神無 悠月side
「……っ‼」
偽りの月が照らす竹林の中、俺は迫り来る炎を避けていた。
上空へと視線を映せば、そこには月を背に雄々しく炎の翼を広げている鳳凰の姿が見える。その瞬間、その周りに炎の弾幕を展開させると俺へと突進すると同時に放ってきた。
俺はこんなことをしているよりも、早く妹紅を助けたい一心だけだった。
「だったら……っ‼」
鳳凰が俺に突撃したタイミングを見計らい、近くの竹を蹴ってその場で鳳凰の攻撃をかわすように宙返りをし、渾身の力を込めた蹴りをその背中にぶちかました。
鳳凰はその衝撃で地面に這いつくばった。どうやら急所に当たったようで力が出ないようだ。
「今のうちだな」
俺はそれを見ると遠くに倒れている妹紅へと駆け寄った。
彼女は息苦しそうに胸の辺りを掴んでいる。それを見て俺は嫌な予感がした。
「……まさかな」
脳裏に最悪の事態が横切るが、後ろの方で鳳凰の泣き声が聞こえた。
俺は不安を払いのけるように彼女を抱きかかえようとしたその時。
「――燃え尽きろ‼」
「おっと」
俺は彼女を抱きかかえたまま放たれた炎を避けた。
…………思ったより軽いな、ってそんなこと考えるより早くこの場から逃げないとな。
「悪いが、今はお前の相手をしてる暇はねえんだよ」
「――逃がさない。殺すまで追いかける」
「これはまた、面倒だな」
俺は隙を視て鳳凰の炎の弾幕を避けると一気に走りだした。
後ろからは鳳凰の追いかけてくる気配と底知れぬ殺気を感じる。
「ああ~面倒だ。本当に面倒だ」
俺は自暴自棄になったかのように声を上げた。
今は月美もいない、いやこうなることを予想していたから連れてこなかった。
不完全な状態での刀化、ここ最近の堕ち神との戦闘、アイツ自身は気付いていないようだが、その身体はもうボロボロだ。おそらく、さっきの炎を受け止めるだけで砕けてしまう。
それだけは避けたかった、大事な仲間を…………また殺したくなかった。
「……ったく、どうするか」
「アンタも……お人好しだな」
俺が一人で苦悩していると抱きかかえていた彼女が目を覚ました。
だが、まだ顔色も悪く、声も弱々しい。
「なんだ、起きてたのかよ」
「まあね、アンタがさっき叫んでたからだけど」
「悪かったな、もう少し休んでろ」
「そうも言ってられない。アレは私でもあるんだから」
そう言った彼女は目を伏せた。
「……気付いてたのか」
「アレは昔から私の中に住んでいたからな、それくらい知ってるさ」
「……知っているのか、アイツについて」
「ええ。私もアレに似たやつを何体か退治してきたからね」
「堕ち神、アイツらが何かは理解しているというわけか」
「人間の醜い感情、負の感情がそのまま具現化したような奴っていうのは知ってる」
「……それはアレを認めるってことだぞ」
「言ったでしょ、もうアレとは長い付き合いなのよ。認めざるを得ないわ」
彼女自嘲するように笑った。
「……強いな、妹紅は」
「強くなんかない。アレを食い止めることも出来ない、弱い化物だよ」
「死を恐れなくなった人間は化物か。だったら俺も同じだな」
「散々人間だとか言ってた奴が今更化物だっていうの?」
「考えてみたら、俺っていつも自分の命投げ出してるからな」
「それは人の為?」
「ああ。自分の事なんて遠回し、だから一々死ぬことなんて恐れちゃいないな」
「それだけでも立派よ。私なんて私情で殺し合いして、勝手に死んでるだけだから」
「だったら、今度からは無駄な死に方はしないことだな。その方が人生楽しいぜ」
俺は彼女にそう言って微笑みかけた。
彼女はそれに対してくすっと笑ってくれた。
「殺し殺し殺して生命の儚さを知れ、紡ぎ紡ぎ紡いでその絆を己の糧にせよ」
「なによ、それ」
「空海の言葉をもじったものだ。俺の知る中で最も自由な人が考えたやつだ」
「どう意味なんだ?」
「殺した者は命の重さを忘れるな、紡いだ絆はいつか自分を助けてくれるはずだろう、だ」
「それがどうして今出てくるのよ」
