神無 悠月side
「……今宵の月は一段と綺麗だな」
俺は夜空に輝く月を眺めながら傍らに置いていた団子を頬張る。
当初の目的とはだいぶ遅れてしまったが、今回は誰の邪魔もなくゆっくりとお月見を楽しんでいる。
満月から少しだけ欠けてしまった月を見て、俺これまでの事を思い出した。
堕ち神を倒した後、久しぶりに力を使った俺はその場で倒れてしまい。ここ数日間、また布団の中で眠っていた。こんなにも長く眠ったのは紅霧異変以来だったが、お陰で今の体調は万全だ。だが、目覚めた時にれいむに愚痴をぶちまけられるのはもう勘弁してもらいたい。
霊夢にその後の事を聞いてみると、堕ち神が消えた後に止まっていた夜が明け、彼女らと戦っていた奇妙な面の影もいつの間にか消えてしまっていたらしい。話によれば影の強さはこれまでの妖怪とはケタ違いで、少なくとも四面ボス並の強さだっという。いまいちピンと来ない例えだった。
見舞いに来てくれた慧音の話では人里への被害はなく、欠けた月の異変よりは明けない夜の異変の方が印象に残ったようで、ちまたでは『永夜異変』と命名されたらしい。だが、この異変の詳細を知る者は誰もいない。少なくとも、表の俺たちにはどうしようもない。
永遠亭については紫との話し合いでどうにかなったらしいが、輝夜は少し不服そうだった。ここまで躍らせた張本人である人物が未だに特定していないのもあるが、それ以上に最近妹紅が構ってくれないと言って拗ねているようだ。あの二人も無事に和解してくれて安心した。ただあらぬ方向へと言っていないか心配にもなった。
それと密かに動いていた美羽についてだが、咲妃の話では俺たちの所にいた影とは別の影と交戦していたらしく、途中で合流した椿希たちとそれらを撃退、その後に夜が明けるともういなかった。
アイツもアイツで異変を探っていたが、その表情は悔しそうだったとも言っていた。いつも余裕綽々なアイツがそこまで感情を出すなんて、想像も出来なかった。
「……俺らは何と戦っているんだ」
俺は手に持った団子の串を弄びながら月に問いかけた。
まるで誰かが書いた台本の上で踊らされているような感覚、それは今回の異変の関係者が無意識に感じていたことだ。自分が思っていることさえシナリオ通り、それがどれだけ不安なモノか。
「はあ…………」
俺はあの日見た月を思い出しながら静かに呟く。
今思えば、今回の異変と明晰夢、間接的には関わりがあったが直接的な関わりが全くなかった。そもそも異変に乗りだそうとしたのは大好きな月見ができないからという、傍から見ればどうでもいい理由だ。今までの明晰夢とは違い、なんだか違和感が残る。
「……ったく、考えても仕方ねえか」
「そうですよ~わからない事を考えても仕方ないですよ~」
そう言って傍らに座る少女はニコニコと笑う。
アホ毛が飛び出している黒髪のロングヘアー、黒いワンピースに黒いパーカー、首には俺がよく知る水晶のネックレスが掛けられ、アホの子という印象がある底抜けに明るい少女。
それを見て俺は今までの悩み以上の現実を見せつけられて溜息交じりに呟く。
「お前はお気楽でいいな。月美」
そう、今までスマホの中にいた月美がこうして俺の隣に座っている。
原因といえば美羽から貰った水晶のネックレス、名称『月見石』による影響だと思われる。
アレは元々夢刀・月美の素材として使われていた物の一部で、比喩でもなく月美も半身ともいえるものだ。その力は一欠片だけでも強大で、伝承によれば『とある神様』が宿っていると云われている。それが彼女の下に戻ったことにより力が復活、人形態になれるようになった。
「だって、ようやくユウキの隣に並べたんですもの」
「こっちは今後の消費の事を考えると先が思いやられる」
「それはご心配なく。その時はスマホの中に戻りますから」
「それは却下だ」
「なんでですか?」
「折角お前とこうして話せるんだ。また一人だけ仲間外れなんかするかよ」
