神無 悠月side
「はあああ‼」
俺は走った勢いでその場から跳びあがると鳳凰のその頭上から刀を振り下ろした。しかし、それは軽々と避けられ俺は呆気なく地上へと着地した。やはり空中戦はどうも苦手だ。
すると、今度は鳳凰がその隙を逃さまいと炎の弾幕を惜しみなく俺へと放ってきた。
俺は一瞬帯刀するとすぐに抜刀して弾幕を斬り裂いた。火の粉として散る弾幕の向こうに鳳凰がさっきを込めた眼差しを向けているのが見えた。
「どうした? この程度か」
「――図に乗らないで、時効『月のいはさかの呪い』」
鳳凰はそう言うと周りに線状に並んだ弾幕と青いナイフがそれぞれ時計回りと反時計回りにばら撒かれる。タイミングを見計らってそれぞれを避けていくと、避けたはずのナイフの色が赤へと変わり今度は俺自身へと向かって飛んで来た。
俺は紙一重でそれを避けるとホルダーからスペカを取り出した。
そこには月明かりの下、たくさんの蛍に囲まれているリグルの姿が描かれている。
「だったら‼ 蠢光『儚きファイアフライ』」
スペカが発動すると俺の周りに光の粒子のような弾幕が舞い、それぞれ四方八方へと飛び散ると鳳凰の弾幕を避けながら迫る。すると弾幕は炎のように赤く燃え上がりながら鳳凰に突撃する。
直撃した弾幕は爆炎となり、避けられた弾幕は炎が燃え尽きると同時に儚く消えていく。まるで命の終わりを示すように。
鳳凰は予想以上のダメージに一瞬よろめくが、すぐに持ち直した。
妹紅の不老不死の能力が作用した所為だろう。
「――ッ、藤原『滅罪寺院傷』」
怒りに瞳が揺らいだ鳳凰は周囲に霊夢のに似た札の弾幕をばら撒いた。札の弾幕は地面や竹林にぶつかると反射するように方向を変え、上下左右デタラメに飛び交う。
最小限の動きでそれを避けると次のスペカを取り出す。
そこには夜の湖面の上、楽しげに歌を唄って飛んでいるミスティアの姿が描かれている。
「唄え、雀詩『闇夜のローレライ』」
発動すると同時に周囲が暗闇に包まれ、夜空に浮かぶ月だけが輝いている。俺はその場から高く跳びあがると月を背にして鳳凰へと向かって急降下、その勢いでその身体を斬り裂いた。
暗闇が晴れ鳳凰の姿を見ると、その身体には鋭い斬り傷が残っていたが、瞬くうちに傷は治った。
「――この程度でワタシは死なない」
「だろうな。でも、安心したぜ」
『ええ。この感覚、二年前と同じです』
「ようやく俺の愛刀が本領発揮したんだ。リハビリ相手には丁度良いぜ」
「――舐めないで。不死『徐福時空』」
怒気を孕んだ声がこだますると周りを囲むように赤と青の帯状の弾幕が展開され、それらはしばらくすると内側から外側へ、外側から内側へと放たれる。囲いの合間からも弾幕が放たれ、そして囲いはまた再構築されていく。
それらを斬り払いながら俺はスペカを取り出す。
そこには星型のペンダントを握り締め、白いパーカーを着た金髪の青年が描かれている。
「斬符『星弾』」
刀を振り払うとそこから弾丸の形をした弾幕が鳳凰へと向かって一直線に飛んでいく。そのスピードは本物と変わりなく、むしろそれよりも速く、そして正確に鳳凰の身体を撃ち抜いた。
攻撃が辺り弾幕が止むが、すぐに持ち直す。不老不死の能力は伊達ではないようだ。
「――滅罪『正直者の死』」
鳳凰は翼を雄々しく広げると周囲に弾幕をばら撒いた。下手に動けば被弾すると察した俺が最小限でそれを避けていくと、薙ぎ払うようにレーザーが放たれる。しかし、このスペカの名称は正直者の死、このままレーザーを正直に避けようとすれば被弾してしまう。捨て身覚悟でそのまま弾幕を避け、レーザーが薙ぎ払われてもあたり判定は無かった。
弾幕を斬り払い一瞬の隙を作るとスペカを取り出す。
そこには三日月照らす下、それを肴に杯を掲げている萃香の姿が描かれている。