「簡単にまとめれば、殺し合いなんかせずに人と関わっていけってことだ」
俺は彼女にそう言うと、彼女は俯いた。
周囲を見渡して彼女を下ろすと、その場に座り込んだ。
「……今更、どうすることも出来ないわよ」
「それはどうだろうな。お前は一人がいいのか?」
「……今まで一人だったから平気だと思っていたけど、やっぱり嫌だな」
「一人が嫌なら手を伸ばせ。少なくともここに手を取ってやるお人好しがいるからな」
「こんな化物である私の手を、取ってくれるの?」
「俺だって化物だ、なら助けない理由なんてないだろ」
俺はそう言って彼女に手を差し伸べた。
「そういやアンタの名前、聞いてなかったね」
「神無 悠月、一応人間だよ」
「一応なんだ。私は藤原 妹紅、ただの健康マニアよ」
「なんだよそれ…………って」
俺は話を途切らせると咄嗟に後ろへと振り返った。
そこにはいつの間にか鳳凰が迫ってきていた。炎の弾幕が容赦なく放たれるが、横槍を入れるように他の弾幕がそれを防いだ。炎が飛び散ると地面や竹に当たり、周囲を真っ赤に照らした。
弾幕の来た方へと視線を向けると、そこには……………。
「まったく、世話妬かせるわね」
「いくら人間やめてるからって無理し過ぎだぜ」
「貴女が言っても説得力が無いわよ」
「右に同じですね。というより、私半分人間じゃないですけど」
霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢の四人は口々にそう言った。
よく見ると全員所々に傷が見えるが、どうやらここまでの道中にチートと出くわしたらしいな。
「お前ら、どうしてここに?」
「決まってるでしょ。勝手に突っ走っていった馬鹿を止めに来たのよ」
「案の定、こんなことになってるけどな」
「桜の亡霊の次は火の鳥ですか。これもまた厄介ですね」
「ですが、臆するわけにもいきません」
「妖夢の方は随分とやる気だけど、どうやら私たちの相手は違うようね」
霊夢がそう言って指を差した先には、時計盤のような仮面をつけた影がいた。
姿は形はいつもの堕ち神に似ているが、どうやらそれらとは比べ物にならない感じがする。
「なるほど、私たちの相手はあの時計野郎ってことか」
「助太刀に来たのに、これでは無意味ね」
「でも、ユウキさんに無駄な労力を使わせる必要もなくなります」
「そうね。これ以上無理するのなら、さすがの私も……」
「それ以上は言うな。何か嫌な予感しかしねえ」
「なら、あんまり無理しなんでよね。これが終わったら宴会するんだから」
「ああ。お前らも無理するなよ」
「当たり前よ」
俺が霊夢の頭を撫でると、彼女は影の方へと向かっていった。
「おうおう、お熱いね~」
「見ているこっちが恥ずかしいわ」
「霊夢さん、そう言うのは二人きりの時に……」
「アンタら、あの影の前に夢想封印・集を喰らわすわよ」
「……相変わらず賑やかな奴等だな」
「へえ、ああいう子たちが好みなのね」
「物好きだな、君は」
霊夢たちを見送っていた俺は隣に視線に向けると、そこには輝夜と慧音が立っていた。
「お前ら、いつの間に。というより慧音まで居るのかよ」
「私はそこの無鉄砲を叱りに来ただけだ」
「相変わらず、保護者的な立場だな」
「それに加えて無茶で無謀な事をしようとしている外来人も叱りにだ」
「頭突きならまた今度にしてくれ、ここで体力削られると後々ヤバい」
「解ってるさ。それよりも、輝夜からこれを」
『ユ~ウ~キ~‼』
慧音からスマホを受け取ると、その中で泣きべそをかいている月美が居た。
当の輝夜は近くに座り込んでいる妹紅の下へと歩み寄っていた。
「引きこもりのお姫様が外出なんて、どういう風の吹き回しよ」
「懐かしい感じがしたから久しぶりに外出してみたのよ」
「そういえば、初めてお前を殺しにかかった時もこんな感じだったわね」
「あの頃の思い出に浸りたいとも思ったけど、過去は過去、過ぎたことよ」
「そうね。なんだかつい最近まで殺し合ってたのがバカらしくなるわね」
