東方絆紡録   作:空亡之尊

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姫様への無理難題

神無 悠月side

 

 

「…………………………」

 

 

俺は一人、永遠亭の廊下を歩ていた。

あの時みたいに長い廊下はもうすでになく、今はただ輝夜の部屋に続く廊下だけが伸びていた。

時々ウサ耳を生やた妖怪兎とすれ違うが、みんな顔を伏せたり、遠目から俺を見ているのが多い。

まあ、こんな場所に普通の人間なんて珍しいだろうし、仕方のないことだろう。

 

周りの視線を気にせずに廊下を進んでいくと、庭が広がる縁側へと出た。

ここは異変の時に欠けた月を眺めたという記憶があり、輝夜と出会った場所でもある。

少し前の事を思い出していると、近くの部屋から聞き覚えのある話し声が聞こえてきた。声から察するに月美と輝夜だろう。随分と話に花が咲いているな。

邪魔するのは気が引けるが、俺は気にせず襖を開けた。

 

 

「邪魔するぞ」

「邪魔するんだったら帰ってくれる」

「は~い………って、おい」

「さすがユウキ、ノリツッコミもばっちりですね」

「いや、褒められても嬉しくねえぞ」

 

 

悪気無く称賛する月美向けてそう言うと傍にいる輝夜へと視線を向ける。

 

 

「意外とノリが良いいのね」

「戯れに付き合わされた事よりも、それを知ってることが気になるよ」

「月美に色々と教えてもらったわ」

「おい、外の世界でも別に必要にならねえ知識を教えてんじゃねえよ」

「いいじゃないですか。外の世界では伝統芸ですよ」

「それは一部の業界でってだけだろうが‼」

「ちなみに、他にもオタク知識を………」

「よし、こっち来い。久しぶりにホラー映画のページに飛ばしてやるから」

「すみません。それだけは勘弁してください」

「大丈夫。日本が誇る三大ホラー映画の一挙放送だ」

「それのどこが大丈夫なんですか‼ 一週間は眠れませんよ」

 

 

アホ毛が震えるほど本気で怖がっている月美と拳を震わせながら本気で怒っている俺、そんな二人の光景を見て傍観していた輝夜がくすっと笑う。

 

 

「うふふ、やっぱり貴方達って面白いわね」

「いや~それほどでも」

「褒められてねえよ。少なくとも、俺は褒められてるなんて思わねえけどな」

「もう、ユウキだって本当は嬉しいくせに~」

「誰がお前なんかと一緒にされて嬉しいと思うかよ」

「そう言いながらも口元が少し緩んでいますよ」

「な…!?」

 

 

楽しそうに笑う月美から指摘されて俺は咄嗟に口元を隠す。

たしかに、若干口元が緩んでいる。しかし、コイツもよくそんな事が分かったな。

 

 

「それはもう、これでもユウキの愛刀ですからね」

「おい、何自然と俺の心読んでんだよ」

「心を読まなくたってユウキの事は分かりますよ」

「……ったく、お前も面倒な奴だな」

「それほどでも~」

「褒めてねえよ。ったく」

 

 

俺は溜息を吐きながらその場に腰を下ろす。

月美のペースに呑まれるとこっちの調子が狂ってしまう。だからこいつは苦手だ。

 

 

「仲が良いのね。羨ましいわ」

「これを見て仲が良いと思うお前は変わり者だな」

「変わり者か、そうね」

 

 

輝夜はそう呟くと着物の袖から七色の玉が付いた木の枝を取り出した。

それはいくつかの書物で見てきた蓬莱の玉の枝と酷似している。そして、蓬莱の玉の枝といえば、かぐや姫の物語で藤原不比等が探し求めた難題の品でもある。

 

 

「蓬莱の玉の枝、実物か」

「これは本来、穢れを栄養として成長する月の都の木の一部。だからほとんどの月人たちはこれが実ることを嫌う。けど、私はこれが実るところをどうしても見たかった。とんだ変わり者よ」

