東方絆紡録   作:空亡之尊

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新月五重奏

神無 悠月side

 

 

「……暇だ」

 

 

とある新月の晩、俺は霧の湖の畔で釣り糸を垂らしながらそう呟いた。

目的は主に二つ、一つは数少ない料理のレパートリーでも増やそうと思い、魚が手に入りそうなこの湖で釣りをしている。しかし、海が無いというのもなんだか寂しいな。

 

もう一つは、ここに住み着いているという怪魚の姿を拝みにやってきた。なんでも、今夜のような新月の晩に怪物級の大型魚が釣れるとかなんとか。まあ、その大半が逆に釣られるという結末を辿ったとも聞いた。

しかし、俺の興味は大きさや珍しさではない。そう、俺が求めているのは………………。

 

 

「……食える物ならしばらくは生きていけそうだ」

「私が聞いた話ではその魚って鯉のようだったと聞いてますよ」

 

 

隣で同じように釣り糸を垂らしていた月美が視線を外さずにそう言った。

 

 

「大丈夫、鯉は食べれる」

「いや、鯉って食用じゃありませんからね」

「アジア圏内では食用魚と食べられているらしいな」

「詳しいですね」

「椿希の土産話で聞いた。味はまあまあだったらしい」

「食べたんだ。相変わらず大胆な子ですね」

「まあ、食べられる物なら何でもいいけどな」

「ユウキも大概ですね。まあ、そういうところが私は好きですけど」

「うるさい」

 

 

そんな他愛のない会話をしていると不意に釣り糸が揺れ、湖面に小さな波紋が広がる。

手ごたえが弱いから恐らく怪魚ではないだろうが、俺は勢いよく釣り上げた。釣り糸の先には一匹の魚が掛かっていたが、勢いが強すぎたのか後方へと飛んでいき………………ぱくっ。

 

 

「「あ」」

「う~ん、やっぱりここの魚は美味し~♪」

「生で食べたらお腹壊すよ?」

「じゃあ凍らせれば問題ないわね‼」

「いや、それでもダメだと思うよ」

「それよりもその魚、勝手に食べたけどいいの?」

 

 

そこにはルーミア、ミスティア、チルノ、大ちゃん、リグルの五人がいた。ルーミアはさっき釣り上げた魚を美味しそうに頬張っている。盗られたという以前に、そのまま食べてお腹を壊さないか心配だ。他の四人もそれを見て心配しているようだ。

 

 

「あ、ユウキだ」

「よう。ルーミア、魚は美味しかったか?」

「うん‼」

「あの~もしかしてこの魚って……」

「気にするな。あんな美味しそうな顔見てたら怒る気もしねえよ」

「相変わらず子供には優しいですね。少しは私にもその優しさを」

「お前は論外だ。って、糸引いてるぞ」

「え、おお‼ 本当です」

 

 

月美は引いている竿の方へと意識を向けた。

それを近くで見るように後ろの五人は畔に腰を下ろす。

 

 

「なにしてるの?」

「ここに住み着いてるっていう怪魚を釣りにな」

「ああ、そう言えばそんなのが居るって聞いたことあるわね」

「でもその魚って鯉じゃなかったっけ?」

「ユウキさんなら鯉でも食べそうですけど」

「何気に大ちゃんの言葉が一番キツイな」

「す、すみません」

「あはは、やっぱりユウキは誰からもそう思われているみたいですね」

「うるさい。お前はとっとと新しい釣り餌でもつけてろ」

「は~い」

 

 

そう言って魚を取り逃がした月美は釣竿を振り下ろす。

すると傍らに座っていたチルノが思い出したかのように口を開く。

 

 

「あたいその魚見たよ」

「それ、本当か?」

「うん。そう言えばこの前見た時も月が無かったよ」

「新月の晩に出るってのは本当みたいだな」

「そうみたい。けど、それ本当にその怪魚だったの?」

「チルノ見間違いなんじゃないの?」

「本当だよ‼ あたいこの目で見たもん‼」

「まあまあ、チルノちゃん落ち着いて」

「だって……」

 

 

チルノは弱々しく呟きながら力なく俯いた。

自分が言っていることを信じてもらえないのは悲しいことだ。俺も昔、そんな経験がよくあったかな何となく気持ちは分かる。

けど、こんな姿を見ているといくら人間より強くても心はまだ子供なんだなと感じてしまう。

俺は釣竿を片手で抑えるともう一方の手でチルノの頭を撫でる。

 

