神無 悠月side
「…………………………」
突然だが、目の前にウサ耳セーラー服の少女が亀甲縛りで吊るされていたらどうする?
いや、俺も自分で何を言っているのか分からない。ただ、そういう場面に出くわしてしまった場合の対処法を知りたいだけなのかもしれない。………現実逃避もこのくらいにしておこう。
しかし、亀甲縛りなんて器用なことしたうえで吊るして放置なんて………どこの薄い本だよ。
今日は人里のアルバイトで薬の調達をするために永遠亭まで向かっていたのだが、案の定、面倒事に出くわしてしまった。まあ、ここに来る道中で以前にも似たような罠が仕掛けられていたり、既に発動されていたのを見て嫌な予感は薄々していたからあまり驚きはしなかった。
なあ神様、俺の人生には日常パートなんてないのか? どうか答えてください。
「ああ~俺の人生なんだろうな」
「あの~自分の人生を悲観する前に私を助けてくれませんか?」
「悪い。ところで、確かお前は………」
「あ、あなたはたしかこの前の異変でお会いした」
「神無悠月だ。お前はたしか鈴仙・優曇華院・イナバだっけか」
「そうだけど。まさかフルネームまで覚えているなんて驚いたわね」
「人の名前を憶えるのは得意なんだよ。特に特徴的な名前はな」
「それでもすごいわよ。ところで、できれば早く助けてくれないかしら」
「ああ、わかった」
俺はポケットから護身用に先から貰ったナイフを取り出すと彼女が吊るされているロープへと投擲する。ナイフは寸分の狂いなくロープを斬り裂くと吊るされていた彼女が落ちてくる。
「きゃ‼」
「おっと、危ない危ない」
「……///」
「ん? どうした」
「い、いや、その………?」
「………あ」
顔を赤らめている彼女を見てようやく今の状態を把握した。
俺は落ちてきた彼女を両手で抱きかかえている。要するに世間一般で言うお姫様だっ子を俺はしているという事である。……うん、これはどうしたらいいだろうか。
とりあえず彼女を下ろして縛っているロープを解いた。
「ったく、てゐの奴め、いつもいつも手の込んだことをしやがるぜ」
「あ、ありがとう/// 助けてくれて」
「気にするな。困っていたら助けるのが当然だ」
「人間なのに変わってるわね」
「よく言われるよ」
俺はいつもの様に微笑んだ。
よくこの台詞を言ったり言われたりしているが、やっぱり俺って変わっているのだろうか?
「ところで、どうしてこんな所に?」
「アルバイトで永遠亭に向かう途中だったんだよ。普通の人間には道中は危険だからな」
「そうね。ここら辺は迷いやすいうえに妖怪がうろついている時が多いから」
「ちなみに報酬は2500円だ」
「太っ腹ね。でもなんでうちに?」
「慧音が緊急用にと一通りの薬を常備しておきたいってことでその調達に」
「なるほど。あの先生が考えそうなことね」
「そうだ。どうせ鈴仙も永遠亭に戻るんだろ?」
「そうだけど」
「だったら一緒に行こうぜ。少し話してみたいこともあるしな」
「……別にいいけど」
彼女の了承を得た俺は投げたナイフを拾うと永遠亭へと歩き始めた。
「で、話って?」
「ああ、お前ってここに来る以前に部隊か何かに入ってたか?」
「……なんでそんなことを聞くのよ」
「実は咲妃からなんだが、お前の動きがそこらの奴等より戦い慣れしてるって聞いてな」
「たった一度しか戦ってないのによく分かったわね。あの娘」
「アイツの観察眼は人一倍だ。仕草や行動から相手の動きなんて探ったりもするからな」
「まるで暗殺者、アサシンね」
「で、実際のところはどうなんだ?」
「入ってたわね。でも、それ以上語るつもりはないわ」
そう言う彼女の瞳が一瞬暗くなったような気がした。
人にはからりたくない過去なんてものは誰にでもある。それは俺も同じだ。
「そうか。まあ無理に語られても心が痛いだけだしな」
「結局何がしたかったのよ」
「咲妃が思っていた疑問を解消しようとしただけだ。さっきのだけで十分だ」
「そう」
そう呟くと彼女は小さく微笑んだ。
「………綺麗だな」
「え/// い、いきりなりなによ///」
「いや、鈴仙の瞳って紅くて綺麗だなって思ってさ」