「穢れ、か。それはお前が不老不死になったことと関係があるのか?」

「月人が言う穢れは生きることに執着こと。時にそれは人間が穢れた存在であることを表すわ」

「生きるために争う、そういう意味では人間自体が穢れと思われてもおかしくはないか」

「そう。そして蓬莱の薬を服用したものはそれと同様に穢れてしまう。それが月人の考えよ」

「永遠の命、それはつまり生に執着すること。だから人間と同じ様に穢れるってことか」

「穢れは月では罪と咎められ、処罰される。それは私も例外ではなかったわ」

 

 

語り終わった彼女は手に持った蓬莱の玉の枝を愛撫する。

蓬莱の玉の枝と蓬莱の薬、俺たち地上の人間にとっては喉から手が出るほどの代物だが、輝夜が居た月ではそれは穢れと呼ばれ、忌み嫌われている。なんとも皮肉な話だ。

 

 

「ねえ、ユウキ」

「なんだ」

「貴方から見て、私は穢れているかしら?」

「そんなこと聞かれても分かるわけねえだろ。穢れなんて目に見えるものじゃないだろうし」

「そうよね。変なこと聞いてごめんなさい」

「でもまあ、俺はその穢れが悪いものとは思えないけどな」

「どうして?」

「そんなの…………」

 

 

俺は蓬莱の玉の枝と輝夜を交互に見ながらこう告げる。

 

 

「この蓬莱の玉の枝も輝夜も、どっちも惚れ惚れするほど綺麗だからな」

「……上手いお世辞ね」

「そう思われても結構。でも、少なくともこれは俺の本心からの言葉だ。それだけは憶えておけ」

「自分勝手な人ね。私も初めて見たわ」

「お褒めに預かり至極恐悦」

「いや、恐らく褒めてないと思いますけど」

「そんなことわかってる。ノリだノリ」

「というより、また女性を口説いて………これ以上フラグを立ててどうする気なんですか!?」

「いや、こんな簡単にフラグなんて立つはずねえだろ」

「ユウキ、目を閉じてご自身の胸に手を置いて思い出してみてください。お願いです」

「やめろ。なんか俺が罪を犯したみたいになってるじゃねえか」

「貴方は大切な物を奪っていきました。それは女性の心です‼(ビシッ)」

「はあ………」

 

 

自信満々にと俺を指さす月美を見ていると自然とため息が出た。

さっきまでのシリアスな雰囲気は何だったのか。今はいつも通りの緩い雰囲気しか感じられない。

 

 

「うふふ、やっぱり面白い人達ね」

「これが毎日の如く続いたら胃が痛くなるけどな。それでもいいか?」

「私は蓬莱人よ。そんなのすぐに治るわ」

「……今度永琳に頼んでみるか」

「やめてください‼ これ以上ユウキが人外になったらいろいろと面倒です」

「俺が思う中で指折りの面倒な奴にその台詞は言われたくねえよ」

 

 

俺は月美の額にデコピンをする。彼女は痛そうに額を摩りながら涙目で俺を睨むと「ユウキのバカー」と捨て台詞を吐きながらスマホの中へと逃げていった。言動がもうすでに子供だな。

やれやれと言いながらスマホをポケットに直すと輝夜が話し掛けてきた。

 

 

「貴方達ってコンビというよりは兄妹ね」

「冗談言うな。こんな面倒な妹が居てたまるか」

「あら、それじゃあ月美の事は嫌いなの?」

「それは………ないな」

「どうして?」

「月美は愛刀であり恩人だ。コイツに捨てられることがあっても、俺はコイツを手離す気はない」

「散々悪口言ってるけど、結局は好きなのね。月美の事」

「そうだな。コイツとは長い付き合いだしな、好きなんだろ。多分」

「はっきりしないわね」

「そんなものだ。どっちつかずで迷って、傷付いて、間違い、悩む、それが人間だ」

「そういう点では、貴方はまだ人間なのね」

「だから言ってるだろ、俺はただの人間だって」

 

