東方絆紡録   作:空亡之尊

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外伝『彼岸の先の過ぎ去りし思い出』
幻想郷開花宣言


明星 美羽side

 

 

「世の中は三日見ぬ間の桜かな、なんてね」

 

 

私は目の前の景色を見てそう呟いた。

言葉の意味は三日も見ないうちに桜が咲いていたことから、世間の移り変わりが早いという事を表している。数日振りに幻想郷へと足を踏み入れた私には、今の景色がそれと同じように感じた。

 

今の幻想郷の暦は四月、冬の白色は春の日差しに彩られ、 冬の間眠っていた色の力が目覚める季節だ。しかし、私の目に映るのは桜、向日葵、野菊、桔梗……と季節感もへったくれもない光景。

 

それに影響されてか、遠くでは妖精たちが騒いでいる。彼女たちはいわば幻想郷の自然の一部、その自然の力が高まっているということは、彼女らのそれに比例して強くなっている。妖精を敵に回すことは自然を敵に回すこと、幻想郷で妖精が厄介といわれている理由がそれね。

 

咲いている花を近くで視ようとした時、何かを感じた。

 

 

「この花、憑りついてるわね」

 

 

私は近くで咲く花を手に取り、そう呟いた。

周りで咲く花々一つ一つに幽霊が憑りついてる。別に悪意そのものは無いからそこまで危険視するほどでもないけど、ここまで幽霊が溢れかえることはどう見ても異常ね。

 

幽霊関連といえば、白玉楼らへんを思い浮かぶけど、あそこは彼岸を渡った幽霊が行き着く場所。けど幽霊は彼岸すら渡っていない、その事を加えて考えると…………。

 

 

「白玉楼、いや、幽霊管理は死神の仕事よね」

 

 

幻想郷には外の世界で死んだ者、幽霊を管理する場所があると聞かされたことがある。そこでは死神が三途の河を渡らせて閻魔が天国か地獄か、はたまた冥界である白玉楼に行くかを決める。つまりは、その三途の河で何か異常があったと考えるのが普通ね。

 

 

「たしか、三途の河はこっち方面だったわね」

 

 

私は踵を返すと三途の河がある方向へと走り始めた。

そういえば偶然か必然か、さっき手に取った花の名は乙女百合、花言葉は『好奇心の芽生え』。

好奇心で異変を調べようとする私の心の情景に合わせたような言葉、面白いわね。

 

 

 

少女祈祷中

 

 

 

「……ここは」

 

 

しばらく歩いた私は鈴蘭咲き乱れる草原へと足を踏み入れた。

ここは無名の丘、日当たりが悪く、風通しが良いことから年中気温が上がらないこの場所は鈴蘭の清酒置く場所にとっては最適だ。人里から隠れるような位置に存在し、今ではここの本来の名すら知っている者はいない。

 

 

「幻想にすら忘れられた哀れな地…………くだらない」

 

 

私はここにまつわる話を聞かされたことがある。

昔はここに赤ん坊を捨てに来る親がおり、その子は鈴蘭の毒で眠るように死んでいくか、妖怪に喰われるか、はたまた物好きな妖怪に妖怪として育てられるか、どちらにしろ、人間として生きる選択肢すら存在しない。我が子の死ぬ姿など見たくないと思った親は、もしかしたら妖怪として生きることを心のどこかで願っていたのかもしれない。

 

 

「今でもそんな奴がいるなら、殺したいわね」

 

 

私は首元の鍵を握り締めながらそう呟く。

この世に生を受けたにも拘らず、その先の希望も未来も奪った上に身勝手な願いを抱かされた子の気持ちなど、その親たちは知る由もない。

 

私はしばらく黙祷を捧げると、感情を殺して鈴蘭の中を歩き始めた。

鈴蘭の毒が風に乗って宙を舞うことで視界が悪くなるが、何とか方向を見誤らずに進んでいる。

 

 

「ったく、面倒な毒ね」

 

 

そんなことを愚痴りながら進んでいくと先の方に小さな人影が見えた。

さっきの話を思い出し、まさかと思ってその人影へと近付くとすぐにその違和感に気付いた。

 

金髪のウェーブのかかったショートボブ、頭には赤いリボンがヘアバンドのように結ばれ、黒い洋服と赤いロングスカートをはいており、胸元には赤、腰には白の大きなリボンを付けている。傍らにはその子に似た小さな人形が寄り添っている。

その子は私の存在に気付くと人形のような綺麗な瞳を私に向ける。

 

 

