明星 美羽side
「ああ~やっぱりここに出るのね」
私は目の前に広がる向日葵畑を見て溜息を吐く。
ここは太陽の畑と呼ばれる場所で、普段は南向き傾斜のすり鉢状の草原だが、夏になると辺り一面に向日葵が咲き誇る景色の美しい場所だ。幻想郷でも随一の眺めだけど、問題なのがここを管理する妖怪なんだけど、へたに刺激しなければいいだけの問題ね。
近くで見てみると、向日葵に憑依している幽霊がまるで何かに怯えてるように大人しい。
私はその事を頭に残すと向日葵をかき分けながら奥へと進んだ。
向日葵の高さは私の身長を軽く超す程度で、目の前に見えるのは向日葵の葉と薄暗い影と、動きにくいこと事の上ない。こんな所を一人で管理するあの妖怪も、物好きな奴よね。
「あ゛~面倒臭いわね」
半ば自棄になりながら進んでいくと開けた場所へと出ることができた。
しかし、この時ほど私は自分の凶運を恨んだことなどないでしょうね。なんてたって、現時点で私が最も会いたくない個人的に嫌いな奴の下へと出向いてしまったのだから。
「あら、こんな所にお客さんなんて珍しいわね」
私を好奇の目で見る彼女はそう言って微笑んだ。
肩口まで伸びたウェーブのかかった緑の髪、白のカッターシャツとチェックが入った赤のロングスカートを着用し、その上から同じくチェック柄のベストを羽織っている。手には日傘を差した状態で持っている。見た目だけなら友好的そうな感じに見える。そう、見た目だけなら。
私は彼女に嫌悪の眼差しを向けると小さく呟く。
「そうでしょうね。こんな辺鄙な所に来るもの好きなんていないでしょうし」
「じゃあ、こんな辺鄙な場所に来る貴女は相当な物好きね」
「誰が好きでこんな場所に―――‼」
目を離した一瞬、すぐに視線を彼女に移すと目の前には弾幕が迫ってきていた。私はすぐさま剣を展開するとそれを斬り払う。真っ二つに裂ける弾幕の先には、未だに微笑んでいる彼女が居た。
あ~こういう奴だから彼女は嫌いだ。
「あら、少しはできるようね」
「どういうつもりかしら。これでも最低限殺気は抑えてたつもりだけど」
「そうね。今私に向けられるもの以外何も感じなかったわね」
「だったら、何で攻撃したのかしら?」
「さあ? 私の気に障るような事でもしたからじゃないかしら?」
彼女は詫びることなくそう語る。
「噂通り、とんでもなく私の好みとは正反対の奴ね」
「へえ、やっぱり私の事も知ってるのね」
「風見 幽香、四季のフラワーマスターなんて可愛い二つ名の割にドSで好戦的な妖怪」
「簡潔だけど、よく知ってるじゃない」
「次は私から。さっきの台詞の『私の事も』ってのは?」
「ここに遊びに来る妖精たちの噂で聞いたのよ」
「ちなみに内容は?」
「明星 美羽、八雲 紫と博麗の巫女を打倒した綺麗な外来人」
「あら、綺麗だなんて。妖精たちも分かるのね~」
「ま、その点に関して噂通りとはいかなかったけどね」
彼女はくすくすと私の事を嘲るように笑う。
挑発には慣れてるけど、コイツのは心のどこかで本当に楽しんでるから嫌いなのよね。まあ、ここからは反撃させてもらうわよ。やられっぱなしは性に合わないからね。
「長く生きてるだけが取り柄の妖怪が、言ってくれるわね」
「……なんですって?」
「そりゃそうよね、こんな場所に長い間一人で居たら楽しみなんて無いに決まってるわよね。あるのは無駄に蓄えられた力だけ、でもそのお蔭で他者から恐れられ、ここに一人で暮らしてきた」
「…………………………」
「無駄な力は何に使えばいいのか、誰もいない場所で強者になっても虚しいだけ。だから、貴女はここに訪れた者を苛めるのね。その無駄な力の使い方をよくも知らないまま。哀れね」
「……黙りなさい」
「妖怪は恐怖されその存在が確定する。今の貴女はそれに最も適してるけど、本当は貴女だって」
「黙れ‼」
彼女は怒号を上げると私の元へと迫り握り締めた拳を私へと放つ。
私は軌道を読んでそれをギリギリで避けると、それと同時に彼女の身体を刃で斬りつける。
辺りに鮮血が飛び散り、彼女の身体がよろめくが、それを苦ともせず私へと向き直る。
「随分と余裕ね」
「私は貴女と違って図星を突かれた程度で襲うほど野蛮じゃないのよ」
「たかが一撃与えた程度で優勢に立ったつもりかしら?」
「そんなわけないじゃない。だって……」
私は彼女の方を見ながら顔についた返り血を手でなぞり舐める。
「一方的な殺戮(ワンサイドゲーム)じゃつまらないでしょ?」
「人間如きが、舐めないでくれる」
「私がなめてるのは返り血よ」
「笑えない冗談ね‼ 花符『幻想郷の開花』」