 

俺は口元をニヤッとさせながらそう言った。

それを見た輝夜の瞳が少し揺らいだように見えたが、一瞬だったからか気にならなかった。

 

 

「――やっぱり、似てるわね」

「なにがだ?」

「私が惚れてたとある人間によく似てるなって思っただけよ」

「絶世の美女と言われたかぐや姫を惚れさせるなんて、どんな奴だよ」

「そうね、自由気ままで、他人衣は優しくて、裏表がなくて、女性にモテる人だったわね」

「それのどこが俺に似てるんだよ」

「全部当てはまると思ってるんだけど」

「うるさい。それで、その惚れた人間とはどうなったんだ」

「私に無理難題を押し付けたままどこかへ行ってしまったわね」

「無理難題?」

「『蓬莱の玉の枝の花が咲いたらお前の想いに応えてやるよ』ってね」

「なるほど、確かに無理難題だな」

 

 

俺は彼女が持つ蓬莱の玉の枝を見てそう言った。

蓬莱の玉の枝はすでに花開いて実の状態になっている。つまり、この花が咲くことは無い。

かぐや姫は求婚する貴族に無理難題を押し付けた事で有名だが、そのかぐや姫に無理難題を押し付けるとは、そいつも相当の策士だな。………………あれ、そいつってもしかして…………………。

 

 

「いや、まさかな……」

「どうしたの?」

「もしかしたら花が咲くかもしれねいな。それ」

「なんでそんなことが言えるのよ」

「別に、ただそいつが無理難題を出すような卑怯者じゃないって思っただけだ」

「???」

「(少なくとも、アイツはそんなことで女を悲しませることなんてできないからな)」

 

 

俺はそいつに対して妙な信頼を抱きながら天井を仰ぐ。

物事に絶対という言葉はない。蓬莱の玉の枝は花が咲くことは無いかもしれない、けど、ソイツが約束したのなら、もしかしたら花が咲く日が来るのかもしれない。そう思えた。

 

 

「ユウキ、今日はありがとう」

「何だよ改まって」

「こんな私の話を聴いてくれたことに感謝してるだけよ」

「そうか。まあ、悩みでもあるなら俺にいつでも相談しろよ」

「そうするわ。……ふふ」

「何だよ、急に笑って」

「だって、こうやって人と話したのは久しぶりだったから。つい」

「ったく、引き籠りなら少しは外に出ることだな」

「考えておくわ」

「おい」

「……でも、そうね。たまには外に出るってのもいいかもしれないわね」

「その時は付き合ってやるよ」

「ありがとう」

 

 

その後、俺と輝夜と月美(しばらくして戻ってきた)とでしばらく他愛のない話をした。

いつの日か、その蓬莱の玉の枝が花開く時が来ればと、心の中で思いながら。

 

 

 

 




空亡「今回の非日常編は重いですね」
悠月「お前は一体何がしたいんだ」
月美「何気に幻想郷の人達の過去って、解釈次第で重くなりますからね」
悠月「もういっそ、空気を重くする程度の能力とでも付けとけよ」
空亡「嫌ですよそんな不名誉な「程度の能力」なんて‼」
月美「いいじゃないですか。基本、この作品の日常パートっておまけですよね」
悠月「それに、このあとがきの時の会話もネタ切れに近いしな」
空亡「ぶっちゃけないで下さいよ。僕の方が申し訳なくなります」
悠月「まあ、焦らずコツコツとやっていこうじゃねえか」
月美「失踪でもされたら困りますからね」
空亡「はい。これからは話を明るくできるように頑張ります」
悠月「そういうことで、次回もよろしく」


次回予告
月日が巡り、再び月見を楽しみにしていた俺の前に、意外な二人が………。
非日常編・惨、紅い月と不死の娘、どうぞお楽しみに‼
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