 

「ユウキ?」

「大体わかった。ようは俺がその怪魚を釣ればいいだけの話だ」

「でも、そう簡単に釣れるようなものじゃないと思いますが?」

「ふふ、だからって俺が諦めたらチルノの話を証明できないからな」

「そういう負けず嫌いお人好しな性格、ユウキらしいですね」

「ホントホント~(もぐもぐ)」

 

 

隣で釣っていた月美はその様子を見て微笑みを浮かべた。その後ろでは月美が釣った魚を頬張りながらルーミアが首を縦に振っている。どおりで大人しいと思ったら食事中だったわけか。

 

 

「お~い、釣った奴は持ち帰るから残しておけよ」

「そう言われても、目を離した隙にルーミアちゃんに食べられてしまいます」

「おいルーミア」

「???」

「今度たらふく食わせてやるから我慢してろ」

「は~い」

 

 

ルーミアは嬉しさと残念さの交った表情で手に持っていた魚を置いた。

あれ以上食う気だったのかと思うと、やはりここで止めていて正解だったようだ。

 

 

「けど、どうやって怪魚なんて釣るつもりなんですか?」

「そうよね。私も話で聞いただけど、今までに釣った人なんていないんでしょ?」

「怪魚って呼ばれてるくらいですからね。逆に釣られる人の方が多い気もします」

「そうなっては洒落になりませんね」

「いっその事でかい釣り餌でもたらしておけば食いつくんじゃねえのか?」

「確かにその方が可能性はありそうですけど………」

「どこにそんな釣り餌があるっていうんですか?」

 

 

リグルとミスティアの疑問はごもっともだ。

人まで喰らう怪魚、それを釣るための餌となればやはり……………………。

 

 

「――――月m「いやいやいや‼ 私は絶対嫌ですよ!?」まだ何も言って無い」

「今のユウキの目は『お前を釣り餌にして怪魚を釣ってやる』ていう意志が込められていました‼」

「それだけお前との絆が「いい話に持っていこうとしないで下さい」……わかったよ……チッ」

「なんで私舌打ちされたんですか? ねえ、誰か教えてください!?」

「ったく、ぎゃあぎゃあ騒ぐなよ―――――っ‼‼‼‼‼」

 

 

傍で騒ぐ月美を落ち着かせようとした瞬間、俺の釣竿が予想以上の力で勢いよく引っ張られる。俺は話しそうになる竿を必死に握り締めるとなんとかその場に留まった。しかし、竿を引っ張る力は弱まることなく俺を湖へと引きずり込もうとしている。

 

 

「「「「「ユウキ!?」」」」」

「――っ‼ おいおい、俺はフラグなんて立てたつもりはないが?」

「釣りに来ている行動自体が主にフラグの原因だと思いますけどね」

「おい、のんびりと眺めている暇があったら何か手伝え。でないと釣られる」

 

 

俺も余裕を装っているが、実際は一瞬でも気抜いたら引きずり込まれる危機的状況だ。

普段から人外などと言われているが、戦闘以外ではごく普通の人間でしかない。さっきから腕に力も限界寸前、いつ引きずり込まれてもおかしくはない。

そんな事を持っていると俺の背中にひんやりとしたものが押し付けられているのに気付いた。振り向くとそこには必死に俺の事を抱き留めているチルノの姿があった。

 

 

「チルノ?」

「あのでっかい魚なんかにユウキ、友達が食べられるなんて……嫌‼」

「……ありがとな。チルノ」

 

 

いつも我が儘で強がりな子だけど、誰よりも優しくて友達想いな子だ。こんな俺でも、友達だと思っていてくれているだけで、俺は嬉しかった。

 

 

「ふふ、ここで俺が食われたらカッコ悪いな。月美」

「そうですね。ここは私が一肌脱ぐ必要がありそうですね」

「適当なスペカはホルダーの中だ。言っておく、確実に仕留めろ」

「御意――夢刀・月奈」

 

 

月美はそっと呟くと手元に一振りの刀を召喚すると、俺のホルダーからスペカを取り出す。

補足しておくと、俺のスペカは少し特殊で、任意した相手にならスペカの使用を許可することができる。スペカを持っていない咲妃たちとも共有できるから便利だと思っている。

 

 

