな」
「そうだな。何も知らない俺が口を出すわけにもいかねえな」
「だったら……」
「それじゃあ、お前のことを知るためにも、ここで戦うことにするか」
「……手加減はしねえぞ」
「その方が好都合だ。俺も、手加減無しの方がやりやすいからな」
俺は彼女を見て口元をニヤッとさせると、彼女の下へと走りだした。
その勢いのままスライディングで彼女の足を払おうとするが、彼女はそれを前へ飛んで避けるとすれ違いざまに手に纏わせた炎を俺に向けて放った。
咄嗟に地面に手をつけ足を振り上げて炎を蹴り払うと爆風が吹き荒れ、黒煙が立ち込めた。
「……やり過ぎたか」
「……どうだろうな‼」
黒煙から勢いよく跳びだした俺は立ち止っていた彼女の腹部に向けて思い切り殴った。
咄嗟のことで反応できなかった彼女は驚きと苦悶の表情を浮かべながら向こうへと吹き飛んでいった。彼女は体を翻して手をつくが、勢いは殺されず地面を削って後ろへと下がっていった。
「……っ、痛てえな」
「悪いな、俺は女だろうが容赦しない性質なんでな」
「女じゃなくても、男だってこんなの耐えられるかよ」
「だろうな。昔はさっきので教室の壁をぶち破ったしな」
「……本当に人間かよ」
「人間だよ。少なくとも、現時点ではな」
「そうかよ」
彼女は興味なさげにそう呟いた。
それは興味が無いよりは、人に関わりたくないように視えてしまう。
「なあ、お前はどうしてそこまで輝夜を憎むんだ?」
「言ったはずだろ。お前には関係ない」
「父親の復讐、それともそんな身体になったことへの逆恨みか?」
「……輝夜に聞いたのか」
「まあな」
本当は違う。この情報は幻想御伽話の内容を思い出して言ってみただけに過ぎない。
けれど、どうやらあらがち間違いではないようだ。
「で、どうなんだよ」
「……最初はそうのもあった。本気で殺したいとも思っていた」
「でも、お互い不老不死。終わることの無い殺し合いか」
「ああ。そんなを何百年も続けていたら、流石の私ももうどうでもよくなってきた」
「それじゃあ、なんで今更輝夜を憎む」
「わからねえよ。この月を見ていたら、なぜか昔の恨みつらみが蘇ってきたんだよ」
そう語る彼女の瞳は復讐への怒りと共に、どこか悲しげに見えた。
「だから、憂さ晴らしにアイツと殺し合う。ただそれだけだ」
「なるほど。結局は過去に縛られているだけか」
「そうなるな。いくら時が経とうと、想いだけは忘れられないものだ」
「なら、その憂さ晴らしに付き合ってやるよ」
「ありがとな」
「どういたしまして」
「それじゃあ、行くぜ‼」
そう言うと先ほどまで纏わせた炎とはケタ違いの妖気が彼女の両手に集まってきていた。その手は真っ赤に燃え盛り、炎で創られた鳥の姿が見えた。
「不死『火の鳥 -鳳翼天翔-』」
彼女から炎の鳥が放たれると弾幕を纏いながら俺に向かってきた。
いつもなら月美で受け流すところだが、生憎手元にアイツはいない。いや、それ以前に受け流せるような攻撃ではない事を俺は察してしまっている。
俺は地面を蹴ってそれを避ける。
「……っ‼」
その一瞬、俺は視えてしまった。
横切った炎の鳥が夢で見た少女と同じ、哀しい瞳をしていたことに…………‼
「妹紅……っ‼」
俺は咄嗟に彼女の方へと目を向けると、彼女は苦しそうに地面に倒れ込んでいた。
迂闊だった。フランと同じく、スペルカードが堕ち神のトリガーになっていることに気付くべきだった。いや、今はそんな事よりも彼女を…………。
俺が彼女の下へと駆け寄ろうとした時、炎の鳥が俺の目の前へと立ちふさがった。
「お前は……」
「――アナタもまた、裏切るの?」
それは、人を信じることができなくなった瞳をしていた。
そして、その鳳凰の瞳はかつての俺ととてもよく似ていた。
