神無 悠月side
「平和だな~」
俺は鳥居の上でお茶と三色団子を食べながら幻想郷の風景を見て寛いでいた。
幻想郷に来て一週間、今日はいつもよりも平和だった。
あれから幾度となくこの場所に来ては、団子とお茶のセットでこの眺めを一人楽しんでいる。
元の世界でも似たようなことをしていたからもあるが、何よりもここから見える風景が俺のお気に入りだった。
霊夢からは年寄り臭いと呆れ顔で溜息を吐かれたが、彼女もよくこの場所に来る。人は多いに越したことは無いのだが、その度に俺の団子を横取りされるのは腑に落ちない。
「……あ、茶柱」
お茶の水面に浮かぶ一本の茶柱を見て俺は少し穏やかな気持ちになった。
だが、そんな平和なひと時はすぐに終わりを告げる。
「霊符『夢想封印』‼」
「恋符『マスタースパーク』‼」
聞き慣れた二人の掛け声と共に俺の背後で爆発と閃光が起こった。
霊夢と魔理沙のスペカがぶつかり合って荒れる中、俺は気にせずお茶を飲んだ。途中で爆風が吹いているが、なるべく気にしないように団子を頬張った。
「いい天気だな……」
俺は清々しい顔で空を見上げて呟いた。
後ろでは未だに霊夢と魔理沙の弾幕ごっこが繰り広げられている。
今回はいつもの喧嘩ではなく、ただの弾幕ごっこの練習のようだ。といっても、それは魔理沙の一方的な頼みであって、霊夢に関しては嫌々付き合わされている感じらしい。
しかし、勝負を見てみると両者とも本気でやり合っている。
ああ言いながらも、魔理沙の頼みを断らない霊夢もまんざらではないようだ。
「素直じゃないな~」
「あら、貴方には言われたくはないわよ」
声のする方を向くと美味しそうに団子を頬張っている紫の姿があった。
「人の団子を横取りするな」
「いいじゃない。減るもんじゃないし」
「減ってるよ‼」
「もう、食い意地だけは達者なんだから」
「うるさい。守銭奴なめんじゃねえ」
吐き捨てるように言い放つと紫の手から団子を取り返してそのまま口に入れた。
ああ、紫に二個も食べられてしまったからか嬉しさが三分の一になってしまった。
睨むように隣を見ると、紫が目を見開いた状態のまま石像のように固まっていた。
「どうしたんだ?」
「あ、いえ。何でもないわ///」
そう言って紫は手に持っていた扇子を顔を隠すように広げるとそっぽを向いた。
目の錯覚なのか頬が赤くなっているように見えたが、多分気のせいだろう。
「……変な奴だな」
「そうそう、こっちの生活には慣れた?」
「う~ん。空気も綺麗だし、鳥居からの眺めもいいし、人里の人もみんな優しいからな」
「思ったよりも気に入ってくれて嬉しいわ」
「アイツ等に振り回される代わりに紫たちにがいるけど、まあ、大丈夫だろ」
「それはどういう意味よ?」
「言葉のままだが?」
何食わぬ顔でそう答えるともう一本の団子を口に入れた。
対する紫は納得のいかない様子で残っていた団子を手に取った。
「ところで、霊夢とはどこまでいったの?」
「どういう意味だよ」
「あら、うる若き男女が一つ屋根の下で過ごしているのよ? 気になるに決まっているじゃない」
「やっぱり、それが目的だったか」
俺は呆れて溜息を吐くとお茶をすすった。
紫が言ったように、男女が一つ屋根の下で共に暮らすというシチュエーションは同世代の男子なら当然喜ぶような出来事だ。恐らく、俺の親友は涙を流しながら喜ぶだろう。
しかし、俺にはそう言った感想を抱くことが無い。というよりは、元の世界で強制的に居候していた女性陣の所為で慣れてしまった。今更、そんな事を気にしていたら胃に穴が開く。
「紫、これ以上俺の胃にダメージを与えないでくれ」
「自重するわ」
「はあ~…………ん? どうやら終わったみたいだな」
鳥居から境内を見下ろすと大の字に寝転がっている魔理沙と、お祓い棒を片手にふぅと溜息を吐いている霊夢の姿があった。どうやら今回も霊夢の圧勝だったようだ。
俺は団子が残っている皿を持って鳥居から飛び降りると二人の下へと歩いて行く。
「あつかれさま。団子いるか?」
「いただくわ」
「い、いただくぜ……」
二人と賽銭箱の前で座るとそれぞれ団子を手に取ると徐に口に入れた。
「勝った後の団子は美味しいわね~」