「いくら怪魚でも、でかいの一発で十分ですね」

「おい、お前そのスペカは……‼」

「いきます、桜刃『反魂亡霊舞汰斬』」

 

 

月美は刀を振りかざすと湖目がけて凄まじい斬撃を放った。その衝撃で湖の水が上空へと打ち上がり大きな水柱ができあがった。

いつの間にか手を放していた釣竿の行方を探ろうと俺が周りを見渡していたその時、視界が急に暗くなった。よく見ると大きな影が周りを覆っているだけだった。

 

 

「なんだ、ただの影か」

「でもこんなに大きな影って一体?」

「でもなんだか、魚のように見えませんか?」

「「「「「「え?」」」」」」

 

 

大ちゃんの言葉にその場の全員が頭上へと視線を向ける。

そこには月明かりに照らされる一匹の魚の姿があった。逆光で詳しい姿までは分からないが、大きさはおよそ5~7m、種類は話で聞いていた通り鯉のようだ。

その場の全員が呆気にとられていると、怪魚は湖へと戻るように落下していく。

 

 

『――久々に面白い人間に出遭わせてもらった』

「え?」

『――また会おう。神無』

 

 

すれ違う一瞬、怪魚の瞳が俺の方へと向いていた。それはまるで面白いものでも見つけたように嬉しそうだった。もしかして、今の声は………………。

怪魚が湖へと戻るとその場は静寂に包まれ、湖の波打つ音しか響いていなかった。

 

 

「今のって……」

「もしかして……」

「もしかしなくても……」

「おそらく、あれが怪魚と呼ばれているモノですね」

「大きくて食べ応えがありそう」

「あたいが見た時よりも大きかった……」

「成長しているってことでしょうか? そこら辺はどう思います?」

「……今の声は……いや、それよりもなんでアイツは神無を……」

「ユウキ?」

 

 

俺が考え込んでいると月美が心配そうに顔を覗かせていた。

 

 

「いや、さっきのを見てどんな調理法がいいかなって考えていただけだ」

「――本当ですか?」

「ああ、それだけだ」

「ならいいですけど。しかし、これでは収穫なしという結果に終わりますね」

「ふふ、そうでもないみたいだぞ」

 

 

俺は湖の周りへと視線を向けると口元をニヤッとさせる。

そこには湖が打ち上げられた時に一緒に水揚げされた魚たちが畔で飛び跳ねていた。

 

 

「もしかして、最初からこれが目的で?」

「怪魚なんて釣り上げても持ち変えるのが大変だからな」

「怪魚釣りはあくまで興味、本命はただの魚釣りですか」

「たまにはまともな日常を送りたいと思っただけだ」

「怪魚を釣った時点でまともな日常じゃりませんけどね」

「仰る通りだな」

 

「それにしてもすごかったねさっきの怪魚」

「実は少し疑ってたんだけど、自分の目で見ると信じるしかないわね」

「ごめんねチルノちゃん、私も少し……」

「いいよ。それより、ユウキたちの魚拾うの手伝おう‼」

「そうだね(もぐもぐ)」

「「「「まだ食べてるの‼」」」」

 

 

その後、拾った魚を使ってチルノたち五人にご馳走を作ってやった。

 

今夜は色々とあったが、こんな非日常を楽しんでいる俺が居る。

願わくば、こんな平和で笑顔の絶えない日々が続けばいいのに…………。

 

 

 

 

 




空亡「ようやく投稿できました~」
悠月「おつかれ。今回は随分と賑やかな回だったな」
月美「バカルテット+αでしたからね賑やかにならないのがおかしいかと」
空亡「その分、話考えるのが難しかったですけど」
悠月「それで霧の湖の怪魚を持ってくるなんて、よく思いついたな」
空亡「本当は四人と弾幕ごっこでもと思ったんですけど、そこまでの流れが……」
月美「そこに行き着くまでに力尽きるのはよくあることですね」
空亡「まあ、たまたま東方求聞史紀を見て思い付いただけですけどね」
悠月「持ってんだな、あれ」
月美「これから東方の書籍を集める気満々らしいですよ。駄作者さん」
悠月「金には気を付けろよ」
空亡「くっ、そういうことで、次回も楽しみにしていてください‼」


次回予告
俺は優しいと言われるが、本当にそうなのだろうか? それが悩みだ。
非日常編・惨、白沢悩み相談、どうぞお楽しみに‼
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