東方絆紡録   作:空亡之尊

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黄昏に染まりし彼岸

明星 美羽side

 

 

「……急展開過ぎて思考が追いつかないわね」

 

 

私は目の前にいる女性を見て訝しげに呟く。

膝のあたりまで伸びた銀色の長髪、人形のように感情が籠っていないガラスのような瞳、黒一色に統一された夜会服風のドレス、背中には彼女の背丈を優に超える長い刀が背負われている。なんだか無気力というよりは、無感情な雰囲気がする不思議な女性ね。

彼女は無感情な瞳を私に向けたままじっとしている。

 

 

「貴女、何者かしら?」

「黄昏、一応それが私の名前」

「そのネーミング、もしかして剣崎や歯車の仲間かしら?」

「ご名答。あなたの事は二人に聞いてるから説明しなくても大丈夫」

「それは良かったわ。自己紹介の手間が省けて」

「聞いてた通りの人、少し興味が出てきた」

 

 

彼女は一瞬微笑むが、すぐ無表情に戻ってしまった。

 

 

「可愛いのに無表情なんて、勿体ないわね」

「ごめんなさい。元々からそういうのは苦手だから」

「残念ね。ウチノ学園だったらベスト10入りは確定だったのに」

「……やっぱり面白い人」

 

 

彼女は小さな声でそう囁くとくすっと笑った。

 

 

「で、アイツ等のお仲間が私に何の御用かしら?」

「あなたに直接の用はない。ただ用事が済んだ帰りに一目会いたくなっただけ」

「用事?」

 

 

気になって彼女をよく見てみると、その手に手鏡のようなモノが握られている。

それには見覚えがある。映姫たち閻魔が悪用もとい愛用している浄玻璃の鏡、人の過去の行いを見ることができる道具で、その前にはプライベートもへったくれもない物だ。

 

 

「それは映姫の……とは違うみたいね」

「これはいわゆる代用品、今持ってる物を失った時の保険ね」

「そんなものを持って行ってどうするつもり? 他人のプライベートなんて見ても面白くないわよ」

「違うと思う。あの人が必要としてるのは『記憶』だけだから」

「記憶?」

「私にはわからない。ただ、必要とされたから盗るだけ」

「そっちは訳の分からない奴が多いわね。歯車といい、貴女に頼んだ奴といい」

「そうね。でも、みんなたった一人の大切な人の為に動いている。大事な仲間よ」

「……一体アンタたちは何なの?」

 

 

私が問いかけると、彼女は無表情だった時とは違い、冷たい視線を私に向ける。

 

 

「それは応えられない」

「なら、力ずくでも聞くまでね」

「やれるものならやってみなさい。と言いたいところだけど……」

 

 

私は彼女が言い終わる前に剣を展開して彼女に斬りかかる。

しかし、彼女はそれに動じることなく、一瞬で抜刀するとその攻撃を長刀によって防いだ。

片手で私の剣を防ぐ彼女は無表情で私の事を見つめる。それはどこまでも澄んでいて綺麗に思えた。

その一瞬、私の目の前に浄玻璃の鏡が掲げられる。

 

 

「折角だから、魔綺が言ってたこと、試してみようかしら」

「………‼」

 

 

鏡に映る私の向こうで彼女がニヤッと笑うと、浄玻璃の鏡が輝き始め、辺り全体を光が包んだ。

何か嫌な予感を察した私は彼女の刀を弾くと同時に後方へと飛んで距離を開ける。

光が収まると、私の目の前に信じられないような光景が広がっていた。

 

そこには『私』がいた。まるで鏡に映したように瓜二つの姿、顔、服装、そして剣。何から何までが同じ、違うのは瞳に生気が感じられない事だけ。それだけが私との違いを表してくれていた。

 

 

「何なのよ、ソレ」

「私の眷属とアナタの記憶を合わせたもの。要するに影ね」

「なるほど、その使い道がようやくわかったわ」

「そうね。私にこれの回収を頼んだ理由もよく分かったわ」

「で、ソレをどうするつもりかしら?」

「決まってる。私が逃げる間、足止めしてもらうわ」

「まあ、今の私じゃ貴女を倒せるとも思ってないけどね」

 