「萃夢『刹那に咲く祭りの花火』」
刀に霊力を溜め上空へと振り上げると八尺玉ぐらいの大きな弾幕が打ちあがった。弾幕は鳳凰の目の前まで上がると一瞬収縮し、次の瞬間には大きく花開く花火のように拡散した。
弾幕は鳳凰の身体に容赦なく襲い掛かるが、すぐに再生する。
「――虚人『ウー』」
鳳凰がかぎ爪を鋭く尖らせながら俺の方へと迫ってくる。間一髪でそれを避けてるが、その飛んで来た軌跡には引っ掻き傷のような弾幕が並んでおり、次の瞬間にはそれらがありとあらゆる方向へと散らばり始めた。そしてまた鳳凰は俺へと襲い掛かる。
「さて、次はどれにするかな」
『ユウキ、今回はスペカが少ないですよ?』
「そうだな。一度使った奴をここで使うのは味気ないな」
『ならば、どうします?』
「……月美、アレをやるぞ」
『え、アレですか? ですが……』
「お前の力も元に戻ったんだ。できるだろ」
『はあ~やるだけやってみましょうか』
「そうこなくちゃな」
俺はホルダーから既存のスペカに舞いを取り出す。
それは妖夢と幽々子のスペカだったが、それが徐に光りだすと一枚のスペカへと姿を変えた。
桜の舞い散る中、刀を構えた妖夢と扇子を広げた幽々子が背中合わせした姿が描かれている。
「散れ、『西行妖々乱舞』」
刀を帯刀して迫り来る鳳凰へと向かって走る。鳳凰とかぎ爪が俺の身体を捉えるその瞬間、素早く抜刀し、一気に加速してその身体を隅々まで切り刻む。斬り抜けた後、刀を鞘に納めると軌跡に残っていた弾幕が桜の花弁となって散った。
斬撃に耐えた方法は驚きに満ちた瞳を俺に向ける。
「――その力は……‼」
「夢刀・月美の能力、紡いだ絆だ」
『幻想郷的に名付けるなら、『絆を紡ぐ程度の能力』です』
「名が体を表してないのは仕様だから気にするな」
「――そんなもの、いちいち気にしないわよ」
「『だろうな/でしょうね』」
「――ふざけないで‼ 不滅『フェニックスの尾』」
鳳凰は高らかに雄たけびを上げると空一面を覆うほどの炎の弾幕が展開された。それは鳳凰の合図
一つで一斉に降り注がれ、辺り一面を炎が赤く染めた。これまでよりもシンプルなパターンだが、
それゆえに逃げ道がなくなっていく感覚があって正直キツイ。
赤には紅ということで俺は咲夜とレミリアのスペカを取り出し、その形を変えた。
紅く染まる夜に、ナイフを構える咲夜と槍を構えるレミリアが背中合わせした姿が描かれている。
「染まれ、『スカーレット・オブ・ナイト』」
俺が指を鳴らすとその周りに銀色のナイフの群れが展開された。それらは一斉に炎の弾幕へと向かい、すべて出し切ると今度は紅い弾幕が追加され絶え間なく襲い掛かる。弾幕が一通り終わると、最後にナイフと弾幕を混ぜた群れが鳳凰を襲う。
予想以上の弾幕の濃度に鳳凰は避ける間もなく直撃する。
「――ッ、強い」
「これでも神を殺してんだ。負けれるはずねえだろ」
「――なら、蓬莱『凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ-』」
鳳凰は翼をはためかせ周囲に炎の弾幕を放つと、俺の方へ大きな火球を飛ばしてきた。それを避けると、それは地面に当たると同時に爆発した。それは絶えることなく俺へと降り注がれ、次第にそのスピードも上がってきていた。
火球を斬り裂き、背後で爆発が起こる中、次のスペカを取り出す。
そこには満月を背に、人間の姿と妖怪の姿をした慧音が手を取り合っている姿が描かれている。
「史記『人を護りし古の神獣』」
勢いでスペカを投げつけるとそれが次第に白い龍の姿へと変わり、鳳凰へと飛んでいく。確かこれの素が慧音だったからアレは白沢という認識でいいのだろうか? 一応これからは白沢とでも呼んでおこう。白沢は鳳凰へと突撃するとその身体もろとも弾けて消えた。