「それを負けた人の前で言うのはどうかと思うぜ……」
魔理沙は団子の串を咥えたまま力なく呟く。
いつもの魔理沙ならもっと元気に応えるはずだが、ここ最近は霊夢に連敗しているからかあまり元気が無い。このままだと俺の方も調子が狂ってしまう。
どうしようか考えていると、俺の手に平に違和感を覚えた。
「お、おい、悠月///」
「……ん?」
気が付くと俺は魔理沙の頭を帽子の上から優しく撫でていた。
対する魔理沙は驚いた表情のまま顔を真っ赤に染めて俺の方を見ている。
意外と乙女なんだなと思いながらも、俺は撫でるのをやめない。
傍にいた霊夢と紫(いつの間にかいた)はそれぞれ楽しそうに見物している。
「あら~? 魔理沙、顔がが赤いわよ(ニヤニヤ)」
「もしかして照れるのかしら~?(ニヤニヤ)」
「そ、そんなわけあるか‼」
「その様子で言われても説得力無いわよ」
「そうね。むしろ嬉しそうよね」
「~~~~~っ///」
魔理沙は恥ずかしそうに両手で帽子のつばを下げて顔を隠した。
「二人共、あんまり魔理沙を弄ぶな。特に紫は」
「その原因である貴方にだけは言われたくないわ」
「そうよ。それに、私は弄んでいるんじゃなくて、この前のお返しよ」
「この前って……………………ああ」
前回、苦労人に対する同情で霊夢の頭を同じように撫でていたのを思い出した。
なるほど、魔理沙に助け舟を渡さないのはそのことが原因なのかと、心の中で納得した。
それでも俺は魔理沙の頭を撫でるのをやめなかった。
「なあ、魔理沙」
「な、なんだよ///」
「元気、出たか?」
「え? ……はっ」
俺の問いかけに魔理沙は何かに気付いたように目を見開いた。
「今日がダメなら明日がある、明日がダメなら明後日がある、俺が尊敬する人の言葉だ。
今日の敗北を教訓に、今度は霊夢に目に物見せてればいいさ。魔理沙ならできるはずだからな」
「……そうかな」
「そうね。このくらいでへこたれるようじゃ、私に勝つなんて無理な話ね」
「よく言うわ。それなら、大人しく修行の一つでもしてくれないかしら?」
「断るわ」
「即答ね。……やれやれ、先が思いやられるわ」
紫が珍しく溜息を吐くと置いていた団子を口に入れた。
そんなやり取りを見ていると、そばにいた魔理沙の表情も明るくなっていた。
「なあ、悠月」
「なんだ?」
「――ありがとな」
魔理沙はそう言って二カッと明るい笑顔を俺に向けた。
世界は変わっても、俺の周りには騒がしい連中は絶えないみたいだ。
それからしばらく、適当に雑談していると霊夢と魔理沙は二人して立ち上がった。
「それじゃあ、昼食も準備に行こうかしらね」
「私も早速、家に帰って弾幕ごっこの練習でもやってくるぜ」
そう言って霊夢は神社の奥へと歩いて行き、魔理沙は箒に乗って空の向こうへと飛んでいった。
境内に残ったのは未だに団子を頬張っている紫と俺だけとなってしまった。
ほんの数分前まで激しい戦闘があったはずなのに、今では水を打ったような静けさになっていた。
「さて、私もお暇しますわね」
「今日も騒がしかったな」
「貴方はそういう日々が誰よりも好きなんじゃないの?」
「否定はできないが、肯定もしない。俺は面倒事が嫌いだからな」
「うふふ。素直じゃないんだから」
紫は優しく微笑むと自分の目の前にスキマを開いてその中へと入った。
スキマが閉じる時、紫はふいに俺の方へと振り返った。
「そうそう、言い忘れていたわ」
「ん?」
「――ようこそ、幻想郷へ」
紫は不敵に笑うとスキマと共に消え去った。
一人残った境内で、俺は懐かしさと嬉しさを噛みしめながら虚空を見上げる。
「――ったく、退屈しない人生だな」
俺は人知れず口元をニヤッとさせた。
これから先、数々の“異変”に巻き込まれることを、俺は薄々感じていたと思う。
明星美羽side
「へえ~これは興味深いわね」
私はハザマの中から“さっき”の会話を見ていた。
美命様の命令で幻想郷に入った私はユウキの事が心配であれから見守っていた。
運よく妖怪が居ないところだったので、存分に彼の寝顔を堪能することが出来たし。邪魔する奴がいたとしても、ソイツは跡形も残さず斬滅させてあげるんだけどね。
けど、まさかあの紅白巫女のところに居候するというのは私にも予想外だった。
