東方絆紡録   作:空亡之尊

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月の医者の処方箋

神無 悠月side

 

 

「……迷ったな」

 

 

俺は竹林の中で静かに呟いた。

鈴仙と別れてから一人で進んでいたが、やはりここの地形は迷いやすい。今度からは妹紅辺りに道案内を頼んで一人で行動するのはやめておこう。

しかし、こういう時に頼りになる月美は一足先に輝夜のところに遊びに行ってるしな、この状況を自力で打破するのは少々骨が折れそうだ。

 

 

「さて、どうするか」

「お困りのようですね。ユウキさん」

 

 

一人で考え込んでいると不意に横から話し掛けられた。そこにはタケノコが入った籠を片手で担いでいるヒカリがいつも通り気怠そうな瞳で俺を見つめいた。

 

よく見るともう一方の手には黒いフィンガーグローブがはめられている。

彼女の愛刀である護刀・光姫、刀とは似ても似つかないが、中には鋭いワイヤーが内蔵されていてそれを使ってた戦うのが彼女の戦法だ。主に体術を使う彼女にとってはおまけみたいなものだが。

 

 

「道に迷っていただけだ」

「ここは慣れていないとすぐ迷いますからね。あまり一人で行動するのは得策ではありませんよ」

「わかってるよ。ところで、お前こそ何やってたんだ?」

「見ての通り、筍採りです。今夜の料理にどうしても必要だったので」

「お前、この世界の適応速いな」

「僕も一時期は満足な設備無しの生活もしていましたので、このくらいどおってことないですよ。それに、僕もこの世界に少し興味があります」

 

 

彼女はそう言うと黒い笑みを浮かべる。

 

 

「妖怪や不老不死、是非とも研究したいです」

「相変わらず、研究熱心だな」

「まあそれ以上に貴方の事も当然愛していますけどね」

「はいはい。そう言うところも相変わらずで少し安心したよ」

 

 

俺は溜息を吐きながら彼女の頭を撫でる。

コイツは普段はクールでカッコイイくせに、俺のことになるとこんなセリフを何の恥ずかしげもなく言うから困る。まともに相手をしたら疲れるので、誤魔化すのが得策だ。

俺に撫でられながらも彼女は少し不満そうにしている。

 

 

「ん、私は本気なんですよ」

「ああ知ってるよ。“あんなこと”されて気付かないほど俺も鈍くねえよ」

「だったら……」

「悪いな、俺には決められないんだよ」

「……解りました。しかし、私は諦めませんからね」

「精々俺の苦労を増やさないでくれよ」

「善処します。それでは、一緒に行きますか」

「ああ」

 

 

俺は彼女に手を惹かれながら永遠亭へと向かった。

 

 

 

少年少女祈祷中

 

 

 

「ただ今戻りました」

「邪魔するぜ~」

 

 

永遠亭へと辿り着いた俺らは永琳が待っているという部屋の扉を開けてはいった。

そこにはイスに座ってレポート用紙を見つめていた永琳がいた。以前見た時とは違って白衣を羽織っていた。こうしてみると本当に医者みたいに見える。

 

 

「帰りなさい。それと、いらっしゃい」

「久しぶりだな。永琳」

「ええ、こうやって面と向かって話すのは初めてかしら?」

「そうだな。あの時は美羽に打ちのめされた後だったからな」

「嫌な事を思い出させないで。あの時は私も大人げなかったと思っているから」

 

 

そう言いながら永琳は頭を抱える。

よほど美羽の挑発に乗って負けたのが悔しかったみたいだな。

 

 

「それは悪かったな」

「ところで、聞きたいのだけど」

「悪いな。美羽のことについては教えられない」

「その様子から見て知っているとも思えないのだけど?」

「仮にそうだとしても、アイツの不利になるようなことは教えられないんだよ」

「あの娘と貴方は敵じゃないの?」

「てきじゃねえよ。少なくとも、アイツはそう云うつもりはない」

「だったら」

「だからと言って、アイツが傷付くのは嫌なんだよ」

「わかったわ。ならこれ以上は詮索しないわ」

「助かる。ところで、少し相談したいことが」

「なにかしら?」

「実は慧音に頼まれてな、このメモに書いてある薬を譲ってもらえないか。もちろん代金は払う」

 

 