明星 美羽side
「さ~て、どこにいるのかしらね」
私は竹林を歩きながら周囲を見渡して呟いた。
ユウキたちを分かれた後、私は一人、もう一人の異変の首謀者を探していた。
月の異変に関しては彼らがどうにかするとして、夜の異変についは私が気になって動いていた。
スキマ妖怪は私が夜を止めたと思っている。それは単なる私への偏見からか、それとも…………。
「月の異変と夜の異変の首謀者が異なっていると感づいたからか」
月と夜が一緒ならわざわざ私になんて構うことなく真っ先に永遠亭に向かうはず。わざわざあのグータラ紅白巫女まで引っ張り出したのだ、単に目についたからというバカな理由では無いはずだ。
まあ、私の事だけで頭に血が上っていたアイツの事なんてどうでもいいんだけど。
けれど、紅白巫女は私を無関係と思っていた。それもお決まりの勘でそれを察していた。
月人による偽りの月、動き出した役者たち、止まってしまった夜、動き出してしまった人妖、繰り広げられる弾幕ごっこ、全てがすべて物語の様に進行しているように思えた。
「これが本当にシナリオ通りなら、とんだ三流作家ね」
瞳を閉じて嘲笑うようにそう呟くと、竹藪の向こうから複数の黒い刃が私の首元目がけて飛んで来た。それは寸分の狂いもなく、私を殺す気が感じられた。
「……止めなさい」
声が聞こえると黒い刃は私の首元から1㎜のところで止まった。
瞳を開けてよく見てみると、その黒い刃の先には時計盤のような仮面をつけた黒い影、いや闇がチクタクと時計の針を動かしながら私を見ていた。気味が悪い。
越えの聞こえた方向へと視線を向けると、そこは闇が広がっていた。
「やれやれ、我が眷属ながら短気ですね」
そう言って闇の中から出てきたのは一人の青年だった。
後ろでまとめた白髪の一本結び、どこででも見かけるような黒いタキシードと白い手袋、片眼には安物のモノクロを掛け、手には一冊の本が握られている。なんとも胡散臭そうな奴だと思った。
青年は私に近付いてくると周りにいた闇は即座に彼の背後へと移動した。
「まったく、忠誠心が高いことは良いことですが……」
「…………………………」
「っと、これは失礼。いくらこちらの手違いとはいえ、貴女に刃を向けたことをお許しください」
「御託はいいわ。それよりも聞きたいことがあるわ」
「そうでしたね。こういう時はまずは自己紹介からと相場が決まっておりますね」
青年は張り付けたような笑顔を私に向けると礼儀良くお辞儀をしてこう告げた。
「今回の永夜異変の首謀者であります。歯車と申します」
「……あっさりと認めるのね。というより言っちゃうのね」
「ええ。貴女相手に下手な言い訳をするのはみっともないと思いまして」
「どうやら知っているようね」
「そうですよ。生徒会の七本の剣の一本、明星美羽さん」
歯車はそう言ってニッコリと笑みを浮かべながら私に向けた。
それを見た不快感というよりは、ある意味の恐怖を覚えてしまった。まるで無理矢理にでも私の心の中に入り込んでくるような、そんな気がしていた。
「……なんだかムカつくわね、貴方の存在」
「おや、笑顔についてはよく言われますが、存在までいわれると傷付きますね」
「黙りなさい。それよりも、なんでこんな事をするのか聞きたいわね」
「せっかちな方です。まだまだ夜はこれからだというのに」
彼は笑う。スキマ妖怪のような胡散臭さではなく、子供の様に無邪気に。
だが、逆にそれが私の神経を逆なでていた。
「ですがいいでしょう。そろそろ私も退場すると事でしたし、置き土産としてお話ししましょう」
「……何故、ここまで異変を起こすのかしら」
「ふふふ、それはもちろん、面白いからですよ」
「……なんですって」