 

正直言って、彼女の実力は計り知れない。まともに戦ったところで勝てる見込みもない。

後で美命様に叱られるかもしれないけど、ここは悔しいけど見逃すことしかできないわね。

 

 

「後は頼んだわよ」

「――(コクン)」

「面白くない子。それじゃ、また会いましょう、美羽ちゃん」

「ええ、次に会う時はその首洗って待ってなさい」

「そうね。考えておくわ」

「余裕ね」

「あと、ユウキにもよろしくって伝えておいてね」

「――何ですって」

「ふふ、じゃあね」

「待ちなさい‼」

 

 

私は剣を構えなおして彼女へと駆け寄ろうとするが、一瞬で距離を詰めた『私』の剣によって妨げられる。その奥で彼女は踵を返し、私に背を向けながらこう告げる。

 

 

「アナタたちの旅路の先に、大いなるアルカナの幸あらんことを」

 

 

彼女はそう言い残すと風景に溶けるようにして消えていった。

ユウキの事を知っている。一体彼女は何者だというの?

考えに耽っていると剣に抗う力が強くなる。その時、私は現実に戻される。

 

 

「考えてたって仕方ないわね」

「――…………」

「まずは目の前のやつを何とかしないとね」

 

 

私は目の前にいる『私』を見つめながらそう呟く。

『私』は生の籠ってない瞳で見つめ、ただ殺気だけが感じる。この子の方がまるで人形のようだ。

 

 

「――んるほど、確かにこれは『私』ね」

「――…………」

「――だから、気に入らない。私は私自身が嫌いなのよね‼」

 

 

私は『私』の剣を弾き飛ばすと間髪入れずに斬りかかる。

しかし、『私』は片手で受け身して後ろに跳ぶと地面を蹴って私へと向かってくる。

 

 

「「独奏曲『緋のアリア』」」

 

 

互いの距離がゼロになったと同時に片足を軸にして回転、4つの剣は互いが互いの攻撃を弾き、それら全てを相殺する。剣同士が奏でる金属音が誰もいない彼岸にこだまする。

互いの攻撃はお互いに当たることなく、最後の一撃を弾くと私は無防備になった『私』の脇腹へと蹴りを放ち、花畑の向こうへと突き飛ばす。

 

『私』は剣を地面に突き立てて衝撃を軽減すると、私の方をじっと見つめる。

 

 

「まだやれるでしょ、『私』」

「――…………」

「本当、嫌なくらい似てるわね」

 

 

地面を踏みしめて一気に加速する。それに合わせて『私』も同じように加速する。

すれ違いざまに斬撃同士がぶつかり火花が散り、通り過ぎた後に旋回して互いに向かって走る。

その繰り返しが続き、スピードは目にも止まらぬほどになり、見えるのは私たちが通り過ぎる度に散る火花と花が舞う姿だけ。

 

しばらくして互いの片方の剣が弾け、手元から離れて飛んでいく。

しかし、私と『私』はそれを取りに行かず残った一本だけで攻撃を続ける。

一瞬でも隙を見せたら殺られる。互いにそう思っているからこそ、攻撃の手は休めない。

そして、宙へと放りだされた剣が次第に私たちの方へと落ちてくる。

 

 

「――円舞曲『蒼のワルツ』」

「しまっ――」

 

 

『私』は私の攻撃をいなすと落ちてきた剣を逆手に構えて切り刻む。

行動が遅れた私は手に取った剣でそれらを防ぐが、いくつか防ぎきれずに斬撃を受けてしまう。

斬舞が終わると、無防備な私の腹部目がけて蹴りを放ち、突き飛ばした。

 

何とか受け身を取ることができたけど、剣は元に戻るし、斬られた処からは出血がひどいわね。

斬り傷からは真っ赤な血が腕を伝って滴り落ちる。視線を上げるとその向こうでは『私』が私を見つめている。蔑むという感情すら込められていないガラスの瞳、それを見ていると無性に苛立つ。

 