俺はポケットから慧音に渡されたメモを渡す。そこには一般的な薬の一覧が丁寧に書かれている。

永琳はそれを見て少し考えるとメモを俺に渡して告げた。

 

 

「いいわよ。私も少しくらいは人の役に立ちたいと思っていたから」

「ありがとな。ちなみに俺からも頼みがある」

「今度は何?」

「……胃痛と不眠によく効く薬ってあるか?」

「「…………………………」」

 

 

その瞬間、その場の雰囲気が著しく重くなった。

永琳はどう反応すればいいのかという表情を浮かべ、近くで色々と整理していたヒカリもバツが悪そうな顔で固まってしまっている。

 

 

「ち、ちなみにだけど、どうしてそんなの物が必要なのかしら?」

「……実はこの前慧音にも相談したことなんだが、ここ最近、いや俺の人生って面倒事ばかり起こるし、今後の事とか外の世界の事を考えると胃が痛くなるうえ眠れない。慧音に相談した時は冗談抜きで涙流しながら抱き締められた」

「それは……大変ね」

「しかもこのままだと俺が一番恐れている事態が起こる可能性もあるし、その前準備のためにも薬をくれ。頼む」

 

 

割とガチな問題なので俺も頭を下げてお願いする。

 

 

「わかった。貴方には助けられた恩もあるしね、特別に処方してあげるわ」

「ありがとう。これで少しはマシになるかな」

「けど、貴方もあまり無理しない事ね」

「わかってる。善処はするつもりだ。……アイツ等がまともならな」

「無理ですね。あの方が大人しくしているはずがありませんから」

「だよな~」

 

 

俺は溜息を吐きながら天井を仰ぐ。

 

 

「貴方達も大変なのね」

「永琳さんも人の事は言えないと思いますよ」

「……ああ、輝夜の事か」

「あの方を見て僕のかぐや姫のイメージが一気にぶち殺されましたからね」

「お前は一体何を見たんだ」

「とりあえず、僕と同じ人種だという事ですよ」

「………………引き籠り?」

「それに等しいわね。まあ、今はそこまでないけど」

「幻想郷って色々なモノが流れてくるんだと改めて実感しましたね」

「……少し興味が湧いたな」

「なら会いに行ってあげれば? あの子も喜ぶわよ」

「そうするよ。適当な時間になったら取り来る」

 

 

俺はそう言い残すとその場を後にして輝夜が居る部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

愛識 光輝side

 

 

「行きましたか」

 

 

僕は部屋を出て行く彼の背中を見て呟いた。

久方ぶりにあった彼は今も昔も変わりなく、周りから慕われていた。その中にはすでに堕ちてしまっていた人もいたが、そういうところも相変わらずだと僕は思った。

すると近くで薬棚を整理していた永琳さんが話し掛けてくる。

 

 

「そういえば聞いていなかったけど、彼とはどういう関係?」

「同じ学び舎の先輩後輩、仲間、恩人、片思いの相手、ですかね」

「あら、意外と話してくれるのね。少し誤魔化すかと思ったわ」

「隠すほどの事でもありません。それに、彼を愛しているのは周知の事実ですから」

「それでも片思いなのね」

「みんなそうですよ。結局、彼に選ばれなかったんですから」

「相手はどんな人?」

「いませんよ。少なくとも、この世には……」

 

 

僕はそれだけを伝えると部屋を出て行った。

もしかしたら、僕たちの時間はまだ『あの日』から進んでいないのかもしれない、そう思った。

 

 

 

 

 




空亡「今回も若干のシリアスが混じっていましたね」
悠月「最後のやつ、必要だったか?」
空亡「まあ、ユウキが恋愛沙汰に興味が無い理由について知ることができますし」
悠月「そう云うのってもっと終盤に出てこないか?」
空亡「文字数稼ぎに使わせていただきました」
悠月「おい‼」
空亡「そんな事は置いておいて、ユウキも大変ですね」
悠月「薬の件か。アレについては備えておかないと後々大変だろうからな」
空亡「正直、あの方が出てくるのって後々なのですけど」
悠月「それでも備えてないといけないんだよ」
空亡「さいですか。でH今回はここまで、次回もお楽しみに」


次回予告
五人の求婚者に五つの難題を出したかぐや姫、彼女にもこなせない難題があった。
非日常編・惨、姫様への無理難題、どうぞお楽しみに‼
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