彼女は空中へと飛びあがると花を咲かせるように展開する弾幕を放った。
単純な軌道だけど、弾幕が思ったよりも濃い所為と空中から雨のように降り注がれている状態だから避けるのが少し難しいわね。
「ま、全部斬り払えばいいだけの話だけどね」
私は両手の剣を構えるとその場から一歩も動くことなく迫り来る弾幕を斬り伏せる。
量は多いけどパターンが単純なお陰で軌道が読みやすい。無駄に考える必要もなくて楽だわ。
しばらくして弾幕が止むと空中から彼女が見下ろしていた。
「やっぱり弾幕ごっこに関してはそこまでね」
「当然よ。たかがごっこ遊びに本気になる方がおかしいわ」
「そう。私は結構気に入ってるのよね。弾幕ごっこ」
「どうしてかしら?」
「弾幕やスペカには個性が表れる。それに弾幕って美しいのよね。だから好きなのよ」
「くだらないわね」
「くだらないのはそっちね。花の美しさが分かるくせに」
「……あの子たちと一緒にしないで」
彼女は殺気に満ちた瞳で私を見ると日傘を私に向ける。
傘の先端に徐々に魔力が集まっていく。その構えはどこ白黒魔法使いのマスパによく似ている。
そういえば、アイツの技ってどこかの妖怪の技を真似て出来たって聞いたけど、まさかその元を私自身が受け止める羽目になるとはね。
「散りなさい……‼」
「人の一生花一輪、散り際決めるは己の運命、自分の死に場所は自分が決める」
「そんなの、知らないわね‼」
彼女の叫びと共にさかの先端から極太のレーザーが放たれる。確かに白黒のマスパに似てるけど、攻撃範囲も威力も桁違いね。名付けるなら『元祖・マスタースパーク』かしらね。
でも、このままじゃ流石に避けきれないし、受け止めるのはほぼ不可能ね。
「さあ、どうするのかしら?」
「仕方ないわね……」
「諦めるの? でももう……」
「一瞬だけなら負担は掛からないわよね」
「え?」
剣を元の鍵の状態へと戻し、二つを強く握りしめる。
瞬間、彼女から放たれたマスパが私の身体を包み込む。
「――××××××・××××」
澄んだ声が響き渡り、閃光が弾けて消え去る。
それを見て目を見開く彼女、その一瞬の隙を逃さまいと彼女の背後に回り込むと目にも止まらぬ剣舞をお見舞いし、剣を叩きつけ地面へと打ち落とす。この間、およそ一秒ほどの出来事。
地面に這いつくばる彼女が顔を上げると、私は剣の先を彼女に向ける。
「どう? 人間如きに見下される気分は」
「最悪ね。今すぐにでも貴方を殺したいくらい」
「状況を見て物を言いなさい。一瞬の隙でも見せたら、首と胴がおさらばよ」
「……何で今殺さないの」
「私は美しいものが好きなのよ。だから殺さない」
「私が美しいとでもいうの? 笑わせないで」
「勘違いしないで、私が美しいと思ってるのはこの花畑よ」
私は剣を元に戻すと彼女に背を向けて語り続ける。
「ここの景色は美しい岩。けど、それを管理する人が居なくなったらもう二度とその景色は拝めない。だから貴女を殺さない。それが私のルールよ」
「…………………………」
「それに、この子たちから大切な家族を奪うのは申し訳ないからよ」
「……え?」
私は踵を返してその場を後にしようと歩き出すが、一言言い忘れていたことがあった。
「そういえば、ずっと考えていたことなんだけど」
「なにかしら?」
「ハナチョウジ、今の貴女には似合いそうな花よ」
「……余計なお世話ね」
「ようかもしれないわね」
「なら、貴女は雛菊がお似合いね」
「そっちこそ、余計なお世話ね」
私は後ろ向きで手を振るとその場を後にした。
ハナチョウジの花言葉は『旅立ちは今』、彼女が他人ともうまく関われることを願いたいわね。
ちなみに雛菊の花言葉は『お人好し』、どうせならユウキに贈りたい花ね。
空亡「如何でしたでしょうか? 戦闘狂VS戦闘凶の戦いは」
美羽「意外にあっさりと終ったわね」
空亡「場所が場所なだけに描くのが難しんですよ。あと設定で」
美羽「私たちオリキャラ勢って空飛べないものね」
空亡「設定上、皆さん普通の人間ですからね」
美羽「約数名ほど人間じゃないキャラ居るんだけど、それについては?」
空亡「行き当たりばったりのご都合主義で乗り切ります」
美羽「そう。……ああ、そう言えば最後のやつだけど」
空亡「マスパを無効化したのと幽香さんを打ちのめしたところですか?」
美羽「あそこの描写がざっくりしてるけど、いいの?」
空亡「それについては次回を楽しみにしていてください」
美羽「逃げたわね」
次回予告
三途の河の先にある裁判所、そこには人の罪を裁く一人の閻魔が居た。
東方花映塚、此岸と彼岸の河渡り、どうぞお楽しみに‼