「でも、自分の犯した罪だけは消えないのよね」
「なによ、今更あのことについて謝ろうとでもいうの?」
「まあ、悪かったわね」
「いいわよ。千年も昔の話、死んだ父上だって覚えてないわよ」
「ありがと、これで一つ清算できたわ」
「こちらこそ」
二人は互いを見つめ笑い合った。
これで妹紅と輝夜が変わってくれればいいな。
「やっぱり、女性は笑顔が一番だな」
『そうですね。私もそう思います』
「よくお前はそんな恥ずかしい台詞を言えるな」
『それがユウキですから』
「妙に説得力のある言い分だな」
「お前らな……」
「そうだ、お前に渡しておいてくれと頼まれたものがある」
そう言って慧音が取り出したのは俺たちがよく知る“ソレ”だった。
「白髪の女にこれをユウキに渡してほしいと言われた」
「美羽か。アイツなら納得がいくな」
『ユウキ、これなら大丈夫ですよね』
「ったく、ご都合主義乙って言われても庇いきれないな」
慧音から“ソレ”を受け取ると俺は強く握りしめた。
“ソレ”は白銀色に輝く水晶が綺麗に加工されているネックレスだ。
もうこの手から決して離してしまわないように、しっかり強く。
「それじゃあ、みんなを護る為にもう一頑張りするか」
俺は慧音と妹紅、輝夜の頭を撫で、前へと進んだ。
目の前には偽りの月を背に雄々しく翼を広げる鳳凰の姿があった。
「――もう逃げないの?」
「ああ、こっちもようやく反撃の準備ができたからな」
「――でも無駄よ。どうせ死ぬのだし」
「そうかもな。でも、それは今じゃねえよ」
『そうです‼ ユウキはこんな事で死ぬほど軟じゃありません』
「――鈍刀風情が、どうせアナタももう限界でしょう」
『そうですよ。今の私なんて、アナタの攻撃一つでボロボロになってしまいます』
「――なら」
『でも、もうその心配もなくなりました』
「堕ち神、お前に一つ言っておくことがあるぜ」
「――なに?」
月美は画面越しでもわかるくらい憎たらしく口元をニヤッとさせた。
俺の手には水晶のネックレスと黒い指輪が握りしめられている。
「どうやら切り札は――」
『――常に私たちの所に来るようですね』
「行くぜ――絆を紡げ、夢刀・月美」
『御意に――神代装束・月詠』
俺の呼びかけで月美が刀へと変わる時、水晶のネックレスが光りだす。
光は俺自身を包み込み、そして大きな光の柱が天高く上がると俺の姿を変えた。
普段着ているパーカーから月と花の刺繍がされた黒い羽織へ、瞳は金色へと変わった。
それを見ていた鳳凰は先ほどの態度は打って変わり、本能的な恐怖に身を震わせていた。
「――その姿、いや、それは……っ‼」
「これなら、月美を最大限に発揮できるからな、俺にとって好都合だぜ」
『さて、それではその鈍刀の実力、とくとお見せしてあげましょうか』
「――アナタ、一体何なの?」
「通りすがりのただの人間だ。憶えておけ」
俺は口元をニヤッとさせた。
鳳凰は恐怖を振り払うと、殺気全開で俺へと対峙する。
「――存在すら残らないほど燃やし尽くしてあげるわ、人間‼」
「死ぬまで殺してやるから念仏でも唱えて覚悟しろよ、堕ち神‼」
そう言った俺は鳳凰に向かって走り出した。
いつの間にか、夜空には偽りの月ではなく、金色に輝く満月が輝いていた。
空亡「いや~長らくお待たせしてすみませんでした」
悠月「リアルの事情がマジで忙しかったからな」
月美「その上ネタも思いつかいから無駄に時間が経ってしまいましたものね」
空亡「この夏休み中には何としても永夜抄は終わらせたいですし、死ぬ気で頑張りましたよ」
悠月「まあ、その所為で物語が急ぎ足になってるけどな」
月美「ていうか、急展開にもほどがありますよ」
空亡「……物語中盤でのパワーアップは燃えませんか?」
二人「「まだ序盤だろ‼」」
空亡「そうですね~ということで、次のも楽しみにしていてください」
次回予告
憎悪に燃える不死鳥は永夜を翔け、絆を紡ぐ人間はその力で約束を果たす。
東方永夜抄、君まで届け、明日への焔 後編、どうぞお楽しみに‼