「ユウキ……」
俺は誤魔化すように団子を口いっぱいに頬張る。やはりこういうのは慣れないものだ。
月美はというと嬉しそうに微笑みながら寄り添って団子を頬張っている。
「やっぱりユウキは優しいですね~♪」
「気味悪い」
「そんなこと思ってないくせに~」
「うるさい。怪談話の後に暗闇でのホラー映画のコンボ繋げるぞ」
「うぅ、そのコンボはさすがの私でも無理です」
「だったら黙って食え」
(そこで離れろと言わないところがユウキらしいです♪)
月美は少し微笑むと再び団子を頬張る。
「そういえば、フランちゃんとお月見の約束していましたよね」
「それならお前が人間になってはしゃいでぐっすり寝てた時に済ませといた」
「そうだったんですか。一緒にやれなくて残念です」
「居なくて結構。あれ以上人が増えたら過労死する」
「え? どういう意味ですか」
月美は団子を頬張りながら首を傾げる。
異変解決後、フランとの約束を果たすために後日お月見をすることになったのだが、咲妃に聴いてた通りにレミリアも参加、ここまでは俺も予想の想定内だったのだが、それに続くように椿希と幽々子、おまけに霊夢や魔理沙やらがぞろぞろと参加、結局異変解決チーム全員が揃ってしまう結果となってしまった。
「あれはあれで小さな宴会だったよ」
「そんな~それを逃すなんてもったいなかったですね」
「ゆっくり余生を楽しむのが俺の心情なのに、あの夜はいつも以上に騒がしかったな」
「その心情はもはや人生終盤の人が言うセリフだと思いますよ」
「そんなことはどうでもいい。つまりはその所為で疲れてんだよ」
(それでもこうして私とお月見してくれるのは、多分その埋め合わせなのですね)
「どうした?」
「いえ、ユウキももう少し素直になった方がいいかなと思いまして」
「……うるさい」
俺は軽く拳を握ると月美の脳天に拳骨をくらわせる。
月美は頭を押えながら涙目で俺の事を睨むとポカポカと俺の身体を叩いてきた。
「もー‼ 何で殴るんですかー‼」
(刀状態では強いくせに、人間状態じゃそこらの女子高生以下だな)
「ユウキのバカー‼ 人生終盤ー‼ 朴念神ー‼」
静かな夜に、月美に罵声だけがこだました。
少年少女祈祷中
「今回は明け方まで飲み明かすわよー‼」
「「「「「「「「「「おおおおおおおおおお‼‼‼‼‼」」」」」」」」」」
もはや恒例となってしまった異変解決後の宴会は、今までに類を見ないほどの大人数となっていった。といっても、この前のお月見のメンバーに永遠亭組が加わったというところしか違わないけどな。
そしてこれも同じく、みんな各場所で盛り上がっていた。
まずは霊夢と魔理沙、それとアリスが話をしているのが見える。魔理沙の奴がなんだか楽しそうに話しているところを見ると、どうやら竹林で俺と戦ったことを話しているようだ。霊夢は少し興味ありげに話を聴きながら料理を口に運び、アリスはその様子を見て微笑んでいる。そういえば、あの三人って仲良いな、まるで昔からの付き合いみたいだ。
視線を移すと、リグルとミスティア、それに慧音とフランが見えた。三人はどこか子供っぽいところがあるし、慧音は寺子屋で先生を務める程面倒見がいいからな、そう思うと自然な組み合わせだな。フランは最初はぎこちなかったが、次第にその表情が和らかくなっていくのを見ているとなんだか心が温まる。
所変わり、今度は咲夜と妖夢、それと鈴仙が談笑していた。あのメンバーの共通点といえば考えなくても分かるが従者と苦労人というところだろうな。どこの世界にも主に苦労させられる従者はいるもので、遠くにいる俺にはあの空間から苦労人オーラが漂っているように視える。このままだと冗談抜きで苦労人同盟が結束しそうだ。
目を逸らすと、紫とレミリア、幽々子と永琳とてゐが集まっているのを見つける。あのメンバーは一言で言えば長寿だが、傍から見れば幻想郷の勢力の頭が集まっているようにしか見えないんだよな。あの中に入れるのはある意味の覚悟が必要だな。……ところで、なんでてゐまでもがあちら側にいるのだろうか? 不思議だ。