目の前にいるのは紛れもない自分自身、捨てたはずの自分の過去が形を成して存在している。

このまま負けるのか、ユウキや美命様に何も恩返しできないまま終わるのか………………………。

 

 

「そんなの、絶対に嫌ね」

「――………」

「心を持たない剣、まったくもって美しくないわ」

「――………」

 

 

私はフラフラになりながら立ち上がると首元の鍵を握り締める。

 

 

「人の暖かな心はどんな芸術よりも美しい、そんな事を知らない『私』に……」

「――………‼」

「負けるわけにはいかない‼」

 

 

私の叫びに応えるように握られた鍵が白と黒の光を放ちながら私を包み込む。

光が晴れると、私の服装が黒と白を基調とした装飾の少ない動きやすいドレスへと変わっていた。

それを見て『私』の瞳が揺らいだ。それは本能から来る恐怖だった。

 

 

「――神殺装束・オルフェウス」

「――…………」

「さて、それじゃあ――行くわよ」

 

 

私は手を掲げると周囲に八本の剣を召喚し、『私』に向かって走りだす。

『私』は剣を構えたまま一歩も動かずにこちらを待ち受けるつもりでいる。

手元に灰の剣(バスターソード)を移動させるとそれを思い切り『私』に叩き付ける。

『私』は剣を交差させてそれを受け止めるが、思った以上の重量で踏み止まっているのがやっとという感じに見える。

 

私はそれを見て口元をニヤッとさせると灰の剣を手放し、すぐさま左手に紅の剣(レイピア)を手に取り交差してある剣の下から斬り上げ、その防御を崩す。それに伴うように右手に蒼の剣(ナイフ)を持ち、『私』に向けて突き立てる。

 

『私』私は間一髪でそれを避けるが、その後を追うように私は続けざまに紫の剣(蛇腹剣)を振るう。鞭のように不規則な軌道を描く刃が『私』の身体を斬り裂き、紅い鮮血が飛び散る。

 

 

「――……ッ‼」

「これが今の私と過去の『私』との違いよ」

 

 

私は白の剣と黒の剣を手に取る。

『私』も流がれる血を押えながら剣を構える。

 

 

「――………‼」

 

 

『私』は私に向かって走りだすと距離を詰めたところで剣が振り下ろす。そのタイミングに合わせて剣を手元から弾くと、今度はもう片方の剣で薙ぎ払おうとする。それを一度受け止めると、残っていた剣を使って鋭い一閃を放ち、その体を斬り抜けた。

『私』の身体からは鮮血が滴り、その場に崩れ落ちるように倒れ込む。

 

 

「始奏曲『無のプレリュード』」

「――……」

「過去を捨てた私が、過去の『私』に負けるものですか」

「――……」

「喋らないところも、本当に似てるわね」

「――……」

 

 

『私』は満足そうな瞳を向けると光の粒子となって消え去った。

緊張の糸が切れた私はその場に倒れ込み、仰向けに寝転ぶ。

 

 

「ああ~無茶し過ぎた……わ……ね」

 

 

力尽きた私は眠るように意識を手放した。

目を閉じる前、空に広がっていたのは、いつか見た時と同じ黄昏色の空だった。

 

 

 

 

 




空亡「……これ、一応東方二次創作小説です。よね?」
美羽「いや、私に聞かれても。って、どこに東方の要素があったのよ」
空亡「浄玻璃の鏡と彼岸しかありませんね。どうしましょう」
美羽「これって、東方要素とオリジナル要素が極端な時があるのよね」
空亡「今回はオリジナルが勝ちましたが。大丈夫でしょうか?」
美羽「いいんじゃない? たぶん」
空亡「そうですね。こんな茶番してたら読者に失礼ですからね」
美羽「注意された時は覚悟しておくことね」
空亡「頑張ります。さて、次回は後処理の回です」
美羽「結局、あの時は死を覚悟したわね」
空亡「どうなったのかは次回をお楽しみに」


次回予告
失態続きの私に告げられるクビ宣告、これからどうなるのか!?
東方花映塚、今在りし未来、どうぞお楽しみに‼
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