周りを見渡しても鳳凰の姿はどこにもない。だが、殺気の気配だけは感じ取れた。
「――『パゼストバイフェニックス』」
どこからかそんな声が響き、ふと後ろを振り向くと鳳凰の朧げな姿があった。そしていつの間にか俺の左右には炎が設置されており、避けようと移動するそれは俺を追うように次々と設置され、そして爆発する。炎を増やさまいと立ち止まるが、それでは爆発する弾幕を避けれない。鳳凰はその光景を見て面白そうに笑みを浮かべている。
「――これではどうも出来ないでしょう?」
「そうだな。耐久スペルはどうも苦手だ」
「――なら」
「それなら、無理を通して道理をぶち殺す」
俺は爆発を避けて魔理沙とアリスのスペカを取り出し、形を変えた。
星空の下、八卦炉を構えた魔理沙と人形を従えるアリスが背中合わせしている姿が描かれている。
「笑え、『スターダスト・マスタードール』」
俺の目の前に上海が現れ、それを手に取って背後にいる鳳凰へと向ける。上海の手には魔理沙の八卦炉とよく似たものが握られており、その中心に次第に力が溜まっていくのがよく分かる。そして力が最大限に溜まったその時、八卦炉から色鮮やかなマスタースパークが放たれる。
すると朧げだった鳳凰の姿が次第に実態を持ち、マスタースパークに飲み込まれる。閃光が晴れたとき、鳳凰の姿が見るも無残な状態だったが次第に再生していくのが目に見える。
「――ハア……ハア……」
「どうだよ。死ぬのを何度も体感するのは」
「――死なんて……怖くない」
「意地っ張りだな。そういうとこは宿り主に似るものなのかな」
「――五月蝿い、『蓬莱人形』」
鳳凰がそう言うと二つの炎が現れ、俺の周囲を囲むように炎を放ちながら周り始めた。炎は俺を狙うように次々と放たれ、周り続ける炎の通った跡には炎を残し、周囲が徐々に狭まっていく。その上、鳳凰からも弾幕の追い討ちが迫ってきている。
身を翻して炎の弾幕を避けると今度は霊夢と紫のスペカを取り出し、形を変えた。
陰と陽を隔てる線、札を構える霊夢と胡散臭く笑う紫が背中を合わせしている姿が描かれている。
「拒め、『夢想と現実の境界線上』」
スペカが霊夢との同じ御札へと変わり、幾つもの場所に紫のスキマが現れる。御札を四方八方のスキマへと投げつけるとそれは別々のスキマから紅い光を帯びた御札となって放たれる。スキマからスキマへと移動を繰り返し、最後には御札が弾けて無数のレーザーとなりその場全体を囲った。
逃げ場をなくした鳳凰はそれによって射抜かれ、若干動きが鈍ったように見える。
「――ッ‼ 『インペリシャブルシューティング』」
鳳凰の目が大きく開かれると周囲全体に炎の弾幕が展開され、次の瞬間に見境なくばら撒かれる。
放たれる弾幕を避けながら鳳凰の下へと走るが、嫌な予感がして後ろを振り向くと、放たれていったはずの弾幕がまるで時間を巻き戻すように迫ってきている。そして目の前と左右からも同じような弾幕が迫る。
流し目でそれを見つめるとホルダーからスペカを取り出す。
そこには満月を背にし、片手に蓬莱の玉の枝を握り締める輝夜の姿が描かれている。
「輝月『穢れなき月の羽衣』」
スペカが宙を舞うとそれは一枚の光沢の入った長い布となり、俺はそれを手に取るとその場で振り払った。月明かりに照らされキラキラと輝く布からは無数の小さな弾幕が放たれ、迫り来る炎を次々と打ち消していく。まるでその身に一切の穢れを拒むかのように。
鳳凰はその攻撃に耐えきれなくなったのか、その羽搏きには覇気を感じなかった。
「――どうして、人間がここまで」
「逆だ。人間だからこそここまでやるんだよ」
「――わからない。アナタとあの娘は今夜会ったばっかりなのに」
「そうだな。会って間もない奴の為に命を懸けるなんて、お前から見れば意味不明だろうよ」
「――それなら」