まあ、そんなことは置いといて。私はとある話の内容に興味を惹かれていた。
「まさか一度幻想入りしていたとは、昔から不幸体質だったのね(涙)」
普段の彼の待遇を思い出すと、わざとらしくハンカチで涙をふいた。
そのほとんどの原因が私なのに、何言ってんだコイツと遠くで美命様が言っているような気がする。
しかし、話の内容からしてユウキが幻想入りしたのは十年前、たしかあの頃には………………。
「……っ‼」
その時、私の頬を色鮮やかな光弾が掠めた。
掠めた頬をさわってみると、微かに血が流れていた。
「あら、外しちゃったわね」
悪気のない無邪気な女性の声が、静寂の挟間の中にこだまする。
ゆっくりと後ろを振り返ると、笑顔のまま扇子をこちらに向けて立っている八雲 紫の姿がそこにあった。
スキマを使ったとしてもあの一瞬で私の背後に回るなんて、流石は妖怪の賢者と言われているお方だ。笑顔が怖いという体験は美命様だけで十分だ。
私はハンカチで血をふき取ると、いつもの業務的な笑顔を彼女に向ける。
「これはこれは、誰か思えばかの有名な八雲紫さまではありませんか。私に何用でしょう?」
「とぼけないで。さっきから私たちの会話を盗み聞きしていたのは貴女でしょう」
「あらら、やっぱりばれてましたか。流石は覗き魔の先輩は格が違いますね」
「その芝居腐った演技はやめなさい、見ていて吐き気がするわ」
「そう? これでも学園祭ではお姫様役だったのよ」
「知らないわよ」
「しかもしかも、相手役はユウキ。あの時のシーンは忘れられないわ~」
指と指を絡めて乙女チックにあの時の事を思い出していると、目の前から視界を埋め尽くす大量の弾幕が私の方に向かって飛んで来た。
咄嗟に紫の方を見ると、彼女からはその顔には似合わないほどの殺気を放っていた。
なるほど、どうやら十年前にもフラグは立っていたようだ。
「結界『夢と現の呪』」
「あぁ~愛しのユウキ、貴方は私の心を奪った罪深き人」
「結界『動と静の均衡』」
「対して、私は大罪と美徳の間に生を受けた罪深きモノ」
「結界『光と闇の網目』」
「神はどこまでも残酷なお方。それでも、私はアナタに恋してしまった」
「結界『生と死の境界』」
「アナタの声を聴きたい、アナタの瞳に映りたい、アナタの腕に抱かれたい」
私は一人詠い舞いながら飛んでくる弾幕を避け続ける。
対する紫の方は未だ無表情のまま弾幕を撃ち続けている。
しばらく攻防戦が続いたのち、弾幕の嵐は止み、ハザマの中に静けさが蘇った。
「はあ……はあ……」
「あらあら、まだまだこれからなのに。年寄りにはハードだったかしら?」
「遊びでやってんじゃないわよ……小娘が……」
「それもそうね、遊びは終わり」
私はそう言うと左手を後ろに回して、それを撫でるようにそっと下におろした。
それと同時にハザマの空間に裂け目が出来た。場所は血の様に紅い館の前のようだ。
「仕方ないわね。一旦撒くとしますか」
「待ちなさいっ‼」
「うふふ。『さあ、跪きなさい』」
「……っ‼」
私の言葉に応えるように紫の身体は地に這いつくばった。
それを見て私は口元をニヤッとさせると、裂け目の越えてハザマの外へと出た。
「そうそう、貴女に一言言っておくわ」
「なに……よ……?」
「彼ならすべて受け入れてくれるわよ」
「え……?」
「じゃあね」
如何にも意味深な言葉を残して私はハザマの裂け目を閉じた。
目の前にはさっき見えた血の様に紅い屋敷が待宵の月を背にそびえ立っている。
「見せてもらうわよ、ユウキ」
空亡「いまさらですが、ユウキって年寄り臭いですよね」
美羽「あら、そう言う所もユウキのいいところですよ」
空亡「なんでここにいるんですか。美羽さん」
美羽「まともな出番が二度しかなくて退屈だったから出てきたわ。文句ある?」
空亡「ないですけど。とこでなんでユウキの事がそんなに好きなんですか?」
美羽「それはもう――(k1並の固有結界)――ということなのよ。解った?」
空亡「二時間もユウキの魅力について語られれば嫌でもわかりますよ。アナタの愛が」
美羽「当然よ。……私は満足したからこれで帰らせてもらうわ」
空亡「自由ですね。今度からは少しくらいは出番増やしますよ」
美羽「お願いね~」