「……あなたは誰?」

「私は明星 美羽、ここを通りかかっただけの人間よ」

「人間……」

 

 

彼女は一瞬敵意に満ちた瞳を向けるが、傍らの人形が彼女の服を引っ張ると彼女に向かって何やら訴えているように見える。彼女にはそれが理解できているみたいで、何を言われたのか今度は疑問に見た瞳を私に向ける。

 

 

「あなた、本当に人間?」

「……どうしてそんなことを聞くのかしら?」

「だって、スーさんがあなたは人間じゃないって言ってる」

「スーさん?」

「この子のこと。鈴蘭の妖精だからスーさん」

「ふ~ん、わかるのね」

 

 

私は彼女の傍らの人形、スーさんを見つめる。

鈴蘭の妖精だと言ったけど、どうやらそこらの妖精とはちょっと違うみたいね。

 

 

「で、どうなの?」

「私が人間と思っているなら人間、貴女が人間じゃないと思っているなら人間じゃないわね」

「……結局どういう事?」

「人の捉え方次第で私はどうとでもなるって事よ。ちなみにその子の回答は半分正解」

「…………………………」

「まあ、私に牙を向くなら容赦はしないけど」

「なら……スーさんの言う通りにする」

「賢明な判断ね。どこかのスキマとは違うわ」

 

 

私は微笑みながら近くの岩に腰掛ける。

 

 

「ところで、こんな所で何をしていたのかしら?」

「人間への復讐と人形の解放のために準備していたところよ‼」

「人間へと復讐と人形の解放……もしかして貴女、捨てられたの?」

「うん。ここに捨てられて、スーさんの毒でこうなって、いつか人間に復讐してやりたいって思ってたの。今日はなんだかスーさんの毒がいつもより強くなってからそれを機に」

「やめておきなさい」

「え?」

 

 

私が放った冷たい言葉に、彼女の動きが止まる。

 

 

「聞きたいけど、貴女はこの草原から出たことがあるかしら?」

「……ううん」

「そう。でも、この外には貴女が予想もしないような世界が広がってる。妖怪になってまだ浅い貴女にはとても厳しい世界、退治されて追い返されるのが落ちよ」

「…………………………」

「それは人間も同じ。自分の世界から出ることも出来ずに、同じ場所に引き籠ってる。でも、閉じ籠ったままじゃ何も学べない、誰とも関われない、だから少しずつでも外の世界に出て行くのよ」

「……私にもできるかな?」

「そうね。貴方の夢を諦めろとは言わない、けど、あなた自身がもっと外の世界の事を知らないとね。そうじゃないと、寂しいわよ、きっと」

「どうすればいいの?」

「仲間とか集めたらどう? それなら少しは寂しくないでしょ」

「うん、そうする」

 

 

彼女は私に笑顔を向ける。

自分の世界だけで満足していたら一歩も前に進めない。でも、人間は小さくてもその一歩を踏み出せる力がある。そう、彼に教えてもらったから、私も少しずつ前に進んで行けている。

 

 

「そうだ。私の名前、教えてなかったわね。メディスン・メランコリーよ」

「メディスン、長いからメディでいいわね」

「それでいいよ、美羽。色々ありがとう」

「どういたしまして。それじゃあ、私はこの辺で」

「ねえ、いつか私と外にお出かけしてくれる?」

「いいわよ。その時は、私のお気に入りの場所でも案内するわ」

 

 

私はそう言い残すとその場を後にして歩き出す。

鈴蘭の花言葉は『純粋』、彼女の純粋な夢がいい方向で叶うことを願いましょうか。

 

 

 

 

 




空亡「始まりました花映塚」
美羽「初っ端から真面目な話で面白くないわね」
空亡「それについては妥協してください」
美羽「まあ、可愛い娘とも出会えたしチャラでいいわ」
空亡「え、美羽さんてまさかそういう趣味が」
美羽「殺すわよ、ロリコン駄作者」
空亡「おお、怖い怖い。さて、次回はいよいよあの方ですが」
美羽「私があの程度に負けるとでも思っているのかしら?」
空亡「フラグに聞こえるからやめてください」
美羽「……魔z目な話、アイツは個人的に嫌いだから負けたくないのよ」
空亡「そうですか。なら、頑張ってくださいね」
美羽「フフフ、次回を楽しみにしてるといいわ」


次回予告
太陽が咲くといわれる花畑、そこには誰よりも花を愛する独りの妖怪が居ました。
東方花映塚、風見に明星、花には剣を、どうぞお楽しみに‼
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