「……なるほど、興味深い世界ですね」
「だよね~妖と人が共存している世界なんてすごいよね~」
「まるで小学生の作文みたいな感想ね。でも、椿希らしいわね」
「そうですね~」
「「「貴女にだけは言われたくないわ」」」
傍らで月美と咲妃、椿希と光輝が楽しそうに呑み合っていた。
あの頃の部活動メンバーも徐々に増えてきたな。それと共にうるさくもなったが。
「お前ら、楽しそうだな」
「だって、ひかりちゃんと再会できて私は嬉しいですし~」
「それに、月美ちゃんともこうしてお話しできるわけだし」
「僕はただ単にこの世界の特性を目の当たりにして感心しているだけです」
「今まで楽しめなかった分をここで発散しようかなと思いまして」
「……俺の苦労の種も続々と集まってきてるな」
「大変ですね~」
「僕は貴女の方に苦労させられていますけどね」
「ふふ、ひかりちゃんも大変ね」
「咲妃ちゃんだって部長さんが来たら人の事は言えませんよ」
「その場合、ほぼ全員に苦労が掛かると思うけどな」
「ところで、またお一人になる気ですか?」
「ああ、月見は少人数でする方が落ち着くからな」
「では、僕は皆さんからこれまでの事を聞いてますね」
「だったらここまでの異変の話でもしましょうか」
「賛成~」
「では、そういうことなので」
「……ありがとな」
俺は小さくそう呟くとその場を後にした。
月見できるところといえば…………………………あそこか。
少年祈祷中
「ここに来るのも何度目だろうな」
すっかり定番の場所となった神社の屋根に腰掛けると持っていた団子を頬張った。
ここから眺める景色は、どこよりも綺麗で、夜空に輝く月にも手が届きそうに感じられた。
下では未だに賑やかな声が聞こえてくる。本当に元気な奴等だと思う。
「月見れば 千々にものこそ悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど」
そんな時、後ろから聞き覚えのある声と和歌が聞こえた。
気配を探ると俺は振り返ることなくその和歌の意味を答えた。
「月を見ていると物寂しくなる、俺だけの秋というわけでもないのに。
月明かりに照らされる物憂げなその姿から、ため息が聞こえてきそうだってことか?」
「それはいつものアンタと変わらないと思うのだけど」
「こら、本当の事を言っちゃダメでしょ」
「聞こえてるぞ。妹紅、輝夜」
呆れ気味に俺がそう言うと二人は俺を挟むように隣に腰掛けた。
「こんな所で一人で月見なんて寂しいわね」
「お前、それだけ言いたかっただけだろ」
「そうだけど、それだけじゃ味気ないでしょ?」
「言葉の一つ一つに味気ないもあるか」
「諦めなさい。コイツと話で勝負しても負けるだけだから」
「解ってる。うちにも似たような人が居るからな」
「どんな奴?」
「人の迷惑なんて考えず自分の好奇心だけで行動するお騒がせなお嬢様」
「あら、そんな人に付き合わされて大変ね」
「アンタにだけは言われたくない言葉ね」
「同感だ」
「失礼しちゃうわね」
俺と二人はそんな他愛のない会話をしていた。
すると、いつの間にか輝夜は月を眺めたまま少し黙ってしまった。
「月なんか眺めてどうした?」
「別に、ここから眺める月はとても綺麗だと思っただけよ」
「確かに、私も竹林にいたからこんなに眺めのいい夜空を見たのは久しぶりな気がする」
「そうか。こんないい景色を見てなかったなんて、お前らも損な人生を送ってきたんだ」
「人生終盤みたいな雰囲気の貴方に言われるなんてね」
「でも、損な人生を送ってきたか。否定できないわね」
妹紅はそう言うと輝夜と同じ様に月を眺める。
「復讐するために輝夜を探し、罪もない奴を殺し、蓬莱人なんかになって化け物扱いされ、親しい人の別れが辛いからと関わることをやめた。今思い返せばバカな事をしてたわね」