「でも、アイツは俺に手を伸ばしたんだ。だったらその手を掴むのは当然だろ?」
「――意味が分からない」
「俺もだ」
「――次で決着を付ける」
「同感だ。こっちも体力の限界だからな」
俺は口元をニヤッとさせると最後のスペカを取り出す。
そこには燃え上がる火の鳥を背にし、吹っ切れたような面持ちをする妹紅の姿が描かれている。
「――『フェニックス再誕』」
鳳凰は永夜の空へと上昇するとその身の炎をより一層燃え上がらせ、俺に向かって突進してきた。それに合わせて複数の炎の鳥が逃げ道を塞ぐように放たれる。
俺はそれらを斬り裂くと鳳凰が突進して来たタイミングに合わせて上空へと飛翔した。鳳凰はそれを見ると大きく旋回して俺の方へと身体を向き直して再び突進する構えを見せた。
「終わりだ。――焔翔『ロストブレイズ』」
スペカが発動すると俺の身体を赤よりも紅い炎が包み込み、その場で回転すると俺は蹴りを放つように炎の鳥を纏いながら鳳凰へと急降下する。
鳳凰はそれを向かい撃つように炎の鳥を従えながら俺に突進してくる。迫り来る炎の鳥を蹴散らしながら降下していくと突進してきた鳳凰とぶつかり、空中での競り合いが始まる。
「はあぁぁぁぁぁ‼」
最後の力を振り絞ると炎の形が雄々しく羽根を広げた鳥へと変わり、より一層燃え上がると鳳凰の身体を突き抜けその勢いのまま地面へと着地する。
鳳凰は力尽きたようにゆっくりと地面へ落ちる。鳳凰はその身の炎が消え去ると、もう鳥の姿ではなく夢で出会った羽織の少女へと変わっていた。それは不死の力がもう無いこと表していた。
俺は竹に寄り掛かる彼女へと近付くと膝をついて話し掛ける。
「――負けたわね」
「人間だってやる時はやるものだ」
「――そうね。忘れていたわ、人間の底力というものを」
「長年生きていると物忘れすることだってあるだろうよ」
「――優しいわね。さっきまで殺し合っていたっていうのに」
「お前みたいに少しでも心が残っている奴にはどうも殺意がわかないんだよ」
「――神無ノ御子は可笑しな奴が多い」
「よく言われるよ。特に、お前のお仲間から毎度のようにな」
「――アナタのような人に出会っていれば、あの娘は悲しまずに済んだのでしょうね」
「過去を振り返っても何も変わらねえ。なら、いっそ明日の事でも考えた方が少しはマシだ」
「――本当に可笑しな人」
彼女はそう言って消えそうな笑みを浮かべる。
「――最後にアナタに伝えておくわ」
「なんだ?」
彼女は俺の襟元を掴んで傍へと寄せると耳元でこう囁く。
「――ありがとう。殺してくれて」
彼女はそれだけを伝えるとそっと手を離した。
彼女の姿は光の粒子となり、天高く昇っていく。
「富士山に捨てられた蓬莱の薬は、絶えることない煙となり、天へと昇っていった。
それはかぐや姫を想う帝が、せめて想いだけでも月へ届かせたかったからかもしれないな」
そう呟きながら光の行方を目で追っていく。
それはどこまでも高く昇っていき、まるで月まで届いていきそうだった。
空亡「ようやく永夜異変が終わりましたね」
悠月「物語考えてからいろいろあって二ヶ月以上も掛かっちまったからな」
月美「本当なら次の異変を投稿しているはずでしたのにね」
空亡「物事は上手くいかないものですよ」
悠月「そんなことよりも、今回は何か大変だったな」
月美「ユウキのパワーアップ、スペカの融合、黒幕の存在、先が不安ですね」
空亡「最後のスペカの元ネタは勘が良い人にだけわかると思います」
悠月「殆どの元ネタがどこかの引用が多いもんな、ここは」
月美「手抜きにもほどがありますね」
空亡「……今回はここまでという事で、次回もお楽しみに」
二人「逃げやがった‼」
次回予告
同時に起こった二つの異変が終わり、人と妖は月を肴に宴会を楽しむ。
東方永夜抄、満月想、どうぞお楽しみに‼