「そ、そうなの? あまり瞳のことで褒められたことってあまりないから」
「そうなのか?」
「うん。私の瞳って人の波長を狂わせるから、そう思われる事なんて無かったわ」
そう語る彼女の瞳は爛々と紅く光っているように見えた。
満月は人を狂わせるという話を聞くが、彼女の瞳からはそれと同じ雰囲気が感じられる。
先の話でも、鈴仙の能力は常人にはとても危険だと警告していた(俺は大丈夫だろうとも)。
「なら、その瞳をちゃんと見れる俺は幸せ者だな」
「……どうでしょうね? アナタもいつかこの瞳を見て狂うかもしれないわよ」
「心配ねえよ。俺らはとっくに×××××からな」
「え、今何か言った?」
「何でもねえよ。でも、確かに鈴仙の瞳は満月に似てるな」
「人を狂わせるって処が?」
「それもあるが、それ以上に…………」
俺は彼女の瞳をじっと見つめる。
「俺は綺麗な物には惹かれる性質なんだよ」
「!?///」
「なんてな。悪い、変なこと言って」
「……そんなこと言うなんて、気でも狂ったのかしら?」
「そうかもな」
俺は誤魔化すように笑うと視線を違う所へと向ける。
「ところで、いつまで覗き見してる気だ? てゐ」
「え?」
「あ~らら、バレてたのね」
そう言いながら竹藪の影から残念そうにてゐが出てきた。
以前に妖怪兎の群れの中に紛れていたのと同じで分かりにくかったが、一度覚えた気配はすぐ解り易かった。日に日に俺も人外になっていってるな。
「なめるなよ。これでも憶えるのは得意なんだ」
「気配を憶える人間なんて聞いたことないよ」
「そうでもしないと生きていけない人生だったからな」
「アンタって本当に二十歳? 私にはとてもそう見えないんだけど」
てゐが若干引き気味に俺を見ている傍で鈴仙は顔を俯かせたまま黙っている。
「あ、鈴仙。よかったわねユウキに助けてもらって」
「…………………………」
「それと、何だかイチャイチャしちゃっていい雰囲気だったじゃない」
「おい、てゐ」
「しっかし、ユウキもよくあんな台詞恥ずかしげもなく言えるよね」
「そうか?」
「無自覚なんてタチが悪いにもほどがあるわよ。ねえ、鈴仙」
「…………………………」
なんだろう、鈴仙から俺の幼馴染と似たような雰囲気(殺気の類)が感じられる。
「あれ? 鈴仙どうかしたの?」
「……てゐ」
「ん? なに?」
「さっきはよくもやってくれたわね………」
「え?」
「アンタの罠の所為でユウキに恥ずかしい姿を見られた……」
「れ、鈴仙?」
「――覚悟はいいかしら?」
その瞬間、凄まじい殺気がただ一人へと向けられる。
だがてゐも長年生きた妖怪なだけあって殺気に屈することはなかったが、明らかに目の前の者に対して命の危険を感じている。ああ、こんな状態を俺も経験したことあるような気がする。
目を紅く光らせながらじりじりと迫る鈴仙に額に冷や汗をかくてゐ、この後の展開が予測できる。
「ユ、ユウキ……」
「さて、俺は先に永遠亭に向うからな」
「ええ、気を付けてね」
「そっちこそな。…………特にてゐ」
「ちょっとぉぉぉぉぉ!?」
その場を後にする俺の後ろから悲鳴やら弾幕音やらピチューン音やらが聞こえてきたが、俺は振り向かなかった。振り向いたらなんだか巻き込まれそうな、そんな予感がした。
「てゐのバカーーーーーーー‼‼‼‼‼」
「……因果応報、その意味がよく分かるな」
「黄昏てないで助けてよ‼」
俺はその場から逃げるように永遠亭へと向かった。
空亡「タイトルが痛い」
悠月「もっとマシなのはなかったのかよ?」
月美「そう言うユウキも今回はストレートに口説いてましたね」
空亡「たまにはそういうのも良いと思いましてね」
悠月「……頼むから、アレについては触れないでくれ」
月美「(珍しくユウキが照れてる…………可愛い)」
空亡「さて、そんなことよりも早く仕上げますか」
悠月「今度は花映塚だっけか? 大変だな」
月美「ただし、しばらく私たちの出番はないようですよ」
悠月「ってことは、アイツの出番か」
空亡「そういうことですね。では、次回楽しみにしていてください」
次回予告
竹林の奥に佇む永遠亭、今では診療所としても働いているらしい。
非日常編・惨、月の医者の処方箋、どうぞお楽しみに‼