「堕ち神は人の心の闇を映す鏡、私はそれを見るのが何よりの楽しみなのですよ」
「いい趣味ね、お陰で吐き気がするわ」
「ええ、よく言われます。ちなみに、他に好きなのはギャンブルですね」
「どうだっていいわよ。それよりも、どうやったら夜の異変は終わるのかしら」
「それなら、もう所有者を変えましたので、私にはどうすることも出来ませんよ」
「え?」
彼はそう言うと顎に手を当てて笑った。
「夜を止める結界の術はとある堕ち神に埋め込みました。それに加えて月のも」
「じゃあ、なんで貴方はここに居るのかしら」
「それはもちろん、脚本家としては間近で物語を見届けたいですからね」
「周りに被害こうむっておいて自分は高みの見物、いい趣味してるわね」
「こう見えて戦闘能力はこの子たち以下なので、仕方のないことですよ」
「そう、良いこと聞いたわね‼」
私は跳びだすと同時に剣を展開させると彼へと容赦なく振り下ろした。
その一瞬、一本の剣が遮るように間に割って入り、攻撃を阻まれた。それはびくともせず、剣の間からは歯車が嘲笑うように私を見つめていた。
私は一旦距離を置いて歯車を見つめると、そこにはもう一人の青年が立っていた。
整えられた茶髪、歯車と同じようなタキシード、片眼には剣が描かれた眼帯をつけ、その手には私の攻撃を防いだ黒いロングソードが握られている。何だか歯車とは真逆の人物に見える。
青年は剣を下ろすと背後にいる歯車へと視線を向けた。
「何を遊んでいる。歯車」
「貴方が出てくるとは珍しいですね。剣崎」
「今はその訳を話す余裕などない」
「おやおや、もしや貴方の女王様からの命令ですか?」
「察しているのなら早く帰還しろ。上はご立腹だが」
「ふむ、今回は少し遊び過ぎましたか」
「そういうことだ。ここは俺が引き受けるからお前は」
「ええ。遠慮なく退散させてもらいますよ」
歯車はそう言うと一枚のカードを私に投げつけた。
それを受け止めてすぐに前を向くが、そこにはもう歯車の姿はなかった。
剣崎と呼ばれた青年はやれやれと言った感じで溜息を吐いている。
「やれやれ、これだから上位は……」
「貴方も歯車の仲間かしら?」
「ああ。組織内では一応のことな」
「組織ね……どうやら今回の敵もデカそうね」
「俺も質問させてもらうが、お前はこれからどうするつもりだ?」
「当然、逃した分を貴方に洗いざらい話して貰うだけよ」
私はそう言って剣を構えると、彼も同じく剣を構えた。
「本当なら命令外だが、そうも言ってられないな」
「ここで突き止めてやるわよ、貴方達の目的を」
「やれるものならやってみろ。その代り、命の保証はしないぞ」
「大丈夫。その前に貴方を斬り伏せるから」
「言うな。さずがあの人達に喧嘩を売っている連中なだけはあるな」
「おしゃべりはここまで、そろそろ始めようかしら」
「そうだな。俺らはお喋りよりも…………」
刹那、お互いに足を踏み込むと距離を詰め、互いの剣が衝突した。
「「殺し合いの方が得意だしね/こっちの方が得意だしな」」
空亡「……凄い混雑してきましたね」
悠月「俺のパート、少し急ぎ足過ぎないか?」
美羽「こっちはこっちでとんだ戦闘になりそうよ」
悠月「俺は原作、美羽は黒幕か、なんだか複雑だぜ」
美羽「この後の展開が物凄く不安になってくるわ」
空亡「僕もこの先は展開は分からないです(続きまだです)」
悠月「これ以上のカオスな展開にならない事を願うだけだな」
美羽「私とユウキの今後の展開に乞うご期待」
空亡「恐らく投稿遅れます。おのれ補習ぅぅぅぅぅ‼」
次回予告
恨み哀しみを纏わせた炎の鳳凰、神殺しの御子よ、終わらぬ永夜を駆け抜けろ。
脚本通りの芝居など面白みがない、ならば存分に踊り狂え、舞台上の剣姫よ。
東方永夜抄、君まで届け、明日への焔、裏表二つ投稿‼