「私もよ。地上に憧れて自ら罪を犯し、周りにいる人たちの人生を狂わせて、今の今まで逃げてきた。今回の一件も、元を辿れば私の我が儘が招いた事態よ」
「そうかもな。お前らは長い時を生きてきて罪と罰を背負ってきた。それは誰かに許してもらうモノでもないし、過去はどうやっても変えられないのがこの世の理みたいのものだ」
慰めなど余計なお世話だと俺は思った事を二人に突き付ける。
俺は知っている。罪と罰は許されるものではない。過ぎ去ったことはいくら力を持った者でも覆すことはできない。いくら罪を懺悔しようと、その時が戻ってくることなどありはしないのだから。
俺の言葉で更に暗い雰囲気になってしまったが、俺はそれに続けて言葉を紡いだ。
「でも、罪は償えるし、未来は変えられる」
「安直な言葉ね」
「そうだな」
「……でも、その通りね。過去なんて無限にやって来るわ」
「だからこそ今を楽しむ、この一瞬に敵う物なんてないのだから。でしょ?」
「わかってるじゃない。そうね、過去の後悔なんてもうとっくに済んだわ」
「私も、とっくの昔に罪を背負って生きていく覚悟は気溜めたわ」
「ふふ、お前らはやっぱり仲が良いな」
「伊達に数百年も殺し合っていたわけじゃないわ。ね?」
「アンタはただの暇潰しの相手としか見てなかったでしょ」
「否定はしないわ」
輝夜はくすっと笑うと傍らの団子を盗って口に入れた。それに続くように妹紅も団子を食べる。
いつもなら俺が注意してるところだが、今日はせっかくの月見だ。それに免じて許してやるか。
「……月が綺麗だな」
「え?///」
「あら? それはどういう意味かしら?」
「別に、普通に綺麗だなだなと思っただけだ。深い意味なんてない」
「ふ~ん。だそうよ、残念だったわね」
「な、何がよ?」
「誤魔化さすのが下手ね。顔が真っ赤よ」
「う、うるさいわね。私はユウキの事なんて……」
「私はユウキの事好きよ。気怠そうなのは玉に瑕だけど」
「その本人の前でよく言えるな。さすがは我が儘お姫様」
「そう褒めないでくれるかしら。照れるわ」
「褒めてねえし、照れなくてもいい」
「あ、あの、ユウキ」
「お前も気にするな。俺ももう少し言葉は選ぶべきだったな」
俺はいつもの様に妹紅の頭を撫でた。
彼女は顔を紅く染めると俯いたまま大人しくなってしまった。
「いいわね~私も撫でてほしいわ」
「お前はお前でブレないな」
「そんな事はどうでもいいから、撫でなさい」
「はいはい」
「……………………あ」
「ん? どうかしたのか?」
「……いえ、何でもないわ」
俺に撫でられている輝夜はそう言うと目を閉じた。
その様子は遠い思い出に浸っているかのような、とても気持ちよさそうな表情だ。
「――この感じ、やっぱり“アイツ”と同じ」
「何か言ったか?」
「……ううん。やっぱり恥ずかしいわね」
「だったらやめるが?」
「そのまま続けて。できるだけ、今この瞬間を楽しみたいのよ」
「私も、もう少しこのままでいて」
「わかった」
俺は二人の気が済むまで頭を撫で続けた。
こんな月夜なのに、俺は一体何をやっているのだろうな…………。
空亡「終わりましたね」
悠月「そうだな。いろいろありすぎて濃い回になったけどな」
月美「私は人間状態になれて嬉しい限りです」
空亡「やはり宴会の回はワンパターンになりそうです」
悠月「グループ別の描写が回を重ねるごとにカオスになっていってるけどな」
月美「そしてユウキはまた一人に……少しは皆さんと触れ合いましょうよ」
悠月「断る。そんなことしたら俺の体力がもたん」
空亡「さて、次回は久々のコラボ回、忘却記の舞台でユウキが暴れます」
悠月「あの時の屈辱を十倍にして返してやるから覚悟しろ」
月美「それでは、次回まで楽しみにしていてください」
次回予告
コラボ第二弾、ユウキのキャラ崩壊覚悟の復讐が今始まる‼
非日常編・惨、忘れられない復讐劇、どうぞお楽しみに‼